宅建主任者から宅建士へ。営業マンに望むこと
- 2015.08.15
- マンションの営業マン
ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
今までは、「宅地建物取引主任者」または「宅建主任者」といわれていましたが、平成26年に宅地建物取引業法の一部を改正することが決定し、名称が変更になりました。
「宅地建物取引主任者」を「宅地建物取引士」に改める(平成26年6月25日官報)となったのです。
略称として『宅建士』や『宅建取引士』と呼ばれることになりました。
他の格ある士業では、「弁護士」や「会計士」、「税理士」などがあり、宅建も3文字で『宅建士』となって、肩を並べるのですが、実態は何も変わりません。今日は、このことについて述べようと思います。
なお、改正の施行は平成27年4月1日以降で、旧「宅地建物取引主任者証(運転免許証のようなもの)」は「宅地建物取引士証」となって交付されています。
●法律に詳しい弁護士と不動産取引に詳しい宅建士の差
宅建試験に合格し、取引主任者証の交付を受けていた、昨年度までの「取引主任者」は今年度から文字通り「士業」となりましたが、何がどう変わったのでしょうか?
実態は単なる名称変更だけと言えますし、どうして現行の宅建主任者を「士」にしなければならないのか、その理由は全く分かりません。
アメリカでは宅建士はブローカーと呼ばれ、弁護士のように社会的信用度が高いのだと聞いたことがあります。しかし、筆者の知る在米日本人にブローカーがいますが、失礼ながらそんな感じはしません。
それはともかく、弁護士、公認会計士、税理士などは国家試験に合格しなければなりませんが、その難しさはつとに知られています。
同じ国家試験でも、宅建士は簡単に合格できると言われています。選択問題50問の30~35%(年度により変わる)正解で合格できるからです。記述問題も、面接試験もないだけでなく、年齢制限もないのです。
過去の最年少合格者は小学6年生ですし、最高齢者は90歳のおじいちゃんもいました。小学生や高齢者でも合格できる制度で誕生してしまう士業が、弁護士や税理士などと肩を並べるなんておかしいと思うのは筆者だけではないはずです。
宅建士は、単に重要事項説明書の説明文と売買契約書の条文を読んで聞かせるだけが仕事なので、年齢は関係ないということでしょうか?
●宅建士は、契約調印に至る過程にこそ存在感がある?
宅建士は、単に重要事項説明書の説明文と売買契約書の条文を読んで聞かせるだけが仕事と書きましたが、某大手不動産会社では10数年前に契約センターという、取引実務(契約業務)のみを扱う部署を立ち上げています。顧客の意思決定に係る営業との分離を図ったのです。
その部署は全員が宅建士で、説明を開始する際に宅建士証を「この紋どころが見えぬか」とばかりに顧客にかざします。その後、事務的に重要事項説明書を読み上げ、契約書を説明し、買主に署名捺印を求めます。
販売現場にも多数の宅建士が配属されています。営業は宅建士の資格がなくてもできます。しかし、多くの営業マンが宅建士の資格を有しています。 逆に言えば、宅建士の多くが営業マン・営業ウーマンとして新築マンション、中古マンション等の販売業務に従事しているのです。
営業の成果として、顧客の購入意思が固まり契約する運びとなると、担当営業マンは宅建士の資格を活かして契約業務も行います。兼務型が業界は多いのです。
●宅建士である前に単なる営業マン
多くの宅建士は営業・販売に充てるの時間の方が、取引実務(契約業務)よりはるかに長いのが実態です。
この実態から言えることは、本来、宅建士の役割は顧客の不安や迷いなどを解消し、購入に道筋をつけることにあるべきではないかと筆者は考えます。
これは理想論かもしれませんが、顧客の希望条件や家庭内事情、予算、購買活動の経過などを聞きながら、正しい選択に導くことに目的があるべきなのではないかと思っているのです。
顧客とのやり取りの中で、顧客が信頼し、顧客が満足する答えを得るところに宅建士の役割があり、格の高い職種になり得るのではないかとも思います。
理想論と述べたのは、現実には高い壁があるからです。 宅建士は企業に従属する営業マンであり、担当マンションを売らなければならない立場にあるため、顧客のために公正な助言や選択肢を提示することはできないからです。あくまで売り手の論理で助言をし、担当マンションの購買に誘導することが職務だからです。
担当物件が顧客の希望条件と大きく隔たりがあれば、あっさり諦めもつくことでしょうが、そうでない限り、顧客を説得して自社マンションとの距離を埋めようとします。決して、あなたはあちら(他社)の物件がふさわしいなどとは言いません。
やはり、宅建士の資格はあっても、それ以前に営業マンなのです。
●中古物件の担当なら誇り高き宅建士になれるかも
しかし、中古マンションの場合なら、顧客の条件や事情に鑑み、最適な物件を業者間のネットワークを使って探すことができるため、この矛盾は解決できそうです。
一生に何度もある買い物とは言えない高額な買い物、下手すれば欠陥マンションを掴んでしまうかもしれないし、その心配はしないとしても、売却で大きな損失を被るかもしれないリスクもあります。
その不安やリスクを減らし、安心して契約に踏み切るために大きな役割を果たすのが宅建士であるとしたら、介在する宅建士本人も誇りを持つことができるでしょう。
ただし、そのためには、専門的な知識だけでなく、幅広い識見を持つことが必須です。
法に基づいた不動産取引事務をつかさどるだけでなく、購入者の意思決定の際に頼りになる立場であり、かつ崇められる(あがめられる)だけの識見を持ってこそ真の士業なのだろうと思います。
宅建士における必要な識見は、とても幅が広いものです。取引の実務は当然ですが、その手前、すなわち意思決定に至る過程では、不動産・建築に関する知識をはじめとして、金融に関する知識、経済・景気動向に関する知識、人口構造に関する知識、不動産市場に関する歴史と最新情報などが必要になるからです。
これらは、宅建試験の枠などには収まらない幅の広さと深さが必要なのです。住宅ローンの金利は今後どうなって行くのか、マンションの価格はどのように形成されるものか、今後の市況はどのように展望できるのか、今は待つべきときか決断のときかなど、挙げればキリはないのですが、これらの疑問や悩みなどに的確に答えて行くことが必要です。
残念ながら、それが可能な宅建士・営業マンは1%もいないのが現実です。
幅広い知識を有し、格の高い宅建士を要請するには、国家試験の試験科目に「金融」「経済」「人口構造」「国策」「市場原理」などを増やし、選択問題だけではなく、記述式も加えるなどの改定をしなければならないでしょう。
単に契約業務を担当するだけの場合は、これまで通りの「宅建主任者」か「宅建士補」とし、宅建士と区別すればいいのです。
しかし、そうなるには30年も40年もの時が必要かもしれない、そんな気がします。
●宅建士の資格を持つ営業マンに期待すること
新築にせよ中古にせよ、宅建士の資格を持つ営業マンは弁護士バッジのようなバッジを胸に着けることはないにしても、差し出す名刺に宅建士と刷り込む以上、それが顧客の信頼につながるように努めなければなりません。
仮に自社物件を売らなければならない責務を背負う営業マンは、宅建士か否かを問わず、本来は顧客からの信頼に足る人物でなければなりません。
しかし、現実はというと、寂しいことに、勉強不足の営業マンが無数にいるように感じます。そう思うのは、次のようなことがあるからです。
モデルルームで、見学者が「上階の音は大丈夫ですか」と聞いたら、「スラブ厚が25センチあるので心配ないですよ」と答えた営業マン。「バルコニー側の隣地に、将来マンションが建つ可能性はありませんか」と聞くと、「日照権がありますから心配いりません」と説明した営業マン。
少し勉強した営業マンなら、笑ってしまうような回答です。
「スラブが厚くても、他の条件次第では、薄いマンションと変わらない。音の聞こえ方は様々で、いろんな原因が考えられるので、遮音対策に力を入れたマンションでも、絶対大丈夫ということはない。ただ、このマンションの遮音対策は、コレコレシカジカとなっておりますので、性能は高い方です。とはいえ、マンションは、入居者が互いに気を付けて暮らすことが大切です」――こうした答えが用意できていない営業マンであったのです。
「日照権があるから・・・」も、無知な人は「そうなんですか?」と半信半疑の体でした。
将来の可能性としては、市街地ならどこにも建つのが建物です。ただ、都市計画がどうなっているかによって建つ高さや規模が異なるのです。ともあれ、南の土地の面積や所有者がどのような人かなどによって、ある程度まで予想はできます。
こうしたことも、少し勉強したら簡単な説明ですむのです。
「音はします」や「建物が建つ可能性があります」と答えたら買ってくれないという恐怖心が働くのでしょうか? 単に知識不足からの説明なのでしょうか?このような、お粗末な営業マンはマンション現場に少なくないようです。
中途採用の新人なのかもしれない。会社の教育が悪いのか、本人の勉強不足なのか。そんな感想を持ちました。
こんな現実に触れると、筆者がイメージする、尊敬される士業としての宅建資格者には距離が遠く及ばない思わざるを得ないのです。
●買い手は営業マンを選べない
豊富な専門知識と関連する幅広い識見を持ち、顧客の不安や悩みに的確に答えつつ適切に誘導するのが優秀な営業マンであるとするなら、そんな営業マンは各社にどれくらいいるのでしょう? どこで線を引くかで差はできますが、筆者の基準で言えば1%も存在しないのではないかと思うのです。
仮に、10倍の10%居るとしても、買い手はその営業マンを選ぶことができません。筆者へのご相談の中に「担当者が気に入らない、担当を替えてもらうにはどうしたらいいか」がときどき届きます。
極端な対応をする営業マンであれば、「担当を替えてくれ」とある種のクレームをつけることは可能ですが、そこまでひどいケースは少ないものです。
営業マンに対する不満を持ち、営業マンに期待もせず、買い手は自分で問題を解決しながら購買の決断に至る、これが現実なのでしょう。 言い換えれば、買い手は「営業マン頼りにならず」と思うほかないのかもしれません。
このような現実を思うにつけ、買い手の様々な不安、疑問、悩み、購買物件の選択に役立つよう、このブログとHPを通じて、情報発信を止めてはいけない、改めてそんな決意をさせられます。
・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://mituikenta.web.fc2.com)までお気軽にどうぞ。
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