第785回 「改めて問う、直床構造の問題点」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論「マンションの資産価値論」を展開しております。10日おきの投稿です。

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筆者の認識では、2014年頃から、直床(じかゆか)構造の新築マンションが増えて来たように思います。

 

直床マンションは良くないというイメージがありますが、実際どのような面で良くないというのか、今日は、そこにスポットを当ててみました。

 

最近の新築マンションは例外なくバリアフリーです。簡単に言えば、コンクリート面の上に支えとなる脚を何本も立てて、その上に床材を置く形(浮き床と言ったり、二重床構造と呼んだりします)にして空間を設ければ、そこを給水管、ガス管などを通すことができ、かつバリアフリーも実現できるのです。

 

二重床にすると、脚の長さだけ天井が低くなってしまいます。天井の低い家は居住性が悪いので、一定の高さを保つには、二重天井を直張りの天井にしなければなりません。しかし、天井は電気配線の都合と遮音のためにも必須です。

 

このため、階高(かいだかコンクリート面とコンクリート面の寸法) を高く取る必要が出て来ます。階高を確保すると、コンクリートの量が増えますし、高さ制限などのために15階にしたいところを14階で抑えなければなりません。

つまり、コストアップは避けられないのです。

 

●直床構造のメリット

マンションが日本で本格的に普及する前、黎明期の昭和30年代はコンクリート直(じか)にカーペットを張り付けた構造だったようです。天井も二重になっていない物件が多かったのです。直天(じかてん)と呼ぶ形が普通でした。

 

また、給水管やガス管はコンクリートに埋め込む形だったようです。電気配線も天井のコンクリート内部に埋め込んでありました。当時は、老朽化したときの配管の交換などについて考慮していなかったのです。

 

このようなマンション供給を続けているうち、分譲主や施工会社が騒音苦情に直面する機会が増えて行きました。そうして、配管のルートも、耐久性を考慮して埋め込みは良くないと気付くようになって行きました。

 

そこから誕生したのが、「二重床・二重天井構造」のマンションなのです。

水道管やガス管はコンクリートに埋め込まず、「床ころがし」という方法を採るようになりました。電線も天井裏を通す形です。

 

床の二重構造は、初期は細い木の角材を何本もコンクリートの上に置き、その上に板を張って、更にカーペットを張るという方式でした。コンクリート直ではないので、床の上で飛び跳ねても騒音は小さいはずだと考えられました。

 

しかし、実際は空中に浮いているわけではないので、音は伝播します。完璧に音を消すことは今も困難ですが、遮音性の高い材料の開発や施工技術の研究を重ねながら、何種類もの方法が試されて来ました。

 

●直床(じかゆか)のどこが問題か

改めて、直貼り床のどこがいけないのでしょうか? 二重床にしないと階下に生活音を響かせるからでしょうか? いいえ、必ずそうなるとも言えないのです。

 

遮音性は、コンクリートの厚さや梁から梁までの平面積の大小、施工方法、施工精度など様々な要素が絡み合って差ができるものです。 単純には、コンクリート直より別の素材と空気層をサンドイッチした方が良いに決まっていると思いがちですが、実際は違っています。

 

二重床の方が直床より遮音性は高いことを証明するデータはありません。むしろ、直床の方が遮音性は高いというのが一般的です。実際、二重床で遮音性の低いマンションはいくらでもあるからです。

 

直床構造の最大の問題は、将来のリフォームが制約を受けやすいということです。つまり、問題点に気付くのは10年以上も先に行ってから、というわけです。しかも、大掛かりな間仕切り変更を計画したときに初めて気づくというレベルなのです。

 

築浅(ちくあさ)の段階で売却する場合は問題ないのですが、築20年くらいになって来ると、直貼りがネックとなって買い手が中々つかないという事態に直面するかもしれません。

 

最近、新築より安い中古を買って改造し、自分好みのマンションにしたいという夢を持つ人が増えています。いわゆるリノベーションを前提にする人ですが、その種の買い手を想像してみましょう。

 

立地条件を気に入り、広さも条件に適っている、価格も予算以内にあるということで商談が進みました。買い手は、間取り図を見ながら改造案を巡らせます。その過程で、リフォーム業者と打ち合わせを行います。

そのとき、管理人室に置いてある設計図書(竣工図)を見て、天井の低さや配管ルートの取りづらさなどに気付き、改造プランの実現が困難であると知るかもしれません。その結果、購入を断念する、売主から見れば客を逃すということになります。

 

結局、間仕切り変更はしなくてよいという買い手にしか売ることはできない、そう覚悟しなければならないかもしれないのです。

当然、価格も安くなってしまうかもしれません。

 

天井が低いと書きましたが、直貼りマンションは「階高=コンクリート面から上階の天井面までの高さ」が低いのですが、床を高くしない(直貼りにする)ことによって天井高が確保されているに過ぎません。

 

このため、直貼りマンションをリノベーションで二重床のマンションにするのは難しいのです。

また、直張りのフローリング材は、遮音性を高めるためにラバーのようなものが張り付けられたタイプが使われているため、歩行すると柔らかくて沈み込む感じがあり、何となく頼りない印象を受けます。フワフワ感と表現する居住者が多いのです。

 

その点、二重床は遮音性を高めるためのコストが増えますが、沈み込むようなフローリング材を採用せずに済みます。床材の選択の幅も広がるメリットが多いのです。

 

上記を除けば直床は本当に問題ないのでしょうか? 残念ながら、客観的な情報はありません。直(じか)よりは二重にした方が良さそうだというイメージがあるだけとも言えます。

 

営業マンは、「できたらそこには触れてくれるな」と願っているものです。「直貼りの床構造」に関しては販売資料のどこかに表示してはあるはずですが、補足説明はしません。セールスポイントではないからです。

 

なお、性能評価の項目のうち「音環境」に関するものは、「外部や上階などからの騒音の侵入がどのくらい防げるか」という項目ですが、これは選択項目になっていて評価対象から除外してよいことになっています。

音の問題は、個人の感覚の問題も大きいことに加え、近隣住人の生活ぶりによっても変わるために評価がしづらいのです。評価を受けたとしても安心材料にはなりにくいからでもあるのですが・・・

 

●二重床マンション誕生の経緯

マンションが日本で本格的に普及する前、黎明期の昭和30年代はコンクリート直にカーペットを張り付けた構造だったようです。天井も二重になっていない例が結構多かったのです。直天(じかてん)と呼ぶ形が普通でした。

 

当時は、老朽化したときの配管の交換などは考慮していなかったのですが、このようなマンション供給を続けているうち、騒音苦情に分譲主や施工会社が直面する機会が増えて行きました。

配管のルートも、耐久性を考慮して埋め込みは良くないと気付くようになって行きました。そうして誕生したのが二重床・二重天井という構造のマンションです。

 

浮き床工法とも呼ぶ「二重床構造」は、当初「根太=ねだ」と言われる角材をコンクリートの上に等間隔で並べ、その上にフローリングを敷くという工法でした。さらに、現在主流となっているゴム付きの鉄脚の上に下地になる板を乗せ、その上に板を張って、更にカーペットを張るという方式でした。

 

コンクリート直ではないので、床の上で飛び跳ねても騒音は小さいはずだと考えられました。しかし、実際は空中に浮いているわけではないので、音は伝播します。完璧に音を消すことは今も困難ですが、遮音性の高い材料の開発や施工技術の研究を重ねながら、何種類もの方法が試されて来たのです。

 

その後、フローリング材が使われるように変化しました。絨毯張りは子供の喘息を引き起こすという声が高くなって、今では二重床の上に絨毯張りという設計は超高級マンション以外は採用例が消滅しました。

 

直床構造は、「廉価版マンションの象徴」とも見なされています。背景には2011年の東日本大震災以降に大きく変わったゼネコン業界の情勢があります。建築費が高騰したため、コストダウンの策のひとつとして採用が増えたからです。

 

●直貼りマンション復活の背景

マンション建築は、商業ビルなどに比べると、細か過ぎて面倒、人手も多くかかり、従って、あまり儲からないので、ゼネコンはできたら請けたくない仕事だと聞きます。

 

筆者は、マンションが完成したときに行われる内覧会の立会いサービスで新築マンションを訪ねる機会を持っていますが、行くたびに、日本人の完全主義とでもいうべき微細な製造へのこだわり、完璧な品質の追及に感心させられます。

噛み砕いて言いましょう。内覧会では、小さな傷や汚れ、手垢なども見逃さないように勧められます。

 

洋服やバッグは、糸がほつれていたり、接着剤が付着していたりすれば、店頭に陳列されることもないでしょう。

 

マンションは唯一無二の商品であり、かつ工事中の段階で売買契約を結ぶという変則的な取引形態になっています。このため、完成するとともに、商品を陳列し、かつ買い手の検査を経て代金授受と商品の引き渡しという取引の流れが定石となっています。

 

脱線が過ぎましたが、内覧会で思うことがもう一つ。それは、壁の内側やフローリングの床の下がどうなっているか、一瞥しただけでは誰も分からないということです。

 

断熱材は設計図通りに打ち込んであるだろうか? 排水管に遮音シートは巻き付けてあるだろうか? 隣の住戸、上下階の住戸との境壁や床、天井の遮音対策は大丈夫だろうか? そもそも設計図通りにコンクリートの厚みは確保されているのだろうか? 鉄筋の本数は足りているのだろうか?

 

このような疑問を持ったとしても、内覧会では解消するものではありません。大きな音を試験的に出すような実験、大量に排水してみるといった試験をするわけでもないからです。

 

結局、遮音性は住んでみないと分からないのです。売主と施工業者の技術力や品質管理などを信じるしかありません。

 

そんな中、コンクリートの床にフローリング材を直貼りした構造のマンションは、そもそも「裏側は大丈夫か」の心配をしなくてすみます。 二重床構造は、先述のように、そもそもマンションの欠点とも言える上下階の騒音問題を解決するための策として誕生した経緯があります。

 

直床から二重床にしても根本解決には至っていませんが、二重床にする方が細部の工法と施工技術によっては遮音効果が高いようだ、加えて二重床の方が別のメリットも多いと分かり、二重床が分譲マンションに定着したのです。

 

階高を高く取ると、その分コンクリートの量は増えます。また、建築物には「高さの制限」があるので、階高を伸ばすと15階を建てられるはずが14階で止めなければならなくなったりします。簡単に言えば、100戸を建てたいところ、階高を伸ばすことで90戸しか建てられないことになったりします。

 

1戸当たりの土地代は90戸より100戸の方が安くなるわけですから、デベロッパーは100戸建つように工夫を凝らします。結果的にどんな形になっても、階高を高くすればコンクリートの量は階高の低いマンションより多くなってコストアップは避けられないからです。

 

建築費の上昇がマンション価格の高騰につながった過程で、販売不振を恐れるデベロッパーは、コストダウンに懸命に取り組みました。しかし、全体的にマンションの質は下げにくいところがあります。豪華でなくてもいいが、ユーザーニーズに応えて行かなければならないからです。

 

目に見えないところで、材料を汎用品にしたり、ある部分の厚みを最低レベルにしたりしつつ、モデルルームの見映えはさほど変わらないような商品に仕上げるといった方法を採用しています。オプション品(実は別途料金)でごまかすといった窮余の策を講じるケースも散見されます。

 

さて、直床構造は生活していくうえで何ら支障はありません。バリアフリーですし、天井が低いといっても水回りだけなので、さほど暮らしにくいといったこともありません。では、何が問題なのでしょうか?それは、先に説明した通りです。

 

二重床構造が定着したかに見えた分譲マンションですが、再び直床構造が増えて来たのはなぜでしょうか?

理由は簡単です。2011年の東日本大震災以降、建築費が急騰してしまったため、コストカットの必要に迫られたためです。

 

二重床は、手間がかかりコストもかさみますが、直貼りは工程を二つくらいは省いているわけですから、手間もコストも少なくてすむからです。うまい比喩ではないのですが、250工程もあるとされる高級オーダースーツと工程数が200未満の安物の既製紳士服との差でしょうか?

 

直床マンンションでは、コストカットが床の構造だけに留まっていない可能性があります。他の部分でも設計の単純化や工法の省力化などを採用していることを想起させるからです。

 

そこで、先に述べた性能評価書を見るという検討作業が必須になるのです。

コストカットという表現は誤解を与えがちですが、必ずしも粗悪な建物ということではないのです。

例えば、3基あった方がよいエレベーターを2基に減らすとか、ラウンジやロビーを狭くしてその分の面積を住戸に充てて価格をわずかでも下げるといった方法によって「中級レベル」をキープしている例はいくらでもあります。

 

●直床マンションの、気になるふわふわ感

直貼りマンションは、マンション価格の高騰期に登場する設計・施工の形態ということではなかったと思うのですが、今回の値上がり局面での傾向はコストダウンの象徴である直床構造を選択しながら、他方ではキッチンや洗面化粧台などの設備のグレードは高級マンション並みというアンバランスな新築物件が増えていることに気付きます。

 

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