第783回 「低価格のバス便マンション、実は割高?」
- 2022.04.30
- マンションの資産価値 マンションの選び方
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論「マンションの資産価値論」を展開しております。10日おきの投稿です。
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マンション選びに当たって重要なことは、永住のつもりで買うとしても 「いつ売却して住み替えることになるか」分からないので、将来価値という視点を軽視しない方が良い。これが筆者の持論です。
これまで幾度となく、マンションの資産価値について述べて来ましたが、特に「立地条件」がいかに大切かという点を強調して来ました。立地条件は、マンションの価値に占める比率が最も高いからです。
そんな中、バス便だけは避けるべきと書いたときもあります。 今日は、バス便マンションは何故避けるべきかという理由を「価格」の観点で補足したいと思います。
●「バス便マンションは広くて安い」だけでないものもあるが・・・
どのような条件で探していくとしても、理想的な物件に巡り合うことはありません。必ずどこかを妥協して選択することになるものです。
立地条件を優先すれば、広さが足りないことになりましょうし、広さと価格の安さを優先すれば立地の良い物件を手にすることはできないので、この葛藤に悩むことも多いはずです。
しかし、立地条件だけは妥協しない方がいいと考えます。なかんずく、バス便はできたら避けたい条件です。 中古物件として売却するとき、それが分かります。
同時期に分譲された新築マンションの駅前物件とバス便物件の10年後を比較したとき、その売却価格の変動率で明らかな差異が表われるからです。
駅前マンション5000万円が10年後も5000万円と値下がりせずに売れたが、バス便マンションは2割安の4000万円で分譲されたものの、10年後は3500万円にしかならなかったといった差が出るのです。
価格維持率という指標を用いると、駅前マンションは100%でバス便マンションは87%くらいだったのです。これは、東京カンテイ社が2014年に公表したデータで明らかにされました。
2003年に分譲された新築マンションが10年後の2013年にいくらで取引されたかという膨大な調査データの分析結果が証明しているのです。
さて、バス便マンションは例外なく駅近マンションよりかなり安く分譲されます。大雑把に言えば20%くらいは安いのです。 駅近マンションが5000万円のとき、バス便マンションは同じ広さで4000万円です。
しかも、バス便マンションには駅近マンションより優れた長所を備えているものです。自然環境に恵まれており、大型開発である場合が多いことから、敷地内にも緑地ゾーンや公園、プレイロットなどが大きく確保され、子育て世帯にとって魅力たっぷりの企画になっているからです。
共用施設も豊富に用意されていて、駅近マンションの中小規模物件に比べたら圧倒的な差ができているものです。
マンション選びの希望条件は言うまでもなく個人差があります。 利便性は劣っても自然環境の良さを優先したい人もあるでしょうし、予算が限られるなかで広さを妥協できず結果的にバス便となる人もあることでしょう。
その上に上述のようなプラスの魅力があると、大いに購買意欲が増して決断に至るのも理解できます。
しかし、それでも可能ならバス便は避けたいものです。
●バス便マンションは何故値下がりしてしまうのか?
駅近マンションより安く分譲されたバス便マンションは、中古になったときも安いのは当然として、購入時が安いのだから売却時の価格も極端に下がらないのではないかと、つまり、同じ経過年数なら同じだけ値下がりするということではないのかと考える人もいます。
ところが、そう単純ではないわけです。 価格維持率で比較すれば、駅近マンションが100であるとき、バス便マンションは80とか85とかと低いのが実態です。
駅近マンションは何故100、すなわち値下がりがないでしょうか? それは経過期間中に新築相場が上がってしまい、例えば10年前の100から120とかになっているからです。
つまり、その時の築10年の中古は分譲時と変わらない100でも、10年後の時点で販売中の新築に比べれば20%ほど安いので、十分バランスしています。
バス便マンションでも10年前の100から、10年後は110とか120とかになっているはずです。建築費や地価は無縁というわけではないのですから。
そうであれば、バス便の中古も悪くて90くらいには留まるのではないのでしょうか?何故、80とか85まで下がってしまうのでしょうか?
答は簡単です。そもそも新築時の価格が高かったからです。
駅近マンションが100であるとき、バス便マンションを80で買ったから、言い換えれば「高値掴み」したからです。
駅近マンションでも高値掴みしたら、将来価格は期待外れになるものですが、バス便マンションは一見安いようで、新築時の価値より高く分譲されたことを意味するのです。
●バス便マンションは割高
筆者の研究では、バス便マンションは駅近マンションの70~75%くらいの価格が妥当と思われる物件が多いのです。それを10%も高く買ってしまうから、売却額が下がってしまうというわけです。
マンションデベロッパーは、実はこのことを知っています。しかし、現実問題として、そこまで安くは造れないのです。
新築マンションの原価構成は、土地代+建築費ですが、建築費はどこで建てても大体同じなので、違いは土地代です。簡単に言えば土地代の差が100対80の差となるわけで、70までは下がらないのです。
バス便マンションで70まで下がっている例もないわけではありません。ただ、建物品質は標準以下、付加価値は何もなし、おまけにバス停から徒歩10分も歩くような場所で、かつ自然環境も良いとは言えない、そんな物件です。
結局、付加価値もあって品質も標準以上といった優良なバス便マンションでも80の価格では「割高」と見なされ、販売も苦労し、完売まで2年もかかってしまうというわけです。買い手は何となく割高であることに気づくから売れないのです。
苦戦マンションは、最終的には大幅な値下げ販売を断行します。そのときの価格が実は妥当であったという場合が多いのです。
しかし、中には値下げ幅が十分でないものもあります。バス便マンションは価格に十分に気を付けなければなりません。
●中古のバス便マンションは適正価格なのか
新築のバス便マンションは、その多くが割高と判定されます。しかし、中古マンションは別です。
駅近マンションと比べて適正な価格まで下がって取引されているからです。
新築マンションは、大々的なキャンペーンを展開し、圧倒的な展示法・販売ツール等によって販売を行いますから、その販売・広告戦略によって買い手は一定期間に集中的、かつ大量に動員されます。
その方法によって売り手は買い手の購買意欲を高め、一気に売買契約へと誘導します。当然ながら、初期の段階では定価販売です。ただ、それで一気に完売することはないのです。
これに対し、中古マンションはネット検索による反響を待つ、つまりは成り行き任せといった消極的・受動的な販売(仲介)活動になっていますし、価格交渉によって売り出し価格から5~10%は下がります。
その結果、中古のバス便マンションは妥当な価格で購入できることになるのです。購入価格が妥当であれば、価格維持率も標準的なレベルとなるはずです。
妥当な価格で購入しておけば、何年先か後に売却するときの価格は、「バス便だから安い」とは言えても、「値下り率はバス便だから低い」とはなりません。
筆者がバス便を論外とするのは、新築マンションを購入する人向けの警句なのです。 適正価格まで十分に下がった中古マンションには当てはまりません。
とはいえ、価格維持率が駅近マンションと変わらないと断定できるわけではありません。何故なら、需要量において元々の差があるためです。利便性を求める人の方が、「バス便でもいいから広くて安い」を希望する人を圧倒しているからです。
従って、駅近マンションには下方圧力がかかりにくく、新築購入時は少し高いかなと感じても、価格維持率はバス便マンションより高いものが多いのです。
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