第645回 マンションが値上がりすると買い替えはしやすいという幻想

このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論を展開しております。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

 

バブル期のこと、最初に買ったマンションが10年経って2倍とか3倍に値上りしたので、それを売って大きな頭金を手にし、より高級で広いマンションに住み替えることができた。こういう話は周辺にごろごろ転がっていました。

 

最近3年くらいを見ても、ミニバブルと言われるほどの値上がりに喜ぶ人があります。しかし、一方では買ったマンションが全く値上りしないどころか、反対に買い値を下回る数字でしか売れない例も数多く見られます。値上がりしなかったマンションに住んでいる人は、ランクアップの買替えができないのでしょうか?

また、少しでも値上がりしたマンション所有者は「ランクアップ買い替え」が可能な状態にあるのでしょうか?今日は、この話題を選んでみました。

 

●大きな値上りがあった時代の買替え

市場をマクロに見た場合ですが、今住んでいる持家が値上りしている時は、買替え先も値上りしていると考えるのが自然です。従って、自宅が高く売れそうだと喜んでみても、“次の希望は広くて設備も良く”といったランクアップしたものを望むはずですから、買う方はもっと高額になるのが普通です。

 

例えば、3,000万円で買った60㎡のマンションが2倍の6,000万円で売れても、次に買う80㎡のマンションが8,000万円になっていれば最初の購入価格から見れば5,000万円も必要資金が増えるということになります。

それでも、その昔は買替えを実現させた人が多数あったのは、まぎれもない事実です。ランクアップ買い替えが実現できたのは、どんな背景と事情があったのでしょうか。

 

先ず、最初の購入時から買替えをする時までに貯めた手持金があって、それを投入したからですし、次には、所得が増えたことによって(ベースアップと役職手当などの加増によって)住宅ローンを多額に組むことができたからです。多額のローンを組んでも、所得が増えたので、返済の重みは実感としてさほど変わらなかったのです。

 

昭和の終わりから平成年間の初頭までは所得が毎年着実に伸びるとともに貯蓄が増えて行きました。その結果、マンションが値上りし続けていた時代においても、悠々とランクアップ買替えができたと考えられるのです。

 

●値上がりしない時代の買替え

バブル崩壊後、それまでインフレ経済に慣らされて来た日本国民は初めてのデフレに戸惑いを覚えました。一般消費財の値下がり、終身雇用・年功序列体系の崩壊とベースアップの停止、賃金引き下げなどです。

すべては右肩上がりを前提としたシステムで成り立って来た日本経済は、周知のように大きく様変わりしました。

 

土地や住宅などの不動産も例外ではありません。持っていればそれが大きな資産に成長し、時には不労所得を生み、持たざる者との格差を拡げるという神話は崩れました。土地は所有することの価値から利用することの価値を考える時代に変わったのです。

 

ところが、最近5年くらいの動静は昭和末期から平成初期にかけて起こった不動産バブルにも似て、「右肩上がりが当たり前のように錯覚している」人すら現れています。ただ、その錯覚は過去5年で急騰した相場が刷り込まれたためです。その割合は少なく、過半は「こんな高いときに買ったら値下がりするリスクが高いのではないか」という懸念、もしくは「そろそろ値下がりするのではないか」と考えている人が多いのです。

 

ここでは、マンション価格が今後は頭打ちになり、横ばいになるという前提に立って、将来の買替えがどうなるのかについて検討してみます。

 

●値上がりしない時代は買替えもしやすい?

60㎡(18坪)の新築マンションを4,500万円(@250万円/坪)で購入した人が、例えば10年後に80㎡(24坪)の新築マンションを買いたいというとき、値上りが全くないとすると、同程度の立地条件・広さ・プランの物件は、理論上6000万円(@250万円/坪)です。

 

この時、築後10年のマンションが新築購入時の8掛けほどに値下がりして、3600万円で売却が可能だとすると、4500万円から6000万円への買替えは1500万円の必要資金増となってしまいます。年齢も10歳増したことを考え合わせると、この金額は大きな負担感に映る人もあるでしょう。

 

何故なら、売却によって頭金が増えることはないからです。3600万円で買い手を見つけられても、仲介手数料を引くと3500万円弱しか残らない上に、ローン残債は10年で約25%減っているだけで(35年ローンを組んだ場合)、仮にフルローンで買った場合なら、借入額4500万円(=購入額)は3375万円も残っているので、これを精算すると、手元には125万円のキャッシュが残るに過ぎません。

125万円は、次の物件の諸経費(登記料金その他)にも足りません。ということは、次の購入物件は預貯金を崩さない限り、再びフルローンで、かつ6000万円になるのです。

35歳で購入した人は45歳になっているわけですから、定年が70歳に延びていたとして定年時に完済したいとするなら25年の短いローンを組まなければなりません。子供の教育費がかかる年代にあっても、その負担に耐えられる人は、きっと所得が増えている人でしょう。ダブルインカム世帯が増え、正規雇用の妻との合算で考えられる時代になったので、これからは6000万円でも抵抗は小さいかもしれません。

 

●値上がりしたら?

ここまでの話は、値上がりしなかった場合です。仮に4500万円で購入したマンションが10年後に5000万円で売れた場合を考えてみましょう。手数料(160万円)を引いて4840万円が手取り額。ここからローン(残債3375万円)を同時精算するので、キャッシュは1,465万円となります。

 

諸経費に365万円かかるとして1100万円が買い替え先の頭金に充当可能となります。

買い替え先の物件は、自宅が高く売れる市況にあるなら同様の値上がりがあると考えなければなりません。自宅が60㎡(18坪)で坪単価@277万円(5000÷18)80㎡(24坪)のときの新築マンションは、20%高の@330万円と見て7920万円になっているはずです。角部屋がいいだ、景色のいい階にしたいだなどと考えれば8500万円かもしれません。

頭金1100万円としたら、新たなローンは7400万円ということになります。

 

10年前は4500万円で出発したのです。10歳年を重ねて年収も増えたが7400万円に増えるローン、果たして返済は可能でしょうか?値上がりしなかった場合は6000万円で済んだのですから、値上がりして一瞬喜んでも、次の購入計画では現実を思い知らされることになるというわけです。

 

都心部に保有した人であれば、それを売却して郊外へ立地条件を妥協することにより、この負担は小さくなるでしょうが、この負担増に抵抗がある人は都心部で買えなくなるかもしれません。つまり、東京の場合は郊外から更に郊外へという妥協をしない限り、将来の買替えはかなり負担の重いものになるはずです。

 

子供が独立したので、広さは前のままでいいとする買い替えなら理論上は可能です。しかし、それはランクアップ買い替えとは言えないわけで、もうひとつ先の買い替えプラン、言い換えれば「終の棲家」選択の話です。

 

話を元に戻しましょう。買い替えは値上がりしない方が資金負担を抑えられるということがお分かり頂けたことと思います。

 

所得と貯蓄の伸びがさほど期待できないとするなら、予算の大幅な積み増しを避けなければなりません。それには、立地条件の妥協によってランクアップを実現させる以外にありません。例えば、郊外でも幹線鉄道の駅から近い物件を売却してバス便物件に買替える、あるいは幹線鉄道の駅から支線に乗り換える、急行停車駅から各駅停車の駅を最寄りとする場所に買替えるといった方法です。

しかし、これは都落ちのようなもので、選択する人は少ないはずです。

 

もうひとつの方法は、中古マンションへの買替えもありえます。長く住んでしまうと、そこから離れることは抵抗があるもので、立地条件の妥協をして買替えることは、見ようによってはランクアップと言えないわけですから、同じマンション内の広いものへ買替えるか、同じ市区内の中古マンションへ目を向ける道が有望なランクアップ策になることでしょう。

 

60㎡4500万円で買ったマンションを8掛けの3600万円(@200万円/坪)で売却して、同じマンション内の角部屋80㎡(24坪)を仮に5280万円(@220万円/坪)で購入し、手数料とリフォーム代に420万円かけたとすれば必要資金は5700万円となります。この場合、購入予算は最初の購入価格4500万円から1,200万円増えるだけです。

 

これは同一立地の新築マンションを10年中古(@200万円)の2割高としても角部屋・上階などと望めば@240万円くらいになるはずで、80㎡(24坪)×@240万円=5760万円)を購入するのと変わりがありません。うまい具合に新築物件があれば、新築も射程距離です。ただし、あくまで相場が上がらないということが前提です。

 

この位であれば、初めての購入時から10年経っている時の所得や貯蓄額を予想したら低成長時代といえども無理はないはずです。

 

以上からもお分かりのように、値上がりしない方が買替えに必要な資金負担は少ないことになるのです。しかし、これは机上の空論かもしれません。なぜなら、中古にしろ、新築にしろ、マンションの価格は個別の条件で大きな格差ができるのが現実だからです。

より上を望む志向が強ければ、現実は上記の計算のようにはならないと考えるべきかもしれません。

 

●頭金が少な過ぎると買替えは困難か?

値上りしない方が負担の軽い買替えができると述べましたが、ここに別の問題が立ちはだかる場合があります。買ったマンションが期待に反して大きく下がった場合です。

 

4500万円で購入したマンションが10年後に3000万円に値下がりしたとすると(値下がり率34%)、ローン残債は3375万円(75%)もあるので、売却代金だけでは精算ができないのです。売却時に追い銭375万円+仲介手数料約200万円、合計575万円も必要になってしまいます。

 

もし、10年後に買値から34%も値下がりしてしまうことが想定できるとするならば、10年の間に追い銭分を貯蓄したり、途中で一部繰り上げ返済して残債を減らしておくことが必要になったりして来るのです。

 

貯蓄は、新たに購入する物件の契約手付金に一旦充当するためにも必要です。さらに、追い銭なしで売却できるとしても、購入する物件が頭金なしで買えるとは限らないし、登記料などの諸経費も必要になります。

 

結局、持ち物件が購入時の価格を下回る値でしか売れないと予想される時は、売却の時までに貯蓄をしておくことが必要だということになるのです。とすると、初めての購入時にあまり無理なローンを組んでしまって貯蓄の余裕が全くないとか、10年経っても、出世もせず所得もまったく増えなかったので貯蓄がほとんどできなかったというようなことでは、買替えは不可能という結論になります。

 

34%も下がると聞いて、俄かには信じられないという声が聞こえてきそうです。少なくとも自分はそんな物件を選んだりしない。そんなつぶやきが聞こえます。しかし、購入物件の価値(とりわけ立地条件)によっては現実的な話です。また、物件価値と釣り合わない高値をつかまされることによっても起こり得るのです

 

筆者の日常業務に「マンション評価レポート」並びに「将来価格の予測レポート」の作成がありますが、このために物件調査を毎日どこかのエリアで行います。そこで、割高な物件であることを把しますし、割高ではないものの将来の価格予測が厳しい結果となる例が少なくないことを知ってしまうのです。

 

●はじめから広いものを買っておけば…?

では買替えを考えずに、はじめから広いものを買うという考え方はどうなのでしょうか?つまり、貯蓄はして行くつもりだし、買替える時の追い銭や手付金の準備もできる自信はあるけれども追い銭はしたくないし、もしかすると何かの都合で買替えのつもりで貯めた資金を他に使ってしまうかもしれない。

 

そんなことを考えると、はじめから広いものを買っておいた方が良い。そうすればリフォーム代だけ、リフォームローンを組んでもいいが、小額の貯金さえあればいい―という考え方も出て来ますが、それは正しいのでしょうか。

 

まず、買替えをしないという前提が、既におかしいと言わざるを得ません。なぜなら、大都市のサラリーマンの場合、同じ家に何十年も住むということは考えられない時代だからです。

 

サラリーマンの場合は転勤がつきものだし、今勤めている会社に転勤はないと安心していたとしても、いつその会社を辞めて転勤のある会社へ移ることになるか分からない。また、家族が増えるかもしれないし、子供の学校問題や独立、近所づきあいの関係、周辺環境の変化など何が起こるか分からないだけに、同じ住まいで50年などということは、やはり、あり得ないと言ってもよいのではないでしょうか。

 

百歩譲って買替えの必要は起こらないと考えたとしても、その場合、はじめから広いマンションが実際どこで買えるかという問題があります。

 

当然予算には限りがあるわけで、広いものを望めば遠くへ行くしかないし、中古物件なら近くでもあるかもしれないが、かなり老朽化したものになるかもしれない。そうなると、後で思いがけない出費に悩まされる危険を覚悟する必要がある。そんな不便や心配をしてまで広さにこだわる必要があるでしょうか?

 

もうひとつは、広いものをはじめから買うために、しかもあまり遠くない場所で新築を手に入れたいために、先に購入を延ばすという選択肢もあるわけですが、それまで今の住まいで我慢し続けられるか?という疑問が出て来ます。

それに、何年か先の、欲しいと思った時に住宅ローン金利が低いかどうか分からないわけですし、年齢を重ねて来ると、また別の問題が現れることでしょう。

 

以上の意味で“はじめから広いものを狙う”というのは賢明な選択ではないと結論づけられるのではないでしょうか。

 

●少しでも高く売れるな物件を選ぶことが重要

選ぶマンションを誤らなければ10%の値下がりですむかもしれません。相場が下がっているときに我が家だけは値上がりするということがないこともないのです。

マクロの市況がどうであろうと(全体的に価格の下落傾向が見られるときでも)物件個々に見れば、大きな差があるのは事実です。つまり、物件格差が常にあるのです。相場が低いときに買うとして、売却する我が家だけが高く売れる。

このような理屈に合わないことも現実にあります。結局、少しでも価値(リセールバリュー)の高そうなマンションを選ぶ目を養うことが不可欠なのです。

 

※          ※          ※          ※

 

バブル期に買い替えを実行した人は、貯蓄が増えたこと、所得が増えて多額の借入が可能だったこと、少しくらい無理をしてもボーナスも大きいし、ベースアップと定期昇給で所得は増えて行くから、すぐに楽ななるだろうから目一杯借りよう。

右肩あがりの不動産バブルと経済環境が、このような安易な考えを生み、それが蔓延してランクアップ買い替えを実現させたのです。

 

今、時代は大きく動きました。今後は値上りがないと仮定しても、その方が買替えはむしろしやすいと考えてよいので、あとは物件選択を誤らないことです。また、どのような場合でも将来に備えて貯蓄は必要になりますから、あまり無理なローンは組まない方が良い。

初めてマンションを買おうかという人は将来の買替えを前提に置き、よりリセールバリューの高い物件を選択すべきです。

 

―――――――今日の話をまとめると、このようになりましょうか。

 

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。※三井健太の新サービス「マンション探しのお手伝い」はこちら

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