第689回「選手村マンションの未来」

※このブログでは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております

10日おきの更新です。(次回は8月20日です)

筆者は、具体的なマンションについて本ブログで論評することはしないのですが、「晴海フラッグ」の評価依頼と「将来価格の予測レポート」の依頼があまりにも多いので、この機にその後の見解をブログでもお伝えすることにしました。

「その後」といったのは、筆者が「選手村マンション・晴海フラッグは買いか?」を刊行したものの、全てを書き切ったとは思っていないからです。続きを著すことができたらいいなと、かねて思っていたのですが、その機会がすぐには来そうもないので、今日ブログに書こうと思い立ちました。

第1期の受付は先日終わり、倍率は70倍を超える部屋もあったと聞きました。評判の「晴海フラッグ」はどんなマンションでしょうか?

拙著に書けなかった部分を以下にかいつまんでお届けします。拙著をお求めくださった方への義務として。

●建物評価

欲を言えばキリがありませんが大型開発らしい高得点が出ました。「マンション評価サービス」の過去最高点は83点でしたので、これに近い、申し分ないレベルです。

特筆したいのは、駐車場が地下格納式という点です。駐車場が地下というのは億ション級です。

地上に駐車場がないランドスケープデザインは緑が引き立つことでしょう。

気になるのは管理費がやや高いことですが、サービス内容や共用施設の充実などを考慮すれば、対価としては少ないくらいと言えますし、10年払っても、他物件より80万円~100万円程度多いだけなので問題ないレベルと言えます。

マンションの価値は、「差別化された(明確な差別感がある)物件であるか」にかかって来ます。本物件は前評判以上の価値ある建物と言えましょう。

将来のリセールに際しては、内見者をいかに感動させるか(感動してくれるか)という視点で見ることも大事です。感動要因が数多く、つまり「すごい・素敵」を連発させられるかがカギになるというわけです。

その意味から、本物件は建物、ランドスケープで中央区ではありえない感動要因を多数有するマンションとなりましょう。

●立地評価

マンションの価値を大きく左右するのは立地条件ですが、本物件の最大の弱点は駅からの距離です。徒歩圏に鉄道はなく、いわゆるバス便マンションという位置づけは過去の事例から例外なく低い評価になるのです。

拙著でも紹介していますが、付加価値豊富な大規模な面開発マンションでも、バス便マンションの価格は低いのです。しかし、これまでのバス便マンションと同列には語れません。

言うまでもなく、新橋まで2㎞余、虎ノ門駅まで3㎞余の近さにあるわけですから、バス(BRT)利用、自転車利用、自家用車利用、タクシー利用と移動手段は多岐に渡ります。

 販売初期の現時点で、交通便の悪さを補って余りある物件価値を認めている人が多いと伝わって来ます。しかし、これは過去のバス便マンションでも同様の傾向がありました。新築マンションの場合は大々的な広告宣伝と販売手法が販売成果を大きく左右するのです。人気は上々で販売が進んでも、その状況がリセールのときに当てはまるわけではないのです。

個人の売主は、中古物件の紹介サイトに並べて反応を待つ、もしくは検索されるのを待つという受動的な販売方法に依存するしかありません。

 10年先、15年先に「価値あるマンションとしての地位を獲得するか」は、BRTが便利な交通機関として広く認知されるかにかかって来るのではないかと思ったりしますし、他にもリセール価値を左右する要素がいくつか考えられます。

筆者は、このマンション購入は一種の賭けと考えています。ただし、当たる確率が高い賭けかもしれないとも思います。理由は次の通りです。

●商業施設について

三井不動産が手掛ける商業施設をここでは、仮に「晴海ららぽーと」と呼ぶことにしますが、これができれば生活の不便はないはずです。しかし、晴海フラッグの外からたくさんの買い物客が来なければ採算が取れないので、三井不動産は「晴海ららぽーと」集客作戦を多種多様な方法で展開するはずです。商業施設の開発と運営に経験と実績豊富な三井不動産は信頼できると考えます。

外からたくさんの買い物客が来ることで、街全体の魅力が住民以外に広く伝われば、将来の中古市場にもプラスとなることでしょう。しかし、街が発展して行くためには、後から新規出店の買い物施設と飲食店、ホテルなどが続々と増えなければなりません。どんな街も店も、立ち止まっていれば、やがて飽きられて来訪者はじり貧になります。

あの東京ディズニーリゾートでも、アトラクション施設のリニューアルと増設を絶え間なく続けています。それと同じです。施設内での店舗の入れ替えも必須ですが、増床も必要になるはずです。

しかし、「晴海ららぽーと」の床面積は増やしようがないはずなので、隣接地域に店舗等が新増設されなければこの街の魅力は衰えていくことでしょう。長期的な視点で、晴海フラッグの外から多数の来訪者がなければ、マンションの資産価値も上昇期待は持てません。

どんな運命をたどるのか、今はまだ見通せません。

●足の便は大丈夫かもしれない

BRT運行について、東京都の発表は1時間20便ですが、大風呂敷を広げるようなことは、役人の習性として言うわけがありません。1時間に20便で足りないことは当然認識しているはずで、増やす努力は続けて行くでしょう。そう遠くない将来、増便の発表があると予想しています。

BRTが交通手段として重要なのは誰もが認識しているはずなので、徐々に利便性は増すことでしょう。BRTはマンション販売のカギを握るものでもあるので、事業主体も黙ってはいないと思います。様々な運動を展開して4年後には、足の便を確保するのではないかと楽観的に考えています。

●オリンピックを契機にBRTに慣れ親しむ人が一気に増えるかも?

来年から運行されるBRTが順調に走り、かつ運行本数も徐々に増えれば、「晴海ららぽーと」を訪れる人も増え、街の魅力が広く伝わることでしょう。新築で買わなかった人も、中古が出回る5年先にはそれを買う人も徐々に増えていくに違いありません。

 そもそも晴海フラッグは「選手村マンション」として名高いわけですから、実際に現地を訪れる人が見事な街づくりと景観に感動してくれれば、有力な購入予備軍となります。その流れを呼ぶのが、「晴海ららぽーと」とBRTの運行ということになるでしょう。

●タクシー代は250円?

足の便の不足を補う有力な手段はタクシーです。晴海フラッグでは、タクシーがタウン内を流していて、手を上げれば飛んでくる光景が目に浮かびます。

(環境保護の見地から車の通れる場所は制限されるらしいですが)

タクシーの運転手には、客を効率よく拾える場所をかぎつけ集まって来る習性があります。電話やスマホの呼び出しアプリなどを使わなくてもマンションから外へ出れば、すぐ近くにタクシーが待機している、そんなことが現実になるのではないかと思います。

 家族全員で乗れば千円のタクシー代も、例えば三人分と考えれば高くはありません。無論、ママ友同士で銀座に買い物などというときも、三人連れ立って行くなら地下鉄やバスと大きな料金差はありません。

また、深夜帰宅の会社員にとって、知らない者同士がスムーズに相乗りできるなら、毎晩乗っても経済的負担は大きくなりません。 

拙著にも書きましたが、相乗りタクシーが制度として誕生するのも近そうなので、BRTとの2大交通手段はタクシーということになるのではないかと思っています。

●絶対距離2㎞の魅力

 それもこれも、晴海フラッグが都心から近い位置にあるからこその話です。晴海フラッグは郊外のバス便マンションとは明らかに違うのです。

 なにせ新橋まで信号待ちや交通渋滞もなく10分で到達できるというのです。銀座はすぐ目の前です。新橋の先は虎ノ門、霞が関、その隣は丸の内、大手町のビジネス街が広がります。そこは、多忙な国家公務員と大企業のエリートたちが膨大に勤務する国の中枢エリアです。かれらは職住近接を望んでいます。しかし、希望地域での購入は、価格の高さに半ば諦めています。それが手ごろな価格で買えるとなれば飛びつく人は少なくないと思います。

もっとも、中古市場で高く転売されるようになると元も子もありませんが、その懸念は小さいと考えます。

なぜなら、価値観は人それぞれで、晴海フラッグをネガティブに捉える人も少なくないからで、例えば、「でも所詮バス便でしょ?」「埋立地はどうもね」、「自転車で通うのはいやだ」、「会社は新宿だから、晴海ではちょっと」、「海が見える家は評価できるけど眺望の悪い家では価値がない」・・・などなど。

●リゾート地がビジネスエリアに接している

「想像するに、ここはリゾート地のようなところだね」と語った人がいました。緑が多く、季節によっては青々とした木々が目に優しく、芝生広場のある街は、老若男女が楽しく暮らせる街になるのかもしれない。そんな期待が膨らみます。

 ここがビジネスエリアのすぐ隣にある「オアシス」とするなら、仕事しながら余暇がいつでも楽しめる、非日常と日常が隣合わせになっている街ということになるのです。

 有明地区も似たような性格を持つ街であると聞きますが、晴海フラッグほど霞が関にも丸の内にも近くない点で大きく異なります。

●不動産会社は不確かなことは言わない

 管理費が高いとか、固定資産税が異様に高いという情報も入って来ました。管理費は先述の通りですが、固定資産税の高さは、現時点では売り手が断定できないことがあるのでやむを得ない点です。不動産会社は、決定していること以外、もしくは官公庁が公表したこと以外は決して憶測や期待を込めて発言したりするものではありません。

 税制についても、原則と実態には常に乖離があります。軽減措置のことですが、景気刺激策として時限的に適用している税率などがあるからです。固定資産税は地方税なので、国政とは直接関係ありませんが、軽減措置はあります。

また、固定資産税・都市計画税は、固定資産税評価額を課税標準として計算されますが、評価額は3年に一回見直すことになっているので、4年後のことは全く分からないと言って過言ではありません。

また、東京都のHPを除くと、①固定資産税の課税標準額の算出方法(固定資産税)について、令和1年度の分についてのみ記載されていますが、来年度以降については記載がありません。つまり、固定資産税は毎年1月1日現在の固定資産税台帳に掲載される金額をベースにするので、その年度に入らないと分からないのです。

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以上、本物件を取り巻く条件には不確定要素がたくさんあるようです。

この物件を買うのは冒険かもしれません。しかし、冒険する価値があるとも思います。

昨今、新築マンションの開発は困難な状況が続いており、都心部のマンション開発余地は湾岸エリアにしか残っていません。その一方で都心マンションに対する需要は増える傾向にあります。共働き世帯が増え、職住近接マンションの需要はますます増えると予測できるからです。

しかしながら、都心近接のマンションは高過ぎて手が出ない人も少なくないので、子育て環境に優れたマンションで、かつ手ごろな価格で購入できるマンションとしての「晴海フラッグ」は評価が高まるということになるでしょう。

ということは、価格が上がり過ぎなければ注目され続けることになります。逆に言えば、値上がりすれば関心は薄れてしまいます。鉄道の駅に近いマンションと同じになってしまえば、環境で多少劣っても便利さを優先する人が多いからです。

交通便の悪さを補うのは、「好環境」+「価格の手ごろ感」ということになるのです。大きな儲けは期待できないが、値崩れしにくいマンションでもある。このように考えます。

●リセールバリュー

マンション購入にあたっては、将来リセールするときの価値を購入時に想定する、若しくは考慮しておくということが大事です。永住するつもりという人も、いつなんどき、売却の必要が生じるか分からないからです。そのとき、できるだけスムーズに、かつ高く売りたいと考えるのが普通の感覚であり、少しでも価値の保存ができる物件を望まない人はいません。

売却の際、大きな弱点になるのが駅からの距離です。将来価値(リセールバリュー:RV)を決定する要素は、①立地条件(利便性と環境。マクロ的な人気度)、②スケール(存在感)、③外観・玄関・空間デザイン、④建物プラン(共用施設、間取り、内装や設備など)、⑤ブランド、⑥管理体制です。

この中で一番比重が高いのは①の立地条件なのです。立地さえ良ければ建物は何でもいいという単純なものではないのですが、大きな要素であることは確かです。逆に、どんなに素晴らしい建物でも立地条件の弱点を補うことはできません。

本物件をこの条件に照らすと、建物分野の②~⑥は文句なしです。しかし、立地条件の①には上述のような問題(懸念)があります。 

また、稀少価値の高い土地かどうかの観点で検討することも大事ですが、本物件は希少価値の極めて高いマンションと言えましょう。

最も大事な要素は「価格」です。価値に見合わない高値で購入(高値掴み)すれば、将来価格は期待外れになるからです。

最近5年間は建築費上昇・地価上昇の影響を受けてマンション価格は急騰し、多少の差はあっても全ての物件が高値になってしまい、誰もが高値掴みを強いられてしまう時期に当たっています。ところが、本物件は例外と言えます。

用地費が極端に安かったことで、選手村から分譲マンションへの改装費も加わって建築費が高くなっている分まで賄う形となった模様、すなわち中央区としてはあり得ない安値販売になったからです。

 駅から遠いマンション、バス便のマンションであるとしても、勝どき駅・月島駅の徒歩圏マンションが新築マンション相場で@400万円にもなろうかという今日、本物件はおよそ7掛けの@290万円前後なのですから、これは単にバス便マンションの弱点だけを考えれば、当然の価格とも言えます。

 しかしながら、オープンスペースの広さ、ランドスケープの美しさなどの付加価値を加味すれば割安なマンションとも言えます。

都心で、これに匹敵するマンション群はなく、比較的近いのは佃島のリバーシティですが、駅から徒歩6~8分の距離、東京駅まで2㎞の近さなどから比較になりません。

結局、この物件は、マンションデベロッパーにとって唯一無二のチャレンジ商品ということになるのです。しかし、土地代が安かったからこそできたチャレンジです。

「賭け」と言った部分が期待以上になればプラスαもあるでしょう。また、長い目で見て地下鉄新線ができるようなことになれば大きく化けるかもしれません。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

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8月5日の第216回は「何年ごろのマンションがいいですか?の問いに答えて」です。

★三井健太の新刊 「選手村マンション・晴海フラッグは買いか?」

2019年5月13日発売 全国の書店・アマゾンにて販売中

<主な内容>

 *晴海フラッグというマンションの位置づけを整理する

 *バス便マンションの将来価値を考証する

 *晴海フラッグに魅力を感じる階層を予想

*カギを握るBRT

*晴海フラッグの将来価格を予想する?