第600回 億ションの条件を考える
- 2018.01.15
- 億ション
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論を展開しております。資産価値を重んじる方のための購入のハウツーをお届けするもので、お気に障ることもあろうかと思いますが、満点の家はないと思っていただき、失礼はお許し下さい。
5日おき(5、10、15・・・)の更新です。
第581回 マンションの売れ行きは「二極化」から「都心・郊外拮抗型」への記事で、日本経済新聞が命名した「パワーカップル」を時事用語と書きましたが、筆者が思い込んでいただけで、語源は別の所にありました。
「パワーカップル」という言葉は、橘木俊詔・迫田さやか著「夫婦格差社会~二極化する結婚のかたち」(中公新書、2013年)をきっかけに使われ始めたようだが、利用者によって定義は様々だ。橘木氏らは、医師夫婦を代表に高学歴・高所得の夫婦を「パワーカップル」とし、低所得の「ウィークカップル」と対比している・・・という記述を「ニッセイ研究所」のレポートの中ら見つけました。
汗顔の至りですが、ここにお詫びして訂正します。
パワーカップルとは、フルタイムで働く共稼ぎ族のことで、収入区分の定義は曖昧ですが、その購買力の高さから「パワー」を冠したものとされます。いわゆる世帯年収の高さから購入できるマンションの予算も8000万円に迫る階層なのです。
最近お目にかかるご相談者の中に、初めての購入なのに1億円のマンションの購入予算を持つDINKSが度々登場するようになりました。普通のサラリーマンが億ションを購入する時代になりつつあるのだなあと感じています。
しかし、価格は億でもマンションの価値としては「億ション」と呼ぶには抵抗を感じるものが多いのです。昨日まで5000万円だったマンションが、今日になったら突然値札を1億円に付け替えたようなもので、不動産インフレの高進に感覚が追い付かないことによる違和感でしょうか?
「えっ、これが億ションなの?本当ですか」と思わず声を発し、遠ざけようとする自分がいることに気付きます。
単に価格が上がっただけで、立地も建物品質も従前と同じようなものが世の中に送り出され、それを買うか買わないかで悩む人たち、でも買えてしまう人たちが増えています。もちろんパワーカップルだけではありません。アッパーミドル層の中に1億円を超える物件を買いたいとする人も多いのです。
物件の評価レポートを書く過程でなんと悩ましい物件だろうかと、筆者も考えをまとめるのに苦悩します。なぜなら、8000万円の値打ちしかないマンションが1億円という値札に付け替えられただけではないのか。つまり、バブルではないのかという疑いがあるからです。バブルは、本来の実力がかさ上げされたものを指します。砂上の楼閣のようなものと言った人もありました。
バブルはいつかはげ落ち、本来の実力ラインに戻るときが来ます。だから、たとえ相場が1億円になったとしても、実力がいくらかを見極めながら的確に評価を下す必要があると考えています。
そんな日常の中から、今日は「億ションの条件」について、まとめてみました。
●本物の億ションの条件
そもそもの高級マンションというイメージを壊さない億ションとは、どのようなものでしょうか?
➀ 社会的に特別な階層(富裕層に分類される少数の階層)が、ステイタスシンボルとして好む邸宅地(ブランド地)に立地する。
② 特別な仕様で造られた外観や共用部を持つ(5つ星の高級ホテル並みの仕上げ材やインテリア、オブジェなどで飾られている。内廊下の絨毯ひとつ取っても品質にこだわりが見られる。エレベーターの仕様も上級)
③ 戸数の割にエレベーターの数が多く、駐車場は全て地下自走式になっている。ドアボーイやバトラーが滞在し、高額な管理費が設定されている。
④ 水回り部分も含めて全体的に天井が高く、リビングルームは飾り天井が施され、いかにもシャンデリアが似合う。トイレや洗面室の床はCFシートなどではなく、悪くともタイル貼り、多くは天然石仕上げになっている。壁の仕上げも高級感と上品さのあるデザインにこだわっている。設備もハイグレード、建具は高級な天然木材、ドアハンドルの材質・デザインも一級品を採用など、書ききれないが、本物志向に徹した専有部分となっている。無論、広さもゆったりと作られている。
・・・・このように、本物の億ションとは、建物が高級というだけではなく、そこに高級住宅地や邸宅街といった立地条件の特別な価値が加わって成立するものです。
●億ションにふさわしい立地・環境
本来、社会的に特別な階層(富裕層に分類される少数の階層)が、ステイタスシンボルとして好む邸宅地(ブランド地)に億ションは立地すると冒頭で述べましたが、少し補足をしておきます。
言い換えると、都心の一等地アドレスにある、由緒正しい歴史ある高級住宅地、邸宅が並んでいる、上級武士が屋敷を構えていた、富裕層が別荘を建て競った、名士が住んでいる、緑が多い、駅から近くはないが睥睨する高台に立っている、窓外の景観が圧巻であるといった表現になりましょう。
こうした地域は大抵、面影を残しつつ今も保存されています。
都心ではどこでも交通便は良いので、優先するのは環境になるのです。 環境とは自然環境+生活環境のことです。例えば、ミッドタウンや六本木ヒルズに隣接している、恵比寿ガーデンテラスのような美しい街並みの一角にある、駅を降りてすぐの緑濃い高台にあるといったものが価値を高めます。
町名で言うならば、麻布・青山・赤坂・白金・高輪(港区)、広尾・松濤・代々木大山・神宮前(渋谷区)などを代表として、目黒区、文京区などに邸宅地は多数あります。
都心以外の、交通便が良いとは言えないかもしれませんが、「邸宅街」と言われる街もあります。例えば大田区、品川区、世田谷区、杉並区などに点在します。
関西なら芦屋市の山手地区、京都の御所周辺に「高級住宅地」と言われる街が存在します。
一戸建てなら敷地が広い邸宅、マンションなら中低層だが、外観から一目で高級マンションと分かる建物が点在し、街全体の景観が美しいのです。
●億ションらしい建物
これを説明するには言葉が足らないのですが、補足しておきたいと思います。
<外観や共用空間>
・百年先も価値が変わらない美術館のようなデザイン(飽きが来ないデザイン 歴史の重みを感じる建物に似ている。流行を追わない建物。格調が高い)
・重厚な門扉がある
・公道からエントランスまでの距離が長い(エントランスが奥まっている)
・植栽・造園計画にこだわりがある
・共用部は床も壁も天然の石張り、天井の装飾にも気を配っている
・エントランスホールは一流ホテル並み(規模によっては2層吹き抜けもある)
・車寄せがある
・駐車場は地下格納式
・バルコニーの軒裏まで手を抜かない
・内廊下式になっている(照明や天井飾りまでこだわりがある)
<住戸>
・天井が高い(シャンデリアが似合う)
・住戸面積は各段に広い (寝室・バスルーム・キッチン・トイレ・洗面室・クローゼット廊下幅、玄関ホールなどもゆったりしている)
・トイレは広く豪華に(来客の化粧直しを想定している)
・洗面化粧台はワイドで2ボウルになっている
・クローズドキッチンが多い(来客を想定しているので舞台裏は見せない)
・家族専用のダイニングルーム(来客時に仕切ることができ、別の動線を使うう)
・ベッドルーム数は少ない。 大きさは差を設けない(夫婦別室の可能性を想定)
・飾り天井や廻り縁などにも気を配る
・天井のデコボコが少なく、すっきりしている
・壁クロスは上質な布クロスも
・建具、ドアハンドルもデザイン性が高く上級品である
・リビングドアはワイドで(親子扉など)、重厚感がある
・設備も上級グレード品を採用している
・エアコンは天井カセット型になっている
・バスルームは1620以上のサイズがある
●これが億ションか?
現実の姿として、「これでも億ションか」と訝しく思う具体例を見て行きましょう。高級物件を目指すなら、売り手は細部に渡って買い手から追及・指摘されるような欠点の90%以上取り去るものですが、そうでもない億ションの誕生に首をかしげざるを得ません。その実態を少し覗いてみます。
1)共用部の仕上げ材
エントランスの床材を天然石張りにするのは常識のようなものです。タイル張りなどはあり得ないのです。外壁の仕上げ材も、タイル張りの部分があっても下層部を中心に天然石張りでなければなりません。
2)ラウンジやホール
大型マンションなら、ロビーも広くて豪華に作ったりしますが、規模が小さいと、どうしても貧相になってしまいます。それをカバーするのは、壁や床、天井まで高級な仕上げ材を用いて豪華に、かつ品よく作りこむことですが、残念ながら億ションらしくない「普通」の仕上げ・デザインでお茶を濁している物件も少なくありません。
3)エレベーター
エレベーター品質もハイクラスでなければなりません。
マンションでは億住戸が混在する高級と見られる物件の中に、ときどきがっかりさせられるものがあります。パンフレットには掲載されないので、見落としがちですが、気を付けたい部分です。
4)内部仕上げ
室内の仕上げとは、壁・床・建具の表面材のことですが、それぞれピンからキリまで種類は無数にあります。
高級マンションなのに、普通レベル、悪くはないが、億ションなのだから、シートフローリングはないだろうと思うと、実際はシートフローリングの物件も現実にありました。
シートフローリングの良さは分かるけれど、それでは億ションらしくないのでは?
トイレや洗面所の床材も同様で、CFシートはないわなあ!!そう感じたことが何度もありました。
5)設備
室内の設備・仕様が良いのは億ションでは当たり前です。大事なことは、億ションらしさです。
別の機会に整理してご紹介しようと思っていますが、室内の吸排気設備ひとつでも、室内の温度を一定に保つものもあれば、室内の暖気が外に逃げてしまい、外の冷気が入ってきてしまうのもあるのです。
そうした目で見ると、「悪くはないが物足りない」ものが多いのです。
6)間取り
億ションは、100㎡でも2寝室しか設けないといったゆとりのレイアウトにするのが普通です。同様に、キッチンも洗面所も広くて作業がしやすい寸法に設計するものです。何もかも理想通りには行かないでしょうが、そんな配慮が全く感じられない億ションもあるから驚きます。
窓の大きさ・サッシの高さなどに目をやると、普通のマンションの中ですら、ずっとリッチな気分に浸れる間取りも多いので、「なんだこれは?」と叫びそうな間取りの億ションもあるのです。
7)住戸玄関
筆者は「玄関は顔である」と思うのです。アルコーブを設けるなどは当たり前ですが、億ションの場合はドアを開けて中を覗いた瞬間に三和土(たたき)の部分、靴を脱いだところ(ホール)、その先の廊下まで、どんな雰囲気を漂わせているかが高級マンションほど大事だと考えています。
日本の狭いマンションでは限界があるのは理解しています。以前、間取りづくりに携わったときの苦労を自ら味わった経験者だからです。
しかし、バランス感覚を大事にしつつも、エントランスには気を使うべきです。ホールの幅とその先の廊下が同じ幅しかない「寸胴タイプ」の間取りが普通に作られていますが、億ションではワイドな玄関ホールがまずあって、その先で胴がくびれて廊下となる形が望ましいのです。
8)天井高・天井飾り
最近は普通のマンションでもリビングの天井高は2500ミリが標準です。億ションは2600ミリがギリギリの妥協範囲と言って過言ではないのです。2500ミリの天井高の億ション、失望以外の何物でもありません。
天井面は、梁の関係や排気ダクトのルートなどから、ある程度デコボコするのは仕方ないのですが、天井が低いマンションでは、ところどころで圧迫感が強く迫って来ます。このような億ションは、もはや論外というほかありません。
9)洗濯機置き場
洗濯機置き場の周囲は、どうしても雑然としがちです。生活感が最も出やすい場所と言えるかもしれません。しかし、例外がないくらいに洗面所に同居しています。入浴のときに脱いだ下着を洗濯機の中に放り込むには、その場所が最も効率的でいいのでしょう。
しかし、洗面所は化粧したり身づくろいしたりもする(その習慣のないご家庭もありましょうが)、「お洒落空間」でもあります。訪問者が化粧直しに洗面所を使いたいと言うかもしれません。そのときに備えて洗濯機とその周囲の雑然さは隠しておいた方がいいはずです。
億ションでも洗濯機置き場を洗面所で隔離せずに置く設計(ドアなし)が見られるのです。
10)トイレ
化粧直しをしたい客が来たら、トイレを使ってもらえばいい、そこには鏡も設けてあるし、化粧バッグを置いたりするカウンターもあるから洗面所はこれでいいなどと主張するプランナーもありますが、そのトイレが億ションらしいしつらえ、特に全体の広さとカウンターとボウルの大きさ、壁紙の上品さなどを感じるようになっているでしょうか?
以上のようなチェックポイントによって検討物件を隅々まで眺めてみましょう。不合格になってしまう物件がきっと多いはずです。
●筆者の基準では買える物件がなくなってしまいそう
以上のような基準で億ションを評価するというとき、1億円を少し超えた程度の物件では大半が不合格になってしまうことでしょう。基準に当てはまる物件を探しても見つからないかもしれません。
つまり、三井の言う条件では買える物件がなくなってしまうと非難を浴びることになりそうです。そこで、現実もよく知っている筆者は次のように助言することになりましょう。
①別の物件を探しましょう。
②建物は億ションとしては物足りないが、得難い立地条件にあるので前向きに考えてもいいでしょう
③室内のスペックは億ションらしくない残念な部分もありますが、共用部の仕様や外形的にはハイレベルなので前向きに考えてもいいでしょう。
④高過ぎて売れ残るはずだから思い切って9000万円で指値しましょう。それで買えれば納得感が得られるはずです。
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。
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