第640回 新築マンションの売主のホンネ「高くてごめんなさい」を分析する

このブログは5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

 

この数年の価格の高騰は、どうして起こったのでしょうか。

 

もう何度も書いて来たので、繰り返さなくてもいいのかもしれませんが、最近になって初めて来られた読者も多いので、簡単におさらいをしておきましょう。

 

地価の高騰

・・・マンションに向く土地が少ないため、用地争奪戦が続いています。このため、1年前に付近で取引された近隣地価の2割高だったなどという例が増えています。

新聞に発表される地価統計は全般的な傾向を示すもので、東京都心の商業地は前年比でプラス2%であったが、郊外の住宅地はマイナス1%だったなどという僅かな変化にしか見えません。

これらの数値と比較すると、マンション用地の取得額は地価調査の数値とは大きな隔たりがあるのです。

マンション用地は、ある程度まとまった大きさが必要であり、かつ交通便が良いことや環境が良いことなど、マンション建設にふさわしい条件を具備している必要があります。ところが、そのような土地はそうそう沢山あるわけではありません

 

個人所有の古い賃貸マンション、法人では工場や倉庫、社宅、運動場などがリストラの一環、移転、廃業といった事情で売り出されると、マンションメーカーはこぞって入札に参加します。そして、一番札を入れた企業に高値で売却されます。

マンション市況が良いときは、マンションメーカー各社は土地取得に積極的になります。高い札を入れてでも優良な土地は何とかして確保しようと前向きになります。その結果、新聞発表の地価上昇率3%などとは大きく隔たりのある高値取引が成立してしまうのです。

一方、土地の需要はマンションデベロッパーだけではなく、例えば都心の商業地などはホテル用地と直接競合し、ホテル業者に競り負けることが多いと聞きます。東京オリンピック後も訪日客の増加が見込まれており、ホテル建設ラッシュは続くと見られるので、今後も用地難にマンション業界は悩まされることでしょう

 

建築費の高騰

・・・マンションの建築費が大幅に上昇しました。

工事はマンションメーカー(デベロッパー)から施工するゼネコンへ発注されますが、マンションメーカーには当然ながら予算があり、その範囲で受注してくれるゼネコンを探します。

普通は複数のゼネコンを指名して見積もりを依頼します。過去数年間の傾向は、予算内に納まるゼネコンがいなくて当たり前、予算を2割、3割上回る見積もりが普通。そのような状況にあります。

背景には、東日本大震災の復興需要、続いて東京オリンピックの関連工事によって専門職・建設労働者の人手不足が深刻な状態にあるためと言われています。建築費の45%は労務費と言われるので、これが大きな影響を与えています。

 

新築マンションの価格高騰の原因

・・・要するに仕入れ原価が上がってしまったのです。 デベロッパーとしても、価格を上げない努力はしたものの、限界を超えたというわけです。

 

消費財の値上げの場合、「原材料が円安のために高くなりました。コストアップを吸収するための努力を続けて来ましたが、これ以上は無理という段階に至り、お客様には申し訳ありませんが、来月から10円上げさせていただくことになりました。なにとぞご理解を賜りまして引き続きご愛顧のほど、お願い申し上げます」などの挨拶があって値上げに踏み切るのが一般的です。

高くなると、消費者は買い控えをしたり、代替品(だいたいひん)にしたりするので、売れ行きに大きな影響を与えます。それを防ぐため、値上げをせずに頑張るメーカーも多いわけですが、背に腹は代えられない段階に至って値上げするのでしょう。

 

新築マンションでは、「値上げします」宣告はありません。消費財のような同一製品ではないからです。A地のAマンションと、次に売り出すB地のBマンションでは、全く異なる製品であって、比較はできないのです。

しかし、市場データは毎月集計され、公表されます。このため、首都圏マンションが1戸平均5000万円を超えてしまったとか、23区の平均は7000万円もするといったデータは簡単に見つかります。もっと地域を細分化した数値も、その気なれば探すことができます。

データを集めなくても、賢明な読者は、近隣事例と比較しながら高いか安いかを見極めたり、2~3年前の資料を捨てずに置いておいて、随分高いと感じたりします。高い、手が出ないと分かれば購入を一旦は諦めます。その結果、売れ行きは悪化し、デベロッパーも窮地に立ちます。

 

●コストダウンの努力はしないのか?

マンションデベロッパーはコストダウンに関して努力はしないのでしょうか?こんなお便りをいただいたことがあります。筆者の答えは、「そんなことはない」ですが、実情を少し補足すると以下のようになります。

 

為替を一企業の力ではコントロールできないのと同じで、土地代の引き下げというのは難しいのです。個別交渉において値下げを売主に飲ませることはないこともないのですが、基本は入札方式なので、むしろ競り合いになって上がる方が多いのです。入札でない場合も、売主は高く売りたいので言い値で買ってくれる買い手が現れるまで強気を通すものです。

土地の売買市場は公開入札市場とは違いますが、ドルを市場で安く買いたいと思っても叶わないのと似ています。

 

●建築費の引き下げは?

では、原価のもう一方である建築費の引き下げ努力はどのようなものでしょうか?

 

建築費は、民間工事の場合は「指名競争入札」方式が一般的です。5社か10社か、ケースバイケースですが、ゼネコンを指名して見積もりを取り、一番下の金額を提示した企業に発注するのが普通です。

ところが、ゼネコンは下請け企業を使って工事するので、各工事会社が人件費の高騰や人手不足を理由に軒並み高値を要求してくるので高値の見積書を出すしかないのです。下請け業者に対するゼネコン(元請け)からの圧力があるとも聞きますが、最近の実態は下請け業者も艇庫せざるをえないのかもしれません。

このような事情はゼネコン共通の問題ですが、ゼネコンによって数字に差があるのも現実です。筆者の経験では、何故こんなに差があるのかがよく分からない不思議な世界でした。

というのも、いつも安いゼネコンはなく、いつも高いゼネコンもないのです。そのときの下請け業者の事情によるとも言われたり、仕事を取りたいか取りたくないかの状況によると言われたりもしましたが、本当のところは今もよく分からないのです。

 

デベロッパーとしては、一番札を入れたゼネコンと価格交渉をした後に契約するので、言い値で発注するわけではないものの、予算を超えていることが多く、ここで四苦八苦します。難攻不落と言うべきか、簡単には価格は下がらないのです。

 

ゼネコン側は、「設計変更」を提案して来ます。設計変更とは仕様変更のことで、発注者が使いたい仕上げ材を一級品から二級品に、特別仕様の設備機器から普及版の機器に変更してはどうかというわけです。「アルミサッシをLow-E タイプから一般型にしてもらえれば〇〇〇万円減ります」、「〇〇社製のユニットバスを××社製に」といった提案です。

しかし、それでも目標値に届かないので、デベロッパーは最後の手段として、ディスポーザーをなくしてしまったり、玄関前のインターホンはカメラ付きを中止し、音声のみの普通タイプにしたりするのです。

 

●設計段階からコストダウン策を盛り込む

設計が終わってから設計図をもとに見積もりをゼネコンに依頼するのですが、デベロッパーは、設計段階から設計事務所に設計方針を伝えます。高くなりそうな設計はするなというわけです。

 

10年以上も前のことですが、あるデベロッパーから「設計指針書」という名の設計の基本方針を書いた内部資料を見せてもらったことがありましたが、そこには階高0000ミリ以上、天井高0000ミリ以上、その他、建具高や廊下幅の寸法、キッチンの高さ、浴室のサイズ、バルコニー面の掃き出し窓の高さなどが記してあり、遮音のための3重構造のパイプスペース、二重床・二重天井構造、エレベーターに接する住戸の壁の遮音対策、1階住戸と最上階の床や天井の断熱材の入れ方などが細かく記してありました。

ブランドAの場合、ブランドBの場合などと区分してあったとも記憶しています。あれは、今どうなったのだろうか?そんな興味を持ちます。

 

コストダウンの策はいくつかありますが、一般論としては窓枠、窓、バスユニット、洗面台、便器、玄関ドア、室内ドア、屋外階段などの部材ひとつひとつの形やサイズ、品質もさることながら、間取りの形まで決めておけば、コストダウンを図ることが可能です。さらに、施工手順や工程管理によってもコストダウンは可能です。部材等の大量発注や省力化、合理化といったことです。

 

しかし、現実は難しいのです。敷地の形状も違い、道路や隣接地との関係で建てられるマンションのボリュームも違います。外枠の縦横寸法が違えば、その中に納める住戸の形・面積も違ってくるのです。杭の長さも場所によって大きく異なります。

道路の幅によって持ち込めるクレーン車など、重機の大きさが変わり、作業効率に大きな影響を与えます。

様々な制約を受けながらもコストダウンを考えるのですが、実態は厳しい。それがマンション建築の現場なのです。

 

そこで、コストダウンの定番とも言うべき設計方針が登場して来ました。それは、形状のデコボコをなくしシンプルにすること(アルコーブのない玄関)、二重床構造をやめて直貼りにすることでした。また、廊下に置くエアコン室外機の「半囲い」を止めることなどです。この数年で、この策は随分波及しました。

 

これらは止むにやまれずに採用した設計方針の変更ですが、進化ではなく退歩です。言い換えると、品質の低下なのです。これ以上は下げられないレベルまで品質は低下しました。これらは、コストダウンのための努力が完全に行き詰ってしまったことを示すものです。

 

●価格を下げる究極の策は?

最後は利益を削る策です。しかし、企業は存続させなければなりません。マンション事業は商品単価が高いので、薄い利益でも順調に売れれば利益も大きいのですが、売れないときのリスクも大きいので、最低限の利益を確保して売り出すのです。つまり、利益を削るのは、極めて難しい選択です。企業としては当然のことです。

 

利益率は販売経費を引くと10%程度しかありません。そこから本店経費を賄うのですから、5%も引いたらたちまち赤字です。(例外的な物件もありますが・・・)

 

そんなことから、企業努力を超えてしまったので、やむを得ず「御免なさい。値上げします」というのがデベロッパーの姿勢です。努力はして来たのです。しかし、それも限界です。何とか、この価格で買っていただきたい。デベロッパーの本音はここにあります。

 

幸か不幸か、高くて手が出ないなら買い控えればいい、デベロッパーが苦しくなって投げ売りでもするなら、そのとき買いに動けばいい。このように考える買い手もあります。実際、売れ残りを値引き処分するデベロッパーも少なくありません。

 

しかし、のんびりできない買い手も多いのです。

マンション購入のきっかけとも動機とも言えるものとしては、結婚、子供の誕生、転勤、子供の進学、子供の独立、定年といった人生の転機やライフステージの転機が挙げられますが、もう少し加えると、「賃貸マンションに住んでいるが、契約更新で値上げ通告を受けた」、「子供ができて手狭になったので引っ越しを考えたが家賃が高く、だったら買った方がいいかもと思った」、「勤務先の家賃補助がなくなる時期が近付いているので」などです。

しかし、買いたいときの環境が絶好だとは限らないのです。

 

歴史を振り返ると、マンション価格は上下動を繰り返して来ました。(大きな流れとしては右肩上がり)

突き詰めると、物の値段は需要と供給の関係で決まって来るもので、材料費が上がった、人件費が上がったなど供給者側の事情から値段を付けても、買い手の購買力がついて来なければ需要は減退し、売り手は値段を下げるほかありません。

 

筆者は、かねがね言い続けてきました。今は狙うなら「新築の売れ残りを叩いて買うことです。そうでなければ、中古マンションです」と。売れ残りの中に気に入った部屋が見つかるかどうかという課題は確かにありますが、場所も環境も建物の風格もグレードも変わらないのですから、住戸選定において多少の妥協で済むなら「売れ残りマンション」には交渉次第で結構お買い得な品があるものです。

 

もうひとつの課題は「値引き交渉の仕方」かもしれませんが、いずれにしても筆者のご相談者の中には、狙いを付けた新築マンションを完成前から2度、完成後も足しげく通って最近ようやく8%もの値引きに成功した人もいるのです。売主がしびれを切らして要求を受け入れたとのことでした。

 

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