第718回「大規模マンション―住みかえの時に大量売却で価格が大きく下がらないか?



このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

 大規模マンションのひとつを検討している人の中に、タイトルのような心配をする人があります。人は同じような行動を取るものなので、自分が売り出すとき同時に売り出す人が他にもたくさんあって、過当競争状態が生まれ、値崩れするのではないかと考えるのです。

 

 今日は、この問題についてお答えしようと思います。以下のお便りも紹介しておきましょう。

 

「このマンションは建物価値も良さそうだし、駅にも近いので購入しようと思うのですが、心配なことがひとつあります。それは数が多いので、将来リセールのときに売り出す人も多く、お互いに競争しあって値崩れするのではないかという点です」

 

 このようなことを心配する人は、少数派かもしれませんが、当該マンションだけではなく、周辺に第2第3の大規模マンション計画があると、そのトータルでは膨大な数が供給されるので、将来のリセールに悪影響を与えるのではないかという漠然とした不安を抱くようです。

 

●局地的な大量供給がもたらす問題――売り手の不安

 かつて、デベロッパーに属していた筆者は、つい分譲業者のことを心配してしまうクセがあります。「Aマンションが売りだされたら、Bマンションは打撃だろうな」とか、「どれも“帯に短かし・タスキに長し”の物件だから互いに足の引っ張り合いになるだろう」、「これだけの大規模物件が同じ駅に3つも出たら、総客数が足りなくて、どれも長期化は免れないだろう」などと考えてしまうのです。

 

 しかし、その心配は当たらないと思うことがあります。

 ある物件の総戸数が500戸として、一定期間に500戸全部が売りに出るでしょうか?

 また、その買い手はどこから来るのでしょうか?

 

「マーケティング」に詳しい人ならお分かりいただけると思いますが、マンションは特殊な商品です。一般消費財のように全国で売れる可能性は殆どないからです。全国で売れるとしたら、投資商品としての性格を持つマンションだけです。

 

 筆者がこのブログで展開するのは、基本が実需、つまり自分で住む目的のマンションに関してであり、それを購入する買い手のことを念頭に置きながら記事を書き続けています。従って、東京のマンションを念頭に置いて述べるとき、その買い手は東京または東京近郊に住んでいる需要階層を想定しています。

 

 分譲マンションは、50戸未満の小型から500戸、1000戸という巨大なものまであります。それを購入する人は、過半が近隣住民です。港区のマンションを購入する人は、現に港区と近隣区の住民です。

 

 少し離れていても、かつて当該マンションの近隣に住んでいた人や親・兄弟が同じ区内に住んでいるといった、何らかの地縁性がある人たちです。横浜のマンションを買う人の大半は横浜市内に住んでいるか、以前住んでいたことがある人なのです。

 

 千葉県に住んでいる人を横浜のマンションの買い手に想定することは殆どありません。とはいえ、広い関東、なかんずく東京では、マンションを買う人が全て近隣の人というわけでもありません。

 長年、そこに住みつき、移住することがあっても近隣か同じ沿線のせいぜい隣町くらいしか考えられないという人もないことはないのですが、地方出身者も多い東京では、特定地域にこだわりを持っている人は少ないのです。

 

 そのせいもあって、東京都民になったり、神奈川県民になったりと移住を繰り返すのが普通です。とはいえ、住み慣れた街の方が抵抗は少ないので、マンション販売の戦略では「地縁性」を基本に置き、建設地周辺の住民をターゲットに広告して買い手を集めようとします。

 

 地元住民にPRするにはチラシの配布(折り込み・投函)が常套手段ですが、近年は宅配新聞を取っていない住民も多いので、隙間を埋めるために郵便ポストへのチラシ投函や駅前の手渡し作戦などを展開して「地元密着のPR作戦」を展開します。

 

 それでもカバーしきれないと見た場合は、「SUUMO」などの雑誌媒体も使ってPRします。

 

 看板も有効な媒体とされ、近隣市町から集客作戦を展開するためには欠かせない媒体です。これらのPRを細やかに展開して行けば、マンションの工事が終わるころには全戸完売という結果を得ることができると言われています。

 

 ところが200戸、300戸といった大型マンションになると、その販売は簡単ではありません。地元密着型のPRだけでは足りないからです。戸数が多ければ多いほど、広域展開が必要になります。そこで、先に述べたSUUMOや新聞媒体、ときにはTVまで使って広いエリアにPRしながら買い手を集めようとします。

 

 大型マンションでも基本は周辺の居住者から買い手を探すことですが、それだけでは数が足りないので、東京中、大げさに言えば関東一円に広告を展開して顧客を募るのです。

 

 東京の新築マンションを買う人の数は、年間に高々2万人に過ぎません。東京の世帯数は670万なので、0.3%の顧客が発生するだけです。検討してくれる人(見学者)は購入者の10倍と言われるので、20万家族ですが、マンションデベロッパーは、この購入予備軍をターゲットにPRを展開します。

 

 大型マンションは様々な付加価値を擁し、立地も駅前であったり、公園前であったりと、魅力的なものが多いので、広範囲の住民の耳目を集めます。そうして、大量販売に必要な大量集客に成功したマンションだけが初期の目標時期である「竣工時」までに完売を達成するのです。

 

 それがうまく行かない場合も少なくありません。価格が高い、駅から遠い、不人気沿線の駅である、プランが魅力に欠けたなどの要因で完売まで長い時間がかかってしまう例も少なくありません。

 売り主デベロッパーは、十分に策を練って販売開始に漕ぎつけるものの、予定していた価格にコストを抑えることができなかったとか、市況の悪化で全体的に売りにくい時期にぶつかってしまったなどと、期待していたように売れず、長期化してしまったという例は少なくないのです。

 

●大量集客を必要とする大型マンション

 大型マンションは、スケール感と高さ、付加価値を要していますが、その商品戦略、販売戦略には興味深いものがあります。

 売り手は、商品の差別化に腐心します。ユニクロ的マンションにして「価格で勝負だ」とか、「室内の設備・仕様はライバル物件を凌駕するレベルに」とか、「駅まで3分の近さを最大限にアピールしよう」などと知恵を絞るのですが、これが中々面白いのです。

 

 しかし、その知恵も作戦も圧倒的な力には中々なりえないものでもあるのです。

 首都圏のマンション供給戸数は全体で見れば、ひと頃の半分しかありませんから、供給過多ではないのですが、局地的には大量供給現象がときどき見られます。

 

 例えば、川崎市の武蔵小杉駅。少し前ですが、「パークシティ武蔵小杉ザ・ガーデン」と「シティタワー武蔵小杉」の巨大タワーマンションが売り出されたころは、合計で1800戸もありました。

 品川区の「品川シーサイド駅」では「グランドメゾン687戸」と「プライムパークスシーサイドの2件335戸+687戸」が妍を競っていました。江東区の国際展示場前駅では、1社だけで1539戸(3棟)も販売を開始されました。

 

 都下では、国分寺駅で、少し前まで販売中だったものを含めると「シティタワー国分寺ザ・ツイン584戸」、「ザ・パークハウス国分寺四季の森494戸」、「ザ・パークハウス国分寺緑邸82戸」、「プラウド国分寺125戸」など、大小合わせて、総戸数で1200戸余も供給されたことがありました。

 

 中央区の月島や勝どきという駅も、大量供給が続いて来ましたし、今後も続く見込みです。

 

 千葉県では、津田沼駅の「奏の杜(かなでのもり)」と名付けられた一角を中心に大量供給が続きました。横浜では、みなとみらい地区が典型的な大量供給エリアでした。

 

●大量マンションの買い手はどこから来るの?

 局地的な大量供給は、何をもたらすのでしょうか?

 大量に売るには、大量の顧客を動員する必要があるので、それを可能とする宣伝広告が必要になります。

 定番のインターネット広告、住宅情報誌SUUMOの配布、大量のチラシ配布、電車内の広告、駅張りポスター、TVコマーシャル、新聞刷り込み広告などを使って大々的なキャンペーンを行います。これらが首都圏中に露出され、発信されて広く知れ渡ります。

 

 新築マンションを購入する人は、首都圏全体では直近では3万人弱、買わなかったが近々買うつもりの人も入れると6万人くらいは常にあるので、少なくとも、それくらいの人が広告に注目します。先に述べたとおり、マンション販売の現場では販売戸数の10倍の見学者を呼び込もうとしています。

 

 それらの広告に触れた人のうち、条件に合う(少なくとも候補エリアにある)物件と見た人が資料を請求したり現地を訪問したりするわけですが、もともと考えていなかった場所だが、魅力的な物件に見えたので資料請求しました、見学に来ましたといった人も現れます。

 

 魅力的な物件は多くが大規模です。その基本的な物件の魅力が集客パワーとなって、首都圏各地から関心客を呼び集めるのです。大規模物件の場合、売主が広告で高らかに謳う「資料請求10万件突破」とか「来場者5000組突破」などに、多少の水増しはあるものの、注目のマンションという自慢や自信とも取れる物件尾の魅力が見て取れます。

 

 中小規模のマンションは広告予算が少ないので、大量広告も高額の新聞広告やTV-CMも実施できませんから、顧客動員数は限定的です。簡単に言えば、建設地周辺の「地元需要」と呼ばれる顧客が大半です。遠くから来る人も、昔その辺に住んでいたからとか、親が地元だからといった「準・地元需要」で、その数はしれています。

 

 対照的な大型マンションは大量の宣伝広告によって首都圏中から買い手を集めようとしますが、集まるのは、広告の分量のおかげだけではありません。物件の魅力こそが、遠くまで足を運ばせる原動力になっているのです。

 

 広告予算がたっぷりと取れる大型マンションは、ただ図体が大きいだけではなく大型なりの付加価値があり、かつ立地条件に優れているものです。

 話題の新商品は、その発売やイベント開催、スポーツの試合があると聞くと、朝早くから並んで買いに行く、観戦に行くといった行動を取る光景をよく見ますが、魅力のない商品やイベントは広告費をいくらかけても客は集まりません。

 

 かつて、川崎市中原区の武蔵小杉駅の周囲は工場・倉庫・研究所・駐車場といったエリアで、夜間人口が少ない街でした。

 江東区の豊洲もそうでした。大正時代まで海だったこの土地で、1923年に発生した関東大震災のがれき処理で埋め立てられて誕生した街ですが、かつては典型的な工場地帯だったのです。今では、住宅地や商業地、オフィス街へ転換が進みました。NTTデータや日本ユニシスといった大企業の本社もあります。

 

 武蔵小杉にして豊洲にしても、生活する街としては魅力に乏しかった街でしたが、そう遠くない将来、きっと生活インフラも整い、暮らしやすくなると信じるに足る情報や計画があったので、遠くからやってきて購入した人も次第に増えて行きました。

 

 地元の人は、生活に慣れています。買い物が少し不便でも最低限度の施設はあるので、何とかなることを知っています。そのせいで抵抗なく買ったかもしれませんが、地元住人がそもそも少ないエリアでは、大戸数を売り切るには方々から顧客を集めて来る必要がありました。売り手はそう考えたのでしょう。

 

 こうして、商業施設(ららぽーとやグランツリーなど)を同時開発し、建物に中小規模のマンションではあり得ない付加価値を用意するとともに、タワーの魅力である「眺望」価値を加えてダイヤモンドの輝きを持つ商品に仕立てて販売を始めたのです。

 

 その結果、豊洲は10年で3倍以上に人口が膨れ上がり、武蔵小杉のある川崎市中原区の人口は、再開発が始まった約10年以前から毎年1000人から5000人超の勢いで増加したのです。中原区は川崎市7区の人口順位で2005年から1位を続けています。増えた人口は、言うまでもなく他の町からやって来た人たちです。急に子供が多数誕生した「自然増」ではなく、「社会増」によるものです。

 

●成熟した街の未来は?

 街の魅力は、そこに何があるかで決まります。もちろん通勤の便が良い、言い換えれば都心へのアクセスが良いことが第一ですが、それ以上に「賑わい」や「自然環境」、「街並みの美しさ」などが挙げられます。

 

 リクルート社が毎年調査している「住みたい街ランキング」で関東圏上位には、「吉祥寺」や「恵比寿」のほか、「武蔵小杉」や「豊洲」が入っているのはご存知のとおりです。

 

 こうした街の魅力的なマンションは、人気上昇の過程で多数の商業施設・飲食店・教育施設(学習塾・英会話教室など)が増加して人びとを引きつけました。洒落たカフェや雑貨店、インテリアショップ、有名レストラン、ファミレス、コンビニエンスストアなどが軒を連ねて、休日にはよその町からもたくさんの人々がやってきます。

 武蔵小杉では、週末ごとに回っても1年では回り切れないほどの多種多様な店が増えているそうです。カフェもスターバックス、タリーズコーヒー、エクセルシオール、珈琲館、ドトールコーヒーなどが勢ぞろいしています。

 

 人口が増えると、採算が合うと見た新規出店が続くものです。それが好循環を生みます。こうして街の魅力が一段と増し、多方面から「あの街に住みたい」と評価されるわけです。魅力ある街は、マンションが新たに供給されても地元以外のエリアから新たな買い手を集めることができます。そうして人口がさらに増えると、商業店舗、エンターテインメント施設が新たに加わり・・・となるのです。

 

 魅力的な街は、マンションの買い手に事欠かないものです。言い換えると需要が多いので、いざ売却というときも心配は少ないのです。もちろん、物件個別に見れば格差はあるので、どんな物件でも心配ないというほど単純ではないのですが、大規模タワーマンションの多くが付加価値も高い魅力的なものなので、たとえ20年経っても大きな価値の下落はないと期待できます。

 

 マンション単体での価値判断も大事ではあるのですが、それ以前に街の魅力が買い手を惹きつけるのです。住みたい街があって、次がその中のマンションの是非、最後に住戸の是非となります。言い換えると、マンションの価値は街の価値とともにあるというわけです。

 

●マンションの買い手は街の魅力とともに

 マンションの買い手は、年間に発生する数で言えば僅かです。昨年1年間に購入した数は、新築・中古合わせて、首都圏全体でも6万人、世帯数1700万に対して0.35%でした。

 

 しかも、過半は東京都内のマンションとされます。また、東京都内でも人気の市区と不人気の市区があります。横浜、川崎の中でも、人気を集めるリアと不人気になってしまったエリアがあるのです。

 

 人口動態を見ても分かりますが、人気地域とそうでもない地域、人口流出地域、高齢化の進む地域など、性格が鮮明になっています。全地域で人口が増えていた時代とは大きく様変わりしているのです。街の栄枯盛衰はマンションの買い手にとって重大なチェック事項になっていると言えます。

 東京とて例外ではありません。高齢化が進み、活気のない街と、人口が増えて活気ある街とに色分けされて行くはずです。

 

 マンションの価値も、街の盛衰と無縁ではありません。古くなったマンションの価値が高く保たれるかどうかは、街の人気動向によるとも言えます。古いマンションでも、すぐに買い手が付くかどうか、しかも高値の取引が成立するかどうかは、街の人気と無縁ではありません。

 

 人気のある街は、そこに住みたい人が多いことを意味します。潜在需要を含めて大量の買い手があれば、大量の売り物があっても、苦労することなく売買が成立します。売り物が出るとたちまち買い手が現れて市場から消え、ほどなく別の売り物が現れますが、それも長い時間を要せずに買い手が決まるのです。

 

 大規模マンションは売り物も多いが買い手も多いので、ほどなく売買が成立するといったふうに、流れて行くものです。ある瞬間をとらえると、ひとつのマンションの中に売り物件が5件も6件もあるというふうではありますが、年間の売出し件数は10件で成約件数も10件というふうに動いていることが分かるのです。

 

 他方、いつも市場に5室~10室も出ているが、過半が中々売れないで長く滞留しているらしいと気付くマンションもあります。価格も低水準です。「広くて安い」のです。売れない理由や背景をチェックしてみると、大抵は「環境はすこぶる良いが駅からの距離がある」物件です。

 

 バスに乗って着くと、素晴らしい環境と整備された街並みなどに感動を覚えるほどですが、最終的には購入を断念する人が多いのでしょう。価格は低水準です。首都圏のマンション希望者の多くが「環境より通勤便」を望んでいるのは明らかで、環境が良い、眺望が素晴らしいだけでは買い手を見つけるのは難しくなりました。

 

 街の魅力とは、交通便が第一です。環境や眺望も重要なファクターですが、交通便の先順位には来ないのです。昨今は共稼ぎ夫婦が増えており、マンション購入者だけの調査によれば、物件によっては共稼ぎ世帯が80%近いというデータもあるのです。

 

 大規模マンションは魅力的な要素が多いですが、交通便の悪い物件は売却に苦労するものと見なければなりません。今日のテーマは、「大規模マンション―住みかえの時に大量売却で価格が大きく下がらないか?」でしたが、そのお答えを整理すると、以下のようになりましょう。

 

①大規模マンションは街の発展とともに注目を集めるもの。遠くからも買い手がやって来る可能性がある。つまり、需要が多いので売りものが多数出ても心配には及ばない。発展する街は、都心へのアクセスが良く、生活インフラもさることながら、趣味や教育に資する施設も十分に整備されている

 

②当初は魅力的だった「大規模マンション」も、街自体が廃れて行けば「住みたい人も減る」ので、多数の売出しは不人気の証拠ともなり、高く売れる期待は持てないのです。将来、街が熟成するか、それとも停滞するかを予想しつつ購入の是非を判断しましょう。

 

・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらからhttp://www.syuppanservice.com

 

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