第692回「中古も高い。同じだったら新築にしよう」は正しいか?

このブログは10日おきの更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

昨日お会いした若いご相談者が「予約しないとモデルルームの見学はできないのですねえ?」と言いつつ「面倒なものです」と続けました。そして「昔からですか?」と尋ねて来ました。

筆者は、「暇な現場はアポイントなしでも大歓迎ですよ」とだけ答えました。

何年か前から、モデルルームを見学するのに予約が必要になってしまいました。デパートにフラリと入って品定めをして好きなものを買うようなわけにはいかないのです。

●新築マンションの見学は予約制

新築マンションの販売は、売りたい戸数の10倍以上の数の見学者を集めないと完売しないと言われており、100戸売るためには1000人(1000家族)の集客が必須とされています。

モデルルームを勝手に見学して「申し込みたい方はこちらへ来て購入申込書を提出してください」などというわけにはいかないのが高額商品のマンションです。

できればプライバシーを覗かれないように気を使いながら、質問をして情報を入手。そして、購入の検討をしていきたい買手の思惑はマンション販売会社によって砕かれてしまいます。つまり、他人には聞かれたくないプライバシーをある程度までは開陳しなければならないのが「マンション購入の相談」というものと覚悟しておくことが必要というわけです。

売り手から見れば、商品内容を開陳するだけならモデルルームの展示と説明パネルだけで足りるかもしれませんが、尋ねたいことが必ず出て来るます。そこで、近くに説明要員・案内係が待機している必要があります。

しかし、それだけでは見学者の要望・期待に応えることはできません。

係員を何か所かに配置して、ゾーンで質問に対応しつつ、マンツーマン対応も必須です。見学者から見れば、聞きたいことが山ほどあるので、自分専任の係員が必須になるのです。

一生に一度かもしれない高額商品を購入するというときの買い手の態度は真剣そのものです。買ってから「しまった」や「失敗した」と思いたくないと思う買い手は、商品内容について、見栄えだけでない品質の確かさや代金以外の諸費用、税金などに関する疑問、ローンの支払いに関する不安などを解消すべく、たくさんの質問を係員にぶつけます。

建設工事中で、商品がパンフレットとモデルルームでしか分からない時期においては、見えない部分を心配していて、それを解消しようと懸命です。その買い手に対応する営業担当者の接客時間は、黙って1時間、ときには3時間を要します。

長くなると、連れて来た子供はじっとしておれなくなるので、遊ばせる施設も用意され、子供相手の係員を置いて親が商談に専念できるような対応も必須になります。

こうした顧客対応策は、売り主から販売を請け負う販社にしても、売主自身にしても手慣れたものです。

●中古マンションは見学時間が限られる

一方、中古マンションの販売は様相を異にします。所有者個人が転居し、空室にしてから買い手を迎え入れるわけではないからです。空室にしてから売りに出すという形がないわけではありませんが、多くは売主個人が居住中のところを見学してもらうことになるのです。

この場合、見学者はどうしても遠慮がちになります。押し入れを開けたり、クローゼットの中を覗いたり、バスルームを開けてみたりすることに抵抗があるのです。

隅々まで時間をかけてじっくりと見学するということができません。

 一生に何度もあるわけでない買い物をしようかというときにもかかわらず、見学時間が30分か長くて1時間程度の短時間になってしまいます。

マンション購入に当たって、買い手は室内だけを見れば足りるわけでなく、マンション全体・共用部の見学、環境チェックも必須なので、購入対象住戸内の見学はそこそこにしても良さそうに思いますが、買い手の多くは「所有者から聞くのが一番確か」と思うので、できることならたくさん聞こうとします。

ただ、「こんなことを聞いたら失礼かな」と遠慮がちになることもあります。

そこで、営業マンに聞こうとしますが、売りたい一心の営業マンは「やぶへび」を恐れて口を閉ざしたり、的をすらしたりもします。

本当のことを知りたいと思いつつも、的確に答えてくれているかの疑問は常に付きまといます。これは新築マンションでも同じですが、中古マンションの場合は、「ご覧の通りです」のような曖昧模糊とした対応の営業マンも少なくないのです。

●中古も高い:そう感じる理由は?

新築と中古の価格差はと問われれば、中古の方が間違いなく安いはずですが、同じ最寄り駅の新築と比べると、「中古も高い」と感じている人が多いようです。

理由は簡単です。比較した新築物件より中古物件の方に価値あるものが少なくないからです。中には新築より高い中古が現実に存在します。

分譲マンションの歴史が50年程度しかない日本では、積極的に中古を探す買い手の数が少なく、「中古は不安・新築は安心」のような買い手心理になってしまうようです。その心理が築浅(ちくあさ)中古を目指すことになりがちで、品数の少ない築浅中古の人気を高め、新築と変わらない価格で売買が成立しています。

確かに、感心しない中古マンションも少なくありませんから、「新築が安心」という購買者心理は分からないでもありませんが、その新築もやがては中古となってしまい、不安が的中するということがないわけではありません。

ある人が言いました。「10年経った中古は、問題箇所があったとしても既に露見しており、かつ解決済みになっているものです。だから、安心して住むことができる物件が多いのは確かです」

無論、それだけで中古の方が良いと言えるわけではないのですが、新築にも安心できないものはあるのだということを肝に銘じなければなりません。

話を元に戻します「新築が安心」の心理は、中古を探すときにも影響を与えています。「築20年より築5年の方が安心」という心理につながっていますし、古いものよりできるだけ新しいものがいいという「築浅志望・新築信仰」です。

一方、中古市場に売り物件として出て来るもののうち、近隣の新築を上回る価格の中古マンションは分譲時に人気物件として名を馳せたからで、中古になっても人気は高く、売り手も強気に価格を設定する傾向が強いのです。

売り物件の媒介依頼を取りたい仲介業者の査定書にも売り手を喜ばせる「高値」を査定額として記入します。こうして市場に高値の人気物件として登場した売りマンションも、あっと言う間に買い手が決まったりします。売り手を喜ばせる一方、仲介業者は短時間に手数料を稼ぎ、売り手・買い手の双方から感謝されます。

価値ある物件ほど買い手が集まる傾向が強いので、結果的に新築を超える高値が当該マンションの相場として定着してしまうこともあります。

このような市場の動きは、当然のことながら他の物件の動きにも影響を与えています。人気物件ほど高く、そうでもない物件は買い手がつきにくいという市場の傾向は、全体として見たとき、「中古価格の高騰」という統計にも表れて来ます。

人気物件になるほど指値(さしね)は利かず、売主の言い値で買うしかなくなっているという状態が中古市場の昨今の姿です。高いなと感じながらも気に入った中古マンションの場合、直ちに手を打たないと買えないことも少なくないからです。

●新築マンション探しが楽な点

中古マンションは、「一点もの」なので、もたもたしているとあっという間に売り切れご免になってしまいます。従って、見学した日の翌日、可能なら即日で購入意思を伝えるくらいのスピードが必須になっているようです。

「そんな無茶な」と反論なさる買い手さんもいますが、筆者も無理をあえて勧めます。即日結論を出すくらいの判断資料・知識がなければ優良な中古マンションをゲットすることは難しい。それが実態だからです。

筆者も見学の前日には所見をレポートの形でお送りできるように努めていますが、アシスタントを起用しながらも、スピードには限界があり、最近は忙しすぎて依頼者からお叱りをいただくことすらあります。いただいた料金も半分返すことになったりして赤面の至りです。

中古探しは、一面「時間が勝負」のようなところがあります。見学をしたら、指値もせず売り手の希望通りに買いの意思を伝えるか、「買わせていただきます」と意思を伝えつつ、仲介業者と相談しながら買いたい価格を提示するという態度が良さそうです。

あくまで、物件の人気度次第なので、仲介業者との打ち合わせも必須です。

●中古探しが大変なところ

「中古マンション買うって結構難しいのですね」――そう語った相談者がありました。お分かりのように、優良中古ほど早く売れてしまいます。従って、判断のスピードが要求されます。

新築の場合は、比較的長い検討時間が用意されているので、じっくり検討できます。売主が用意した「購入申し込み受付開始日」までに必要な調査や検討を重ねる時間がたっぷりとあるのが普通です。

中古マンションは「先着順」方式なので、真っ先に購入意思を売主に伝えないと買えない場合が多いので、それこそ見学したら、その日のうちに「買います」と連絡しないと、気に入っても売ってもらえないことがあるのです。

中古マンションは「買ってやる」でも「売ってやる」でもないのですが、売主もヒトなので、たとえ希望価格でなくとも印象の良い人に売ってあげたい・買ってほしいという心理がはたらくものです。繰り返すと、「できたら、こんな人に買っていただきたい」と売主は思っています。

そんな事情も頭に入れながら「買い物にたどり着く・巡り会う」ものである。それが中古マンションの買い物と認識しなければなりません。それだけに、「スピーディーな結論を出すこと」も大事になります。

●新築マンション価格の変動率は激烈

じっくりと検討する時間が持てるのは新築マンションの方ですが、残念ながら今の時期は価格が、とても強含みです。ズバリ言えば、「どれも皆 高い」のです。

新築マンションの価格上昇率をグラフで表すと次のようになりますが、価格上昇の原因は言うまでもなく「マンション用地の高騰」と「建築費の高騰」にあります。

売主業者が意図的に値上げしているのではなく、仕入れ価格がマンションデベロッパーの責任や努力の埒外のところで上昇してしまったのです。過去数年を振り返ると、幸いにして住宅ローンの金利が下がったことで購買力がかさ上げされた格好になっていますが、それがなかったら誰も買えないほどの価格高騰が起こったと言って過言ではありません。

今や、サラリーマン家庭でも億ションが買えてしまう時代になりつつあるのです。

サラリーマン世帯も所得の多寡や頭金の保持度合いはみな異なるわけで、高くなった「新築マンションにはもう手が出ません」と語る中古マンション転向組も少なくない状況になっています。

中古転向組が増えれば中古相場も上がって当然です。事実、単純比較で見た中古価格は新築に並ぶレベル、もしくは新築を超える中古の登場という例も増えています。

<中古マンションの価格もこんなに上がっている>

(出所:不動産流通機構)

●中古マンションの値上がり要因

中古マンションは新築価格の上昇に概ね連動しています。

新築が高いから中古を考えようとする結果、中古人気が高くなって中古相場も上がるのです。

新築マンションは原価である土地(買収費)と建物(建築費)が上がれば、分譲価格を上げざるを得ませんが、中古マンションの市場は売り手の希望・期待とは無関係に買い手が価格を決めているようなものです。

買い手がこぞって「高ければ買わないという態度」を示すだけで価格は下がります。

反対に売り手主導の市場になると、売り手の強気な価格が市場で通ってしまうこともあります。今の都心マンション市場が、この状態にあります。

高くて売れない状況になれば、黙っていても価格は下がります。今は、売り手の強い市場になっているのです。主として都心エリアの話ですが、購入時から僅か5年で1千万円儲けたなどという話は巷に転がっています。

●新築マンションは値下がりするか?

この先、新築マンションはどうなるでしょうか?値下がりするのでしょうか?

言うまでもなく、地価(土地の買収費)が下がり、建築費が下がる状態が来ないと新築のマンション価格は下がらないのです。

地価は下がりそうにありませんし、建築費も下がる確率は低いと見ています。様々な意見が飛び交っており、今後どのようになるかは予断を許しませんが、私は「大きく下がることはない」と見ています。

地価は変わらないと見ても、建築費が10%でも下がればマンション価格は5%下がる、郊外マンションなら建築費の占める割合が大きいので、もう少し下がるかも知れないなどと思いつつ、他方「いやいや政府は抑制して来た公共投資を増やすと決めているのだから、建設会社は暇にならないぞ。だったら、下げ余地は小さいな。などと思ったりもします。

それに不幸なことですが、自然災害の多発によって復旧・復興工事が当分続きそうだから、東京オリンピック関連工事の減少分を埋めてしまいそうだ・・・」など様々な要素を集めてみると、マンションの建築費が下がる可能性は小さい感じがするのです。

高値の新築マンションは今後どのようになるのでしょうか?マンション業者は、高くても売って行かなければならないと考えていますが、売れ行きは日増しに悪化しているようです。値引き販売もやむなしという現場も増えているのです。今後はどこも値引きを断行しなければならない、そんな状況にあるのでしょう。

とはいえ、値引きは高々10%で、それも値引きなし販売住戸を半分以上、できたら7割8割を定価販売したい、デベロッパーはそう考えているに違いありません。

筆者は、聞かれたらこう答えます。

「高くても構わない。自分にとって最も価値あるマンションで価値ある住戸だから買う」そんな考え方に賛同できることもありますが、普通のケース、普通の家庭では「定価で買わなければならないケースなどない」はずです。「値引き販売を始めるまで待てなくなったらどうしてくれるのか?」そんなことを言われた覚えもありません。

「今は待つのが正解」と思っています。様子を見ながら、売り手が値引き販売に移る機を待つべきという意味です。

●中古マンションの価格はどう動く?

既に述べた通り、中古マンションの売り手には、買った金額以上に売れたらいいなという願望はあっても、市場がそれを許さないなら仕方ない。買った金額以下だと言われれても、それで売り出すほかありません。

先述のように、中古マンション価格も随分上がってしまい、買い手側では警戒心も大きくなっています。活況を呈している中古市場ですが、そろそろ曲がり角に差し掛かりつある気がします。

高くなれば購買意欲は後退します。売れなければ、嫌でも所有者は価格を下げざるを得ません。

需要は分厚くありそうなので、値下がりはないにしても上げは止まるということになるかもしれません。しかし、そうなるかの確信も実はありません。

●新築と中古、今はどっちがいいのか?

最後に、新築と中古、どっちがいいかの答えを述べておきましょう。

答えは中古です。新築マンションの方がじっくり検討でできるとか、同じマンションの中でも複数の住戸があるので選択肢が広い、じっくり検討できるなどという声も聞きますが、なにしろ高過ぎます。

中古だって良いものは高いのです。しかし、厳密な比較をすると新築はその価値に比して高過ぎます。中古も高いけれども価値があって、将来のことまで考えると買って悪くないものが結構あります。

もし、新築で自分にとって最高だと思える物件があるなら売主の言い値で買えばいいでしょうし、可能性があるなら値引き販売の時期を待って少しでも安く買えばいいのです。

買い手の家庭環境や事情にもよるので、決めつけることはないですが、多くの事例を見て来た立場で思うことは「新築にこだわるべきでない時期にある」のです。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com

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8月25日の第219回は「どちらかと言えば新築より中古を検討すべきとき!!」です。