第717回 「分譲マンションの建設と個人資産」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

購入検討マンションの評価を依頼され、その調査とレポート作成を行う過程で筆者が常に感じて来たことがあります。それは、筆者から見て評価の低い物件が多過ぎるということです。

開発できる土地に限りがある以上、立地条件については仕方ないと思いますが、建物に関して言えば、もっと価値ある建物にしようと思ったらできるのに、何故そこに知恵を絞らないのかと売主の姿勢を垣間見て落胆するのです。これは、最近の新築マンションについての感想です。

 

筆者はかつてマンションデベロッパーに在籍し、開発・建設の現場と販売の実務を体験、経営陣にも加わって、分譲マンションビジネスを川下から川上まで体験させてもらいました。その実務経験を現在の仕事に重ねると、思うことは少なくありません。

今日は、分譲マンション事業に寄り添って生きていた日々を整理しつつ、買い手の立場でマンションの未来について考えてみました。

●社会資本としてのマンション

マンションは、建てたら好むと好まざるに関わらず100年は残ってしまう可能性のある建物です。街の風景の1ピースとして長く存在し続けるのです。

つまり、マンションの所有者は区画ごとに個人が別々に所有する私有物ではあっても、全体として見ると街の景観を形成する、いわば社会資本とも言うべき存在なのです。

マンションの開発に当たっては、この視点がとても重要なはずです。粗悪なものは、景観を壊さないまでも美しく豊かな表情をつくることには力を貸しません。

 

しかしながら、現実はどうでしょうか?マンション開発は、しばしば乱開発とも言わざるを得ない、単発型の建設が中心です。稀に一帯を広く開発した、いわゆる街づくりの一環としてのマンション建設もありますが、このような大型開発は極めて少ないのが実態です。 

●マンション事業の魅力と業界の栄枯盛衰

マンション事業は少ないスタッフ数で行い得る、効率の良いビジネスと誤解されている節がありました。

というのも、土地を買う資金力さえあれば、設計は設計事務所に、建設はゼネコンに、販売は広告代理店と販社に委託すれば、自社スタッフを多数抱え込む必要はないと考えられていた時代があったからです。

 

販売が順調に進めば、投資効果の高い効率的なビジネスと誤解されていた節があり、その認識は長く続いていました。そのためか、儲かるビジネスとして、異業種からの参入が多数ありました。

今も残るマンションデベロッパーの中には、商社系、メーカー系、ハウスメーカー系など、不動産会社ではない企業が「儲かるビジネス」と捉えて参入した痕跡が多数見られます。

 

過去を遡ると、新規参入の反面、撤退もしくは倒産・消滅した企業も数えきれないほどです。マンション分譲は儲かるらしいと聞いて参入し、美味を知って繰り返してみたものの、やがて販売に行き詰まって損失を被ることになって撤退した企業は50や100ではないのです。

 

マイホームを欲しいと思っている人は多いはずだ、だから間違いなく需要はある。背景には家賃の高さがある。家賃は捨てるだけだが、マイホームのローン返済は資産形成になる。だから、必ず売れる。そう考える業界人は今も多いのです。

 

金利の低下や国の景気対策の一環としての「住宅取得促進策」によって一気に購買層が顕在化して「マイホームブーム・マンションブーム」が何度か到来しました

いわば時代背景が後押しする形で分譲マンションの歴史は刻まれて来たのですが、過去に何度もやってきては消滅したマンションブームを振り返るとき、マンション分譲業者の栄枯盛衰はブームの到来と消滅に密接な関係があることが分かるのです

 

詳細は割愛しますが、およそ50年の分譲マンションの歴史を紐解くと、浮かんでくるのは、既述のように資金力さえあれば関連する他社協力を得れば誰でも参入ができ、かつ容易に成功することができたビジネスでした。

東京だけではありませんが、家賃の高い大都市には潜在的なマイホーム需要が数多く眠っているため、購買力に見合う価格でニーズに合った商品を建設・供給できれば黙ってても売れるという時期もあったのです。

 

しかし、高額な商品ゆえに、購買力を見極めながらの開発が肝要でした。

歴史を重ねるうちに、購買力をはみ出した価格で供給したときは、売れ残りを出し、経営の屋台骨を揺るがしかねない事態に直面することを知ったのです。

マンション不況が何度も到来し、「市場分析力」と「企業体力」のある企業だけが生き残って今日に至っています。

 

つまり、資金さえあれば他社依存で大きな売り上げと利益を取ることができるという甘いビジネスではないということが分かって来たのです。何度目かのマンション不況を経た2010年初頭、いわゆるリーマンショック後の世界不況時には全国で多数のマンションデベロッパーが倒産・消滅しました。

残ったのは、財閥系や鉄道会社系、商社系、大手ハウスメーカー系など、歴史ある大企業グループが大半です。体力の弱い独立系の不動産開発会社は大幅に減ってしまいました。

●新築マンションの供給減少

最近10年ほどを振り返ってみましょう。特筆できるのは、新築マンション市場が大きく縮小したことです。売出し戸数を見ると、3万戸前後と2000年初頭の7万戸・8万戸に比べて半分以下になってしまいました(2019年はとうとう3万戸割れ)。

供給戸数が減ったのは、売れ行きが悪いために供給(発売)戸数を絞り込んでいるという一面もあるのですが、それだけでは説明不十分です。実は、商品化したくても肝心の用地が入手できないという事情が大きいのです。

 

マンション用地は老朽化したオフィスビルや賃貸マンション、倉庫、工場、学校、社宅などが売却された中から取得するのが普通です。マンション用地は一定規模以上の広さがなければなりませんから、所有者は殆ど法人です。

かつて、土地は持ったら手放さないのが企業経営の金科玉条のように唱えられた時代があり、売買金額の高い都心の土地や規模の大きな土地は有効活用を考えることはあっても、売却する選択肢はないと言われたことがあったのです。土地保有は企業の錬金術のひとつでした。

 

ところが、1990年代に入ると、バブル経済の崩壊によって土地を手放す企業・法人が続出しました。

安く買った土地の価格が高騰すると、そこに簿価と時価との差が生まれ、所有者は多額の含み資産を持つこととなります。これが企業の錬金術につながったのですが、バブル経済崩壊後は含み損を抱えることとなり、企業会計の観点でも土地を持ち続けることのメリットはなくなりました。

 

そうして、かつては垂涎の土地と思われた優良な物件までが多数市場に放出されることとなりました。1995年頃から2005年頃のことです。バブル期に用地がなくマンション開発を断念していたデベロッパーは、このときとばかりに売地を次々に取得しました。そうしてかつてないマンションブームがやって来たのです。

 

マンション開発は、平均して2年の時間を要しますから、新築マンションの発売というベースで言えば、2000年頃から2005年頃にかけて多数の新築マンションが売り出されることとなりました。このころ、史上最高の発売戸数を記録することとなったのです。

2000年:9万千戸、2001年:8万9千戸、2002年:8万8千戸、2003年:8万3千戸、2004年:8万5千戸、2005年:8万4千戸

 

こんなにたくさん売り出して売り切れるのかという心配する声もあったのですが、バブル期の高値から買えなかった人たちが大量に待機・滞留していたため、問題なく売れて行き、マンション業者はわが世の春を謳歌したのでした。

 

しかし、この花見酒は長続きしませんでした。需要がなくなってしまったわけではなく、再び価格が高騰したためでした。その後の10年余は、間にリーマン不況が来たこともあって、再び冬の時代を迎えることになりました。

ところが、リーマン後の不況は思いのほか早く終息し、再び売れ行きが好転しました。ただし、それも長くは続きません。再再度の価格高騰が発生したためです。2016年初頭から新築マンションの売れ行きは低迷し、2020年5月現在の今はコロナ禍の追い打ちによって一段と売れ行きは悪化しているのです。

 

売れ行きが悪ければ、新規の売出しも思いとどまることとなります。今でもマンション需要は間違いなく存在するのですが、価格高騰のために購入を見送る層を増やしてしまったところにコロナ禍が来てしまいました。「泣きっ面に蜂だ」と、ある業界関係者はつぶやきました。

新築マンションの供給は、しばらく停滞が続くことになりそうです。無論、そもそも用地難が解決したわけではないので、コロナ不安が解消したのちも大幅に新規供給が増える見込みはないのですが。

●マンションと個人資産の関係

 マンションを買う・持つという行為の動機は何でしょうか?

 家賃が高いという東京圏の事情が背景にあり、「どぶに捨てるだけ」という思いが根底にあります。家賃は家主を喜ばせるだけで、借り手のメリットは少ないという思いがマイホームを持とうという動機につながっているのです。

 

 賃貸マンションは、狭く、設備も良くない上に、家賃がとても高いという思いが持ち家、分譲マンションの購入へ向かわせていると分析できます。

 

 家賃はどれだけ支払い続けてもメリット多くありませんが、マイホームは例え100%の借入れで買っても、いつかは半分に減り、最後は無借金の資産として残ります。

 残余の資産が5000万円か3000万円かの差はあるもの、ゼロやマイナスになることはあるまい。そう信じて購入へ踏み切るのです。

 

言い換えると、毎月のローン返済はある種の積立貯金をするのと同じ、そう買い手は気付きます。無論、金利という捨てるだけの部分もありますが、近年は低金利が続き、その累積額も僅かです。言い換えれば、毎月のローン返済の大半が元金返済に回り、貯蓄が積み上がって行くのです。

 

また、選んだ物件によっては売却によって多額の現金を手にすることができるという事実も何らかの方法で知ります。たとえ、住宅ローンが完済していなくても売却は可能なこと、一定以上の価格で買い手が付けばローンの残債を精算し、かつ仲介手数料などを払っても多額の現金を手にすることができる。このことを多くの人が知りました。

マイホーム、なかんずく立地の良いマンションならば、「住みながら儲ける」ということが可能なのです。

●誇れる我が家であってほしい

資産性について先に述べましたが、本来マイホームは資産性より住まいとしての快適性に重きを置くべきなのでしょう。

多くのマイホーム所有者は、一定の広さがあって、通勤にも便利で、良い環境のもとで日常生活が送れるようなものを望みます。そのうえ、できたら誇れる家であってほしいと考える人も少なくないのです。

筆者も神奈川県と東京都で長年暮らして来ましたが、遠距離かつ大混雑の通勤地獄も経験しましたし、都区内に住み、一時バス通勤の意外な便利さも味わいました。しかし、いずれも賃貸(社宅)マンションでした。その後、転勤で地方暮らしして少し遠回りをしたものの、東京に戻ったときマイホームを持つこととしました。

「紺屋の白袴ではならぬ」からではなく、別の動機でしたが、ともかく今では信じられない高利の住宅ローンを借りてマンションを買ったのです。狭いながら、駅まで徒歩1分の便利さが魅力でした。言い換えれば、「駅前」が自慢の我が家だったのです。

その後、何回かの転居を経て現在に至っていますが、いずれの住まいも筆者なりの思い入れがありました。ここでそれを開陳はしませんが、密かな誇りを持てる住まいでした。

誇りは愛着につながり、愛着は管理意識の高まりとなるというと少し大仰ですが、家族みんなで大切に使い住んで来た経験から「家の価値は自分で守ることも可能」という揺るぎない信念にもなっています。

どういうことかというと、譲渡時に「リフォームなしで住める」と買ってくれた人が喜んでくれた声を聞いているからです。

 

ついでに補足しておきますが、筆者は新築マンションでも一部を改造して住みましたが、これが次の買い手に喜ばれて希望価格で買ってもらったという経験につながっています。無論、特殊な形態や間仕切り、インテリアにしたわけではなく、個性的ではあるものの、多くの買い手に喜ばれる改造だったからです。

改造も誇れる要素でした。住まいは誇りを持てるものでありたいと考えます。もっと言えば、密かな自慢というべき要素がある方が良いと思うのです。

 

●空き家が増えている。それでも新築は必要?

 今後も新築マンションは多数供給されるのでしょうか?この疑問に答えます。

 

 世帯数を超える住宅の戸数が現存しています。東京圏も例外ではありません。つまり、今は「家余り時代」と言って過言ではないのです。にも拘わらず、減ったとはいえ、新築マンションを多数建設し続けるのはなぜでしょうか?

 

 「賃貸マンションの質が低く、その割に賃料が高いから、質の高い分譲マンションを低い負担で所有できるなら、その方が賢明だ」・・・このように考える人が多いため、賃貸から所有を選択する人が現れます。

その際、選ぶのは新築・中古どちらでもよいのでは?そんな気もしますが、どうせ買うなら中古より新築がいい。そう考える人が多いのでしょう。 圧倒的に新築志向の買い手が多いのです。

 

 直近では中古でも構わないという声も増えていますが、「適当な新築マンションがないから」とも聞きます。

 原因や背景はともあれ、賃貸は中古を選ぶのが普通で、持ち家なら新築にしたいという人が多いのも事実です。新築以外は考えられないと語る人にもたまにお会いしますが、最近はこだわらないと言う人が増えている。筆者は、そう実感しています。

 

●個人資産としてのマンション選び

  新築であれ、中古であれ、マンション購入を考えるとき大事な要素は何でしょうか?以下は、通勤の便や生活環境などを別としたとき、選ぶべきマンションの条件について述べたものです。

 言い換えると、個人資産というモノサシでマイホーム(マンション)を考えたとき、選ぶべき物件の在り方について筆者の考えを短く整理したものです。

 

 永住するつもりで買いたいという人もありますが、その人でも、いざというときの売却を想定している人は多いようです。永住するつもりであっても、現実はそうならないのが世の中であり、人生である、そう言って過言ではありません。筆者はそう思います。

 

 買った家は売らなければ損も得もないわけですし、企業のように持ちビル等を担保に資金調達するなどというのは個人に無縁な世界ですから、担保価値などという視点も無用なのかもしれません。

 居住中の我が家の売却価値が1億円になっても、そこに住み続ける限り、固定資産税が高くなるだけのことで、その負担増を苦々しいと語っていた人を思い出します。

 

 一方、永住するつもりという人に偶にお目にかかりますが、そんな人でも何が起こるか分からないので、換金価値は軽視できないと語っています。

 筆者は、自分の経験から人生には想定外のことが起こるのが当然と思うようになりました。そして、自宅はいざというときの助けになるという信念のようなものがあるのです。

 

 今の住宅ローン金利はただみたいなもの。35年ローンを組んでも、10年も払い続けると元金は40%も減ってしまう。仮に、100%ローンを使って買った場合でも、10年後の売却額が購入額と同じだったら、手元に残る現金は購入額の40%と多額です。

 

 高金利時代には考えられなかった現象です。ただし、買った家が何年か住んで中古になったときに買った金額以上で売れるのでしょうか?確かに、中古は例外もありますが新築より安い価格で取引されていますから、このような疑問を持つのも無理はありません。

 

 ところが、安値の中古も購入価格との比較では高くなったものが少なくないのです。筆者のところには、連日「評価レポート」の申し込みが届きますが、その調査過程で分譲時の価格を知る機会があります。そのとき、「随分高くなったものだ」や「年数を重ねてもこんなに高いのか」という実態を知ります。

 

 驚くことはないものの、歴史をさかのぼるのは感慨深いものです。反面、物件格差を数字で知る機会が多いので、残念な物件に遭遇して暗澹たる気分に落ち込むことも少なくありません。 

 マンションの資産性を語るとき、その高低幅は実に大きく、「こういうマンションは選ばない方がよいのだが・・・」と思いつつ、その気分を抑えつつレポートを書くのがつらいのです。

 

次に、マンション選びにおいて、資産性を重んじるなら次の点に注意すべきという筆者の変わらぬ理論・信条をお話ししましょう。

 

マンション購入にあたっては、将来リセールするときの価値を購入時に想定する、若しくは考慮しておくということが大事です。いつなんどき、売却の必要が生じるか分からないからです。そのとき、できるだけスムーズに、高く売りたいと考えるのが普通の感覚ですし、少しでも価値の保存ができる物件を望まない人はいません。

 

将来価値を決定する要素は、①立地条件(利便性と環境)、②スケール(存在感)、③外観・玄関・空間デザイン、④建物プラン(共用施設、間取り、内装や設備など)、➄ブランド、⑥管理体制です。

 

この中で一番比重が高いのは①の立地条件です。立地さえ良ければ建物は何でもいいという単純なものではないのですが、大きな要素であることは確かです。逆に、どんなに素晴らしい建物でも立地条件の悪さを補うことはできません。

 

また、稀少価値の高い土地かどうかの観点で検討することも大事です。そして、最も大事な要素は「価格」です。価値に見合わない高値で購入(高値掴み)すれば、将来価格は期待外れになるからです。

 

●最後に・・・「理想を追って現実とのギャップに悩む人もある」

  マイホームは住んで快適かどうかを第一義とすべきです。筆者も何度か買い替えをしましたが、そのときの事情や背景を思いおこすと、理想とおりには行かなかったものの、家族第一主義だったことに気付きます。

 幸いにしてマンション業界に在籍し長く市場の変遷を見て来たため、自分なりに悪くない選択をして来たという自負があります。

 

 しかし、そう言いながらも「やむを得ない選択」をした経験もあるのです。無論、後悔は微塵もありません。なぜなら、やむを得ない選択が家族の幸福につながっていたからです。

 

 マンション選びに悩む人は少なくありませんが、資産性を意識する人は市場の動き、なかんずく売買価格の動向、しかも将来の予測が課題となるはずです。しかし、その解答を得るのは難しいはずです。

そんなとき、筆者の分析所見がお役に立つはずです。どうぞお気軽にご相談ください。

 

・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらからhttp://www.syuppanservice.com

 

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