第740回「コストカットマンションばかりの新築に呆れる」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論「マンションの資産価値論」を展開しております。10日おきの投稿です。

新築マンションの供給が中々増えません。価格も相変わらず高いようで、2020年は前年比5.5%高(首都圏全体)、23区だけでは11%高と異常なほどの数値が民間調査機関から発表されました。   実は、2019年のデータでは、前年比で23区はj僅かながらマイナスになったのですが、2020年は再び反転しました。高くなったにも関わらず、優良な物件は少なく、あっても異様に高いという実態にあるようです。

それでも新築にこだわり続ける買い手さんは多いようです。   筆者は、数年前から新築マンションのコストダウン(コストカット)について、度々コメントして来ましたが、改善の流れは見られません。用地費も高いし、建築費も下がる様子はないようで、デベロッパー各社も高値と知りながらも売り出さざるを得ないのでしょう。

  その理由や背景はさておき、筆者は新築マンションの価格高騰が招いた「コストカット物件」の増加を残念に思いつつ、買うなら築10年超えの物件が良いと主張して来ました。無論、何事も例外はありますが、昨今の新築マンションのコストカット策にはあきれるばかりです。   筆者が定期的に投稿している別のブログである「スムログ」の第99回に「コストダウン策」について書いたのですが、そちらのブログをお読みなっていない方もあると思いますので、本ブログでは新ためて整理をして掲載することにしました。  

●コストダウン策その1・・・設備・仕様の等級ダウン

◇スロップシンクの取り止め

・スロップシンクとは、バルコニーに設置する、運動靴などを洗う、雑巾を濯ぐなどに重宝な設備です。この採用を止めれば、水道工事もしなくて済みます。  

◇ディスポーザーの取り止め

・ディスポーザーは各住戸のシンクに設けた生ごみ粉砕機で、砕いた生ごみを専用配管で地下に設けた専用の浄化槽に流し、バクテリアに食べさせるという方式の優れものです。これを止めれば、粉砕装置だけでなく、専用の排水管も地下の浄化槽もいらなくなるので、数千万円から数億円のコストカットができるのです。

  ◇手洗いカウンターの取り止め

トイレには、必ず手洗い装置があります。従来は便器のバック部分にある水槽の上に手洗い用水栓を設けていましたが、いつ頃からか、便器はタンクレスもしくはタンクが便器の高さと変わらない低いタイプのスマートなものに変わり、その採用と同時に手洗い器を壁際に設ける形になりました。・・・・   これを止めれば、2本必要な水道管が1本で済みますし、手洗いカウンターも要らないのでコストカット効果は低くありません。  

◇床暖房の取り止め

その昔、床暖房はランニングコストが高いからと評判が悪く、採用マンションは少なかったのですが、今は大半のマンションに採用されています。床暖房は温水を通す細いパイプがフローリングの下に張り巡らされているのですが、これを止めれば設備代金だけでなく工事費もカットできるわけです。  

◇複層ガラスの取り止め

複層ガラスは、結露防止になる、冷暖房効果を高めるといったメリットから近年採用マンションが随分増えました。2枚のガラスの内部にLow-eと呼ばれる金属膜を張り付けたタイプと、乾燥空気だけのタイプとありますが、どちらにしても1枚ガラスよりは高いので、これを止めてしまえばコストカット効果はあるわけです。  

●コストダウン策その2・・・エレベーターの台数を減らす

エレベーターはマンショの戸数によって、また階数によって必要台数が経験則的に決まっています。14階建ての高層マンションで120戸くらいの規模であれば、2基が標準とされます。3階建てで100戸のマンションなら1基で間に合います。

何故なら利用者数は2階の半分と3階の人たちだけなので、実質50戸のマンションと言ってよいからです。   反対に、超高層マンションで300戸とかになれば、3基でも足りないので、非常用エレベーター(法律で義務化)も利用するでしょうが、それでも朝は満員通過で5分も待たされるということがあるかもしれません。   5基欲しいところを4基にしたり、4基を3基に削減したりすれば、コストカット効果は間違いなくあるわけです。  

●コストダウン策その3・・・鉄骨階段にする

マンションの外階段に注目する購入者は少ないと思うのですが、コンクリート製より、工場生産の鉄骨をトラックで現場に運び込み、コンクリートの外壁や開放廊下に取り付ける工事の方が安上がりです。   しかし、鉄骨階段は塗装を繰り返す頻度がコンクリート製より多いこと、非常階段を上り下りすると音が響くといった弊害があるのですが、コストダウンのために採用しているマンションは少なくありません。  

●コストダウン策その4・・・駐車場を平面式にする

平面駐車場は立体駐車場より使いやすいわけですし、メンテナンスの必要ドも低いので、その方が良いのですが、平面で置けるスペースが狭いからこそ機械式にしているのです。つまり、それだけ台数が少ないので、買い手は近所で駐車場を探す必要が出て来ます。   大規模マンションでは、平面式だけで駐車場を戸数分用意したというのがありますが、その代わり、緑地スペースが少ないのです。

子供が駆け回るようなスペースも狭く、付加価値の低いマンションになっています。   平面式マンションは必ずしも優れているわけではなく、コストカット優先の結果であるマンションかもしれません。もっとも、昨今は自家用車を持たない家庭も多く、駐車場の設置率は低くなっていますが・・・  

●コストダウン策その5・・・直貼り構造にする

昔のマンションはバリアフリーではありませんでした。例えば、室内の廊下より洗面所側の床が高くなっていました。高くした床の下を排水管などの横引き管を通す必要があったからです。

玄関の靴脱ぎ(たたき)と廊下の間にも段差がありましたし、廊下とリビング間にも僅かながら段差があったと記憶しています。   これらが「バリアフリー運動」の中で拒絶され、次第に消えて行ったのです。

最近の新築マンションは例外なくバリアフリーです。簡単に言えば、コンクリート面の上に支えとなる脚を何本も立てて、その上に床材を置く形(浮き床と言ったり、二重床構造と呼んだりします)にして空間を設ければ、そこを給水管、ガス管などを通すことができ、かつバリアフリーも実現できます。

  二重床にすると、脚の長さだけ天井が低くなってしまいます。天井の低い家は居住性が悪いので、一定の高さを保つには、二重天井をやめて直張りの天井にしなければなりません。しかし、天井は電気配線の都合と遮音のためにも必須です。そこで、階高(上下階のコンクリート面までの長さ)そのものを上げる必要が出て来ます。  

リビングルームの天井高を2500ミリ確保するには、階高は3000ミリが必須でした。直床にすれば、2800ミリでも天井高2500ミリを確保できます。   階高を高く取ると、その分コンクリートの量は増えます。また、建築物には「高さの制限」があるので、階高を伸ばすと15階を建てられるはずが14階で止めなければならなくなったりするのです。

簡単に言えば、100戸建てたいところ、階高を伸ばすことで90戸しか建てられないことになったりします。   1戸当たりの土地代は90戸より100戸の方が安くなるわけですから、デベロッパーは100戸建つように工夫します。 しかしながら、階高を高くすればコンクリートの量は階高の低いマンションより多くなって、コストアップは避けられません。  

建築費の上昇がマンション価格の高騰につながった過程で、販売不振を恐れるデベロッパーは、コストダウンに懸命に取り組みました。

しかし、マンションの質は下げにくいところがあります。豪華でなくてもいいが、ユーザーニーズに応えて行かなければならないと考えるためです。先述の「バリアフリー」もそのひとつです。・・・  コストダウンが建物のグレードダウンとすぐ分かるような形にはできないので、シンプル設計を取り入れながら機能は一定レベルをキープするといった方法を選択したりします。  

目に見えないところで、材料を汎用品にしたり、ある部分の厚みを最低レベルにしたりしつつ、モデルルームの見映えはさほど変わらないような商品に仕上げる方法を採用しています。極端には、オプション品(実は別途料金)でごまかすといった窮余の策を講じるケースも散見されます。

  今のマンションは例外なく「バリアフリー」になっています。直床構造でも、バリアフリーにできるのですが、その方法はこうです。コンクリ―トスラブ自体に段差を設け、下げた部分の空間に配管を通せば可能になるのです。

  さて、直床構造は生活していくうえで何ら支障はありません。バリアフリーですし、一部天井が低いといっても水回りだけなので、さほど暮らしにくいといったこともありません。階下への遮音対策も特殊なフローリング材を敷くことで解決できるのです。では、何が問題なのでしょうか?それを次で説明しましょう。  

<直床構造の問題点は?>

購入後、何年かして、リフォームしようかというとき、コンクリートスラブに段差があるため、水回り位置がある程度固定されてしまうという問題が直床構造の欠点です。大胆な間仕切り変更ができないというだけのことです。

  従って、一般ニーズから見て、直床が問題になることは殆どないと言って過言ではありません。リフォーム・リノベーションの市場が大きくなっていますが、直床がネックで中古マンションの値段が下がったという話は聞いたことがありませんし、今後も資産価値(売却価格)に大きな影響を与えることはないと思います。

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資産価値を左右するのは別の要素です。直床は枝葉末節の要素に過ぎないのです。しかし、高級マンションではあり得ない構造であることも確かです。 直床構造は、「廉価版マンションの象徴」とも見なされています。背景には2011年の東日本大震災以降に大きく変わったゼネコン業界の情勢があります。建築費が高騰したため、コストダウンの策のひとつとして採用が増えたからです。  

●コストダウン策その6・・・間取りプランのシンプル化

◇田の字型間取り 筆者が運営する「三井健太の名作間取り選」https://mituimadori.blogspot.com には、極めて個性的で魅力的な間取りを多数載せていますが、このサイトを立ち上げた本当の理由は、デベロッパー各社にものつくり(間取りづくり)の情熱を思い起こしてほしいためでした。  

何故なら、最近の間取りはみなワンパターンで「つまらない」からです。しかし、田の字型の間取りはシンプルでコストダウンにはもってこいなのです。  

◇洗濯機置き場の囲いの取り止め

欧米ではキッチンの横に洗濯機が置いてある形が普通なのだそうです。キッチンの天板(ワークトップ)と同じ高さの端の方にドラム式の洗濯機を組み込んだ室内写真は昔から何度も見たことがありました。

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日本では食べ物を扱うキッチンと汚れものを扱う洗濯機置き場が同じ所にあるというのは受け入れてもらえず、あまり普及しませんでした。そして誕生したのが、キッチンから廊下を経由せずに洗面室に行けるようにして、そこに置いた洗濯機を回す動線にした形、すなわち「キッチン・洗面所直結間取り」です。

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ところで、そもそも洗面所になぜ洗濯機があるのでしょうか?洗濯機置き場の周辺は汚れものだけでなく、洗剤やら何やら雑然としています。言い換えれば、生活感がにじみ出る場所です。美しい光景ではないはずです。 それでも風呂に入るとき、脱いだ下着を洗濯機の中に放り込む利便性があって良いではないか、そんな考え方から洗面所の中に置かれているわけです。

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一時、お洒落空間の洗面所と、雑然としがちな洗濯機置き場は分けた方がいいだろうと、洗面所の中で「洗濯機置き場」を区分する発想が生まれました。 高級マンションでは、今も洗濯置き場は扉をつけて見えないようにしていますし、そこまでしない場合でも、袖壁を設けて洗濯関連のグッズを収納する物入や棚を洗面台から区分するのが定番です。  

そんな配慮は全くなく、洗面脱衣室のどこかに洗濯パンを設置しただけの間取りも少なくない現況は、とても残念に思います。

  ◇エアコン室外機置場の露出置き

読者の皆さんは、新築マンションのモデルルームを見学するとき、エアコンの室外機がどこに置かれるかという関心をお持ちになったことがあるでしょうか?最近の新築マンションは、写真のような形になってしまうものが多いことをお気づきでしょうか?  

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  このようなエアコンの室外機が露出のマンションにがっかりします。以前は、室外機を出窓の下に置いて格子戸で囲うという配慮が普通にあったものです。室外機が醜いものとは言えないとはいえ、裸でぽんと置かれている形にデザイン的な配慮は全く感じられません。  

次善の策は花台を出窓ふうに張り出させ、その下を室外機置場としたものですが、これすらも止めてしまったのは残念でなリません。  

◇アルコーブの取り止め

アルコーブ(alcove)とは、欧州で部屋や廊下など壁面の一部を少し後退させて造る窪みや空間の意味で使っている言葉ですが、これを日本人設計家がマンションの共用廊下から少し引っ込んだ玄関前の部分を指す言葉として使い始め定着したのです。  

アルコーブと似たような住宅用語に「玄関ポーチ」があります。これは、建物の玄関前、壁から突き出た庇(ひさし)のある入口スペースを指します。雨が降った日に傘を持って玄関を出入りするとき、雨に濡れずに済むという機能があります。  

一戸建ての外観デザインを左右するポイントのひとつでもあるのですが、マンションの住戸にも門扉と玄関ポーチのついたタイプが見られます。戸建て感覚のプランで、ベビーカーなどを置くことも可能であるといった実用性のある、外部の専用空間です。

・・・アルコーブとポーチの違いは、アルコーブが玄関扉の幅か、少し広い程度の窪みのスペースであるのに対し、ポーチは住戸スパン全部くらいの広い玄関前スペースで、角住戸には門扉を設けてポーチとし、プライバシーの確保に努めたものもあります。

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さて、木造アパートや古い賃貸マンションを想像してみて下さい。端から廊下を斜めに見ると、同じ大きさ・色・デザインの玄関扉がずらりと並んでいますね。これを筆者は「のっぺり顔」と言っているのですが、分譲マンションでは凹凸を設けることで、「彫の深い顔」を狙うのが普通です。

アルコーブを深く取れば、各戸の扉は見えにくくなります。 その方が賃貸マンションとの差別化になり、憧れのマイホームらしくなるからです。ここがわが家だ。これが顔だというものが商品価値を高めることに役立ったのです。   アルコーブは、玄関扉を開けた瞬間、外出を喜ぶ元気な子供が走って来て、たまたま開けた瞬間の扉に衝突するといった事故を避けられるという機能も持つに至ったのです。  

そのアルコーブさえも最近のマンションの一部でなくなってしまいmした。アルコーブ取り止めの理由は、コストダウンのためです。マンション全体にも言えるのですが、凹凸を設けるより、一本の直線にした方が施工上の手間もかかりませんし、コンクリートの量も減るからです。

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大きなコストカット策を使い切ったあとは、細かな部分を削って「ちりも積もれば山」式に積み上げながらコストを圧縮するのがマンションメーカー日常茶飯事の作業でもあるのです。

  「ディスポーザーを止めよう」は、コストダウン効果が高いですし、天井高を下げれば、その分でコンクリート使用量が減り、それに付随して直貼りの床になるので、これも効果は極めて大きいのです。また、エレベーターを1基減らすと、エレベーターの機械は1000万円に過ぎなくても、エレベーターシャフトの施工費とコンクリートが要らなくなるので、トータルでは2000万円をカットでき、これまた効果が大です

こうしたコストダウン策は設計段階から取り組むものですが、設計が終了し、ゼネコンとのネゴシエーション段階に入り、予算とのギャップを埋めきれないときは妥協策として設備・仕様の見直しを行います。例えば、キッチンのワークトップを天然石から人工大理石に変更、玄関の踏み込み部分を天然石からタイルに変更、複層ガラスを一枚ガラスにといった、スペックのダウンをして行くのです。  

●買ったあとでグレードアップ可能なものもあるが

コストカットマンション、コストダウンマンションを承知で購入する人も少なくないでしょう。何故なら、何もかも揃ったマンション、条件を100%満たすマンションはないのですし、「××部分は気にいらないが、眺望が良いから買う」「●●は好かんが、駅から近くて便利だから買う」といったふうに割り切って買うしかないのですが、妥協してはならない点もあるのです。  

無視していいのは、室内スペックです。何故なら長く住むならどこかで自分の好きなスペックにリフォームできるからです。といっても、「ディスポーザー」や「スロップシンク」などは後付けできないですが・・・

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無論、リフォームにはお金がかります。気に入らないから後で変えようとしたら、きっと数百万円もかかってしまうかもしれません。   窓ガラスや玄関扉を交換することはできませんし、廊下のエアコン室外機に囲いをつけるなどということもできません。

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筆者は、マンション選びのポイントは何かと問われると、あくまで個人の事情を抜きにした場合ですが、「マンションは街を買う。次にマンション全体を買う。最後は住戸を買う。このような優先順位で考えるべきです」と答えます。   言い換えると、どのくらい人気のある街なのか、そのマンションは地域一番でないとしても、上位にランクされるレベルかどうか、その住戸がマンション内でどのくらい価値あるものか・・・こうした視点を外さないことが重要です。  

コストカットマンションでも立地条件がすこぶる良ければ、また規模が大きく地域一番の存在感があれば、価値あるマンションであるかもしれません。  

・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談のお申込みはこちらからhttp://www.syuppanservice.com

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