駐車場の少ないマンションの価値
- 2012.07.05
- マンションの資産価値
ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
若者のクルマ離れという現象は、自動車産業にとって頭の痛い話らしいですが、そのことにも関係があるのでしょうか、最近の東京都区内のマンションには平均価格が7000万円、8000万円もする高級マンション(?)ですら、駐車場が少なくなっています。
駐車場比率の低いマンションの価値について考えてみました。
●高級マンションでも100%ではない東京の現実
2010年4月に最後の1棟(F、G棟)が竣工した三井不動産レジデンシャルの開発による杉並区の低層・高級マンション群「パークシティ浜田山」。価格は88.43㎡~137.49㎡で9500万円~1億6500万円(現在分譲中の残6戸)とあるので、坪単価は354万円から396万円の高額物件です。そんなマンションの駐車場ですら、全522戸に対して350台(料金2万3000円~3万2000円/月、機械式228台・平面122台)しかありません。住戸数に対して67%です。
それでも居住者には不便がないと聞きます。つまり、クルマを持たない家庭が33%以上もあるというのです。
●東京の世帯あたりマイカー普及率は低い
マンションの多くは、敷地内の駐車スペースを確保するために、地下を利用したり、機械式駐車場を設置したりと工夫を凝らしています。平面だけでは限りがあるためです。
しかし、地下駐車場はコストが高いために高級マンションでしか採用されません。地下を掘ることに比べると安いのが機械式駐車場です。それでもコストは嵩みますから、可能であれば平面でまかないたいと考えます。
では、どのくらい容易すれば需要に応えられるのでしょうか?マンションメーカー各社は、経験則も含めて、その研究に余念がありません。
日本のマイカー普及率を見てみると、1975年以降、漸次増加して来ましたが、1996年には初めて世帯当たり普及台数で1.00(一家に一台)に達しています。
その後は景気後退局面もあり、保有台数・世帯当たり普及台数の伸びは鈍化しています。注目すべきは2000年あたりからで、保有台数・世帯当たり普及台数の伸びの鈍化は著しく、特に普及台数については2007年に初めて前年比マイナスを記録したのです。
直近の2010年においては総数がやや増加したものの、それ以上に核家族化・一人暮らし世帯の増加により世帯数が増え、結果として一世帯あたりの普及台数は減少する結果となっているのです。
これらの動向は特に都心部における若年層の新車離れ、不景気下における可処分所得の減少、社会文化の変化などが主要因として挙げられています。
ともあれ、マイカー普及率は地方都市ほど高く、1世帯あたり1台以上の都道府県は42もありますが、大都市は低く、東京都は0.484台(平成23年末)に過ぎません。これに次ぐ大阪府も0.6774台、神奈川県0.754台、京都府0.86台などとなっています。
大都市の都心部では渋滞や駐車場の確保難という問題があることに加え、公共交通の発達などでマイカーは要らないと考える世帯が多いことが窺われます。東京都心などは、駐車場の使用料が特に高いことも要因として挙げられます。
マンション開発に当たっては、これらのデータから、また地域の事情などを考慮し、かつ既存マンションにおける利用状況を、管理会社を通じて調査することによって得た数値などから、駐車場の必要台数を弾き出しています。
その結果が、冒頭で紹介した高級マンションでも100%は不要という計画を導いているのでしょう。
●持たざる贅沢という世相がクルマ離れの背景か?
ところで、全国的な傾向である「若者のクルマ離れ」の原因はどのようなところにあるのでしょうか?
以下は、自動車業界に詳しい知人の話です。
・・・・・・「持たない贅沢」という書物を読み、はっと気づいたことがあります。持たないことは贅沢であり、とても豊かな時間を人々にもたらしてくれることを。
私は現在賃貸住宅に住んでいますが、持ち家が欲しくなる年頃(知人は20代後半)でもあります。何度か分譲マンションや土地を見に行ってしまったこともあるくらいです。
しかし、そのたびに「持つべきか、一生賃貸住宅暮らしを続けるべきか」という、お決まりの問いかけに答えを導き出せず、断念してしまうのです。
内閣府の調査などによれば、住宅を保有したい人の割合は約80%だそうで、日本人の持ち家志向は根強いものがあるようです。やはり、住まいだけは人生のプラットフォームとして安心感のある所有を望むということなのでしょう。
詳細の調査データがないので、正確なことは分からないのですが、若年層ほど持ち家願望が低くなる傾向をみせていることは間違いないようで、ここにも最近のワカモノの「欲しがらない」傾向が現れているようです。
『欲しがらない若者たち(山岡拓・著/日経新聞出版社09年12月発行)』によれば、「最近の若者の消費動向への見方を集約すると、車に乗らない、ブランド服も欲しくない、スポーツしない、酒は飲まない、旅行しない、恋愛には淡白、貯金だけが増えていく」となります。
更に、「車はいらないという若者たちに、その理由を聞くと、多くの場合、なぜ必要なのかと問い返される。どこかに行きたければ電車でもいいではないかと言うのだ。彼らは、レジャーとしてのドライブにも魅力を感じない。高性能のスポーツカー、金銭的余裕を誇示できる高級車、アウトドアに使えるSUVやオフロード四駆(中略)・・・要するに欲しくないのである(中略)80年代の極めて高度な日本型消費社会に生まれた彼らの周囲にはいつもモノがあふれ(中略)その飽和の中で育った世代が差異表示のための消費をしなくなり、従来の消費社会を超えていく尖兵となっている」
・・・・このような知人の分析は、若者がマンションを購入する年代になったときの駐車場ニーズの低さを暗示しているとは言えないでしょうか?
●カーシェアリングの普及も原因か?
このような若者の消費傾向は、買わない、持たないというものですが、そうであれば、必要なときに必要なものを提供するサービスが生まれるのは自然の流れというものです。
若者だけを対象にしたわけではありませんが、必要なときに必要なものを提供するサービスで真っ先に思いつくのが、カーシェアリングです。
カーシェアリング(Car sharing)とは、会員間で特定の自動車を共同使用するサービス、ないしは、システムのこと。レンタカーと類似しますが、一般にレンタカーよりも短期間の利用を想定しているものです。
レンタカーは不特定多数が利用するシステムですが、カーシェアリングは通常、予め登録した会員だけに対して自動車を貸し出します。日本では1日単位で利用するのではなく、利用時間の単位が15分から1日単位まで短時間の利用を目的としているものです。発祥はスイスですが、その後、アメリカや日本に広まったようです。
メリットはコストが低いことにあります。自動車を所有したとしても、実際に使用するのはせいぜい1日数時間程度にとどまり、稼働率が低い。その割には、取得価格が高いほか、税金、駐車場代(特に東京は高額)、保険、車検、整備費用等、固定の維持費がかかります。
自動車を複数人で使用することで、これらの固定費を分散することができます。つまり、カーシェアリングの運営会社が高い駐車料金をはじめとして、すべてのコストを負担する代わりに、利用者は利用料を利用時間などに応じて支払う仕組みにすれば、利用者の負担は低減できるのです。
利用者は必要なときに、一定金額を支払って利用することになるため、車を財産・資産として所有するのではなく、経費としてとらえることになります。さらに、日本では公共交通機関網が張り巡らされているため、利用のつど、鉄道、バス、タクシー等と組み合わせて自動車をシェアすれば、コストも低く抑えられるとともに合理的な暮らしが可能になります。
マンション住人だけを会員としたカーシェアリングシステムは既に登場しており、導入するマンションが増えて来ました。どのくらいの利用者がいて、稼働率はどうかなどの公表データはまだないものの、いずれ定着するのではないかと予想します。
カーシェアリングが普及すれば、マンションに設置する駐車場スペースも最小限で良いことになります。
●珍しい100%確保マンションの登場
マンション建設に当たっては、世帯あたりのマイカー普及率やカーシェアリング用の駐車スペースなどの必要割合が予想できても、それを満たす台数が確保できるとは限りません。
敷地のゆとりの問題、コストの問題が大きな障害になって来るからです。例え半分が必要と予測していても、確保したのは20%だけといったマンションが多い、それが実態です。
そんな中で、珍しく住友不動産が都区内で100%を確保している物件を販売しています。
「シティテラス板橋蓮根(2012年3月竣工済み)」という全350戸の大型マンションで、自走式の駐車場棟を設置し、駐車場棟の最上階以外の259台分が屋根付きの形になっているという恵まれた条件です。
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「こんなに造って大丈夫なの」と余計な心配をしている業界スズメもいるのだとか。
しかし、周辺の駐車場を借りるより自宅敷地内の駐車場の方が良いに決まっていますし、仮に周辺駐車場の使用料より安かったら(シティテラス板橋蓮根は月額300円~8,500円)、マンション購入をきっかけにマイカーを新たに取得する人が現われるかもしれませんね。
料金を周辺相場に合わせるマンションが多いですが、そうしなければならない理由はないのですから。
●1人乗り自動車の登場などで新たな需要も
都会では駐車場の確保が困難だから料金が高いわけで、マンションごとに多数の駐車場を確保し、料金も相場を大きく下回るものにしたら、マイカーを欲しがる人が増える可能性はないでしょうか?
潜在的なクルマ需要は、現実の駐車場設置率の20%や30%などより高いのではないかと思います。
今後は、一人乗りまたは二人乗りの超小型電気自動車も市場に出て来るようですから、新たな需要を生み出す可能性が高まって来るでしょう。
そうなると、マンションの駐車場設置率はもっと高くしなければならないでしょう。
しかし、その一方では既述のカーシェアリングシステムの普及やクルマ離れの世相が必要度を下げる予想もあります。
●売却の際に駐車場の空きがあれば有利
ここまでの考察で駐車場比率の問題に答えは出ませんでしたが、少なくとも以下のようなことは言えるのではないかと思います。
「購入した貴方のマンションの駐車場が順番待ち状態(不足気味)であれば、売却のために市場に出したとき、クルマ利用者は貴方のマンション購入をためらうであろう」ということです。
近隣に空き駐車場を探してもらうことになり、契約に漕ぎつけるのは骨が折れるかもしれません。その結果、価格を下げる必要が出てくるかもしれません。
このような懸念を思うと、冒頭に紹介した例の67%はともかく、50%以上は用意のある物件を買っておいた方が安全と言えそうです。
・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://mituikenta.web.fc2.com)までお気軽にどうぞ。
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