やっぱり値上がりした新築マンション。今後はどうなる?

ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

昨年発生した東日本大震災の影響でマンション工事費が高騰し、新築マンションの価格上昇を招くだろうと、直後に私は予想しました。

1年半前(2011年3月25日)のブログを振り返ってみます。

●建築費の上昇は必至と予測
今回の大地震の影響が、産業界の様々のところに出ていますが、分譲マンション業界にも心配される問題があります。それは、建築費の値上がりです。
原料炭や鉄鉱石の国際価格が値上がりしているところに、復興需要の発生で鋼材価格が今後ますます押し上げられると考えられますし、その他の住宅資材にしても品薄になるものが出てくる可能性があるからです。
(中略)
また、震災復興需要は、建築工事現場における人材確保競争が起こる懸念があります。それが人件費の高騰となって建築費上昇につながらなければいいのですが。
資材を供給するメーカーや資材商社、ゼネコンなどの努力によって、建築費が急騰しないことを、今は祈るしかありません。
(中略)
ところで、マンション事業者は、建築費が上昇したら、どのように対処するでしょうか?単純にコスト上昇分を分譲価格に上乗せするのでしょうか?
(中略)
多少の不安を持ちながらも、未着工物件に関しては、建築費上昇分を単純に上乗せして売り出します。すると、最初のうちは、それでも売れ行きが悪化することがなく、順調に販売が推移して行きます。その結果、事業者の不安は消えます。
先行する値上げ物件の結果を注視していた他の事業者も、好結果に気を良くし、こぞって追随します。しばらくの間、市場全体で好調が持続します。
しかし、やがて買い手は価格の高騰に気付き、様子見の態度に転じます。

実は、マンションという商品は、ひとつひとつが全部異なる商品ですから、一般消費財のように、いつから何%値上げしますと言えるような「対比する旧価格商品」が存在しません。このため、買い手が価格高騰に気付くのが遅れるのです。
(中略)
買い手が様子見に転じるのは、自分の予算で買えるマンションが、どうも減っている気がするなという実感を持ったときです。そうした買い手が多くなると、売れ行きが悪くなり、完売までに長い時間がかかるようになって行きます。
(中略)
2006年頃から価格が急上昇した(2008年にピーク)影響で、売れ行きが徐々に悪化し、値引き販売が横行したことをご存知でしょうか?
このときは、主にマンション用地の高騰が原因でしたが、買い手の購買力が価格の上昇について来られなくなって販売不振に陥ったという苦い経験をマンション事業者は一様に味わっています。その後に世界同時不況がやって来て「泣きっ面に蜂」状態の後、多くのマンション業者が破綻するに至ったのです。
(中略)
分譲価格の値上げが、手痛いしっぺ返しにつながることを学習した事業者は、建築費にしても、地価にしても値上がりを歓迎しません。結果的に利益の吐き出しにつながることを知っているからです。
しかし、利益の確保が企業経営のためには不可欠なわけですから、計画時点では、仕方なくコストに利益をオンして、恐る恐る売り出します。最初は、うまく行きますから、その成功に胸をなでおろします。次も成功するとします。そうなると、最初の懸念はどこかに吹っ飛んでしまうのです。
極力、価格が上昇しないように努力しようとしても、範囲が限られる――詳細は割愛しますが、それがマンションのコスト構造です。従って、高いコストのマンションは吸収するところがなく、分譲価格も高いという売り出し方になってしまうものです。危険と知りつつも、そうするのです。利益を圧縮してでも、抑え気味に価格を決めるとしたら、最初のうちだけです。
(中略)
さて、今後本当にマンション価格は値上がりするでしょうか?それは、神のみぞ知るですが、値上がりの可能性は低くないでしょう。

以上が昨年3月下旬に予測した記事です。結果を検証してみます。

●物件評価・調査の過程で気付いた値上がり
既述のように、マンションはひとつひとつが唯一無二の商品なので、一般消費財のように同質の商品が何%値上げされたと言えるような「対比する旧価格商品」が存在しません。
極端な例で説明すると、「東京都心にしか供給がなかった昨年の価格は5000万円でした。今年は埼玉県郊外に供給が集中したので平均価格は4000万円でした」という場合、値上がりしたのか値下がりしたのか全く分からないのです。
「A駅圏の過去5年間、平均単価は100万円でしたが、今年は120万円に上がりました」という場合でも、昨年はバス便を含む5物件で、今年の物件が1件のみ、かつ、駅前の大型タワーマンションだけであったという場合、値上がりしたとは多分言えないのです。

値上がりしたかどうか統計では分かりにくいのが不動産価格の特質です。特定の中古マンションが昨年は10戸市場に出て平均単価100万円で売れたとし、今年も10戸(そんなに売りに出ることはないのですが)売りに出て平均単価110万円であったという場合なら、ほぼ同じ商品(住戸の階数や向きなどによって微妙に価値が変わる点を無視するとして)の値上がりと見ることは可能です。

従って、マンション価格の高騰や下落を認識するのは、一定の地域の販売物件を集計してマクロの傾向を見るほかにありません。

●今年上半期の価格はどうだった?
では、新築マンションの統計を取り続けている不動産経済研究所の公表データでチェックしてみましょう。以下は、2012年1~6月(上半期)の首都圏データを前年同期比で表わしたものです。
<平米単価の比較>
東京都区部2011年1~6月:80.8万円➔2012年1~6月:79.2万円(↓)
東京市部 2011年1~6月:54.7万円➔2012年1~6月:55.8万円(↑)
神奈川県 2011年1~6月:58.8万円➔2012年1~6月:56.0万円(↓)
埼玉県  2011年1~6月:49.9万円➔2012年1~6月:53.5万円(↑)
千葉県  2011年1~6月:45.2万円➔2012年1~6月:47.9万円(↑)
このデータでは、どうもはっきりしません。供給シェアの高い東京都区部が下がっているのだから、価格高騰が起こっているとは言えないのでないか?そんなふうにも正直思います。
しかしながら、前年のこの時期は震災の影響でマンション販売が事実上凍結されていました。年度後半で持ち直して行き、そして今年前半に震災前の勢いを取り戻したのですが、この経緯から見て、今年前半の発売商品は建築費高騰前に確定していた建築費で建てられたものが多かったと推測することができます。
つまり、発売を先送りしながらも工事は続いていたのです。都区部は高層、超高層のマンションが多いため、工事期間は1年以上2年程度を要することを勘案すると、無理なこじつけではないはずです。
この仮説を裏付けるデータは今のところ見つかりませんが、今年後半のデータで証明されるかもしれません。

●値上がりを裏付ける状況証拠
11月16日の日経新聞・東京都版に小さな記事を発見しました。「マンション発売10月24年ぶりに3000戸割れ」というものです。
不動産経済研究所の集計では、前年同月比で14.4%も減ったということですが、特に都区部では25.7%も減ったというのです。
秋の販売期に何故発売戸数が減るのでしょうか。同研究所の分析も併記されています。
「夏場以降、景気の先行き不透明感から購入意欲が落ちて来たので、売主は新規発売を抑えたようだ。消費税増税後の負担軽減政策が決まっていないため、政策の行方を見極めようとしていることも影響している」と。

同時に「10月の新規発売物件の契約率は好調の目安とされる70%を超えている」とも発表しています。

この二つの事実は、売れそうな物件は売り出したが、予告広告の反応が鈍い物件は危険と感じて先送りしたということを意味します。
反応が鈍い原因は個々に異なるはずですが、今年初頭から好調をに推移して来たマンション市場に変化が出始めたのは確かです。
背景には、中国の成長率の鈍化と日中関係の悪化、欧州の低迷などによる外需の不振・後退で国内景気が悪化、先行きの懸念が広がっていることにあるのでしょう。
しかしながら、詳細は長くなるので割愛しますが、それだけでは説明がつかないのです。
やはり、直接の原因は価格の高騰にあるのではないかと思えてなりません。価格が高いから買い手はついて来なくなった。それがリアクションの鈍化となり、売り手の危機感につながって「様子を見よう」となった、そう感じるのです。発売延期は、値上がりの状況証拠と見るのは、うがち過ぎでしょうか?

●今後の行方は?
先に述べたように、マンション業者の経験則は「強気に売り出しても、売れなければ最後は値引き販売の断行やむなし」です。
そうならないためには次善の策を打ちます。それは、販売前に価格の見直しを行うことです。
まず、原価の大半を占める建築費と用地費が確定しているもの、すなわち着工済みの物件の場合、価格を下げるということは利益を削ることに等しいので、修整は難しいですが、工事発注前の物件なら可能です。
用地費は変わりませんが、建築コストの削減努力に再度チャレンジします。設計内容の部分変更と、受注するゼネコンの探索です。
前者の設計内容の部分変更で最も簡単なには、設備・仕様のグレードダウンです。例えば、人気のディスポーザーを止めようとなれば、地下に埋設する専用の浄化槽と各住戸に設置する機器の両方で数千万円単位のコスト削減が実現します。
バルコニーに設けるはずだったスロップシンクを中止すれば、シンクだけではなく、そこまで引く水道配管のコストも削減できるのです。

次に、後者の請け負うゼネコン探しですが、売り上げ計画の達成が厳しいゼネコンの中には、利益を極限まで落としてでも受注したいという事情と時期があります。支店単位の達成目標はゼネコン業界にもありますから、受注量が足らないタイミングに当たれば請け負ってくれるという支店があるのです。
そこで、発注者(マンション業者)は必至でゼネコンを探します。その結果、一般には馴染みの薄いゼネコンも登場するのですが、それはともかくも計画コストに近いところで合意に達します。

実は、コスト削減は前者と後者の合わせ技によることが多いのが実態です。となると、今後の新規発売物件には、少々不安なものが多いということになります。グレードダウンした建物、素人目には不安な無名のゼネコンによる建物、こうしたマンションがが増えるということですから。

●買い手の購買スタンスは今後どうあるべきか?
以上に述べた背景と動向を踏まえて、今後どのような心構えでマンション探しをしたら良いのでしょうか? その点を最後にまとめておきたいと思います。
①これから着工する物件は、建物内容をよく吟味すべし
見た目だけでなく、隠れた部分に目を向けましょう。特に、後付けできない基本の部分に注意です。
②現時点で着工済み物件の売れ残りを待つべし
概ね来年の夏までに竣工する物件は既に着工済みなので、建物グレードは落としていないと考えられる(勿論、今でもグレードの低い物件はあります)。従って、価格が高くて売れ残ることが予想できます。そうなれば、いずれは値引き販売に踏み切るはずです。そのタイミングを待つのも一考に値します。
もっとも、売れ残り住戸は日当たりや眺望など、条件の悪いケースが多いため、狙った物件は販売状況をよくウォッチングして行くことが大事です。営業担当者と密に連絡を取るようなことも必要になるかもしれません。(嫌な客だと思われても態度を直ぐに決めない。これも、お得な買い物のコツと言えるのでは?)

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