「千三つ屋」ってご存知?

ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

●元は「不動産屋の話はウソばかり」という意味であった
千三つとか、千三つ屋という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
先日、久しぶりに耳にして、死語と思っていた言葉を懐かしく、でも少しばかり不快にも思いました。
この言葉は、本来はほら吹きのことです。その人の言う言葉が千あったら、そのうち三つしか本当のことを言わないという意味。
「千三つ屋」と言えば、元は土地建物の売買や金貸しの斡旋をする人(不動産、金融ブローカー)たちのことで、これらの商売で商談が成立するのは千件のうち3件ほどしかないということに語源があるのです。

以下は、私が不動産会社に飛び込んで駆け出しの営業マンをしていた時の偽らざる感想です。もう随分昔の話ですが、不動産営業部門は社会の落ちこぼれ集団という印象が強くありました。
当時、私は20代半ばでしたが、若い方でした。大半が中途採用の、年齢は30代から40代にかけての海千山千のつわものたちが多かったのです。彼らは高給に魅かれて転職してきた人たちでした。
歩合給は少ない会社でしたが、成績次第で固定給与がどんどん上がり、管理職手当をもらうようになるまで早い人は3年も要らないのでした。
その代わり、仕事はとても厳しいものでした。上司からの叱咤や締め付けが厳しく、退職に追い込まれるため、出入りの激しい職場でした。中途採用者で退職する人の平均在籍期間は、半年くらいだったのではないかと記憶しています。
当時は、財閥系の大手不動産会社を別格とすると、業界全体が定着率ワーストワンだったとのです。

厳しい職場でしたが、その中で不思議によく売る営業マンもいました。よく売る営業マンは、文句は言われないし、肩書きも付き、所得も増えて退職に追い込まれることもないのです。
しかし、係長クラスの優績者の中にも何故か辞めて行く先輩がいました。不思議に思っていると、やがて原因が分かって来ました。

多くは、顧客とのトラブルが原因でした。簡単に言ってしまうと、「嘘八百並べて契約を取っていた」ことが後に明るみに出て、会社にも迷惑をかけることとなり、退職せざるを得なかったのです。

嘘八百並べて売るなどということは、今日では不可能になったと言ってよいのですが、知識も情報も得る術が限られていた時代には、口から出まかせのような内容でも話術巧みに迫られると信じてしまう買い手さんも多かったのです。

彼らはお客を騙すことに良心の呵責すらなく、「赤子の手をひねるようなもの」とうそぶいていました。実際に、どのような話をしたかは別としても、共通していたのは「針小棒大に語る」ことでした。いわゆる「オーバートーク」です。
私も新入社員のときに上司の商談を見せてもらったことが何度かありましたが、「まさか、そんな馬鹿な」と感じるような話法を何度も強弁するので、最後は本当のことに思えてくるのに感心しきりでした。

業界の悪質な営業の実態で有名なのは、最寄り駅から10分が実際に歩くと20分であるとか、歩いて5分は実はクルマで5分だったなどというものです。こんなものは、日常茶飯事の世界でした。
また、私の親戚が実際に被害に遭ったので知ったことですが、住宅ローンの計算をわざと間違い、実際の返済額より低く算出して購買意欲に火を着けるといったこともあったのです。

こうしたウソは、「不動産屋の話は半分に聞け」といった教訓を生みました。

●不動産営業マンのダンマリに注意
現在、このような「真っ赤なウソ」は通じないようになりました。悪質な不動産会社も淘汰されました。しかし、物を売る行為には、不動産に限らず「ウソに近い際どい話術」が付きもの、これは今日も変わりません。
また、営業マンはセールスポイントを高らかに謳い、繰り返し力説しますが、都合の悪いことはダンマリを決め込むものでもあります。これは営業マン共通の習性なのです。

不動産業界では、宅地建物取引業法その他の法律に抵触することは避けます。法律で説明義務のある重要事項に関しては書面でも正確に告知します。また、「よく大事なことは小さな文字で書く」などと言う人もいますが、実態はそうでもありません。
そんなことをしてもトラブルに発展するだけで、百害あって一利なしだからです。

気を付けるべきは、義務の範疇からはずれている部分での説明の除外、すなわち売り手にとって不利なことは極力お客が気付かないことを祈るという営業姿勢です。
聞かれれば答えるが、聞かれなければ黙っている。余計な説明をしてやぶ蛇になること避ける。その方が賢明だと考えているのです。
その結果、多くは買い手責任の範囲であり、「気付かなかった自分が悪い」と諦めるしかないことになります。そんな場合、抗議に出かけるとしても「親切でない。誠実さに欠ける」と言うくらいが精一杯です。

実例をふたつ紹介しましょう。
先ず、「小学校までは徒歩で10分」を、歩いて確認しなかった買い手さんがいました。子供がまだ就学前だったので聞き流してしまったのです。
ところが、徒歩10分では通学できませんでした。大人の足で歩いても途中に坂道があるため10分以上かかるのです。しかも、最短コースには歩道がなく危険な箇所があるため、実際の通学路は少し遠回りすることになり、子供の足では20分もかかります。その買い手さんは、契約後にそのことを知りました。2年後には小学校に上がる子供がいたため、自分の迂闊さを悔いましたが、時は既に遅し、だったのです。
担当者は「通学路までは知らなかった」と弁明。尚、10分という時間はパンフレット制作会社が地図上で距離を測定し、1分=80メートルの算式を当てはめただけだったのです。

次に、隣のコンビニにたむろする若者が深夜騒ぐことを知らずに購入した失敗談。「勿論、コンビニがあることは知っていましたし、便利でいいなと思ったくらいで、まさか深夜の騒音に悩まされることになるとは?」と後悔している人がいます。
コンビニの駐車場に若者がバイクに乗って集まって来るのは、決まって夜11時過ぎなのだとか。比較的交通量の少ない住宅街の道路に面し、駐車場も広い。格好の溜まり場だったようです。
担当業マンは溜まり場になっていたことを知らなかったのでしょうか?マンション営業の常識から言えば、書き入れ時などに深夜まで販売事務所に居残ることは一度ならずありますから、知っていた可能性は高いのですが、このような状態をわざわざ説明に加えるはずもないのです。

「ウソはいけないがダンマリは許される」。それが営業マンの普通のスタンスです。そのことは、有名企業であろうと、大手企業だろうと同じと思って間違いありません。
不誠実だとか、不親切だとか言う前に、買い手責任というものもあることを肝に銘じておきましょう。

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