「ローコストマンション」と「コストダウンマンション」

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

10日前のブログで「アルコーブのないマンションは要注意」と書きましたが、もう少し補足の必要を感じたので標題のタイトルで述べようと思います。

●コストダウンとグレードアップはデベロッパー常の葛藤

どのような商品でも価格を無視してよいものはありません。スペックとデザインと価格をテーマに企画開発して行くものです。

分譲マンションでも同じです。ただ、商品価値を構成する立地条件は工夫しようのない部分なので、建物のみに企画の対象は限定されます。

その場所では、どのような商品スペックがふさわしいか、そして販売可能な価格はいくらかという検討からスタートして行くのです。

ハイスペック、ハイグレードにするより価格の安さが優先する物件がある一方、価格が相場の3割高でも販売可能な立地条件にあるから、建物もそれなりのクォリティを目指そうとする物件もあります。

その過程で様々な壁にぶつかり、企画者と設計士は悩みます。価格が高くなっても構わないと言っても、限度がないわけではないからです。それこそ販売単価が坪当たり1000万円を超えても買い手が集まりそうな特殊な立地を除けば、デベロッパーはどこかを必ず妥協して商品化しています。

天井高を全階2.6m以上にしたいが、建築規制があって不可能なので2.5mで仕方ないなとか、内廊下にして絨毯張りにしたいが、その場合、住戸間取りは1寝室がどうしても行燈部屋になってしまうが、そこは目をつぶることにしよう、外廊下の場合では、主寝室のプライバシーを保護するために廊下と主寝室との間に吹き抜けを設けたいが、コストアップが大き過ぎるので止めようなど、葛藤する例を挙げると無数に出て来ます。

最も悩ましく解決の難しい課題は、条件の良くない住戸を価値ある住戸にどう変えるかです。例えば、環境の良い住宅街における1階住戸の企画です。

最近よく見かけるのは、4階建ての低層マンションにおける1階住戸で、フロアレベルがグランドレベルより低い住戸です。都区内で8000万円も9000万円もするような1階住戸が半地下のようになっている例は少なくありません。

半地下住戸は価格が目玉商品的に安く設定されます。安くしなければ売れないからです。言い換えると、半地下マンションを好む人は絶対数として少ないので1階にしかない魅力、一般的には専用の庭を付けて販売するのですが、それだけでは十分でないのです。

売りにくい半地下住戸をなぜ設けるのか、それはそうしなければ採算が取れないからです。1000坪の土地に4階建ての40戸を建てるのと、半地下住戸を中止して3階建て30戸にするのでは、1戸当たりの土地代が大きく跳ね上がり、販売価格は恐ろしく高いものになってしまうのです。

このような例を挙げるとキリがないので、このくらいにしますが、要するに企画・設計はコストと隣り合わせにあり、デベロッパーはコストを睨みながら優れた商品をいかに企画するかに知恵を絞っているのです。

●支持を失ったローコストマンション

稀に「ローコストマンション」のカテゴリーに入れたい物件を見かけます。簡単に言えば、コストダウンを徹底した建物です。また、地域一番の安値物件です。

建物の中身を見ると、設備については装備が最小限で、並み以下のグレードです。窓は一枚ガラス、ディスポーザーも食器洗い乾燥機もなし、床暖房もつかない、バルコニーにはミニシンク(SKシンク)も水栓もないのです。 

床・壁の仕上げ材も建具と取っ手のグレードも中級以下。 スラブ厚、壁厚なども建築基準法の最低ラインです。

全体計画についてはエントランスホールや廊下など以外に特別な共用施設はなく、植栽も殆どなしといった徹底ぶりです。

この種の物件は、立地条件が駅から遠かったり、環境の良くないものであったりなので、価格の安さを優先するしかないのでしょう。

賃貸マンションから脱出したい需要層向けのマンションの中でも、所得の低い若い世帯向けの物件として開発しているだけでなく、頭金の用意も十分でない階層を狙った物件と見られます。

その昔、地方都市を中心にローコストマンションが一世を風靡した時代がありました。

設計の簡略化、建築資材の大量発注、工事の省力化を3本柱に、画一的なマンションを低価格で供給し、多数のユーザーから支持を得た時期があったのです。関東近県でも同型のマンションが少なからずお目見えしました。

室内だけば、そこそこに設備をまとっており、少なくとも賃貸マンションよりはマシという印象がありました。 モデルルームを展示して工事中に販売する方法では、分譲マンションに詳しくない初めての購買層に支持されたのです。

しかし、専有部分以外は飾りも何もなく、中には外壁にタイルを貼っていない物もありました。タイル貼りの物件でも、バルコニーが既製品のアルミ手すりをビス止めしただけだったと記憶しています。エントランスもシンプルで、床がタイル貼りで壁は吹き付け塗装でした。

価格高騰期のことで、価格抑制に頭を悩ましていたデベロッパー各社は、その商品供給スタイルに関心を持ち分析したのですが、追随する企業は多くありませんでした。

価格が安いだけではユーザーの心をつかむことはできないと判断したためです。

その後、地方都市でもローコストマンションは供給されなくなりました。分譲マンションは賃貸マンションと同じであってはならないことを悟ったのでしょう。

家賃を払う程度の負担で購入できるとしても、マイホームに対して求める品質、機能、お洒落感などは不可欠の条件です。 安いだけのローコストマンションは、やがて市場で支持を失いました。

●コストダウンマンションは分譲らしく差別化を意識している

ローコストマンションとコストダウンマンション、どこが違うのでしょうか? 

先に述べたように、ローコストマンションは最低限の機能だけが備わった「安かろう・悪かろう」と言うべきマンションです。

一方、コストダウンマンションとは、一定の機能性とデザイン性を持ちつつ、価格を抑えたマンションなのです。

マンションユーザーは我が家が安物マンションだと卑下したくはないはずで、仮に専有部分は多少劣っても外見が賃貸マンションのように見られてしまうことを望みません。

低予算の買い手であっても、それぞれの買い手にとって大金を払うことには変わりありません。

本人がどこまで意識しているかはともかくも、外観やエントランス周りのデザインなども含めて、大金を払うに値する高いクォリティを購入マンションに求めるのです。

複数の物件を比較検討する過程で、品質が劣後している物件と認識しつつも妥協の限界を自ら踏み越え、価格の安さだけで飛びつくことはありません。

このような購買心理を研究し尽したマンションデベロッパーは、少なくとも外形的に低級なマンションと見られないよう自制し工夫をしています。

比較的高額な物件では、高級感をアピールしつつコストを下げるという二律背反の課題に取り組んで商品化します。 安さを売りにする物件でも、賃貸マンションでは見られない高層と規模の大きさ、広いエントランスホールとコミュニティルームなど共用施設の設置を併せてアピールします。

では、どこでコストダウンを図っているのでしょうか? 買い手が直ぐ気付く部分でも気付かれにくい部分でも、様々な箇所でコストダウンを図って行きます。

そのコストダウン策を売手は敢えて説明しません。図面集という販売資料のどこかに書いてあるので、それを見てくれという態度です。書いていない場合は「パンフレットや設計図書等をご確認の上でご購入下さい」という重要事項説明書内の文言で逃げています。

「断熱性はどうですか」と問えば「当社は大丈夫です」などと、答えにならない曖昧な返事で済ませることも多いですし、「道路からの騒音が心配」と言うと、「T-2ランクの防音サッシなので問題ない」と言ったりします。T-2とはどの程度のものかを説明しないのです。

それでも問う材料に気付く人はマシですが、何が問題かすら分からない人は品質の劣る建物をそれと知らずに買ってしまうかもしれません。

コストダウンの典型は、アルコーブのない間取りであり、直貼りの床構造ですが、その他では天井高、共用部ではエレベーターの設置台数、エントランス周りのデザインとホールやロビーの壁・床の仕上げ材などに表われます。

より優れたマンションを、より安く買いたいと思うのは自然なことですが、満足度100%の家など存在しません。

気に入らない部分があるとか、目に見えない部分で品質が劣っていると知っても、それらの程度が買い手にとって許容範囲であると思えれば、あるいは優先順位で見れば枝葉末節のことと言いきることができれば、それでいいのです。 

要は、少しくらい不満があっても、長く快適に住まうことができるかどうか、その視点が大事なのです。コストダウンが全て悪いわけでもないのです。

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