安くない定期借地権マンション

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

以下は、ある都区内の物件で掲示板に書き込まれた「定借」に対する部分を抜き書きした感想(?)です。

「借地権なんて嫌だな。場所は良いのに残念」
「どうせ50年も建物自体がもたないし、そこまで長生きもしないだろって考えると借地権もありだとは思う」

「建物自体の耐用性を考えると 50年くらいっていうのは区切りになってくるのかなぁとも思いますし。 それよりもつのなら、延長の申し入れをしても?とは思います」

「借地権のマンションもたまに見ますが、価格的には所有権マンションとほぼ変わりないところも多くて」

「借地権の最大のメリットは安さ。高ければ、買う価値なし」

「地代の改定ありと書かれています。こういうのって普通どの位上がっていくものなのでしょうか」

「年数が長ければ借地権もそれほど気にならないのではないでしょうか」

「購入するよりは、借地の方が固定資産税などの負担もないため、最終的に安くなる部分もあると思いますが、資産として残せないデメリットをどう考えるべきか」

「借地も所有権も最後は一緒でしょ? 50年後の所有権がいくらすると思っているのでしょうか?50年後のマンションの資産価値はいくらと考えますか?」

「所有権の場合は、建物が老朽化してしまった時に建て替えなどで意見が割れるという話は聞きますが、定借の場合はどうなんでしょう?年数が経った時にはただ返すだけなのかしら」

上記の感想・意見、あるいは質問には、多分に誤解が多いと気付きます。この掲示板をたまたま見つけて、「定借マンション」の根本についてお伝えしようと思うに至りました。

●普通借地権と定期借地権

借地権には大きく分けて普通借地権と定期借地権があることをご存知の読者も多いと思いますが、簡単に整理しておきます。

普通借地権は、地主から見ると一度貸すと二度と戻って来ないという法的な欠陥があります。「正当な事由がない限り借地契約の更新を拒絶できない」からです。正当な事由とは、事実上ほぼ存在しないのです。「自分で使いたい」は正当な事由に当たらないとされているからです。

定期借地権は、更新ができない完全な期限付き借地契約として誕生した新法です。

定期借地権は、一般定期借地権と事業用定期借地権がありますが、マンションの場合は50年以上の契約期間とする一般定期借地権となります。

定期借地権は、期間満了と同時に土地上の建物を解体、撤去して、すなわち更地にして地主に返還することが条件となっています。ただし、地主が建物解体を義務付けない契約も可能です。

「更地にして返還」、ここが普通借地権との大きな違いです。「半永続契約」の普通借地権と「期限付き契約」の定期借地権というわけですな

●借地権マンションは固定資産税に代わって地代が必要

土地が借地ということは、普通借地権も定期借地権も「地代」を地主に払うことが不可欠です。

所有権の土地付きマンションではマンション所有者が固定資産税を払うわけですが、借地権付きマンションでは税金がない代わりに地代を払う必要があるのです。

固定資産税と地代、どちらが高いのでしょうか? 地代は地主が借地の対価として収受するものですが、一方では固定資産税を払う必要があるため、その納付額を上回る時代を要求するのが当然です。

借地契約書の標準的な例を見ると、地代の改定に関する条項が出て来ます。そこには、固定資産税が改訂されたときは、改定後の固定資産税に3を掛けた値にするとあります。

納税分を除いた地代を収益とする地主としては当然の要求なのでしょう。
これでお分かりと思いますが、地代は結構高いということですね。

●地代は結構高い

地代は毎月払う形になっており、その金額を見ると少額である物件が多いようです。70㎡クラスで10,000円前後に設定されています。年間12万円なので、所有権マンションの固定資産税と大差はないようです。

ところが、毎月払い以外に「前払い地代」の名目で物件価格にONされているものが多く見られます。ただし、普通借地権マンションでは滅多に見られません。定期借地権マンションならではのように思います。

前払い地代は、ある都区内の定借マンションで70㎡クラスが700万円とあります。50年で割ると、年間14万円となり、毎月払いの地代12万円との合算では、所有権マンションの固定資産税の2~3倍くらいに相当するケースが多いと見られます。

ということは、地代に関する限り普通借地権マンションも定借マンションも大差はないと言えるようです。

●借地権マンションの適正価格

地代以外に、その土地を利用する(マンションを建てて住む)権利に対価を設定しています。これが権利金で、70㎡(21.2坪)クラスで都区内なら1000万円前後になっています。

借地権にせよ所有権にせよ、敷地がなければマンションは建たないわけです。従って、地代さえ払ってくれれば貸しましょうという奇特な地主さんはいません。当然の要求です。

権利金は坪単価にすると、50万円前後です。土地所有権マンションの半額程度と見られます。

都区内マンションの平均が建築費の異常な高騰前では坪単価250万円ほどであり、分解すると建物部分150万円、土地部分100万円なので、借地権マンションの価格は建物150+敷地50万円=@200万円となります。これは、所有権マンションの8掛けに相当します。これが適正な価格と考えられます。

ところが、分譲事例を分析してみると、これに前払い地代が加わっているため、その分が所有権マンションとの差を縮めています。先の事例の700万円を70㎡(21.2坪)で割ると33万円なので売価は@233万円となり、土地所有権付きマンションとの差は10%未満と接近してしまうのです。

これでは割安感はないと言わざるを得ませんね。そのような物件が多いのが実態です。

●定期借地権マンションならではの費用「解体準備金」

同じ借地権でも、普通借地権にはない別の費用がかかる、それが定期借地権マンションです。先に述べたように、定期借地権は期限が来たら更地にして返還しなければなりません。ということは、建物解体費が必要になるわけです。

鉄筋コンクリートの建物の解体費は、木造と異なり安くありません。 マンション全体で言えば何億円もかかります。区分所有者一人当たりにしても数百万円が必要となって来ます。
そのときに備えて定借マンションでは、毎月「解体準備金」の名目で積立して行くのが一般的です。

解体費が仮に300万円かかると考えて600か月(50年)で割ると毎月は5,000円ですが、実際の設定金額も3000円~5000円という例が多いようです。
(解体準備金は言うまでもなく普通借地権では必要がありません)

管理費と修繕積立金、毎月分の地代までが土地所有権付きマンションと定借マンションが同等としても、前払い地代に加えて解体準備金が加算される定借マンションは実態的には安くないのです。

●定借マンションの経年劣化

定借マンションは使用期限の付いた「権利制限マンション」とでも言うべきものです。建物の物理的な価値とは別の次元で、年々劣化して行くことになります。

ご存知のように土地所有権付きマンションは、メンテナンスさえ定期的に、また適切に行って行けば100年は持つと言われます。分譲マンションの歴史が浅いので、まだ100年に達する例はないものの、築40年を超えるものは既に多数ありますし、これから年々増えて来ます。

それらの中に、メンテナンスがしっかり為され快適な住み心地を維持しているマンションが存在します。筆者の見た40年前後の建物の中にも、今後20年や30年は住み続けられそうな印象を受けた例は少なからずあるのです。

しかし、定借マンションはメンテナンスがどこまで適切に、または情熱を込めて行われるかが極めて疑問です。メンテナンスはお金がかかるのです。その拠出に所有者がどこまで賛意を示すでしょうか。

築後30年くらいまではともかく、そこから先は「どうせ解体するのだから」と改修工事に積極的な取り組みが行われるとは思えないのです。

それだけではありません。新築時は50年住める定借マンションも、30年経てば20年しか住めないマンションとなるのです。

20年しか住めないマンションと承知して買ってくれる人があるとしても、その買い手が次に売るときは残存期間が10年なり5年しかないマンションになってしまうのですから、それを承知の買い手を探すのは骨が折れそうです。

極端な低価格でなければ売れないと考えるでしょう。

賃貸マンションの賃料先払いのようなものだと割り切って買ってくれる人があるとしても、賃料の10年ローンなどは存在しませんから、現金買いとなるでしょうし、その場合も室内のリノベーションを自由に楽しみたい人などがタダ同然で購入するということになるのかもしれません。

結局、定借マンションは資産価値が経年劣化し、比例して価格が下がるものと考えなければなりません。 普通借地権マンションであれば、使用期限がないので土地所有権付きマンションと同じと考えてよいので、定借マンションは差が開くばかりなのです。

●定借マンションのリセールバリューは判定不能

先に、借地権マンションは土地所有権付きマンションの8掛け程度が適正と述べましたが、年々減価して行く定借マンションの場合は、普通借地権マンションより安くなければバランスしないと考えられます。

あとさきを深く考えず、分譲時の価格が安ければ食指を動かす人がいるのかもしれませんが、リセールバリューを念頭に置いて購入を検討する人は、その数字を知りたがるはずです。

中古マンションは、新築マンションの価格に連動しますから、新築が高いときは中古も高くなります(今がそのときです)。その法則は、普通借地権マンションにも当てはまります。

例えば、あるエリアで新築マンションが100であるとき、築10年マンションの相場が80であれば、築10年の普通借地権マンションも8掛けの64という価格が適正と言えます。勿論、建物価値や駅からの距離、環境等がそっくり同じと仮定してのことですが。

10年前に新築相場が80であって、10年後の現在の新築が100に、20%値上がりしたというとき、築10年の中古が仮に90であったとしたら、その中古はの新築時価格は80だったわけですから、値上がり率は12.5%ということになります。

普通借地権マンションを10年前に64で(土地所有権付きマンションの8掛けで)購入しており、土地所有権付きマンションの8掛け72であれば、こちらも値上がり率は理論上12.5%(72÷64)と、同じになるのです。

定借マンションの場合は、どうなるのでしょう。築10年くらいの経過であれば残存期間から見ても普通借地権マンションの理論値と大きな開きが生まれるとは思いませんが、先に述べたように経年劣化するのですから、開きは徐々に大きくなって行くと考えられます。

ではどのくらいの差になるのでしょうか。例えば、築後20年時点では?30年時点では?

この答えを導くことは非常に困難です。そのときの新築価格、一般マンションの中古相場などを予想することが難しいということに加えて、定借マンションの市場評価が現時点でも定着していないからです。

●定借マンションを買う人の心理

定期借地権のマンションは、50年以上の期間を定め、原則として建物を解体して地主に返還するという特殊な権利形態です。

一部に、建物解体はしなくてよいという条件の定借マンションがありますが、同じことです。
返還であって売却ではないので、所有者にとっては最終的に全く無価値になるわけです。

新しいうちはいいですが、年々減価して行き、最後は資産価値がゼロになります。土地所有権付きの普通のマンションは無論、普通借地権マンションにしても、どんなに老朽化しても価値がゼロにはなりませんから、ここが大きな差です。

一般のマンションなら値上がりする期待も持てるわけですから、年々減価するマンションと知って購入する人の心理は理解に苦しむものです。

定期借地権のマンションのメリットはどこにあるのでしょうか? 言い換えると、価値ある定借マンションの条件とは?

答は簡単です。購入価格が安いこと、住宅ローンを利用する人にとっては毎月の負担がさほど大きくないことです。加えて立地条件に稀少価値があることです。

一般のマンションより安ければ、それだけ広くて快適な住まいが手に入れることが可能です。子や孫に美田を残さないという思想を持つ、或いは残す親族がいないシニア層が定借マンションを購入していると言われる所以です。

東京では、一般マンションなら1億5000万円する場所で、1億円で手に入る定借マンションがシニア中心に好評だった実例があります。 ブランド地だったので、普通マンションでも専有面積が広くグレード感のある中古の売り物が滅多に出て来ないエリアのため、人気を集めたのです。

また、定借マンションは投資(賃貸)目的の購入者も多いと言われます。購入額が安ければ、賃貸利回りが高くなり、投資価値があるからです。しかし、利回りだけが狙いなら普通の中古マンションを購入すればいいのです。

利息が少しくらい高くても、元本保証のない(着実に減ってしまう)ハイリスクの貯蓄(投資)を誰がするでしょうか? 投資家は、短期間であれば借地の残存期間が十分に残るため、元本の減価率も低いはずと考えて投資するのかもしれませんね。しかし、理解に苦しむ行動です。

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