杭工事欠陥マンションでも居住継続は可能?

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

連日の報道でご存知「横浜の傾きマンション」はその後どうなったか気になるところですが、11月25日の新聞発表によれば、「建物の強度に問題はない。従って居住を継続しても大丈夫」と横浜市は認識を示したそうです。

杭52本の内、支持層に到達していなかった6本と、杭の先端部分に流し込むセメント量が改ざんされていた4本、合計10本が存在しないものとして構造計算をした報告書(売主と施工会社より。第三者機関の意見付き)を見て、市は「安全であると追認した」というのです。

52本の内の10本はおよそ2割に相当するわけです。2割も杭を減らして、震度6強から7程度の巨大地震にも倒壊・崩壊しないというのは、俄かには信じがたい。報道に接し、そう感じました。

しかし、専門家が言うのだから間違いないのでしょう。また、この期に及んで報告書を偽装するはずもないのだからと思い返しました。

そう言えば、かつて構造計算に明るい建築士に聞いたことがあります。「構造は余裕を見過ぎるくらいで丁度いいのだ」と。問題マンションも、安全のために必要以上の余裕を持たせた設計になっていたのかもしれません。

何はともあれ、居住者の不安が多少なりとも和らいだのは朗報と言えるでしょう。

同じ横浜で、住友不動産のマンションが「安全とは言えない」として居住者の転居を進めた昨年の事件に比べれば、傷は浅かったということになるのでしょうか?

ともあれ、売主の三井不動産レジデンシャルも被害者には手厚く補償を行う予定なので、横浜市も一件落着としたいのかもしれません。

●2014年の同種の事件その後は?

ところで、昨年明らかになった住友不動産の問題マンション(横浜市西区)は、その後どうなったのでしょうか? 当初はさんざん騒いだマスコミも、その後の続報には関心を示さないようです。

その後の対応はどうだったかと言うと、住友不動産が2014年6月9日のプレスリリースの中で以下のように書いています。

1.お住まいの方の安全を期すため、仮住まいの提供を既に開始しております。
2. 管理組合様のご承諾をいただいたうえで、補修を含む是正工事を行います。第三者の専門家の意見を聞きながら、適切な是正工事の方法を検討し、補修ではなく建替が必要との結論にいたった場合には、管理組合様に建替を提案いたします。
3. 補修工事または建替工事期間中の一時転居先も当社にてご用意いたします。
4. ご希望の方には、買取り補償も行ってまいります。

住友不動産は5棟の全住民を対象に購入金額で買い取る提案をしており、また最大300万円の慰謝料も支払うと発表しています。不動産取得税や修繕積立金など、購入や保有に要した実費も支払うとしています。

尚、傾いているB南棟では全住戸の仮住まい転居先が決定しているそうです。

日経新聞2015年10月17日の朝刊によると、「傾いた1棟は取り壊す前提で、すでに全住民が一時転居した。残る4棟は補修する方向」とあります。

 

●三菱地所のケースは手付金の3倍返しだった

2013年12月に発覚した「ザ・パークハウス グラン南青山高樹町」の工事の不具合では、2014年3月の引き渡しを前に、販売する三菱地所レジデンスが解体・建て直しを決めました。施工は鹿島建設で解体費と建て替え費用の負はも鹿島になるとのことです。

不具合の内容は、配管用の穴(スリーブ)の問題でした。コンクリートの躯体中に配管などを通すスリーブ全約6000カ所のうち、約750カ所で本来あるべき位置に存在しないか、位置が違うといった不備があったのです。

また約200カ所で不適切なコア抜き(スリーブを開ける工事)を行ったため、一部で鉄筋が切断されていたそうです。

三菱地所レジデンスは引き渡しの中止にあたり、2014年1月25日、26日に説明会を開催。欠陥が見つかった経緯などを説明しました。そして、同社は「手付金をお戻ししたうえで迷惑料として手付金の2倍をお支払する条件で、合意解約をお願いした」のです。

販売価格が一戸あたり1億円を超える「億ション」だったため、手付金も1千万円レベル。単純に手付金1千万円としたら、迷惑料込みで3千万円を渡すという異例の対応だったようです。

●大手デベロッパーゆえの対応策

マンションの規模にもよりますが、建て替えとなれば数十億円から数百億円の話となります。それを負担できるだけの財力がある売主だからこそ、充実した補償が行えるわけです。

今回の横浜マンションでは、売主の三井不動産レジデンシャル、施工元請の三井住友建設、一次下請けの日立テクノロジーズ、二次下請けの旭化成建材の各社の負担割合はまだ決まっていないものの、三井不動産レジデンシャルが一時的に立て替えるなどして補償して行くのは間違いないでしょう。

小さな会社なら、一度そんな問題が起これば倒産してしまうでしょう。

10年前に露見した「耐震偽装事件」では、デベロッパーのヒューザー社は倒産してしまいました。 耐震性が著しく低いため居住危険と診断されたマンションでは、被害者が自らマンションを解体し同じ広さのマンションを建てましたが、その費用は全部自己負担です。住宅ローンを利用して購入した人は、最初のローン返を銀行から一定程度の猶予をしてもらえたそうですが、基本的には二重ローンを抱えることになったのです。

今回の三井不動産レジデンシャルの事件にしても昨年の住友不動産の事件にしても、被害者が二重ローンを抱えることにはならないわけですし、手厚く保障・保護されます。

大手と中小では、こんなに大きな差がついてしまうという顕著な対比です。

「大手だから信頼していたのに……!?」という被害者の気持ちもあるようですが、「大手だから補償してもらえた(もらえそうだ)」というのも事実です。

●ジャパンパイル社が杭工事を担当。来春完成のマンションでは

一方、ある新築マンション(工事中)では、既に建物全容が出来上がり、内装工事にかかっているのですが、ジャパンパイル社が杭工事を担当したことが判明し、販売現場は大慌て状態に。

全戸完売し、そろそろ引き渡しの準備にかかろうかという段階に差し掛かったときなので、まさに青天の霹靂です。

調査チームを編成し、元請ゼネコンも加わって安全性の調査を開始したそうですが、1か月を経過した現在も確たる結果は出ていないとかで、契約者の中には解約して全額返金してもらおうという声や、返金だけでは済まない、3倍返しだと騒ぎ立てる人もあるのだそうです。

筆者にもご相談メールが届きましたが、「慌てず騒がず」を助言しました。先ずは調査結果を見守るしかないのですから。それから対応しても遅くはありません。

幸いにして売主は大手デベロッパーなので、仮に問題ありという調査結果が出ても、それなりの選択肢を用意してくれるはずです。

ほかにも同様の問題が発覚した未完成マンションがあるかもしれません。そのうち、売主が大手のマンションを購入している人は、何とか被害を最小限に留めることができるでしょう。金銭的には損失を被らずにすむはずです。

●中古マンションの一部で「杭工事は旭化成建材ではない」と館内掲示

旭化成建材と、その後に突如出現したジャパンパイル社のデータ流用事件を受けて、多くの既存マンションが調査を開始、両者が関わっていないことが分かった物件では、速報的に「対象外」と入居者に告知しているようです。

マンションの館内掲示板に告知文が張り出されているところもあると聞きます。

しかし、全国に既存マンションは何十万棟もあるのです。分からずじまいで終わる方が多いのではないかと思います。

横浜の2件は、どちらも傾きが目視で明らかに分かる形状のマンションでした。

すなわち、構造的には複数の建物であり、棟と棟をつなぐ部分で、本来同じ高さであるはずの水平ラインに何センチかのズレ(高低)が生じたことで発覚したのです。今回の事件では一方が2センチ沈んだ格好でした。

もし、複数でなく単棟のマンションだったら傾きは分からなかった可能性もあるのです。

随分昔のことですが、大阪市の中心部で隣のビルにもたれかかるように傾斜しているマンションを見たことがありました。 道の反対側から眺めると、確かにビルとマンションの間はGL(グランドレベル)で約1メートル、14階部分では多分95cmくらいだったでしょうか、僅かながら隙間が違って見えました。

案内してくれた中堅ゼネコンの建築士は、傾斜の理由を説明してくれたのですが、記憶が怪しくなってしまったので割愛しますが、はっきりしているのは、その後に起きた阪神淡路大地震(阪神大震災)でも倒壊も破壊もせず、今も居住者が居るという事実です。

単棟型の中古マンションの場合、仮に傾斜していても、僅かであれば居住者は誰も気づかないでしょうし、気付いても直ちに危険とは言えないはずです。

調査結果がくだんの杭打ち業者であろうがなかろうが、この時期、傾斜の有無に神経質になるのは仕方ないことですし、できるだけの調査を求めたいところですが、現実は難しいと思います。

そこで、自分で確かめる方法をひとつだけ挙げておきます。ゴルフボールを床に置いてみるのです。簡便で直ぐに分かるはずです。

中古マンション購入のための内覧の際に、居住者がある場合は難しいかもしれませんが、空室なら是非やってみましょう。安心することができましょう。

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