「マンションの寿命は人間の寿命より短い」としたら

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

先週(2016年8月31日)NHKの「クローズアップ現代プラス」という番組で「老朽化したマンションを建て替えるか修繕しながら住み続けるか」という特集をしていました。
※放送をご覧にならなかった人は、以下でチェック
(http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3855/1.html)

筆者がいつも考えていることであり、注視して来たテーマ「マンションはいつまで住めるのか」に関連があるかと思い、途中まで視聴したのですが、最後の方はチャンネルを切り替えてしまいました。つまり、番組は筆者の期待を裏切る内容だったのです。

番組のテーマはマンションの建て替えが円滑に進むようにマンション法(建物の区分所有等に関する法律)の改正が行われる見込みだが、その場合の影響(功罪)を問うものでした。

すなわち、マンションの建て替えには従来、全所有者の80%(5分の4)の同意が必要とされて来た法律を、3分の2の賛成があれば可能とする法改正が検討されているのですが、その効果は期待できるのか、また法改正について老朽マンション住民(所有者)はどう受け止めているのか、その辺りを番組は掘り下げようとしたようです。

法が改正されようとされまいと、建て替えには事実上100%の賛成がないと難しいのが現実です。その合意形成まで、早くても10年はかかるとされます。建て替えられたマンションの実例は全国でまだ200件余しかありません。

建て替えを要するような老朽化したマンションが全国で何件あるかの統計はないのですが、東京都内には24,254件の分譲マンションがあり、そのうち築40年を超えるマンションは2,288件で、1割弱に当るというデータがあります。渋谷区・港区・世田谷区・杉並区が、それぞれ200件強と多いようです。全国では56万戸だそうです。

これらのデータから、建て替えの件数がいかに少ないか、何となく想像いただけることと思います。

今日の本稿のテーマは、建て替え問題ではありません。古いマンションに長く住み続けることの難しさについて語ろうと思うのです。

●マンションの寿命は何年?

筆者へのお尋ねで多いことのひとつ、それは「マンションの最後はどうなるの?」です。

早い話が、マンションの寿命は何年かという質問です。これに的確に答えられる人は筆者も含めて見当たりません。答えられなくて当然とも言えるのですが、その理由は次のようなものです。

➀マンションの歴史が短い・・・日本に分譲マンションが登場したのは昭和30年代(1950年代)のことです。まだ60年の歴史しかないのです。

②黎明期の集合住宅は殆ど解体されてしまった・・・分譲マンションということでなく賃貸の集合住宅というくくりで見ると、関東大震災後の復興住宅として東京、横浜に20軒以上建設された「同潤会アパート」は、最後の上野の場合で80年後に解体され、分譲マンションとして生まれ変わりました。つい3年ほど前のことです。

➂存命の集合住宅は廃虚状態にある・・・同潤会より古い集合住宅も実はあるのです。長崎の端島(通称:軍艦島)という無人島に今は廃虚として存在しています。「世界文化遺産」として登録されたので脚光を集め、ご存知の読者も多いことと思います。

この集合住宅は建て増しを繰り返したので正確な年数は不明ですが、明治時代から昭和初期にかけて建てられたので、100年以上の歴史があると言えます。

④長寿命のマンションを建て始めて30年程度しか経っていない・・・戦後・高度経済成長時代」、後先考えずに量を追った国の政策が、「量より質」へ転換し始めたのは1980年代半ばでした。100年(3世代)住み続けられるマンションを目指そうとしたのです。センチュリーハウジングシステムという用語が生まれ、現在の「長期優良住宅」へと受け継がれています。

➄計画的な延命策を講じ始めたのも最近20年くらいのことである・・・マンションごとに「長期修繕計画」を策定しようという業界の動向、これを下に周期的な大規模修繕を実施して長く住めるようにしようという所有者の意識改革も生まれつつあるようです。

コンクリートの物体としては100年以上存在していますが、人が住んでいた期間で言えば、同潤会アパートが最も長くて約80年です。

しかし、その同潤会アパートも最後はとても住める状態ではなかったはずです。だからこそ建て替えに至ったわけです。同潤会アパートで最も有名なのは「青山アパート」で、今は安藤忠雄氏設計で有名な「表参道ヒルズ」に生まれ変わりました。建て替え前の姿をご存知の人も多いことと思いますが、同アパートは住まいではなく店舗になっていたのです。

さて、これからのマンションの多くは100年居住が可能になるのではないかと思いますが、特に2000年以降に建設された分譲マンションに期待できそうです。

耐久性の高い建物を設計・施工するという販売者(分譲主・事業者)の姿勢と管理会社の協力による住民の管理意識の高まり、それに伴う周期的な改修工事の実施などが奏功するに違いないと思うからです。

●60年程度の寿命しかないものも多い

100年耐久マンションが増えると述べたことを覆してしまうようですが、全てのマンションがそうだとは言えません。3分の1から半分くらいは50年か60年しか住めないマンションも出てくる可能性は排除できないからです。

正確に言えば、住んで住めないことはないが、50年を経過すると快適とは言えない状態になってしまうマンションがなくなるとは思えないのです。

住んで住めないことはない状態とは、どのような状態を指すのでしょうか?

一戸建ての場合、古くなると家は傾き、雨漏りが発生し、建具の変形がおき、すき間風が入り込むものという常識があります。そこで、あちこち修繕しながら建て替えを先延ばしして50年くらい住み続けるわけです。しかし、老朽化に伴い、たびたび修繕のための出費が嵩みます。ときには多額の費用がかかります。

これは、マンションでも同じです。木造と違って、すき間風は入らないでしょうし、よほど強い地震に何度も遭遇しなければ傾くこともないでしょう。しかし、設備は無論のこと、配管や建具、床材、壁紙などに機能不全、故障、変形、破損などが同じように起きます。

一戸建てにはないエレベーターや共用玄関のエンジンドア、パーキングシステムなど機械の故障になると、マンションならではのものです。

人間に例えると、骨密度が粗くなり、筋肉は衰え、耳は遠く、歯が欠け、噛む力も衰え、内臓機能は低下、食欲も減退するのが天寿を全うする直前の人間の姿です。

中には、持病に苦しんで病院通いが日課のようになってしまった高齢者も少なくありません。

運動や食事に配慮し健康的な生活を送り続けても、人間は120歳以上生きることはできません。

ご存知、日本人の寿命は90歳未満です。40歳で新築マンションを購入した人が、90歳を迎えるときに50歳のマンションに住んでいたとして、そのマンションが健康体でないというのは不快なだけでなく、ストレスの元になるかもしれません。

できれば、まだまだ何も問題なく快適に住み続けられる状態のマンションであって欲しいものです。

●ヒトの寿命が来る前にマンションの寿命が来る?

仮に40歳で築20年の中古マンションを購入し、90歳まで住むと仮定したら、マンションは築後70年です。築後50年くらいから、つまり自分が70歳のころから建て替えが話題に上ってくるケースもあることでしょう。

そのとき、「工事中どこかに仮住まいし、完成したら戻って来る。そんなのは面倒だ。いろいろ不具合が出ていることは承知しているが、このままでも十分住める。 私はもう自分の寿命も終わりが近づいているので、静かに暮らしたい」、そう言って建て替え計画に反対するかもしれません。

入居者の中には、築40年くらいの時点で購入して住む若い世帯もいて、建て替えに賛成する人もあるかもしれません。

何回も住人同士の話し合いが設けられ、合意を得るのに10年、長いと20年もかかるようです。

とすると、建て替え問題で話し合いが繰り返される途中、着工に至らないままあの世に行くことになる住民もあるかもしれません。

つまり、マンションの寿命の方が長いことになるわけです。

ところが、視点を変えると、逆のケースもあります。余命たっぷりの若い所有者もあるからです。若い所有者は、購入時に自分より余命が短いマンションであることを知っているのです。

●寿命が近づいているマンションにいつまで住むか?

築20年くらいの中古物件を購入した場合はどうでしょうか?
35歳のあなたが購入したとすると、30年住んで65歳のとき、築後50年に達したマンションは寿命が近づき、建て替えの話が出てくるでしょう。しかし、住人のあなたはまだ壮年ですから、そこからあと20年以上は住みたいと考えるかもしれません。

築50年のマンションの修繕費は嵩む一方でありながら、このままではスラムに発展する恐れもあるので、積極的に建て替え計画に賛同したとします。

しかし、建て替えには当然ながら多額の費用がかかります。これは積み立てられているわけではありません。入居者個々のふところ具合は異なります。どのようにして費用を捻出するのでしょうか?

マンションの建て替え費用を生み出す魔法があります。

それは「容積率の増加(緩和)」が前提となります。例えば最初1,000坪あった建物延べ面積が2,000坪まで建てられる条件(許容容積率の2倍増しなど)ができた場合に、増えた建物部分を売却することで費用を生み出すことが可能になるからです。

1,000坪のマンションを2倍の2,000坪に増やす、そんな魔法はどこでも通用する話ではありません。法律の改正、都市計画の変更などがあって可能になるのです。また、ここでは詳しく述べませんが、建築計画次第では容積率のボーナスがもらえることもあります。

しかし、容積が増えて建て替えが可能になったとしても、住民の合意形成(法律上、現在は80%以上の賛成を得ること)は困難で、1年や2年で簡単にまとまるものではありません。

もともと修繕費の高い中古マンションに住んで来たことでもあり、今後は更に上がる可能性もある。しかし、建て替えも面倒な話だ。そう考える人は、さっさと売却して存命中に同じ問題にぶつからないような、例えば古くても10年以内のマンションか、広さや場所などの条件が幾分悪くなっても「修繕費の負担が少ない新築マンション」を買って住む道を選ぶかもしれません。

または、自分一人の意思でどうにでもなる「古い一戸建て」でも購入し、メンテナンスやリノベーションを趣味のひとつにするくらいのつもりで移り住むといった道を選択することも考えられるわけです。

つまり、中古マンションを購入した場合は、新築マンションを購入した場合以上に、そこに永住することは難しいということになりそうです。

●住まいは、そのときの事情に応じてフレキシブルに!

自分の寿命が何年かなんて分かるわけではないですし、そのほかのことを含めて何十年も先のことなど予測がつきません。

もちろん現役でいる間は転勤や転職があるかもしれませんし、家族の誰かの事情で不都合な住まいになることはいつでもあり得るわけです。

その意味から、いつでもスムーズに売却できるマンションを購入しておくことが肝心です。

どんなマンションでも売れないことはありませんが、できたら高く売りたい、有利に売却したい。そう考えるのが人情というものです。

であれば、希望価格を大幅に下げなければ売れないようなマンションだけは掴まないようにしなければなりません。

とりわけ、建て替え問題を抱えているような古いマンションを買うのは、多分に冒険と言えるでしょうし、売却する立場でも高くは売れないと考えるべきです。

もっとも、再開発の区域にあり、業者等が買収に動いているような物件なら別かもしれませんが。

 ・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。

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