中長期のマンション市場を展望する

ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

長い目で見たとき、首都圏のマンション市場はどのように推移すると予測できるのでしょうか?マンション所有者にとっては、将来の資産価値がどうなるかという問題に関わることなので、無関心ではないと考えます。

筆者に届く「マンション評価」依頼のメールにも、高い比率でお尋ねのあるテーマとなっているのです。そこで、今日は中長期のマンション市場を展望してみることにしました。

●これまでのマンション市場を整理してみると・・・

新築マンションの市場規模は、大衆化して以降も、いくつかの要因によって大きくなったり縮んだりして来ました。

マイホームと言えば「庭付き一戸建て」と決まっていた時代から、地価の高騰によって庶民の手に届かなくなるに連れて、便利なマンションに目を向ける人を増やし、マンションは一戸建ての代替品(だいたいひん)ではなく、大都市の主要な住居形態として認知されるに至ったのです。

今では、マイホームと言えばマンションを頭に浮かべる人の方が多くなりました。

一方、一戸建ても含むマイホーム需要は人口・世帯数との関係で変動して来ました。昭和50年代は、第一次ベビーブーム世代(団塊世代)が大量にマイホーム取得に走った時代でした。

その後は人口増加が伸び悩むに至り、マイホーム市場も縮小の時代に向かうのですが、平成10年~15年頃は団塊2世が需要として台頭して、再びマーケットは膨らみました。

また、近年は結婚しない(非婚)人の増加と晩婚化に伴い、かつ女性の活躍が「単身者需要」を伸ばしました。

最近は団塊世代が子供の独立に伴って遠方の一戸建てを持て余すに至り、駅近のマンション・都心のマンションに買い替えるという新たなニーズも目立っています。

マンションが大衆化して来た昭和50年代(1970年代)から平成の最近までのマンション市場を新築物件の供給戸数で追いかけてみると、特殊だったバブル期、その前後を外して要約すると、次のようになります。

大衆化が進んだ昭和50年代は、首都圏全体で約50,000戸が毎年建てられました。バブル期には価格の狂騰で供給がストップ状態となりましたが、バブル後は次第に回復して再び50,000戸時代がやって来ました。そして、2000年には90,000戸を超える史上最高の供給が実現したのです。

しかし、その後しばらくは8万戸台が続いたものの、ミニバブルと言われた2005年~2008年は8万戸から7万戸、6万戸と漸減しました。価格上昇が販売を鈍化させたためでした。

2008年に発生したリーマンショックによる世界経済の悪化と2011年の東日本大震災などの影響もあって、販売戸数はさらに減少し、とうとう40,000戸台とピーク時の半分まで低迷するに至ったのです。

この3年ほどは、大震災の復興工事が技能労働者の人手不足をもたらし、これが人件費高騰を招き、ひいては建築費の急上昇となったことで、マンション価格も急騰しました。その結果マンション販売は伸び悩み、今年(2016年)などは年間40,000戸にも届かないのではないかと囁かれているのです。

●マンション開発の担い手が不足

団塊2世と言われる世代は今40歳前後になっていますから、マンション購入のピークは過ぎたと見られます。従って、マンション市場が大きく伸びる期待はできなくなっています。中短期的に見たとき、現在の低迷から回復しても新築マンションの販売戸数は平均すれば、年間40,000戸台、良くて50,000戸ではないかと思います。

実は、需要があっても新規供給が伸びにくい理由(事情と背景)があるのです。

理由は二つあって、ひとつは「適地不足」です。土地がないという嘆きは今に始まったことではないのですが、バブル後の一時期、「土地の含み益」に長年依拠して来た企業が、リストラの一環として次々に大規模な保有地を手放しました。

その恩恵を享受できたのがマンション業者で、垂涎の土地を取得し、得難いマンションを次々と開発したのです。2000年代初頭の大量供給(9万戸・8万戸)の背景となったというわけです。しかし、その放出の流れも一巡し、優良なマンション用地は大幅に減ってしまいました。

二つ目の理由は、マンション供給者の減少です。かつて首都圏には500社を超す「マンションデベロッパー」が存在しましたが、今では100社もないのです。多くの中小デベロッパーが経営破たんし、2008年~2010年頃に消滅また事業を縮小してしまったからです。

中小デベロッパーは、大手のやりたがらない立地や小規模敷地で積極的にマンション開発を行って来ましたが、その棲み分けの相手がなくなっているのです。新興デベロッパーも出て来たものの、その数はごく僅かです。

かつては手を出さなかった土地にも大手が積極的になっているという分析もあるのですが、中小デベロッパーの分野で取って代わるとまでは行かないものと見られます。

●長期的に見れば新築マンションは減少傾向になる

中・短期的には、建築費の下落や景気の低迷などを起因として、価格の下落も起こることでしょう。そうなれば、再び新築マンション市場は活発になるでしょう。しかし、どの程度まで市場が回復するかというと、悲観的な予測しかできないのです。

大きな回復を見ないうちに、縮小した市場はそのまま常態化してしまうことになるかもしれません。理由は、首都東京ですら人口の伸び悩み、もしくは人口減少時代に向かうからです。

それだけではなく、人口並びに世帯構造がマンション需要の減少を招くかもしれません。

先に述べた、シニアによる一戸建てからマンションへの買い替えも需要の中心になるとは考えにくいこと、地方から首都圏への人口流入が大幅に伸びなければ住宅需要も伸びないこと、少子化は世帯分離による新たな住宅需要の発生につながらないことなどが考えられるからです。

東京都心のいくつかの区は、手厚い子育て支援策を講じたことで人口呼び戻しに成功しています。その策が他の自治体にも波及すれば、少子化に歯止めをかけることができるかもしれません。

また、子供が増えても生活に困窮しない所得の向上や職場の理解といった策が奏功し、「産めよ増やせよ」的な社会現象がやって来れば住宅市場(需要)も大きく変わることでしょう。

しかし、人口増加はおろか、少子化と人口減少の波を食い止めることは、現状では難しいと予測している専門家ばかりです。

景気のせいで、地方都市から東京へ移入する人が多く、東京だけは国全体の傾向と反対の動向にあるとはいえ、これがどこまでも続く保証はありません。根本的な対策は、結婚したい人が増え、子供は2人欲しいという空気を拡大するしかないのです。

●高齢化は空家を増やす

東京も高齢化の波だけは着実に到来しています。子供が増えないので、シニア層の比率は黙っていても増加します。

シニア層の住まいは誰も住まない家となるときが来るかもしれません。国全体で見れば、ご存知のように空家は既に何百万戸もあるのです。今後も増え続けて、空き家3割時代がやって来ると言われるようになってしまいました。

残す相手もいない、そんな独居シニアの住まいも増えて行きます。家余り現象は社会問題になって来ました。

余った家は、ただでも要らないと見捨てられたままになっている現象も見られるようになって来ました。買い手が付けばよし、借り手も付けばよしですが、どうにもならない家も今後は一段と増えることでしょう。

親から相続した家を売るか貸すかで悩んだ末に、二束三文で売却という選択に至る人も増えるでしょう。

●中古を蘇らせるビジネスの拡大

かつて、一戸建てが買えなくなったからマンションだとしてマンションが大衆化し、都会では当たり前の住居形態となったマンションですが、そのマンションですら新築は開発が困難な状況となり、たまに希望地で売りに出ても手が届かない時代になったら、マイホームを買いたい人は何をどこに求めればいいのでしょうか。

そうです。中古住宅・中古マンションを買うしかないのです。新築がいいに決まっていますし、日本人の感覚としても新築志向は当たりまえのこととして認識されて来ましたが、これからは変わらざるを得ないのです。

長期的に見れば、東京ですら需要は確かに減少して行くに違いないでしょう。しかし、その需要を満たすだけの新規開発も難しいとしたら、余った中古に向かうのは自然な流れです。

読者の皆さんもご存知の「リノベーション」物件が、新築にとって代わる可能性が高くなりつつあるのです。

既に大手マンション業者も僅かながらリノベーション物件を手掛け始めました。今後は市場でのシェアを増やすものと予想できます。

●中古マンションも新築並みの価格に?

好むと好まざるを問わず、今後は中古も新築と並行して検討していくことが求められそうです。ただ、問題は価格です。

需要が増加すると、売買の動きは速くなりますが、新築がなく中古も品数が少ないエリアにおいては、需要と供給の関係から中古価格は強含みになります。反対の場合は、価格の下落圧力が高くなるのです。

需要ボリュームはときどきで変化します。金利情勢、景気動向、価格動向などが作用して増減するのです。

また、需要が一時的に後退したとき、物件数が多くなるわけですから、そこで競争が激化し、価格は下落します。その反対の時期もあるでしょう。

より優れたマンションを求めれば、勢い価格は高くなり、そのとき新築を超える優良中古マンションも多数生まれることになるかもしれません。

今後は中古マンションの品定め術を磨くことが求められるでしょう。同時に、買った我が家をいかに高く売るかの策も練っていくことが大事になるかもしれません。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。

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