環境ギャップ。大規模マンションを検討するときの視点

このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
~~~~最近は更新回数を増やしていいます~~

環境が開発前と大きく変わったと言われる街は、首都圏各地にいくつあるのでしょうか?長年、ここに住み、仕事がら各地を歩き回って来た筆者も、一度しか降りたことのない街、何度も行ったが最近はご無沙汰の街、今もよく通過する街、頻繁に乗り降りする都心のターミナルなど、多岐に渡ります。

そんな中、久しぶりに行ってみた街が「変わらないなあ」と感じることもあれば、感動的な変貌ぶりを見せる街など、変化を続ける首都圏も、その差は随分大きいことが分かります。

10年以上も変わっていないのではないか、そんな感想を抱いたある街の、ある大型マンションの現地を訪れました。価格は安いのですが、駅から距離があるので、販売は苦労するだろうなと思わせる立地(環境)でした。

●環境創造型マンションの価値

さて、マンション開発の現場では「環境創造型マンション」という表現が存在します。マンション建設が新たな環境も創ってしまうというもので、敷地内にプライベートな庭園や高木から中低木までを植樹し、花壇を造って春夏秋冬きれいな花を咲かせるといったデザインを施すことで建設地を従前の姿から一変させてしまう開発のことを意味します。

当然ながら、大規模な開発でのみ使われる用語です。何万ヘクタールという広大な土地なので、元は工場だったというケースが圧倒的に多いわけです。

この用語は、街並みや環境が美しいとは言えない地域、言い換えると、その多くが「工業地域」に指定されている地域内のマンション開発で用いられるものです。言うまでもなく、開発用地は工場跡地であることが多いのです。

過去に開発された、少なくとも1000戸以上の大規模マンションを思い起こすと、駅前にあるものは、駅で降りたとたんに美しい街の景色が目に飛び込んで来ます。「面開発」という言葉のイメージから面的な広がりが想像をしてしまいます。事実、イメージ通りのマンション群がそこにあったというケースは多くありません。

最近では、船橋市の東武野田線「新船橋」駅 徒歩1分「プラウド船橋」総戸数1497戸がその代表として挙げられます。

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(画像出典:大成有楽不動産)

面開発は駅前で行われることは少ないと述べましたが、駅前に広大な工場やグラウンド、学校などがないからです。駅前で大型マンションが開発されるとしたら、その大半がタワーマンションです。戸数500戸以上の駅前マンションなら数えきれないほどです。ご存知の通りです。

これらを面開発とは言わないようです。戸数は多いが、敷地は狭いので足元の緑地面積もさほど広くないからです。

話を戻しましょう。駅前でないものも含めて面開発マンションを思い出して行くと、最近の事例で何故か最初に浮かんだのは、「横浜 ALL  Parks ザ・タワー(売主:ナイス・相鉄不動産・近鉄不動産ほか)」でした。

2011年3月に完成した、全4街区・12棟から成る、1424戸の大型 マンションで、11個のPARKと共に暮らす緑が豊富な住環境を謳った物件です。

京浜急行本線の各駅停車「八丁畷」駅からは徒歩8分ですが、JR線「川崎」駅からは徒歩19分と遠く、交通便が良いとは言えない立地条件がネックでした。

しかし、約4000平方メートルもの公開空地「グランドパーク」と外周部の公開空地を含めて、植栽された樹木は2万6000本以上、樹齢にして数十年ぐらいと思われる高木もたくさん植えられているそうです。

2012年3月の竣工時点で約200戸が残ってしまったのが残念ではあったものの、それからほどなく完売に漕ぎつけたと聞きました。

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三井不動産が手掛けた「パークシティさいたま北」も記憶に新しい物件です。

埼玉県さいたま市北区のJR高崎線「宮原」歩6分・埼京線・川越線「日進駅」徒歩8分の1045戸の大型マンションです。418戸(アークレジデンス)、343戸(ガーデンレジデンス)、100戸(ブライトレジデンス)、184戸(コートレジデンス)と、複数の棟による面開発でした。2010年3月竣工

当時の広告によれば、「住宅・商業・業務・公園・学校ゾーン等により構成される総開発面積約16.8haの土地 区画整理事業地内に誕生する 計画戸数1,045戸の大規模マンション」 とあります。

500戸以上1000戸までの面開発的なマンションとなると手元の資料には2010年以降だけでも少なくとも50件以上もあります。全部がそうだということではありませんが、数が多いだけに、どの物件も様々な付加価値を検討・採用し魅力アップを図って販売を成功裏に収めて来ました。

各社の工夫の中で共通するのは、価格の安さであったと思います

面開発は緑地スペースを広くして完成後の姿(環境の良さ)をアピールするだけでは大量戸数を所定期間に売り切れないと判断するためです。それまでの地域イメージを覆すには開発コンセプトが素晴らしいだけでは不十分であり、ここにこんな素敵な住宅ができますよ。しかも安いのです」と訴求しなければなりませんでした。

プラウドシティ船橋の場合は、イオンショッピングモールの誘致と、都心に向かうには不便な東武線・新船橋駅が最寄りとはいえ、1分の近さがプラスの値打ちと受け取られて短期間で完売してしまいましたが、駅から近くない他の3物件は、販売に苦労したようです。

●ひとつのマンションだけで環境を変えることの限界

近年注目を集めている「武蔵小杉駅」をご存知の読者は多いと思いますが、この駅の周囲は民間企業の工場や倉庫、研究所、グラウンドなどが多数集積していた街です。そこで働く従業員の住まい(社宅)もあったに違いありません。

それらの土地を取得したデベロッパーが次々とマンションを建設し、今や高層マンションが林立するニュータウンとなりました。官民一体の開発として進められてきたので、駅前なども整備され、ご存知のように「武蔵小杉東急スクエア」や「ららテラス武蔵小杉」、「グランツリー武蔵小杉」の大型ショッピング施設を筆頭に、お洒落で魅力的なショップが多数集まり、人口増加地域、首都圏の住みたい街ランキング第4位(2016年)に入るなど、注目の街と変貌したのです。

このような例は過去に類例を見ないものです。武蔵小杉エリアで開発を先導したのは三井不動産だったと思いますが、その後、野村不動産や住友不動産、東急不動産など、大手デベロッパー中心に、それぞれの個性でタワーマンションを建てて来たのですが、最終的には、東京ドーム約19個分に匹敵する約92haもの広大な開発が行われるのだと聞きます。、

つまり、全体を面開発と捉えることができるわけです。住宅・商業・文化一体型の大規模面開発が10数年をかけて進んで来たということになるのでしょう。

●孤独な面開発

最初に例示した4物件は、その開発が終わったあと、その街がどのように変わったかを追跡すると、少なくとも武蔵小杉のようにはなっていないし、なりそうもないようです。

マンションは大規模であれば、そこに公園も、診療所も、スーパーも併設することは可能でしょう。しかし、その数にはおのずと限界があるはずです。スーパーマーケットを併設という例は少なくないですが、そこですべてが賄えるかは規模次第でしょうし、内科・小児科の診療所があっても他の科目の診療所を複数用意するのは難しいのが現実です。

雨に濡れずに買い物ができるし、子供の具合が悪いと気付いたときも直ぐに駆けつけることができるでしょう。しかし、これらは、必要最小限の施設に過ぎません。基本は、マンションの外にどのような施設が揃っているかにあります。

マンション選びは、ある意味で街選びなのです。「駅力」と言いますが、駅の周りに豊富な店舗や飲食店、娯楽施設、文化施設、塾や趣味の教室、文化施設や行政庁、郵便局といった生活インフラがあり、暮らして楽しいこと、別の切り口で言えば「賑わい」のある街ほど住みたいと考える人が多くなります。

神奈川県なら、先の武蔵小杉や横浜、川崎のような街、都区内では恵比寿、中目黒、二子玉川、吉祥寺といった街が代表的です。

このような街はマンションの価格も高くなりますが、需要が供給を上回る状況も続くために中古マンションの人気も高くなる傾向を見せます。

翻って、駅力の低い街の面開発は、駅前マンションを除くと魅力に乏しいマンションと言わざるを得ないのです。

マンションが完成すると、見ようによっては砂漠の中のオアシスのようであり、掃き溜めに鶴のようであると、昔ある有名な建築士さんが例えていました。駅を降りて建設地まで歩く途中に目に入る景観と、完成したマンションとマンションを囲む緑地などの景観とのギャップは大きいということを極端に表現したものでしょう。

もし、その開発に続いてくれるデベロッパーが次々と出て来れば、遠くない将来は武蔵小杉のように魅力的な街に変貌して行くかもしれません。周辺には大きな工場や倉庫、資材置き場等があるはずです。これらが徐々に土地を放出してくれれば、マンション開発に乗り出してくれるかもしれません。マンションが増え、人口が飛躍的に増えれば、各種商店も飲食店も繁盛し、店を改修して、あるいは規模を拡大することでしょう。また、新たな出店もあるに違いないと思います。しかし、公園や街路の整備は自治体の仕事なので、民間業者だけでは街の魅力を高めることは難しいわけです。
いつかは、自治体も動き出すかもしれませんが、民間業者は当てにならない将来展望を下に開発・販売に踏み切るのは躊躇せざるを得ません。

鶏が先か卵が先かの論議ではありませんが、少なくとも公は整備計画を示さなければ民間業者は孤軍奮闘に追い込まれるだけと言わざるを得ません。

そうしたマンションを購入するには、勇気が必要かもしれません。将来展望が鮮明ではないのですから。

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