第588回 供給過多エリアで検討するとき


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第587回で説明したように、新築マンションは随分少なくなりました。しかし、局地的な集中供給の地区は結構あるものです。

少し遡って思いつくままに並べてみると、都心では日本橋アドレスの複数駅、武蔵小杉駅(東横線ほか)、浦和駅・南浦和駅(京浜東北線)、おおたかの森(TX線)、品川シーサイド駅(りんかい鉄道)、国分寺駅(中央線)、海老名駅(小田急線)、津田沼駅(総武線)といった駅(街)あります。

こうしたエリアで検討するとき、気になるのは「供給過多」です。筆者に届く「マンション評価」のご依頼のメールには、「供給過剰ではないか。将来の値崩れが心配」と書き込んで来られる人が8割はあります。

今日は、そのようなご心配に、ひとつの指針をお伝えしようと思います。

●土地がないはずなのに大量供給がなぜ起こる?

東京都心でなくとも、首都圏の駅周辺は大体が密集しており、マンション開発の余地など全くないといって過言ではありません。遊休地はなく、マンションが建ちそうな土地を探してみると駐車場になっていたりしますが、その規模は小さく、高々14階建て50戸程度のマンションが建てられるかどうかです。

大量供給が可能になるのは、大型敷地を抱える企業の工場・倉庫・研究所・社宅・老朽化した古いホテル・賃貸マンション・雑居ビルなどの跡地です。

少子化の影響で廃校になった学校跡地などという例もあります。自治体の保有地では、ほかに埋立地もありますね。国有地の売却もたまに行われます。

しかし、ひとつの駅に立て続けに売地が現われ、それらが同時期にマンションに建て替えられて売り出されることは少ないものです。

10年で人口が3倍になった豊洲のように、また近年の武蔵小杉のように、多数の企業が土地を手放し、継続的にマンション開発が可能になるエリアは少ないのです。

駅前の密集地で大型マンションが突然発売されることもありますが、大きな敷地を抱える法人は少ないので、どちらかというと、小規模な個人地主が組合を結成し、デベロッパーとゼネコンを巻き込んでの再開発マンションです。仕掛け人は大抵ゼネコンです。

多数の個人の意見をまとめ上げることは簡単でなく、5年も10年も時間がかかります。ようやく合意形成ができて着工・販売ができても、その1棟で終わり、つまり単発なのです。品川区の武蔵小山駅は、第二、第三の再開発があるらしいですが、これなどは例外的です。

同時期に、若しくは継続的に大規模マンションが出て来るエリアは、そのエリアに法人所有の大規模敷地が複数残っていることが要件になるわけですが、そのような場所は限られます。武蔵小杉が典型的です。

冒頭の挙げた駅でも、1物件単位で見ると中小規模ばかりなら、それは偶発的と見るべきなのです。日本橋エリアの小型マンション連発は中小零細企業オーナー(実質的な個人商店)の間で土地売却が流行したもので、一時的なものです。

戸数の少ないマンションが多いので供給過多とは映らないようです。皆さんが心配するのは1棟が300戸を超える大型マンションが同時期に3棟も4棟も売り出される場所で検討する場合なのです。

ともあれ、大量供給が一時的に集中することは、今後もどこかであり得るわけです。大規模な法人や自治体所有地から多数の供給が行われることが確実なエリアは東京都中央区の晴海です。ご存知、オリンピック選手村5650戸の住宅を筆頭に、この辺りは貸倉庫なども残っているからです。

古い街ほど、防災の観点から再開発が必須とされているだけに、今後は再開発と、その事業に触発されて第二、第三の再開発が具現化する可能性はあります。

●大量供給は後年、中古市場に大量放出?

将来たくさんの売り物が中古市場に放出されて過当競争が発生。その結果、価格が下がる・相場が崩れる。このようなご心配かと思います。

新築マンションが中古マンションとして売りに出されるのは、築10年前後が多いというデータもあるので、同時期に完成したマンションが多数あれば、10年後に中古市場に大量に売り物が出て来るのではないかという心配は確かにあるかもしれません。

同じマンションから同じ面積・同じ向き・同じ間取りの部屋が同時に売りだされれば、価格競争になるかもしれませんね。一人が売り急いで安くしてしまったら、それが指標になってしまい、他の部屋も影響を受けるでしょうね。

現実はどうかというと、運・不運もあるのですが、大規模マンションでも同じようなタイプの部屋が同時に市場に出る確率は意外に小さいのです。

優良物件は手放さない人も多いので、市場には出回らないこともあります。仮に、相場が多少下がっても、競争力の高い物件・希少価値の高い優良住戸を持っておけば、さほど気にしなくても良いのです。

一時的に大量供給が行われることが問題ではなく、過去10年、20年の累積戸数が問題になるのです。そのエリアに多くの売り物があって、買いたい人が少なければ、価格は下げる方向にありますが、人気エリアで買いたい人が多ければ、売りに出た物件は次々に買い手が付いて市場から消えて行きます。つまり、過当競争は起こりにくいのです。

再開発によって町ぐるみ作り変えられたようなケースは、マンション単体の魅力だけでなく、街全体に住みたいと思う魅力が高まるので、需要は多く集まります。

そのような魅力的な街では、ある人は築20年の物件を買い、ある人は大量一時供給されたときの10年マンションを買うでしょうし、別の人は築5年の数少ない物件を射止めるのかもしれません。要は、中古需要が供給数とバランスしていれば良いのです。

●問題は競争力にあります

とはいえ、その魅力的な街にあるマンションといえども、魅力的な物件とそうでもない物件、程度の劣る物件というふうに格差はできてしまいます。

同じ駅でも、徒歩15分では敬遠されることでしょうが、駅5分の立地なら引く手数多(あまた)になるでしょう。

しかし、駅に近いという点で競争力がありそうなマンションでも、安さに釣られて1階の日当たりの殆どない住戸を買ったために買い手が中々つかず苦労したという話はときどき聞きます。

反対に、東南の角部屋の90㎡を買ったために、売り出したら1日に5人も見学者が押し寄せたという例もありました。

要するにマンション選びの大事なことは、

①街や沿線同士の競争というマクロの視点、

②地域内競争という視点、

③最後に住戸間競争の3点にあるのです。

初めに戻って、大量供給が心配される地域の物件を検討するときは、地域内競争と特定マンション内競争という観点でよく品定めをしなければなりません。

嫁一人に婿5人、しかも持参金付きでなければ売ってあげないと、大げさな言い方ですが、そのくらいの価値あるマンションを可能な限り選んでおくことが大事になるのです。「ミス日本」は無理でも「ミス◎◎町」くらいには選ばれるようにしたいものです。