新築マンション市場の現況と展望

このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

値上がりが続いて来た新築マンションも、ようやく頭打ちになって来たようです。しかし、下がる傾向はまだ見えません。2016年1月25日の記事「2016年のマンション(新築)市況を振り返る」でも少し触れましたが、もう少し掘り下げつつ今後を占ってみようと思います。

●新築マンションの価格動向

昨年1年を振り返ってみます。(データ出所は不動産研究所)

経過を見ると、上半期は前年同期比で9.2%の上昇(坪単価)でしたが、下半期は前年割れの月が何度も出て、結局は年間で+1.8%とわずかな上昇に留まったのです。
2017年に入って、1月は前年同月比24.8%の大幅上昇、2月も同2.0%の上昇となっています。

1月の中身は、23区が牽引した格好でした。タワーマンションの上層階プレミアム住戸と、いわゆる全部が億ションの高級物件を合わせて、高額マンションが多数売り出されたため、単価も平均で@435万円(前年1年の平均332万円)と比べると30%も上がり、1戸当たりの価格も9148万円と、同6629万円から+38%と大きく上昇しています。

1月は特殊な月だったようです。

2月の1戸平均価格は23区だけを取ると5793万円と、前年同月比で20万円(0.3%)アップ、坪単価は2.0%アップとわずかな上昇に留まりました。

●新築マンションの供給状況

2016年の供給戸数は、35,772戸と前年2015年の40,449戸に比べ11.6%減少しましたが、この数字はバブル崩壊後の1992年以来24年ぶりの低水準です。

所得が伸び悩む中、人手不足に伴う建築費の上昇でマンション価格が高騰した結果、需要が冷え込み、業者が発売を絞る動きが広がったためと考えられます。前年割れは3年連続となっています。

2000年から2016年までの供給戸数の推移を見ると、実に興味深いデータが表われます。

2016年:35,772戸、2015年:40449戸、2014年:44,913戸、2013年:56,478戸、2012年:45,602戸、2011年:44,499戸、2010年:44,535戸、2009年:36,376戸、、2008年:43,733戸となっていますが、過去9年間の平均は43,595戸です。

これに対し、それ以前の8年は、平均82,706戸だったのです。
(2007年:61,021戸、2006年:74,463戸、2005年:84,148戸、2004年:85,429戸、2003年:83,183戸、2002年:88,516戸、2001年:89,256戸、2000年:95,635戸)

47%減、大雑把に言えば、10年前の半分に減ってしまいました。

●何故こんなに減った?

どうしてこんなに減ってしまったのでしょうか?考えられることは次の通りです。

➀売れないから発売戸数を絞っている
マンション販売は、1期・2期・3期と「分割して売り出す」というのが常套手段です。50戸程度の小型マンションでも一気に50戸全部を売り出さず、3回なり5回なりに分けて、大規模になると、最後の方は一体何度目の売り出しかかが分からない「小出し分譲」が常態化しています。

この戦略を採るには深い理由があるのですが、それはさておき、50戸売り出して40戸が売れ残るより、10戸売り出して完売させる方を選んでいるのは事実です。

つまり、売れそうな戸数しか売り出さないという手法なのです。昨年の供給戸数が24年ぶりの低水準だったのは、販売にかけることが可能な住戸が多数ありながら売り出さなかったわけです。それは、工事中であり、完成していても、そう遠くない将来売り出されることは確実です。

販売しないで凍結するとしたら、賃貸資産に換えるということになるのですが、その選択は滅多にないものです。分譲マンションだから買ったのに、いつの間にか半分が賃貸マンションになっていたとしたら、買い手の反感を招くことになるでしょうし、決算数字にも大きな影響を与えるからです。

着工済みのマンションは、遅まきながら販売されるでしょうが、翌年度に繰り越されて行く戸数が増えてしまうことになるはずです。

未発売住戸が多数にのぼれば、次の新規販売物件の着工を止める、つまり土地だけ寝かすということはあり得ます。

短期的には「売れないから」が妥当な分析であるとしても、この9年間が低水準だったことの説明には不十分です。

②供給の担い手が減っている
作り手がいなくなったのです。2008年秋に起きた「リーマンショック」は世界金融危機と世界同時不況を招きました。

日本も例外ではなく、百年に一度の不景気が来るとの危機感が広がり、とりわけ金融機関はバブル崩壊の過程で巨額の不良債権を抱えてしまった経験から、守りの姿勢を強めました。

その影響を最も強く受けたのが、負債比率の高い中小マンション業者とゼネコンでした。
マンション供給戸数で一度は最大手「大京」を抜いて全国一位になった穴吹工務店を筆頭に、個性派のマンション業者が、株式上場企業も含めて銀行から資金を止められ、多数倒産してしまいました。

大手は大規模や高額高級マンションを、中小は大手が手を出さないエリアと中規模以下のマンションをと住み分けしていた業界でしたが、その構図が崩れ、中小業者の分がごっそりと減ったのです。

➂適地がない

三番目の理由は、用地の取得ができなくっていることです。

良い土地が中々ないと嘆きながらも用地を確保し、マンション供給を続けていた業者に強い順風が吹いた時期がありました。バブル崩壊後の地価下落過程で、法人・団体は一斉に土地を放出し出したのです。

それまでは一度取得したら手放さないで抱え込むことが「日本式の含み経営」のメリットであり根幹をなすものでしたが、右肩上がりの土地神話が崩壊し、並行して会計基準が国際化されたとなどによって、方針転換する企業が続出しました。

社宅、グラウンド、工場、倉庫、資材置き場、廃校や移転で空いた学校など、マンション業界にとって垂涎の土地が次々とマンション業者の手に渡りました。1995年頃から、ある種のブームのように数年間続きました。その結果、バブル期には殆んど途絶えていた(※)と言って過言でない新築マンションが息を吹き返したように多数開発され、市場に送り出されたのです。

(※1991年の首都圏全体の新規発売戸数は、2016年の戸数35,772戸も下回る26,248戸と低水準だったのです)

●新築需要はどのくらいあるのか

ところで、先にみたように、最近9年間の平均43,595戸という供給戸数は、それ以前の半分というレベルですが、需要はどのくらいあるのでしょうか? 売り出しても売れないから供給戸数を絞ったというのは、それしか需要がないからではないのか、そんな疑問も残ります。

価格急騰が需要の減退を招いたのは確かですが、需要が喪失したのではなく、一時的に地下に潜っただけです。価格と購買力のミスマッチが解消されれば再び頭をもたげて来るに違いありません。

こうした購買予備軍を含めた需要は年間にどのくらい発生しているのでしょうか?
シングル需要、DINKS需要、シニア需要、セカンドハウス需要、一戸建てからの買い替え需要などなど。

この答えとなる適切なデータは見当たりません。しかし、市場実感として言えるのは、50,000以上はあるということです。

2000年からリーマンショック前年の2007年までの年間供給戸数は、80,000戸を超えることとなりましたが、この頃は特別でした。バブル期の供給不足がウエイティング需要を蓄積させていたからです。そして、爆発的な売れ行きをもたらしたのです。

ところが、2006から2008年にかけて価格が急騰して販売率が悪化。そこへリーマンショックと言われた金融危機が勃発。これが契機となって世界同時不況が発生。この影響で売れ行きが一段と悪化し、その後の価格下落につながって行きました。

価格の下落が止まったのは、2012年でした。販売状況も上向きかけていました。しかし、供給戸数は伸びませんでした。原因は先に見た「用地不足」などにあったのです。 

用地不足は、企業のリストラ(土地の置き換え・単純放出)が一巡してしまったからです。特に大規模敷地は湾岸エリアに限られてしまったかのようです。

超長期で見れば、人口の減少が住宅需要の減少をもたらすことは間違いないですが、首都圏、とりわけ東京都区部は減少スピードが遅いと考えられています。最近も全国の傾向と逆の増加傾向にあります。

こうした背景を見ながら考察して行くと、向こう10年程度で需要が2割も3割も減ってしまうことはないでしょう。しばらくは50,000戸程度の需要はあると見てよいのです。まあ、減っても40,000戸くらいは維持できるはずです。

そんなマクロ市場とは別に、都区部・都心などという特定エリアになると需要は底堅く、むしろ増えると見てもよいかもしれません。

●今後はどうなる=供給戸数は低迷する

前回の価格高騰期(2005年~2010年)の初期は、買い急ぐ人が増えて爆発的な売れ行きとなりましたが、その後は需要がついていけなくなって売れ行きが悪化しました。売れ行きが悪化して、値引き販売が横行したのが、2007年後半からリーマンショック後の2009年でした。

しかし、統計上の価格は値引き実態が反映されないため、2009年、2010年と高い状態にありました。統計上、明確に下げが表れたのは、2011年に入ってからでした。2012年もその流れが続きました。この2年間が底這いの時期だったとするなら、僅か2年でそれが終わり、2013年からは再び値上がり局面となって2016年まで続いて来たというわけです。

2016年は販売率が低迷し、それが売り出しを停滞させたわけですが、2017年以降はどのように推移するでしょうか?

既に見たように、用地の取得難は解消されていないので、今後も最近9年と大差ない状況が続くことでしょう。売れ行きが大きく好転すれば増える可能性はあるでしょうが、売れ行きが良くなる材料もないので、2017年も2016年から大幅に増えるとは考えにくいのです。

つまり、今年も買い手にとって、品不足の中での苦しい選択を強いられる可能性が高いと見た方がよいでしょう。

●今後はどうなる=価格も大きく下落することはない?

新築マンションの価格は、「用地費+建築費+利益」という構造になっています。この3要素について、それぞれの見通しを述べましょう。

➀建築費は頭打ちだが下がる傾向にもない

建築費に関しては悲観的な見方が支配的です。つまり、まだ東日本震災の復興需要は残っていますし、国土強靭化政策によるインフラへの公共投資が急増しているうえ、今年(2017年)は東京オリンピック関連需要が本格化して来るからです。

オリンピックは、国立競技場の建て替えや各種競技の会場建設、老朽化した高速道路の改修をはじめとする道路工事、民間ではホテル建設などが、合わせて兆円単位で発生すると言われます。

渋谷駅や品川駅、新田町駅周辺の再開発、虎ノ門・神谷町から六本木・麻布台にかけて行われる再開発、日本橋界隈の再開発など、都心の再開発は目白押しで、これらはオリンピック後も続くと見られますが、3年後には東日本の復興関連もピークを過ぎているはずで、建設業界には一服感が出ていると予想されます。従って、3年先には建築費も低下傾向に転じているかもしれません。

②用地費が安くなるとも思えない

マンション用地は、ある程度まとまった大きさが必要であり、かつ交通便が良いことや環境が良いことなど、マンション建設にふさわしい条件を具備している必要があります。ところが、そのような土地はそうそう沢山あるわけではありません。

工場や倉庫、社宅、ガソリンスタンド、運動場などが企業のリストラの一環や移転、廃業といった事情で売り出されると、マンションメーカーはこぞって入札に参加します。そして、一番札を入れた企業に高値で売却されます。

最近の報道によれば「敵はホテル」とあります。また、流通倉庫が足らないそうです。そういえば、マンションデベロッパーでもある大和ハウス工業が有明エリアで大型の売地を最低入札価格の2倍の高値で落札したというニュースを聞いたときは、まさかと思ったのですが、後日その土地はマンション用地として取得したものでなく、物流基地用に取得したと伝わって来ました。

マンション市況が良いときは、マンションメーカー各社は土地取得に積極的になります。高い札を入れてでも優良な土地は何とかして確保しようと前向きになるのです。その結果、新聞発表の上昇率3%などとは大きく隔たりのある高値取引が成立してしまっています。

マンション市況が悪化してきたため、今後は少し様子が変わってくるかもしれません。しかし、まんしょん業者以外の競争相手も多いので、用地費が下がる見通しは持てません。

➂利益を圧縮する

以上から、用地費が下落しそうになく、目先の建築費も下がらないとするなら、最後の手段は利益の圧縮しかないことになります。しかし、元々分譲マンションの利益率は多くないので圧縮するにも限度があるのです。

前回の低迷期にも価格が直ぐに下がらなかった(売れ行き悪化のピークは2007~2009年だったが、価格が下がったのは2010~2011年とずれ込んだ)根本要因は、ここにあるのです。

マンション開発は2年前後の時間を要するので、高く仕入れてしまった土地上に、下がりそうにない建築費をもって今後建てられるマンションは、どう見ても昨年から大きく値下がりするとは思えません。

●今後はどうなる=粗悪品が増える?=郊外に向かう?

最後の手段は、商品戦略の見直しでしょうか。 既に傾向は見られるのですが、面積の圧縮によってグロスの価格を安くするという作戦が挙げられます。

次に採る作戦は、商品グレードを下げるというものです。詳しくはここで述べませんが、見えない部分で設計の簡素化を図り、また、工事の省力化につながる設計を行うことによって実質的な商品価値の低下を図る動きです。これが一段と進む可能性がありそうです。

過去3年か4年の経過から受ける印象は、既に行きつくところまで到達しているとも思えるのですが、もっと策があるのかどうか、確信は持てません。

また、地域的な変化も見られるかもしれません。つまり、最近は敬遠されて来た都心から離れた地域や、バス便立地などの供給も増えてくるかもしれません。こちらも断定はしにくい点ですが、考えられる策です。

いずれにせよ、注視して行くほかありません。

●新築価格に接近するする中古

新築マンション市場が以上に述べた状態で推移するなら、中古マンションの人気は当分続くことが考えられます。中古も価格高騰は顕著ですが、数だけなら市場に溢れています。

ただし、物件固有の条件、価値に大きな格差があるという事実に着目しなければなりません。安いというだけで飛びつくのは考えものです。

反対に、「中古なのに、何故こんなに高いのか」、そうぼやく声もときどき聞こえて来ます。そして、リフォーム代を加えたら新築と変わらない中古という実態もあります。

同じ値段なら新築がいいよと言ってみたところで、新築がないのなら中古も視野に入れなければマイホームは買えない。それもまた現実なのです。

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