まだ少ない免震構造のマンション

ブログテーマ:元、大京マンが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

9月5日の本ブログで「免震構造がトレンドになる」と書きましたが、この記事を読まれた方から「免震構造の物件はどのくらいの割合に増えるでしょうか?免震構造を条件にして選択するのは無理がありますか?」という質問メールが届きましたので、そのことにお答えしたいと思います。

●新築マンション情報:免震構造の物件(関東)
リクルート社の不動産情報サイト「スーモ」で免震構造の新築マンションの数を数えてみました。2011年10月5日現在、販売中・販売予定を含み、同サイトに登録された物件数は、僅か27件でした。
これは、1都3県合計の1144物件数に対し2.4%に相当します。
(制振構造は含みません)
東京都741物件(シェア64.7%)+神奈川県215物件(同18.8%)+埼玉県111物件(9.7%)+千葉県77物件(6.7%)=1都3県合計1144物件

( )内の数字は高さを指します。
1. グランスイートブルー(22F・2012年1月完成予定)丸紅 335戸
2. ザ・パークハウス 新宿タワー(20F・2012年1月完成予定)三菱地所レジデンス 298戸
3. 浅草タワー(37F・2012年2月完成予定)三菱地所レジデンス×三菱倉庫 693戸
4. シティタワーさいたま新都心(32F・2012年5月完成予定)住友不動産 419戸
5. ミッドオアシスタワーズ(32F・2010年8月完成済)三菱地所レジデンス 705戸
6. ザ・湾岸タワー レックスガーデン(31F・2012年9月完成予定)正友地所 456戸
7. ザ・タワーレジデンス大塚(23F・2012年5月完成予定)東京建物・三菱地所レジほか2社 201戸
8. パークハウスつくば研究学園(20F・2009年1月竣工済)三菱地所レジ・NTT都市開発 550戸
9. プラウドタワー相模大野(26F・2013年3月完成予定)野村不動産 308戸
10. 二子玉川ライズ タワー&レジデンス(42F・2010年4月26日完成済)東急電鉄・東急不動産 1033戸
11. ザ・パークハウス 津田沼奏の杜(17~24F・2013年1月~4月完成予定)三菱地所レジデンス 721戸
12. エクラスタワー武蔵小杉(39F・2013年3月完成予定)東急電鉄・東急不動産ほか2社 326戸
13. シティタワー有明(33F・2010年03月竣工済)住友不動産 483戸
14. Brillia(ブリリア)大井町ラヴィアンタワー(28F・2012年8月完成予定)東京建物 269戸
15. ル・サンク大崎ウィズタワー(25F・2013年11月完成予定)株式会社NIPPO  204戸
16. リライズガーデン西新井(18F・2009年09月竣工済)東武鉄道ほか 738戸
17. YOKOHAMA ALL PARKS(8~15F・2012年1月完成予定・)ナイス・相鉄不動産ほか2社 1424戸
18. グランドヒルズ三軒茶屋HILL TOP GARDEN(12F・2008年3月完成済)住友不動産 311戸
19. テラス渋谷美竹(17F・2013年2月完成予定)新日鉄都市開発 196戸
20. ザ・ライオンズ三郷中央(12F・2013年2月完成予定)大京 438戸
21. ベルドゥムール浦和常盤(14F・2012年5月完成予定)リベレステ 41戸
22. ベリテージ六町タワー(15F・2009年03月竣工済)田中建設 42戸
23. 南青山パークハウス(11F・2009年12月竣工済)三菱地所レジデンス 30戸
24. ナイスウィングスクエア横濱阪東橋(11F・2012年10月完成予定)ナイス・佐藤工業 71戸
25. アトラス志村三丁目(12F・2012年1月完成予定)旭化成不動産レジデンス 184戸
26. 桜プレイス(13F・2012年1月完成予定)鹿島建設 149戸
27. テラス東陽町ネクスタワー(22F・2011年1月完成済)三菱商事 168戸
物件の詳細はこちらから

このデータから貴方は何を読み取られますか?
冒頭で触れたように、①免震構造のマンション自体がまだ稀少であることが第一ですね。
次に、やはり②大規模マンションに採用例が多いことです。27物件中、総戸数200戸未満のものは7物件しかなく、100戸未満になる4物件しかないという点です。これは、免震構造にするとコストが高くなるためで、スケールメリットの出やすいものでないと採用しにくいことを裏付けています。

もうひとつは、20階以上の超高層(タワー)マンションでの免震構造採用数は27件中16物件となっている点です。超高層は地震のときの揺れも大きいため免震構造の採用例が多いのは当然です。ところが、首都圏の超高層物件は東京都で46件、神奈川県10件、埼玉県8件、千葉県6件の合計70件(全体シェア6.1%)ありました。③超高層マンションに占める比率では、4分の1以下しかないということになります
超高層マンションは概ね大型マンションですが、それでも導入件数が少ないのは気になる点です

揺れを軽減するという意味では制振構造(※)もありますから、そちらも見ておきましょう。販売中の物件に、乃木坂パークハウス、Brillia有明 Sky Tower、クロスエア タワー、プラウドタワー武蔵浦和マークス、パークシティ武蔵小杉・ザ グランドウイングタワー、グランドターミナルタワー本八幡などが採用例として見られますが、こちらも稀少です。従って、タワーマンションでも一般の耐震構造が大多数という事実は動きません。
※制震構造と表示する例もありますが、学術的には制振を使うのだそうです。

●耐震構造でも十分に強いが揺れは避けられない
ご承知のように1981年に改定された建築基準では「100年に1回程度起きるという震度6強~7」の強烈な地震にも倒壊しない耐震性が求められることとなりました。
それ以前の旧耐震基準の建物でもマンションは倒壊しないことは1978年の宮城県沖地震で証明済みですが、そのときの一戸建て住宅等の被害状況を受けて、より被害の少ない建築をめざしたわけです。

今回の3.11大地震でも大破したマンションは東北地方を含めて1件もありませんでした。中破は旧耐震の古いマンションも含めて44件(内、東北6県で26件)あったそうですが、調査対象マンション全体(東北1,642棟、関東1都6県44,723棟、合計46,365棟)に対する比率では僅か0.09%でした(高層住宅管理業協会調べ)。
小破は7477件(16.1%)もありましたが、そのうち免震・制振構造のマンションでは1件のみだったと報告されています。

日本建築学会の定義によれば、大破というのは「柱のせん断ひび割れ・曲げひび割れによって鉄筋が露出・座屈し、耐力壁に大きなせん断ひび割れが生じて耐力に著しい低下が認められる状態」、中破は「柱に典型的なせん断ひび割れ・曲げひび割れ、耐力壁にせん断ひび割れが見られ、RC二次壁・非構造体に大きな損傷が見られるもの」、小破は「柱・耐力壁の損傷は軽微であるが、RC二次壁・階段室の周りに、せん断ひび割れが見られるもの」を言います。

「大破」は自治体による「全壊」認定になり、中破の多く「半壊」認定になるものと思われます。
全壊認定を受けたマンションは解体・建て替えもやむを得ないでしょうが、半壊の場合は修復や耐震補強工事などを施すことになるのでしょう。

こうしたデータからも、旧法の基準でもマンションの頑丈さは証明されていますし、新耐震では一段と強くなっていることは間違いありません。しかし、新基準でも「激しい揺れ」が解消されたわけではありません。

地震発生時の恐怖は「揺れ」にあります。これが大きく軽減される免震構造のマンションは多くの人の期待を集めていると言ってよいでしょう。揺れの軽減実験を体験見学していない人も多いでしょうし、免震構造自体を知らない人もまだ多いと思われますが、今回の地震でその存在の認知度はかなり高くなったのではないかと推察します。

しかし、先に見たように現状では免震構造のマンションは稀少です。ユーザーの期待に造り手の対応が十分な状態に至っていないようです。地震発生からまだ7カ月、マンションの開発には時間が必要ですから、そんなに早くは実現しないのも当然です。
業界のコスト低減研究・努力が続き、「揺れも小さい安全・安心のマンション」が続々と発売される日が早く来てほしい。そんなことを強く思います。

●免震マンションを条件にしたら買えない?
さて、読者の質問に答えなければなりません。
もうお分かりのように、発売物件の3%にも満たない免震構造のマンション。今後は増えるとしても、どのようなペースで増えるかはまだ見えません。
購入の際の希望条件では、場所や価格、広さなどの優先度が高いはずですが、これらに免震構造を加えて検索した場合、ほとんどヒットしないことになりそうです。

それでも条件にかなう物件の登場を待つ方がいいのでしょうか?今日10月10日も関東地方で震度3の地震がありました。宮城県では一部地域で震度4でした。余震はまだ続いているのです。
しかし、震度3や4ではもう驚かない人が多く、一種の「馴れ」が私たちの中に育ってしまったかもしれません。とはいえ、体で感じる地震は恐怖を呼び起こすのに十分です。恐怖がトラウマになっている人もいるかもしれません。早く安全な家に住み替えたいと願ってもいるでしょう。

しかし、一方では「揺れている間は怖いが、家具が倒れたりすることも物が落ちて来ることもないので、2分も耐えていればおさまるし、もちろん家が壊れることもない。震度6以上の地震なんて一生の間に何度も遭遇しないよ。不運にもう一度ぶつかったとしてもマンションが倒壊することはないのだから免震構造にこだわることはないさ」という腹をくくった意見もあります。
強がりを言っているだけかもしれませんが、割り切るしかないということなのでしょう。

これらは当事者にしか分からない心理です。自分で選択するしかないのです。

私は後者の意見に与します。51年前のチリ地震津波の被害者(家が流された)ですし、1995年には出張先の大阪で阪神大震災にも遭遇しています。
阪神のときの恐怖は、ある種のトラウマになって1年くらい消えませんでした。それでも怪我もなく普通に生きて来ました。
大地震に一度も遭遇しないで一生を終る人もあるでしょうし、例えば宮城県に住む人は数回の体験をすることになるのでしょう。それでも宮城県で地震と付き合いながら生きて行くほかにない人が大勢いることも事実です。

話が飛躍しましたが、「免震構造」をマイホーム選択の必須条件とするのはまだ無理があるというほかにないのです。「免震構造であるに越したことはない」という程度にするのが現実的ということでしょうか。

・・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は三井健太のマンション相談室(http://mituikenta.web.fc2.com)までお気軽にどうぞ

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