第666回 新築は諦めた方がいいかもしれない

このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

新築マンションの価格は一向に下がる気配がありません。

2018年7月以降、前年同月比で価格動向を追ってみると、7月が▲1.2%、8月も▲14.1%、9月も▲5.4%と3か月連続でマイナスになりました。ところが、10月は+11.4%も上昇、11月も+7.4%上昇したのです。6月までの上半期も前年同月比マイナスの月が2度ありましたが、結局上半期トータルでは2.9%高となったのです。

12月までの集計はまだ出ていないので、正確な数字はご紹介できませんが、8月は発売戸数が少ないので▲11.4%が年間数字に与える影響は小さいはずで、年間を通して今年も前年比で上昇するのは間違いないものと推測できます。ただし、昨年が前年比8.3%も上がったことに比べれば上がり幅は小さいという結果になるはずです。

(データ出典:すべて不動産経済研究所)

1年前の筆者の予想は「2019年は頭打ちになる」というものでした。上がっても1%か2%と思っていましたので、若干予想を超える数字になりそうな気がします。

日頃からマンション購入を検討している人たち、または売却を考えている人たちはマーケットの動向に関心を持ち、ネット上に限らず雑誌や新聞のコラムと分析記事に目を通していると推察しますが、これら情報には誤解を招きかねないものが少なくないようです。

極め付きは、2019年に不動産は暴落するかのようなコメントです。先日もたまたま目にしたテレビ番組で、有名な不動産マーケットのアナリストのコメントに同種のものがありました。筆者は違和感を覚えました。

コメントが間違いというのではありません、しかし、そのコメントは中古マンションの市場を投資家目線で分析したものなのです。それと新築マンションの全体データを用いて解説しているので、これでは一般視聴者(マンションを買いたい一般サラーマンなど)を誤解させ混乱に陥れるだろうなと思わざるを得なかったのです。

投資家が一斉に売却に動けば中古マンション市場に売り物があふれ、買い手市場となって価格が下がるというのは理屈ですが、マンションのマーケットは実需が主体なのです。株とは違います。思惑で大きな値動きをすることはありません。

例外的に、過去に投資家の動静が市場を混乱に陥れたことがありました。バブル期の数年間のことです。このときは不動産業者がにわか投資家になって土地ころがし、マンションころがしに走ったのです。その行動に加担したのが多数の金融機関でした。

今は当局の目も厳しく、スルガ銀行も不正融資事件が発覚したこともあって、バブルが巨大に膨張する素地はありません。

一部の投資家の狭い市場の売買だけと言って過言ではありません。一部に外国人も登場しました。その中心だった中国人は、資金の国外持ち出しを規制されたことあり、一時の過熱感はなくなりましたので、内外ともに投資家の買いの力は弱まっています。

売却に転じる投資家が増える可能性はあるかもしれません。しかしながら、そのパワーはマーケット全体を大きく揺るがすとは思えないのです。

投資対象として中心を為す東京23区だけに絞っても、中古マンションの年間取引件数は2万から3万もあります。その中に占める投資家の割合はいったいいくらあるというのでしょうか。市場に与えるパワーがゼロとは言いませんが、都心のタワーマンション、駅前マンションなど特別なものだけではないかと思います。投資市場だけのデータがあるわけではないので、推測の域を出ませんが、圧倒的に一般個人の売買が中古マンション市場の中心・主体なのです。

ゆえに、影響がゼロとは言いませんが、大きくはないと考えています。

仮に、中古の値下がり傾向が数字に表れたり、断片的な現象を報じられて中古マンション価格に下落圧力が加わることは買い手から見たら結構なことですが、そうなることを期待していいものでしょうか?

筆者に、そう聞いてくる人がときどき表れますが、筆者は「待てば下がるという見方は疑問です。そんなことを研究するより、いかに価値あるマンションを選択するかの研究を優先した方が賢明ですよ」と答えることにしています。

マンション市場は、新築と中古、実需と投資という分け方をして語らなければなりません。また、一般ファミリーマンションとワンルームマンションも区分が必要です。

中古マンションが値下がりする可能性を否定はしませんが、新築の方はどうなのでしょうか? 次に新築マンションの動向を見ていきます。

●新築マンションの価格は?

新築マンションは売れないから下げようということはあっても、そもそも利幅が大きくないので下げ幅は限定的です。マンションの分譲業者は、販売事業で利益を上げ、企業として成り立っているのです。利潤を削るのは限界があります。

利幅が50%もあれば別ですが、粗利で20%しかない業態なのです。そこから販売経費(モデルルーム建設費や広告費、販売委託手数料、借入金利など)を引いたプロジェクト利益は10%程度です。その利益で本店経費を賄って企業は経営が成り立つのです。

従って、10%下げたら赤字プロジェクトになってしまいます。そうなるなら分譲はしないで塩漬けにした方がいい。そう判断することもあります。

価格が上がったことによって、売れ行きが悪化しましたが、それでも値下がりしない理由はここにあります。

土地は2年も前に買ってしまったので、今さら原価を下げることはできませんが、建築許可を取って、いよいよ着工という段階に至ったとき、建築費が下がってくれたら原価は下がり、売り値を下げることは可能になります。

しかし、建築費も下がる様子は全くないのです。土地代と建築費の2大原価が高ければ(下がらなければ)マンション価格が下がることはありません。

建築費を下げる方法はないのか?そういう疑問を持った人もあるかもしれませんが、デベロッパーは昔からコストとの戦いに知恵を絞ってきた歴史を持ちます。どうすれば下げられるかはよく知っていて一部を既に実行済みなのです。

このブログでも何度か書いてきたので今日は割愛しますが、前回の価格急騰期にも対策を講じて下げることに成功していますが、下がったのは5%程度でした。

今回の急騰局面では、既にその策を使い果たしています。簡単に言えば品質低下策ですが、それでも価格上昇を止めることができなかったのです。従って、今後は値下がり余地は極めて小さいと考えるほかありません。勿論、品質をもう一段下げる決断をするなら別ですが、これ以上の下げは買い手のニーズに合わない、つまり粗悪なマンションを買えというに等しいのです。

デベロッパーがそのような態度に出ないと信じたいですが、一部の地域・物件では粗悪品が出て来る可能性も否定できません。

グレードの高い物件のモデルルームを見慣れていない「うぶな検討客」、「住んでいる賃貸アパートに比べたらはるかにグレードの高い分譲マンションと感じてくれる買い手もあるんだから」と己に言い聞かせつつ、規格を低下させる物件を創るデべロッパーも現れるかもしれません。

都心や準都心あるいは、郊外でも人気の高い街の、そもそも高値地域のマンションは、一定ラインを超えてグレードダウンになることはないと思いますが、その他の地域ではよくよく注意をしたいところです。

●新築を買うなら売れ残りがいい

新築を買うなら、売れ残りを狙うのが賢明です。このことは3年以上前から筆者が提案してきたことです。

分譲業者にとって、販売開始時の価格は企業の存続のために粗利益20%を目論んでも売り出して1年、そろそろ建物竣工という時期に例えば3分の1が売れ残ったとして、それを全部10%値引きしても、それまでに販売した3分の2が値引きなしで売れているなら、トータルでは利益は確保できるはずです。

仮に20%の売れ残り戸数を20%引きしてしまっても、トータルでは16%の利益が残る勘定です。つまり、最後は「背に腹は代えられない」とばかりに、20%は無理としても、10%の値引きを要求したとき売主はこれを受け入れる可能性はあるのです。

筆者は、新築の売れ残りを値引きさせて買うか中古を選ぶべきと何度も主張してきました。今も変わりません。

加えて、「新築は諦めた方がいいかも」と言いたい最近です。理由は新築マンションの販売戸数が激減しているし、増えそうにないからです。

年間のマンション需要は首都圏全体で年間に4~5万戸はあると考えられていますが、供給戸数は35,000しかなく、毎年5000~10,000人があぶれてしまう状況が続いていくことでしょう。数だけならまだしも、希望条件とのミスマッチ状態も顕著です。

ミスマッチは、立地条件の問題、予算と価格の問題です。

あぶれた人は、中古を選ぶかしかないのかもしれません。そう思うのです。

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

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