マンション価格の下げ圧力

このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

中古マンションが僅か数年を経て、購入価格から2割、3割と値上がりしたことを幸いに売却に踏み切ってほくそ笑んでいる人が最近は多数見られます。

一方、デベロッパーは争奪戦のうえに高値で用地を取得し、人件費の高騰で上昇した建築費のために本意ではない高値で分譲しているという実態があります。

今日は、個人オーナーとマンション業者の立場の違いと、そのことによる価格の下方圧力についてお話ししようと思います。

●新築マンションの価格硬直性

ご存知のように、新築マンションの価格は2013年以降20%余も高騰し、売れ行きが悪化しました。

市場では在庫の山になっていないものの、倉庫に眠っている在庫、つまりまだ売り出していない工事中または竣工済みの未発売住戸(隠れ在庫)が何千戸も、ひょっとすると1万戸以上も首都圏にはあるようです。「あるようです」と表現したのは、統計が出て来ないからです。

不動産経済研究所は毎月、新規発売戸数や契約率、価格動向、発売済み在庫などをプレス発表していますが、その中に「隠れ在庫」というのはないのです。

もう一度、確認しておきましょう。新築マンションは、売り出しを小分け(分割販売)するので、売り出した戸数とその中から販売済みを引いた戸数が「在庫」として発表されます。100戸のマンションを1期1次などとして30戸売り出し、25戸売れれば在庫は5戸ですが、隠れ在庫は70戸なので、本当の在庫は75戸なのです。

なぜ30戸しか売り出さないのでしょうか?50戸でもいいのでは?言うまでもなく、30戸が限界と見込んだからです。モデルルーム見学者の数、商談結果から購入してくれそうな契約見込み客がそれしかないからです。

販売スピードが期待通りに行かなくても、売主には時間の余裕があります。建物が竣工するまでに完売するのが目標であれば(大抵のマンションがそうです)、工事中の物件に時間はたっぷりあるのです。慌てず、地に足をつけて販売活動を続けることができます。
1期1次に完売の目処が立ったたら、1期2次とか第2期とかの20戸なり10戸なりを小出し販売すればいいわけです。

しかし、物件によっては販売開始から1年経たずに竣工を迎えるものから、2年半も先の竣工というタワーマンションもあり、販売猶予期間はまちまちです。

いずれにせよ、竣工後3年経ても在庫となっている物件も稀に見られますが、大抵は竣工後ほどなく完売し、「めでたしめでたし」となります。

しかし、そこに到達するまでに苦労を強いられる物件があります。今は、多くの物件が苦労する時期に当たっています。販売が長期化し、竣工在庫を抱えている物件がそこかしこに見られるようになって来たのです。販売不振の原因は価格の高騰にあります。

先に不本意ながらと書いたのは、売主が大きな利益を目論んで値付けしたなら売れ残っても身から出た錆びのようなものですが、大半は売れないかもしれない・販売に苦労しそうだと知りながら設定した採算ぎりぎりの価格で売り出すからです。

売り出してみた、やっぱり売れない。とうとう竣工のときが迫って来た。まだ半分も残っている。竣工した。今後は値引きもやむなしだ。竣工後半年経過。10%値引きの裁可が下りた。そうしてなんとか竣工後1年経過で完売に。

このような経過を辿りながら、マンション販売は最も効果的な「値引き策」によって完売へ向かうのです。竣工から2年経過などという物件も最近は目立ち始めています。

価格安定期には、こんなことは起こりません。また、価格高騰期でも初期のうちは「先高観」が買い急ぎを促し、短期間に完売してしまうものです。しかし、価格が上がり過ぎると売れ行きは鈍化し、やがて値引き販売を余儀なくされます。

お分かりの読者も多いことと思いますが、売れない場合も直ぐには値引きせず、何とか利益を確保しようと懸命に販売促進策を練り、実行します。その時間は1年、タワーマンションにおいては2年、3年と時間をかけます。しかも、値引きするのは多くて30%、大抵は最後の10%の戸数が対象です。
(稀には、プレセールスの段階で提示した予定価格では厳しいと予測し、利益を削って価格を策定するケースもありますが、これは例外的です)

新築マンションの価格は、値下げするまで長い時間がかかります。最後まで決して値下げ・値引きをしない売主(デベロッパー)もあることと考え合わせると、販売価格は硬直的です。

●個人オーナーの値下げ

一方の個人オーナーには、販売期間に余裕がありません。個人オーナーが自宅マンションを売り出したとき、価格決定に柔軟性があるでしょうか?これを考えてみましょう。

Xさんは、子供の成長に伴い手狭になったので、もう少し広いマンションに買い替えようと考えていましたが、5000万円で買ったマンションが6000万円の査定が出たこともあり、300万円上乗せして6300万円で売り出しました。

ところが、強気過ぎたのか、内覧者はコンスタントに現われるものの中々契約に至らず媒介契約の3か月を過ぎてしまいました。契約の更新に際し、仲介業者から価格の引下げ提案がありました。仕方なく5980万円と価格改訂しました。

その後も引き合いはあるものの、契約に至らず半年を経過しました。買い替え先のマンションの引き渡し(代金決済)が3月なので、あと2か月と少しの時間しかないという2017年2月、Xさんは買い手からの値引き要求380万円を呑み、5600万円で売却を決心したのです。

Xさんは初めは強気一辺倒でしたが、時間の経過とともに焦りが生まれ、最後は仲介業者の勧めに従って買主要求を受け入れるという、弱気な姿勢に変わってしまったのです。

Xさんのケースは、6300万円の当初売り出し価格から見たら700万円もの大きな値下げとなったのですが、10年以上を経過していたので住宅ローンの返済も進み、売却後の手取り額が減っても、買い替え先の資金計画に困窮する事態には至りませんでした。

独身のBさんは、5年前に頭金100万円で4000万円の中古マンションを買いました。2016年11月、5000万円で売れそうだと気付きました。査定してくれた仲介業者と相談して、4980万円で売り出しました。買い替え先は決まっていませんでしたが、良い物件が見つからなかったら、一時的に安アパートに入ればいいやと気楽に考えていました。

しかし、最も不動産が動く1~3月に買い手がつきませんでした。2017年4月中旬、4500万円に下げれば決まりかけました。しかし、Bさんは売却を中止しました。住宅ローンが4200万円も残っていたからです。

リフォーム工事分の借入もあったため、4200万円で売ったら仲介手数料を引くと150万円かそこらしか残らないので、売却に妙味がないのでした。

購入先行の買い替えを計画したXさんは、資金にゆとりがあったことに加えて買い替え先のマンションの代金決済が迫っていたので、値下げに追い込まれました。もはや解約するという選択肢はなかったのです。ともあれ、価格に柔軟性があったと言えます。

新築マンションを扱うマンション業者の硬直性とは対照的です。

しかし、Bさんのように、業者と同じ硬直性を持った個人オーナーもあります。

XさんとBさんの違いは、購入から売却までの期間の差と頭金の差が見られます。頭金を多く入れておくか、繰り上げ返済でローン残高を減らしておく方が、売却価格に余裕ができます。しかし、下げ圧力に弱いという見方もあるわけです。

デベロッパーも価格は硬直的と書きましたが、販売の不調が長引けば、やがては下げ幅の壁を突破することもあり、一定時期を過ぎると硬直性はなくなってしまうとも言えます。

●不動産売買はタイミングだ!!

エリアにもよるのですが、昨年の半ばあたりまででしょうか、売り希望額からさほど値引き要求に応じなくても買い手がつくと言う傾向が強かったようだったと言います。物件によっては、売主の希望価格以上で買いたいという例すらあったのだとか。

最近は初回の媒介期間中に契約に至らず、値下げしての再売出しの例も多くなっているようです。こうなると、最終段階で値引き要求を受け入れざるを得ない例も一気に増えて来るでしょう。

つまり頑強に希望額で突っぱねても買い手は決まらないので、売らなければならない事情にある個人は一定程度の柔軟性が必要な時期です。言い換えると、下げ圧力が高まるのです。

新築マンションの分譲主も、売れなければいずれは値引き要求に応じるほかありません。

そこで、早いうちはあっさり断られるかもしれませんが、諦めないで粘り強く交渉すれば、つまり今日はダメでも1週間後、2週間後に再度モデルルームを訪れて要望するのです。それを繰り返してみましょう。成就するかもしれません。

売れ行きが良くない物件だから悪い物件とは言えないものもあります。単に価格が高いと見なされて買い手がつきにくい状況にあるのだとしたら、何か月かしぶとく食い下がることです。必ず売主は折れて来ます。3回交渉してダメでも、しばらく距離をおいていると、DMが来たりメールが届いたりします。

よく見ると、価格がいつの間にか下がっているという場合も出て来るのです。

デベロッパーにとっては「氷河期」になるかもしれません。個人オーナーが売却するタイミングとしても逆風です。

しかし、個人の買主にはようやく逆風から順風になりつつあると言えます。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。

大好評!!「マンション価格の10年後を予測する」

将来の価格を当てるのは簡単なことではありませんが、三井健太のマンション相談室では、あなたの購入マンションの価値及び価格の妥当性を評価したうえで、将来価格をズバリ予測、根拠とともに精緻なレポートとして提供しています。

将来価格(リセールバリュー)を知っておきたい人はとても多く、そのニーズにお答えしようと始めた有料サービスですが、購入が得か損か、買い替えはうまく行くか、そんな疑問があれば一度お試し下さい。

無料の「物件評価サービス」のみのご依頼も従来通りに承っています。
※詳細はこちら  http://www.syuppanservice.com/resale-value.html

★★★三井健太の「名作間取り選」はこちら
https://mituimadori.blogspot.com

★★★「三井健太の住みたいマンション」はこちら
https://sumitaimansion.blogspot.com