新築は遅いが中古の値下がりは早い

このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

マンションの価格動向を注視していると、この先どのように動くが見えて来ます。
マンション価格の最近の推移から、今後を占ってみようと思います。

●新築マンションの値動き(不動産経済研究所のデータより)

2012年が前回の価格安定期の最後の年でした。2013年から価格上昇は始まったのです。2016年の価格は首都圏平均で2012年比+23%、23区だけでは+26%となったことは既報通りですが、注目すべき点は、2016年の動きです。上半期は前年同期比+9.2%と、上昇気配に陰りは見えなかったのですが、後半で上昇スピードにブレーキがかかったことでした。

2016年7月以降の月別価格(坪単価)を前年同月比でチェックしてみると、7月:▲5.2%、8月:▲3.2%、9月:+3.4%、10月:+4.5%、11月:▲18.4%、12月:▲14.0%となっています。半分がプラス、半分がマイナスとなっています。

結局、年間では前年比1.8%の上昇に留まりました。

2017年1月以降も前年同月比を追ってみましょう。1月:+24.8%、2月:+2.0%、3月:▲0.9%、4月:+3.6%となっており、前年同月比でマイナスだったのは3月だけです。

1月の異常な値上がりは、23区が前年の@342.2万円から@435.6万円に27.3%も跳ね上がったためですが、1戸平均価格でも7149万円から9148万円と28%の上昇となりました。ご想像いただけるように、都心物件・億ションが多数売り出されたためです。

さて、こうした価格動向に注目していると、新築マンションの価格はようやく頭打ちになった感があった2016年下半期から、再び上昇を懸念させる動きを見せています。

しかし、値下がりに転じる兆しも窺い知ることができます。

●新築マンションはいつ値下がりに転じるのか

売れ行きの悪化が価格上昇にブレーキをかけ始めました。売れ行きの悪化は、新築マンションの場合、月間契約率を追うことで推察することができます。

月間契約率とは、毎月「新発売される戸数」が当月末までに何戸売れたかで計算されます。10日に売り出したものも、20日に売れたものも月末で何戸売れたかを集計するのです。

ご存知の方も多いと思いますが、「分割販売」または「期分け販売」と称し、100戸のマンションを50戸、30戸、20戸などと分割して売り出すのが定着しています。いっぺんに100戸売り出して20戸しか売れないと80戸の売れ残りが瞬間的でもできてしまうことを売り手は嫌うのです。そこで、第1期で20戸しか売れないと見たら、売り出し戸数は高々25戸とか30戸と、見込むより少しだけ上積みして発売します。

結果として30戸売り出して20戸しか売れなければ、契約率は66.7%となるわけです。事前のセールスで好感触があったら、売り出し戸数を例えば50戸にします。そして期待通りに50戸とも買い手がつく状況になることがあります。契約率100%となるわけで、これを即日完売と呼びます。

市況のよいときは即日完売物件が増え、即日完売しなくても90%、80%といった好成績を収めます。こうなるときは、第2期も時間を置かずに売り出すことができ、その数も多く、かつ全戸がほどなく完売してしまうものです。結果的に100戸全部が完売するのは建物竣工の半年前であったりします。

これに対して、市況の悪いときは1回当たりの売り出し戸数が少なく、このため第2期や第3期では終了せず、第7期・第3次などと販売回数(期分け回数)不明の長期化物件が増えるのです。

好調のときは、売主の期待を上回る契約率が生まれ、不調の時は発売戸数を絞ったにもかかわらず期待を下回る戸数しか売れないもので。好不調の分かれ目は70%と言われています。

では、月間契約率は最近どのように推移しているのでしょうか?2016年から先月までを辿って見ましょう。

2016年1月:58.6%、2月:72.9%、3月:67.6%、4月:66.4%、5月:70.9%、6月:69.6%、7月:68.4%、8月:63.3%、9月:66.6%、10月:72.0%、11月:61.6%、12月:62.5%・・・一進一退を繰り返し、2016年平均は68.8%でした。

2014年、2015年の年平均は、それぞれ75.1%、74.5%だったので、売れ行き悪化が明白です。

2017年に入ってからも、1月:61.6%、2月:68.4%、3月:66.2%、4月:66.3%となっています。

これでお分かりと思いますが、売れ行きの低迷が1年以上続いているのです。

さて、売れ行きの悪化は価格の低下につながるのでしょうか?先に見たように頭打ちの感じもしますが、まだ下落トレンドに転じたとは言えません。

新築マンションは生鮮食品とは異なります。通常でも値引き販売はありますが、その数字(値引き率)を公表することはしません。公表するのは、完成済みマンションの売れ残り住戸、しかも、その中のごく一部、モデルルームとして何か月か使用した住戸だけなのです。

新築マンションの価格は硬直的です。

ともあれ、完成物件を中心に水面下では値引き販売が増えています。これは、統計に表れにくい価格低下現象です。

統計上の価格も下がる可能性があるとしたら、まだ着工していないマンション、着工はしているが未発売物件からです。しかし、それも急に下がることはありません。

何故なら、土地代という原価も建築費という原価も確定済みだからです。販売経費を加えて得られる利幅は通常10%程度しかないのがマンション事業ゆえに、下げ余地は小さいのです。

赤字販売を余儀なくされる状況になったときは、開発を凍結、もしくは着工を中止して時期を待つ策を採る大手デベロッパーもありますが、手持ち商品の少ない中堅以下はそうも行きません。

建築費が決まっていない、つまり原価が決まっていないケースでも、現状では発注金額(建築費)が下がる可能性は低いので、新築マンションの価格が急落することはないと言って過言ではありません。

工事費が下がるのは、東日本大震災と熊本地震の復興工事がなくなるか、東京オリンピック関連工事がなくなること、東京都心の再開発工事が止まることなど、建設業界の繁忙が落ち着くこと、建築資材が値下がりすることなどが条件になるのです。

ところが、建設業界の人手不足は相変わらずで、建築費の45%は労務費(人件費)と言われるだけに、建築費が大きく下がる材料は見当たりません。

結局、最後はマンション分譲会社(デベロッパー)が赤字覚悟で価格を下げるしかないのです。しかし、マンション事業はそもそも大きな利幅があるわけではないので、売り出し前から赤字事業を進めるのは企業としては中々できないことです。

赤字が必至の物件(プロジェクト)は凍結し、安い土地を新たに取得してコストダウン策を徹底するなどの策を講じるにしても、それは短時間でできることではありません。
地価が急に下落するとも思えません。むしろ、上昇の報道が続いています。

以上から、安くなった物件が出て来るとしても、それが販売開始されるまでは早くても2年以上も先のことになると見るほかないのです。

結局、手持ち商品は利益を削るほかないので、徐々にその策が業界内で浸透し、価格は緩やかに下がることでしょう。

その転換点はいつ頃になるでしょうか? 先のデータから転換点はまだ見えませんが、頭打ちになりつつあるのは確かでしょう。統計的には、おそらく上昇は緩やかながらまだ持続するのではないか、期待を込めて言うならば来年初頭あたりが転換点となるかもしれません。

●中古の値動き

次に中古マンションの値動きについても見て行くことにします。

先ず、中古マンションの価格は、どのように決まるかについて説明します。

新築住宅の価格は土地代、建築費、諸経費・利益から成り立っているのに対し、中古住宅は少し事情が違います。

【周辺の市場動向】+【物件個別の条件】+【売主の事情】=中古価格と考えられます。

3要素のうち、市場動向を【需給関係】と【新築価格の動向】に分解し、売主の事情を除いて説明して行きます。

1.中古マンションの価格決定メカニズム:需給関係

中古マンションの価格は需給関係で決まります。新築の供給が少なければ、中古が取引の中心になり、上質な中古物件は新築並みの価格になるものです。人気の高い街や駅周辺では、新築の供給が何年も途絶えていたりすると、過去の新築相場を超えてしまう高値の中古マンションが生まれます。
また、ある面積帯の物件が稀少という場合、その面積帯だけが高い価値をつけることもあります。

平均的には20年もすると新築相場の半値くらいになるもの(都心では30~40%下のレベル)ですが、タイミングによっては需給バランスが変わり、高値になったり安値に戻ったりするのです。

2.中古マンションの価格決定メカニズム:新築価格の動向

中古マンションの価格は、新築価格に連動します。新築が上昇中のときは、割安な中古に需要が向かいます。すると、やがて中古も値が上がるのです。
従って、新築マンションの価格が先に上昇し、遅れて中古マンションが値上がりするパターンとなるのが普通です。

築20年の中古マンションは新築の半値程度になると述べましたが、新築相場が2倍になっていれば、20年経たマンションは新築時から値下がりしない理屈になります。

3.中古マンションの価格決定メカニズム:物件固有の条件

マーケット全体の動向とともに、物件固有の条件が中古マンションの将来価値(リセールバリュー)を決めるものであり、その条件とは次のように考えられます。

中古価格を決定する要素は、①立地条件(利便性と環境)、②スケール(存在感)、③外観・玄関・空間デザイン、④建物プラン(共用施設、間取り、内装や設備など)、➄ ブランド、⑥管理体制です。
この中で一番比重が高いのは①の立地条件なのです。立地さえ良ければ建物は何でもいいという単純なものではないのですが、大きな要素であることは確かです。逆に、どんなに素晴らしい建物でも立地条件の悪さを補うことはできません。

20年後に新築相場の半値になるという統計データも、その中には30%もの低いレベルの物件もあれば、80%相当に評価される優良物件とに分かれるという事実を知っておかなければなりません。

●中古マンションの値動き(REINSのデータより)

中古マンションの価格のトレンドは今どの方向にあるでしょうか?東京都だけ拾ってみると、毎月の成約単価は2016年1月以降ずっと前年同月比でプラスを続けています。

2016年9月以降を転記すると、9月:+5.8%、10月:+3.2%、11月:+6.6%、12月:+9.9%、1月:+2.3%、2月:+5.2%、3月:+0.9%、4月:+8.0%なのです。

これだけ見ると、下がる気配は微塵も感じられない動きが続いています。

●中古マンションの値動きのスピード

新築マンションの場合、値下がりするときも動きはゆっくりしています。企業が売主なので、利益を確保しなければならないという目的があるからです。消費財のように売れないものは在庫一掃セールなどで処分し、新しい売れ筋商品と入れ替えるという策が採れますが、マンションはそうも行きません。

これに対し、個人所有の中古マンションは事情が異なります。勿論、個人も5000万円で買ったマンションを5000万円以上で売りたいと考える人は多いはずです。最近は5000万円で買ったマンションを6000万円で売ったなどという事例が多数見られます。

これは、先に述べた価格決定の3要素が絡んだ結果であり、無論その逆になることもあるのです。

中古マンションの価格が下がる局面では、どのような動きになるでしょうか?新築マンションのように下げ渋るのでしょうか? そうはならないのです。タイトルでお分かりの通り、中古マンションの値動きは新築マンションに比べて早いものです。理由はこうです。

中古マンションを売却する人は投資家を除けば、買い替えのための資金の一部に充てるものです。買い替え先の代金支払い期限が迫っていますし、基本的にダブルローンを組むこともできないので、スムーズに売却できないと困るわけです。

中古マンションをお探しの相談者からの情報では、稀に引き渡し時期が1年後という例があります。何故1年後かというと、その時が買い替え先・新築マンションの完成時期なのです。中古を探している人で、引き渡しが1年後で結構ですなどという人は聞いたこともないので、取引は成立しないはずですが、売り手もそのことを知っていて敢えて売り出しているというのです。

理由は明白です。我が家の売却を早く確定させたいのです。

こうした売り手心理も、実際にはあまり奏功しないようで、半年くらい前から売却活動を開始しても、買い手が中々決まらず、期限は着実に近づいて行きます。仕方ないので、価格を下げます。仲介業者も媒介契約の期限3か月を前に価格の引下げを勧めて来ます。

中古から中古への買い替えの場合は、自宅が売れないので引き渡しを先延ばししてという交渉もできません。買い替え先が新築なら、多少の無理は通りますが、個人所有の中古の場合は相手をひどく困らせることになるからです。

今はまだ中古価格が下げに転じる気配は見えませんが、下がり出すと一気に下げに変わる可能性があります。筆者の知る範囲では、少なくとも強気一辺倒に見えた中古マンションの売主が売り出し価格を下げている例が多数出て来たからです。

売れないので、少しだけ値下げしたという事例は山ほどあるのです。半年売れないので、さらに下げ、最終的に買い手の要求に応じて当初の売り出し価格から10%下げて成約などという例もチラホラ出ているようです。中古の値下がりは早いかもしれません。

ただ、本音を言えば確証を持てないのです。新築が下がらないこと、新築の販売戸数が少ないことが中古価格を下支えしているとも考えるからです。引き続き、注視して行こうと思います。

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