第575回「大規模マンションは値崩れすると心配する人へ」

「このマンションは建物価値も良さそうだし駅にも近いので購入しようと思うのですが、心配なことがひとつあります。それは数が多いので、将来リセールのときに売り出す人も多く、お互いに競争しあって値崩れするのではないかという点です」

このようなことを心配する人があります。少数派かもしれませんが、当該マンションだけではなく、周辺に第2第3の大規模マンション計画があると、そのトータルでは膨大な数が供給されることが将来のリセールに悪影響を与えるのではないかという漠然とした不安を抱くようです。

今日は、局地的な大量供給という現象について考えてみました。

●局地的な大量供給がもたらす問題――売り手の不安

かつて売り手デベロッパーに属していた筆者は、つい売り手のことを今さらながら心配してしまうクセがあります。「Aマンションが売りだされたら、Bマンションは打撃だろうな」とか「どれも“帯に短かし・タスキに長し”の物件だから互いに足の引っ張り合いになるだろう」、「これだけの大規模物件が同じ駅に3つも出たら、総客数が足りなくて、どれも長期化は免れないだろう」などと考えてしまうのです。

先刻承知の売り手は、差別化に腐心します。ユニクロ的マンションにして「価格で勝負だ」とか、「室内の設備・仕様はライバル物件を凌駕するレベルに」とか、「駅まで3分の近さを最大限にアピールしよう」などと知恵を絞るのです。

しかし、その知恵も作戦も圧倒的な力には中々なりえないものです。

首都圏のマンション供給は全体で見れば、ひと頃の半分しかありませんから、供給過多ではないのですが、局地的には大量供給現象がときどき見られます。

例えば、武蔵小杉駅、今も「パークシティ武蔵小杉ザ・ガーデン」と「シティタワー武蔵小杉」が販売中ですが、合計で1800戸もあります。今後も大規模タワーが複数建設される予定です。

品川シーサイド駅では「グランドメゾン687戸」と「プライムパークスシーサイドの2件335戸+687戸」が妍を競っています。国際展示場前駅では、1社だけで1539戸(3棟)も販売を開始しています。

国分寺駅でも、少し前まで販売中だったものを含めると「シティタワー国分寺ザ・ツイン584戸」、「ザ・パークハウス国分寺四季の森494戸」、「ザ・パークハウス国分寺緑邸82戸」、「プラウド国分寺125戸」など、大小合わせて、総戸数で1200戸余も供給されています。

中央区の月島や勝どきという駅も、過去を辿り、今後の予想をすると大量供給が続いて来ましたし、続く見込みです。

千葉県では、津田沼駅の「奏の杜」と名付けられた一角を中心に大量供給が続きました。横浜では、みなとみらい地区が典型的な大量供給エリアでした。

●大量マンションの買い手はどこから来るの?

局地的な大量供給は、何をもたらすのでしょうか?

大量に売るには、大量の顧客を動員する必要があるので、それを可能とする宣伝広告が必要になります。

定番のインターネット広告、無料の住宅情報誌SUUMOの配布、大量のチラシ配布、電車内の“中吊り広告”、駅張りポスター、TVコマーシャル、新聞刷り込み広告などを使って大々的なキャンペーンを行います。これらが首都圏中に露出され、発信されて広く知れ渡ります。

新築マンションを購入する人は、首都圏全体では昨年だけで4万人弱、買わなかったが近々買うつもりの人も入れると6万人くらいはあるので、少なくとも、それくらいの人が注目します。

それら広告に触れた人のうち、条件に合う(少なくとも候補エリアにある)物件と思えた人が資料を請求したり現地を訪問したりするわけですが、もともと考えていなかった場所だが、魅力的な物件に見えたので資料請求しました、見学に来ましたといった反応を見せます。

魅力的な物件は多くが大規模物件です。その集客パワーが、首都圏各地から関心客を呼び集めるのです。大規模物件の場合、売主がHPで高らかに謳う「資料請求10万件突破」とか「来場者5000組突破」などに、多少の水増しはあるものの、極端な誇張ではないはずです。

中小規模のマンションは広告予算が少ないので、大量広告も高額の新聞広告やTV-CMも実施できませんから、顧客動員数は限定的です。簡単に言えば、建設地周辺「地元需要」と呼ばれる顧客が大半です。遠くから来る人も、昔その辺に住んでいたからとか、親が地元だからといった「準地元需要」で、その数はしれています。

要するに大型マンションは大量の宣伝広告によって首都圏中から買い手を集めているのです。「シティタワー武蔵小杉」を建設した住友不動産の来場者アンケートによると、契約者の7割は川崎市中原区外からの転入者だと聞きました。

集まるのは、広告の分量のおかげだけではありません。物件の魅力こそが、遠くまで足を運ばせる原動力になっているのです。広告予算がたっぷりと取れる大型マンションは、ただ図体が大きいだけではなく大型なりの付加価値があり、かつ立地条件に優れているものです。

話題の新商品の発売やイベント開催、スポーツの試合があると聞くと、朝早くから並んで買いに行く、観戦に行くといった行動を取る光景をよく見ますが、魅力のない商品やイベントは広告費をいくらかけても客は集まりません。

かつて、武蔵小杉駅の周囲は工場・倉庫・研究所・駐車場といったエリアで、夜間人口が少ない街でした。豊洲もそうでした。大正時代まで海だったこの土地で、1923年に発生した関東大震災のがれき処理で埋め立てられて誕生した街ですが、かつては典型的な工業地帯だったのです。今では、住宅地や商業地、オフィス街へ転換が進みました。NTTデータや日本ユニシスといった大企業の本社もあります。

生活する街としては魅力に乏しかった街でも、そう遠くない将来、きっと生活インフラも整い、暮らしやすくなると信じるに足る情報や計画があったので、遠くからやってきて購入したのです。

地元の人は、生活に慣れています。買い物が少し不便でも最低限度の施設はあるので、何とかなっているので、抵抗なく買ったかもしれませんが、地元住人はそもそも少ないので、大戸数を売り切るには方々から顧客を集めて来る必要がありました。売り手はそう考えたのです。

こうして、商業施設(ららぽーとやグランツリーなど)を同時開発し、建物に中小規模のマンションではあり得ない付加価値を用意するととも、タワーの魅力である「眺望」価値を加えてダイヤモンドの輝きを持つ商品に仕立てて販売を始めたのです。

その結果、豊洲は10年で3倍に人口が膨れ上がり、武蔵小杉のある川崎市中原区の人口は、再開発が始まった約10年前から毎年1000人から5000人超の勢いで増加。川崎市7区の人口順位で2005年から1位を続け、人口密度も2016年6月1日時点で1平方キロメートルあたり1万6901人の1位。2015年の国勢調査では10年と比べた人口増加率が5.8%と県内市区別で1位だったと市の広報が伝えています。

増えた人口は、言うまでもなく他の町からやって来た人たちです。急に子供が多数誕生する「自然増」ではなく、「社会増」によるものです。

●成熟した街の未来は?

街の魅力は、そこに何があるかで決まります。もちろん通勤の便が良い、言い換えれば都心へのアクセスが良いことですが、それ以上に「賑わい」や「自然環境」、「街並みの美しさ」などが挙げられます。

リクルート社が毎年調査している「住みたい街ランキング」で関東圏1位に毎年輝くのが「吉祥寺」ですし、争うのが「恵比寿」です。上位に武蔵小杉や豊洲が入っているのもご存知のとおりです。

こうした街の魅力的なマンションは、人気上昇の過程で多数の商業施設・飲食店・教育施設(学習塾・英会話教室など)が増加して人びとを引きつけます。洒落たカフェや雑貨店、インテリアショップ、有名レストラン、ファミレス、コンビニエンスストアなどが軒を連ねて、休日にはよその町からもたくさんの人々がやってきます。料理店は、週末ごとに回っても1年では回り切れないほどの多種多様な店が増えて行きます。カフェもスターバックス、タリーズコーヒー、エクセルシオール、珈琲館、ドトールコーヒーなどが勢ぞろいします。

人口が増えると、採算が合うと見た新規出店が続くのです。それが好循環を生みます。こうして街の魅力が一段と増し、多方面から「あの街に住みたい」と評価されるわけです。魅力ある街は、マンションが新たに供給されても地元以外のエリアから新たな客を集めることができます。そうして人口がさらに増えると、商業店舗、エンターテインメント施設が新たに加わり、となるのです。

魅力的な街は、マンションの買い手に事欠かないのです。言い換えると需要が多いので、いざ売却というときも心配は少ないものです。もちろん、物件個別に見れば格差はあるので、なんでも心配ないというほど短絡的ではないのですが・・・

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