第602回 「ホテルがマンション価格高騰の犯人説」を追う

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論を展開しております。資産価値を重んじる方のための購入のハウツーをお届けするもので、お気に障ることもあろうかと思いますが、満点の家はないと思っていただき、失礼はお許し下さい。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

不動産研究所から新築マンションの年間調査データが発表されました。頭打ち気味になった2016年データでしたが、2017年は横ばいを期待したものの裏切られました。

 

毎月のデータを追っているので、11月までの集計では前年同月比でマイナスは1回だけと知っていましたし、5%以上は上がってしまうと見ていましたが、集計を見ると、予想を越える8.3%(坪単価)の上昇となってしまいました。

 

建築費の高騰が続いていることも原因のひとつですが、地価の高騰が価格上昇の原因になっていることは間違いありません。

 

2013年が前年比+8.1%と急騰しましたが、2014年は同2.0%と横ばいになりかけました。ところが、2015年が同9.6%と再び急騰、2016年は同1.8%とほぼ横ばい、そして2017年はまたまた8.3%の急騰になったのです。

 

2016年初頭から売れ行きが悪化し始めたので、1.8%の僅かな上昇にとどまったとき、筆者は「さもありなん」と思いました。なぜなら、2016年は2012年比で23%(首都圏単価)も上昇したからです。

 

ところが、2017年は先述のように前年同月比でほぼ毎月上昇していました。この状況を見て、「デベロッパー各社は売れ行きが悪化しても下げないなあ。過去の情勢とどこが違うのか」不思議な感じがありました。

 

そう思いながら、その動向を探るとともに、市場分析を続けて来ました。

 

このブログでも何度か書いてきましたから、ご存知の読者も多いと思いますが、マンション分譲の利益率は低いので、下げ余地はもともと少ないのです。土地代も建築費も確定してしまった建築中マンションの価格を下げるには利益を削るしかないので、プレセールス段階で販売が思わしくないと見れば、最初から価格を調整しますが、そうするにしても大きな引き下げはできない構造になっています。

 

それでも、背に腹は代えられないので最大5%くらいの下げはあり得るのです。2009年~2010年ころも今と同じ局面があったのですが、最大の下げに踏み切った23区に限っては約7%の下落でした。

 

毎月の契約率が悪化しているので、進捗率が低下し、結果として建物竣工後も在庫を抱え込むことになります。しかし、不動産経済研究所の調査では在庫は増えていないのです。

 

この在庫の定義に実は問題があります。販売を開始していないものは在庫にカウントしていないからです。

 

ご存知の分割販売は、いわば小出し販売で、売れそうな戸数しか売り出さないので、在庫も見かけは極めて少ないカタチになります。しかし、売り出していない戸数が大量に残っているケースが少なくありません。

 

筆者は、これを隠れ在庫と呼んでいます。未販売住戸は、厳密に言えば在庫です。蔵から出していないだけです。デベロッパーにとって、竣工後も隠れ在庫が多数残る状況は好ましいことではありません。

 

なぜなら、在庫分の管理費を負担しなければなりませんし、商品の管理・養生に手間も経費もかかります。販売促進の広告費も予算を使い切っているはずなので、追加負担が必要です。何より、入居者が多数ある中で検討客がそろぞろマンション内を歩き回るのは歓迎されません。

 

また、売れ残っていることは明らかなので、見込み客に対しイメージが悪いのです。値引き要求が頻繁に出て来ることも販売担当者を困らせます。

 

さらには、購入者から「値引き販売していないだろうね」と疑心暗鬼の目で探られます。先行契約者の大半は値引きなしで買っているので、値引き販売は許容しがたいものです。下手すれば、同じだけ引いてくれと言われかねません。

 

本当に値引き販売をしていないとしても、「売れないのは高いからだ。私たちは高いものを掴まされたに違いない」などと疑われ、販売担当者は針の筵(むしろ)に座らされているような心境にもなるようです。

 

売れ残りを出すのは、デベロッパーにとって少しもプラスはないのです。販売員も竣工時期までに完売させて、現場を引き上げたいはずです。

 

そこで、ある段階から値引きによる販売促進策を断行します。無論、「こっそり」とやるのです。「こっそり」が無理なら先行契約者に知られても説明がつく「大義名分」を用意して販促活動をするのです。

 

ところで、値引き販売の実態は、調査会社は把握するでしょうか?

 

把握は困難です。従って、統計上の価格と実際の売り値には乖離が生じます。では、冒頭の調査データは信用できない?そんなことはありません。トレンドとしては正しいですし、値引きの数字が把握できたとしても、1%か2%の差でしかないからです。

 

在庫販売で5%引きしたとしても、定価販売した分と均せば、値引き幅は僅かです。

 

 

話題を変えますが、マンションの二大原価の土地代と建築費はなぜこうも上がってしまったのでしょう。建築費に関しては、本ブログで何度もお伝えしてきましたが、地価上昇の実態は中々分かりにくいもので、筆者も取り上げることが多くはありません。

 

そこで、次は地価上昇の裏舞台を少し覗いてみることにします。

 

先日、日本経済新聞にこんな記事が載っていました。訪日客が2017年は過去最高の2800万人を更新したそうです。「観光産業が急成長する好機だ。これを逃すまい」として、マリオットやヒルトンなどの有名ホテルが日本国内で新計画を進めているとありました。(2018年1月11日)

 

政府目標は2008 年 6 月 20 日に開催した観光立国推進戦略会議 において、中長期的目標を「2020 年に 2 千万人」としていたのですが、いつの間にか2020年までに4000万人に、2030年に6000万人にすると改められています。

 

訪日客は順調に伸びて、目標が前倒しに達成できたからです。問題はこれからです。計画通りに進むとして、宿泊する場所の不足が見込まれるからです。対策のひとつとして、民泊の活用も登場しています。

 

今後は、東京だけでなく地方都市にも外国人観光客が訪問するようになって、地方のホテルや和風旅館が活況を呈することになるでしょう。数が足りないことも懸念されます。対策として、空き家の活用などという案も浮上しています。

 

ホテル不足は東京オリンピック後も続くと見ている日本企業も多いようで、ビジネスチャンスととらえてホテル用地を物色する企業が引きも切らないのだそうです。

 

マンション業者の中にも、マンションでは採算が合わないと見れば、「ホテルにどうだ」とばかりに土地の購入目的を変更して検討しているという話を漏れ聞くようになりました。

 

確か、野村不動産もホテル事業に参入するというニュースがありました。従来から展開している三井不動産も追加の計画を打ち出しているようです。

 

ホテル事業は客室稼働率が決め手になるはずで、80%とか90%という稼働率が続けばオフィス賃貸と同様の安定高収益ビジネスになるはずですから、新規参入、または増床を計画する企業が現われても不思議ではありません。

 

ホテル専業、兼業を問わず、都心部では土地を買いあさる企業が増えているのは確かのようです。

 

そのためもあってか、マンション用地はますます取得が難しくなっているのです。マンション用地は大手なら3年先に販売する分まで手当てすると言われます。中小でも2年先の販売用土地を仕込んでおかないと売り上げが確保できないのです。その土地が買えない状況、すなわち良い土地があっても、高値でホテル業者にさらわれるという状況が続くとどうなるのでしょう。

 

ホテルが成り立たないような郊外住宅地で探すしかないのです。しかし、郊外は販売リスクが高いので、二の足を踏むことになりそうです。

 

では、採算を度外視して高値で土地を競り落としますか? 案件によってはそうするデベロッパーもあるでしょう。高額になるほど、買える人は少なくなるわけですが、良い場所なら高額でも買ってくれるはずと目論むデベロッパーもあるからです。とすると、都心のマンションはまだまだ値上がりが続くことになります。

 

もし、今年も価格が下落の兆しを見せないなら、もはや正常とは言えません。昔、不動産バブルが起きたとき、マンションは供給がほとんどできなくなり、途轍もなく高くなったマンションを高値で買った人は、後年半値でも売れず、中には半値八掛け以下の値で処分するしかない被害者になったのです。

 

投機的な不動産売買の結果、大損するのは「賭けに敗れた」ですむ話ですが、マイホームを夢見て無理をした結果、大きな損失を被るようなことになっては気の毒です。

 

筆者がお届けしている「マンション評価サービス」を受けて調査して行くと、異常な状況にぶつかる街があります。昨年の後半から目立つようになりました。

 

そんなとき筆者は、危険な買い物になるかもしれないと警鐘を鳴らすことにしています。少し前にも「ミニバブル」らしき現象を発見しましたが、そのときの過熱感は去ったように思うものの、今年は再び熱を帯びてバブルに一直線となるのか、それとも、はっきりと潮目が変わるのか、予断を許さない空気を感じます。

 

1980年代後半、株式や不動産・マンションは「上がるから買う、買うから上がる」という循環をもたらし、永遠に右肩上がりの繁栄が続くとの錯誤をもたらしました。

これがバブルでした。バブル(泡)はやがて弾けてしまいました。それ以来、25年以上もの長い間、日本は景気後退とデフレに悩まされて来ました。

 

再びそんなことにならなければいいのですが、心配です。今年も注意深くマーケットの動向を見て行こうと思います。

 

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。

 

 

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