第651回 オイルダンパー装置の検査データ改ざんで変わるマンション市場

このブログは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論を展開しております。

5日おき(5、10、15・・・)の更新です。

 

 

マンション市場に大きな影響を及ぼしそうな事件が起きました。ご存知のKYB事件です。

 

免震・制振構造のマンションに関係するマンション業者やマンションオーナーは、この度のオイルダンパー装置の不正事件によって、大きなショックを受けたことでしょう。3年前に発覚した「傾斜マンション事件」も記憶に新しいところですが、またしても「改ざん」です。今回は、地震の揺れを緩和(減衰)する装置が引き起こした激震という皮肉な事件と言えましょう。

 

免震構造・制振構造のマンションオーナーに対し、大きな不安を与えたに違いありません。 この件が表に出てからKYBや国土交通省などが「震度7程度の地震でも大丈夫」と言っていますから、信じるほかないでしょうが、本当に大丈夫かと不安を感じている人も少なくないことでしょう。

 

工事中のマンションを契約した人、そのマンションを販売したデベロッパーも、このまま黙ってはいないはずです。当然ながら、装置の交換という大掛かりな手直しを求めることでしょう。新たな販売も一旦停止され、工期も遅れます。工期が遅れれば購入者への引き渡しも遅れてしまいます。遅れて困るのは、売主も買主も同じです。

 

引き渡しが遅れることは、学校の転入学時期の遅れにつながるだけでないはずです。売主の売り上げ計画も変更を強いられることになりましょう。装置を製造したKYBは検査に合格した安全な製品を届けるだけかもしれませんが、工事をするのはゼネコンなので、その工事にどれだけ時間がかかるのか、今のところは不明です。

 

納入した製品はすべて不良品だったとは思えませんが、それでもユーザーは交換を要求することでしょうし、交換工事が終了して初めて安心感を持てるのだろうと思います。

 

装置は建物の規模にもよりますが、何十個と使われており、これを全て交換する工事は途轍もなく長い時間がかかりそうに思います。全国で約1000件、製品数にして約1万個に上るとKYB社は発表しました。

 

おそらく、古い装置を一旦除去してから付け替えるはずなので、ひとつの建物だけでも何か月とかかるのではないかと推察します。建物の地下に設置される免震マンションのダンパーは比較的交換しやすいと考えられますが、数階おきに壁に埋め込まれた制振マンションの場合、交換は容易ではないと思うからです。なぜなら、設置個所の壁を取り壊すといった手間のかかる工事も発生するからです。

 

製品の持ち込みも大変です。長さおよそ1~3メートルの棒状の交換用装置を運ぶには荷物用のエレベーターを使うにしても、居住者に不便をかけることことでしょう。

また、 工期は各階につき1週間はかかるとみられ、工期中に住民がホテルなどへ避難する必要があるかもしれません。

 

ところで、免震構造・制振構造のマンションは市場で風評被害を受ける可能性はないのでしょうか筆者はないと思っています。少なくとも、そう信じています

 

「東洋ゴム工業」が、免震ゴムを偽装していたことがありました。あれは2015年6月に公表したのですが、まだすべての交換が終わっていないはずです。市場で免震マンションの価格が下がったとか、中古市場で免震マンションが売れないという情報は流れませんでした。

 

データ改ざんと言えば、犯罪としても取り上げられた「耐震偽装事件(2005年公表)」が13年前に発覚しました。一人の建築士の不正が倒壊の危険ありとされて住民から家を奪い、建設・販売したマンション業者を倒産に追い込んだのです。

 

尚、偽装されたマンションの中には解体され建て替えたものも何件かあったのですが、大半は解体費も多額にかかることから補強工事をして残し、現在も居住中が大変と聞いています。

 

2015年の傾斜マンション事件も、分譲主が三井不動産レジデンシャルだったので、予想以上に早く建て替えの方向が決まり、ひとまず居住者を安心させました。

 

傾斜マンション事件は、杭工事のデータ改ざんが生んだものでした。言い換えると、安全な工事がされていなかったのです。このままでは生命が危ぶまれるという判断から、建て替えが決まったのです。

 

全国の既存マンション、工事中マンションに影響は及び、「我が家は大丈夫か」と大騒ぎになりました。工事中だった新築マンションについては、発注先ゼネコンに対し、「杭工事の下請け企業名の公表」と「適切に工事を行った旨の申告を書面で発行すること」を求めました。

 

その書面を筆者も見ましたが、「この建築工事は大丈夫です。安心してください」などという自己申告にどれだけ意味があるのか疑問を持った記憶があります。

 

しかし、その騒動も三井不動産レジデンシャルが建て替えを提案し、費用の全額(仮住まい費用、慰謝料などを含む)を負担すると発表したこともあってほどなく終息しました。その間、約1年でした。

 

今回は交換工事が終了するまでを見据えると、長引きそうです。被害対象公共建物だけで109庁舎とありますから、民間マンションは900件ほどになります。マンション名は公表しないことになったようですが、装置の交換だけで最短2年としていますから、全部のマンションが工事完了となるまで3年か4年かかるのでしょうか?

 

神戸製鋼や複数の自動車メーカーなどでも、このところ数多くデータ改ざんが発覚しています。どうして、こんなことが起きてしまうのか?日本企業の、ひいては日本人の律儀さや誠実さはどこへ行ってしまったのでしょうか?

 

耐震偽装事件が起きたとき、チェックしきれなかった国土交通省の役人は「性善説が根底にあるので、ここまでの想定はしていなかった」と語ったことを思い出します。その後、マンションの設計は「構造」と「意匠」を分離するなど、建築許可に関しては、いくつかの規制強化が行われました。

 

幸か不幸か新築されるマンションの中で制振装置を要するものはタワーマンションだけなので、全体の数%に過ぎないのですが、それでも無視できない数であり、影響は大きいと見なければなりません。話題になる人気マンションは、大規模でタワー型が多いので、工事中も完成済みも含めて、ゼネコンとマンション業者はしばらく対応に追われることでしょう。

 

この事件はマンション市況にどのような影響を与えるでしょうか?検討に着手している買い手さんは、売主から「ここは大丈夫」と聞かされれば前に進むことでしょうが、KYBの製品を使っている現場では、ズバリ言って販売は開店休業状態になるのではないかと思います。

 

現在販売中のタワーマンションの広告を調べてみると、今のところ販売を中断したものはなさそうです。KYBの装置を使用していないのでしょうか?

何カ所かヒヤリングしてみると、「使用していない」物件もありますが、「使用している」物件も結構あるようです。KYBのシェアが大きいらしいので、当然と言えば当然ですが。

 

販売を継続中で、表向き何も変わらないように見える物件も、そのうち動きがあるでしょう。遅れているのは、KYBの装置を使用していることが判明したものの、データが正しいものか改ざんされたものかまだが分からないこと、仮に改ざんされた可能性があっても交換の時期がいつになるか、工事スケジュールが立てられる状況に至っていないと思われます。

 

国土交通省の見解を信じるとしても、一旦竣工させて買主に引き渡しをしてから後日交換するというわけにも行きません。欠陥マンションを引き渡して代金を受け取るなどということはあり得ないことです。国土交通省の見解では「耐震性に問題はない」ので、一旦品物をお引き取り願いますなどという業者が現れるとも思いません。

 

間もなく、KYB製品を使用しているマンションの場合は営業を中断することになるでしょう。「工事が予定より大幅に遅れますが、時期は未定です」では販売はできませんから。事実上、既に中断状態になっているかもしれません。

 

売買契約締結済みの買主に対しては、事情説明をしつつ、竣工時期についてはまだ目処が立たないのでお待ちいただきたいと連絡するにとどまっているらしいですが、大幅に遅れることは間違いないですし、購入の目的が果たせないことを理由に解約する購入者も現れることでしょう。そこに違約金も発生するに違いないと思います。としたら、デベロッパー(売主)の痛手がどの程度になるか想像もつきません。

 

もちろん、被害マンションを買ってしまった一般個人の不安と損害は小さくありません。

 

甚大な風評被害は起こらないとしても、タワーマンションと聞いただけで敬遠する人が増えるかもしれません。

買いたいタワーマンションのうち、新築に関してはしばらくの間、市場から消えてしまう物件も出て来るでしょう。ホームページも広告も消えて、ただでさえ品不足の新築マンションがますます少なくなってしまう事態に陥りましょう。

 

いずれにしても、国土交通省の見解では「耐震性に問題はないものの、検討するなら安全が確認できるまではタワー以外のマンションか、タワーでも耐震構造のマンションとターゲットを絞るほかありません。

 

 

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