第638回 タワーマンションの大規模修繕費用は1戸当たり185万円?

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タワーマンションは大規模修繕に多額の費用が掛かると言われ、タワーマンションを既に購入した人、現在購入を検討している人たちを心配させています。

タワーマンションに限らず板状型も含めて20階以上の超高層マンションの大規模修繕にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?

今日は、その疑問に少しだけ近づいてみようと思います。

 

●大規模修繕は12年周期に行う?

超高層マンションの大規模修繕は金がかかると思われると販売にも支障が起こると考えたかどうかは分かりませんが、ゼネコンとマンションデベロッパーは、大規模修繕のインターバルが短く済む素材や工法などの研究に余念がないようです。

 

とまれ、今のところ国土交通省のガイドラインでは大規模修繕は12年周期となっています。

必ず12年ごとに実施しなければならないということではなく、専門家(建築士など)の診断によって、まだ大丈夫と判定されれば先送りしてもいいわけです。

 

工事を請け負うことのできる管理会社は、不要な工事を強要して売り上げアップ、利益確保を図るということもあると聞きますし、管理専門のコンサルタント会社が紹介した工事会社が不当な利益を得たり、その裏にはコンサル会社へのリベートが多額に乗っていたりするという噂もあるので、気をつけなければなりません。

 

●超高層マンションの修繕費はどのくらいかかるの?

オーナー(購入者)から見て大きな関心事は修繕費の積立方法です。一般的に、最初は少なく、徐々に値上げして積立残高を増やして、必要な時期に必要な財政状態にしようと計画されます。

図表は新築マンションの30年間の資金計画を表しています。

棒グラフが工事費の累計を表し、折れ線グラフが積立金を示しており、必要な工事費を積立金が常に上回るように計画されます。

上図では工事費(棒グラフ)が15年目に急に増えていますが、これが第1回の大規模修繕の年次です。24年目も大きく増えていますね。

 

●計画は3~5年ごとに見直されるもの

長期修繕計画書は、分譲主が管理会社に委託して策定するもので、分譲時に購入者に提示されますし、購入者はその内容を理解して売買契約に調印するのですが、計画は入居後3~5年ごとに見直しが行われます。

また、計画通りに実施するか延期するかなどの決議は管理組合の総会で行われます。

下図は、「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」というタワーマンションで見直しを行い、積立計画を変更したものです。(図表は同マンションの管理組合HPより)

 

 

この見直しで特筆できるのは、分譲時の計画では段階方式で30年後に1㎡あたり352円に跳ね上がる予定だったものを、5年後に2倍程度の@160円/㎡に上げたものの、その後は値上げしない計画に変更した点です。

 

この図表から読み取れるのは、支出計画を大幅に見直したことにより、その具体の数値・内容は確認できないものの、少なくとも多額の出費や値上げを当分心配しなくて良くなったということです。

 

●超高層マンションの修繕費はなぜ高い?

タワーマンションは一般のマンションより修繕費が高くなるのですが、その理由を整理しておきましょう。

 

マンションの修繕工事費は、建物の形状や規模、立地、道路幅員、仕上げ材や設備の仕様に加え、区分所有者の機能向上に対するニーズ等、様々な要因によって変動するものであり、このような修繕工事費を基に設定される修繕積立金の額も、当然これらの要因によって変化する性格のものです。

 

以下に、マンションの修繕積立金の額に影響を与える修繕工事費等の主な変動要因を示します。  (国土交通省のガイドラインから転載。一部を加筆修正しました)

<修繕積立金の主な変動要因>

①建物が階段状になっているなど複雑な形状のマンションや超高層マンションでは、外壁等の修繕のために建物の周りに設置する仮設足場やゴンドラ等の設置費用が高くなるほか、施工期間が長引くなどして、修繕工事費が高くなる傾向があります。

 

※外壁工事(洗浄・補修・塗装)のための仮設足場には、建築基準法で45メートルの高さ制限があります。45メートルは15階建てが限界になるので、20階以上となる超高層マンションの16階から上はゴンドラを使う作業となります。ゴンドラ作業の部分が一般マンションにない部分であり、割高になる部分と言われています。

 

②一般的に建物の規模が大きくまとまった工事量になるほど、施工性が向上し、修繕工事の単価が安くなる傾向があります。

※超高層マンションの多くが大規模なので、この面では安くなるのですが。

 

③エレベーターや機械式駐車場の有無及びその設置場所、玄関ホール・集会室等の規模等により、修繕工事費が変動します。 近年の新築マンションでは、ラウンジやゲストルーム等、充実した共用施設を備えたマンションが見られます。また、温泉やプールがあるマンションもあります。このようなマンションは修繕工事費が高くなります。

※超高層の場合、エレベーターのワイヤーの長さ・強度などが特別仕様なので交換費用が高くなると言われます。駐車場も平面自走式ではなくタワーパーキング式が多いので、同じ大規模の中高層マンションより高くなる傾向にあります

 

④建物に比べて屋外部分の広いマンションでは、給水管や排水管等が長くなるほか、アスファルト舗装や街灯等も増えるため、これらに要する修繕工事費が高くなる傾向があります。

 

塩害を受ける海岸に近いマンションや、寒冷地のマンションなど、立地によって劣化の進行度合いや必要な修繕の内容が異なり、修繕工事費に影響を与える場合があります。

 

➅一般に、高級な材料を使用している場合は修繕工事費が高くなります。ただし、材料によって必要な修繕の内容が異なったり、修繕の周期を長くできたりする場合もあります。

 

⑦外壁については、塗り替えが必要な塗装仕上げの他、タイル張りのマンションも多く見られます。 タイル張りの場合は、一定期間ごとの塗り替えは必要ありませんが、劣化によるひび割れや浮き・剥離が発生するため、塗装仕上げの場合と同様に適時適切に調査・診断を行って修繕を実施する必要があります。超高層マンションはタイル貼りでないものが多いのです。 修繕工事費は、劣化の状況により大きく変動します。

 

⑧手摺り等には、鉄、アルミ、ステンレスなど様々なものが用いられます。一般的に、一定期間ごとに塗装する必要のある鉄製のものの他、錆びにくいアルミ製やステンレス製のものもあります。 近年の新築マンションでは、錆びにくい材料が多く使用されるようになってきており、金属部分の塗装に要する修繕工事費は少なくて済むようになる傾向があります。

 

共用の給水管や排水管については、配管や継手部分の内部が腐食することから、これらを洗浄・研磨し、再度コーティングする“更生工事”や、“更新(取替え)工事”が必要になります。 近年の新築マンションでは、ステンレス管やプラスチック管等の腐食しにくい材料が使われるようになって更生工事が必要なくなり、取替え工事も遅らせることができるので、給排水管に関する修繕工事費は少なくて済む傾向があります。

 

⑩近年の新築マンションの中には、生活利便性や防犯性を考慮して、さまざまな種類の付加設備(ディスポーザー設備、セキュリティー設備等) が設置されているものが見られます。このような設備が多いほど、修繕工事費は増加する傾向があります。

 

⑪新築時に設置されていなくても、その後に居住者のニーズの高まりや消防法等の法制度の改正を受けて新たな設備を付加する場合があります。また、耐震性に劣っている場合や、居住者の高齢化に対応できていない場合は、耐震改修やバリアフリー改修等を行うことが望まれます。こうした改修工事が見込まれる場合は、所要の費用を計画的に積み立てておくことが重要となります。

 

 

タワーマンションでは、上述のように上層階の外壁工事に最大のプラス要素がありますし、エレベーターの交換費用、タワーパーキングの整備・交換費用なども長い間にプラスされる項目です。

 

ただし、30年計画の中に組み込まれない部分もあります。あるタワーマンションの場合、エレベーターの交換の時期は40年後とありました。

また、防災対策が充実して来たことに関連し、自家発電装置の交換費用、タワーマンションの多くが内廊下式のために各階廊下にエアコンが設置されますから、この交換費用も同様です。

 

<改修工事の実施時期> 主なものを挙げておきます。

*屋根の防水(断熱と防水、保護塗装)/89年目

(雨漏りを防ぐため、屋上は防水処理がされていますが、長い年月で劣化するので、10数年おきに新たに防水工事を行います)

*バルコニーと共用廊下の床防水/12年目

(共用廊下が外廊下の場合は防水処理がされているので、10数年ごとに防水シートの張り替え工事を行います)

*外壁塗装(壁・軒天などの吹き付け部)/12年目

(タイルであれば張り替えたり、塗装であれば塗り替えたりと、足場を組んで工事をするのが一般的。タイルを全面的に張り替えることはなくても、点検をしたうえで、剥離箇所を補修して防水処理を行います)

*給水管/40年目に交換*排水管/30年目に交換

(給排水管も長く使えば詰まりや破損などの恐れがあります。そこで10数年~20年おきに交換します。材質によっては錆や腐食が起きやすいものがあり、期間は短くなります)

*エレベーター/15年周期で内装と三方枠の補修。20年目に制御盤交換。40年目に全交換・・・・(定期点検とは別に、10数年ごとに補修工事を行い、30~35年ごとに交換工事が必要になります)

*玄関ドア/12年周期で点検調整。36年周期で交換

*機械式駐車場・・・エレベーター同様25~35年くらいで交換工事を行います。

*鉄部の塗装・・・鉄はさびやすいので、5年前後おきに補修と塗装を行います。

 

 

◆必要な積立金:ガイドラインにはこうなっている

国土交通省のガイドラインによれば、マンションの規模ごとに積立金の必要額を以下のように示しています。

 

国土交通省のガイドラインで示された専有床面積当たりの修繕積立金の額

階数/建築延床面積

平均値

事例の3分の2が包含される幅

【15階未満】5,000㎡未満

218円/㎡ 165円~250円/㎡・月

【15階未満】5,000~10,000㎡

202円/㎡ 140円~265円/㎡・月

【15階未満】10,000㎡以上

178円/㎡ 135円~220円/㎡・月

【20階以上】超高層マンション

206円/㎡ 170円~245円/㎡・月

【注 1】上表は積立方式に関わらず比較がしやすいよう、30年間の月割均等にした数字です。

【注 2】16~19階未満は建築事例が少ないので除外しています。

 

●タワーマンションの大規模修繕実例(エルザタワー55)から

いったいどのくらいの費用と時間かかるものかと、大規模修繕が心配されてきたタワーマンションですが、注目の実例が登場し、話題になったことがあります。報道から要点を抜き書きしてみましょう。

 

そのマンションは、ライオンズマンションで有名な株式会社大京が1996年頃に分譲した「エルザタワー55」という埼玉県川口市の物件で1998年に竣工しました。竣工から17年後の2015年3月から大規模修繕を行いましたが、工事期間は2017年2月にかけて約2年を要しています。

 

同マンション管理組合は、複数の企業に施工計画と見積もりを依頼しましたが、内容が各社ばらばらで比較がしにくいということから一旦白紙にしたのち、改めて入札を実施したそうです。

 

受注に成功したのは、シミズ・ビルライフケアという清水建設系の企業で、7階までは足場を組んで工事し、8階から50階までは昇降式(エレベーター)足場を、51階~55階は建物の形が複雑だったため、吊り下げ方式の足場(ゴンドラ)を使用したそうです。

 

肝心の費用ですが、報道によれば12億円だったそうです。戸数は650戸なので、1戸当たり約185万円を要しています。

 

ガイドラインの12年目でなく、5年遅れの17年目の発注なので積立金も潤沢だったでしょうか?報道によれば、借り入れも一時金徴収もなかったとあります。

 

●タワーマンションの修繕積立金

エルザタワーの場合、17年間(204か月)に小修繕は何回かあったはずですが、これを無視して計算してみます。

約200か月で185万円を割ると月平均9250円です。これを全部使いきることはできないはずで、18年目以降の分として例えば1戸平均30万円相当を残すとしたら、185+30=215万円の積立を17年で達成しなければなりません。つまり、215万円÷200か月=10,750円の積み立てが必要だったことになります。

 

平均面積がいくらかは不明ですが、仮に75㎡とすると10,750÷75㎡=@143円/㎡です。段階的に上げながら平均143円/㎡にしたのでしょうか?ガイドラインでは206円/㎡なので、だいぶ安いことになります。

 

ところが、 同マンションの積立金は、調べて見ると、現在93円/㎡に過ぎません。まさか、見直しの結果、引き下げたとも思えないのですが、真相は不明です。

 

いずれにせよ、タワーマンションの代表格「エルザタワー」の大規模修繕費は1戸あたり185万円だったことは確かのようです。ということは、タワーマンションは12~17年かけて185万円以上の積立をしなければ工事はできないことを教えてくれたのです。毎月平均1万円以上です。1㎡当たり200円程度は必要と考えておかなければなりません。

 

新築時から10年間を100円で設定すると、11年目以降200円では不足が生じます。そこで、基金として120か月分を入居時に徴収するのです。120か月分相当でなく、60か月分に設定すると足らない分を後年どこかで帳尻を合わせることが必須となります。つまり、200円でなく250円とか、300円に上げるわけです。

 

 

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