第684回「40年先を見据えてのマンション購入作戦」 シリーズ第3回

※このブログでは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております

10日おきの更新になりました。引き続きご愛読賜りますようお願い申し上げます。(次回は6月30日です)

東京オリンピックが終わって1年。2021年秋のことでした。

(前回、前々回同様、今回のブログは筆者の創作です)

Yさんは50歳。2007年に築25年の古いマンションを購入しました。

築39年になるが、売却を考えたいというご相談です。

Yさんの所有マンションは23区の東部、地下鉄沿線で駅から5分にありました。3百戸余の大型物件です。工場跡地を開発したらしく、敷地の広さを生かして、敷地内にはガーデン、広場がレイアウトされ、敷地外周部は高木が生い茂っています。少し大仰な表現をすれば森の中のマンションという風情です。

最近1年の取引価格を調べてみると、意外に安いのです。Yさんからもらった情報では、大規模修繕も2年前に終わったそうで、管理状態はとても良いのだそうです。修繕積立金も1戸当たり200万円を超すそうで、中々見ない潤沢な管理組合であることが分かります。

駅から近い、閑静な住宅地、駅力も低い方ではない、買い物施設も飲食店も十分そろっている街です。なのに、同年数の近隣マンションに比べて高値を付けているようでもないのです。

Yさんは、このマンションに住み続ける選択肢も捨ててはいないようでしたが、築40年を迎えるに当たって、価格の上昇期待はできないから、今が売り時ではないかと考え始めたのです。

●2021年の市場は相変わらず良好なのに

Yさんの所有マンションをYマンションと呼ぶことにしましょう。Yマンションは、オーナーの期待する査定額はどこからも出て来ませんでした。査定を依頼した仲介業者は5社でしたが、どの業者も似たような金額だったのです。

査定額には、その根拠を示すことになっているので、Yさんは不満ながら認めざるを得ません。

業者は、「中古物件の価格は取引事例比較法によるので、こうなってしまうのです。ただ、高く売る努力はさせていただきますので、査定額に300万円加えて0000万円で売り出してはいかがでしょうか?」と進言し、「チャレンジ価格」と称する書面を遅れて提示して来ました。

Yさんは、大手3社と「一般媒介契約」を締結し、査定金額+300万円で売り出すことを決めました。ところが3か月の媒介契約の満了時期が近いのに全く買い手がつきません。契約の更新をするにあたり、Yさんは300万円下げて売り直すことにしました。しかし、それから3か月、安くなったこともあって見学者は以前より増えましたが相変わらず決定打はなく、やがて2回目の契約も満了日が近づいて来ました。

筆者にご相談があったのは、そんなときでした。東京オリンピックが終わっても国内の景況は目立って悪くはありませんでした。相変わらず、米国と中国の貿易戦争は続いていましたが、世界から持ち上がった景気後退の懸念はさほどでなく、日本への影響も軽微に収まっていたのです。

日本でも、米中貿易摩擦の影響は早めの対策で最小限にとどまり、オリンピック景気の反動も起きなかったのです。

オリンピックで最高潮に達した訪日客もいっときは落ち込んだものの、1年後には過去最高を更新する勢いでした。そのおかげもあって、国内消費は増えていました。識者は次のように解説していました。

オリンピック前から訪日客は増える傾向にありました。オリンピックを契機に初めて日本を訪れた観光客が、日本の歴史、文化、風景、マナー、清潔感など、中でも食事のおいしさに感動して再来日する人達が急増したのです。官公庁の目標数を超える勢いにありました。

新築マンションは相変わらずの高値で敬遠される傾向にありましたが、代わって中古市場は好調が持続していました。

そうした背景にあったのに、23区内のYマンションの販売はなぜうまく行かないのでしょうか?強気に売り出したことが裏目に出たということでしょうか?それとも、居住中であることに支障があるのでしょうか? 単に建物が古いからでしょうか?

Yさんは、売れない原因が量りかねていました。仲介業者も一様に「反響が思ったより少ないですねえ」と感想を述べるだけでした。

●優れたマンションでも買い手がつかないことがある

築37年になろうかという物件が新築マンションの価格を上回っている例のある一方、古いなりに安いマンションがあるのは確かです。Yマンションは古いけれども管理状態も良く、スケール感があって立派なマンションです。長い間に成長したシンボルツリーや少なくない樹木は見事でした。

それらの写真は、ポータルサイトの物件紹介ページにも掲載されていました。全容を見るためにグーグルマップを立ち上げて航空写真を見るとさらに良く分かりました。近隣マンションとの位置関係や道路と近くの運河との距離感なども当然分かるので、環境や景観の良さは伝わって来ます。

現地を確認したところ、写真との差異はなく、レトロ感は確かにあるものの、緑の多さ、マンション全体の重厚感もあって良いマンションだなと思いました。

しかし、このマンションには問題がありました。1982年竣工の旧耐震基準で建てられたマンションでした。Yさんは、それを知らずに買ったのでしょうか?聞いてみました。

「不動産業者が、法律が変わったのは1981年なので1982年の本物件は新耐震です。確かそう説明を受けています」とのことでした。筆者は指摘しました。

1981年は基準が変わった年で、そのあとで許可(建築確認)を受けたものは新耐震基準のマンションと言えますが、建築確認通知書を確認なさいましたか?多分していないと思います。この建物の着工は早くても2年前なので、許可も当然1980年だったはずです。従って旧耐震基準のマンションということになるのです。

最近の買い手さんは、インターネット普及のおかげでこの辺りの知識も持っていますし、築35年以上のマンションには手を出さない人が増えているのです。お買いになった2007年ころはまだ意識が弱く、古いマンションに手が伸びる人も多かったはずです。14年前に買っていらっしゃるわけですから、築25年のマンションを買われたことになりますが、25年なら古いとはいえ、今ほどの抵抗はなかったのです。そのころは、マンション価格の急騰期で高い新築に手を出しにくく、中古人気が高まっていたときですし。

このように解説したところ、Yさんは愕然としたようで、「知りませんでした。不動産業者に騙されたのですね」と、声を絞り出すのが精一杯というふうでした。

「不動産業者にも無知な営業マンも多いので、悪意はなく、単なる思い込みで誤った説明をしたのかもしれません」筆者は実際そうだったのだろうと思いました。

●耐震診断をしていない物件とリノベマンション

Yマンションではないですが、旧耐震マンションの評価依頼が筆者に届くことが最近は目立って増えました。

共通点は、古いけど立地条件が気に入った、間取りが広く収納も大きい点が魅力的、内装が一新されたリノベーション物件であること――でした。

旧耐震基準のマンションという点は認識していて、その点が心配だ。これを買っても問題ないか――そんな質問が添えられていました。

筆者は、「安全とする証拠がない以上、お勧めのマンションと言うことはできません」と答えるほかありません。しかし、知っていながら旧耐震マンションを選択肢にする人が多いのはどういうわけだろう、そんな疑問を抱きました。答えはすぐ浮かびました。

新築マンションが相変わらず高く、連れて中古も条件の良いものは値が張る状況にあったからです。中古物件を探したが、中々良いものが見つからず、広くて間取りがよく、立地条件の良いものを探しているうちにたどりついたのです。

マンション業者も用地難のため新規開発ができない状況が続いており、新たな収入源としてリノベーション物件の商品化を手掛ける業者が増えていました。仲介では利益が少な過ぎるので、「買取り転売ビジネス」が波及していたのです。

旧耐震マンションの個人オーナーは、売却を狙うが中々売れないので、最後は確実に買ってくれる業者に泣く泣く安く売るという道を選ぶ人も増えていました。

「泣く泣く」と述べましたが、住宅ローンの残債がまだ多く、残債割れの安値になってしまう人もあったからです。築40年マンションといっても、オーナーは40年前に買ったのではなく、Yさんのように中古で買って10年とか20年経過というオーナーが多いのです。

旧耐震マンションであることを知りながら買った人も数多く見られました。「30年、40年経って何事もなかったのだから心配あるまい」という安易な考えの人も多いのです。しかし、何かの事情で売却ということになって、その壁の高さに驚き、しかも最後は残債割れも求められる始末。青菜に塩、泣きっ面に鉢の体です。

それでも手放す人が後を絶たないところに目を付けた転売業者が買い取りを持ち掛けます。そうして、足元を見て安く買い叩き、バリューアップを図ったうえで販売します。仲介業務では法律に定められた手数料の制限がありますが、自社物にしてしまえば、20%儲けようと30%の利益を乗せようと自由だからです。

このビジネスは、仕入れ額を安く、リノベーション工事代も少なく抑えつつ感動的な内装・設備に仕上げるがコツです。新進の建築・インテリアデザイナーを起用して個性的なリノベーション物件を商品化します。

感動的な内装を見て、初めての買い手は舞い上がり、そこだけに目を奪われます。本当は冷静にチェックしなければならない項目を見落とし、痘痕も笑窪状態に陥ってしまうのです。

そうして買ったマンションも、時が経てば魅力的だった内装はやがてはげ落ちていきます。その結果、前所有者が選んだと同じ道を歩くことになる可能性が高まるのです。

●あと何年住めるのかが分からない不安

それでも、購入前の段階で相談して来られる人は救われます。新耐震マンションのリノベーションの評価は、主に価格が妥当かどうかの視点で調査した結果をレポートすればいいので、筆者の気持ちも楽です。

旧耐震マンションの場合は、安全と言えない物件を評価しなければならないため、非常に気が重いからです。

リノベーション物件の中には、不当とも言える利幅の大きな例が多数見られます。無論、買い取った金額を知る立場にはありませんし、あくまで筆者の憶測でしかないのですが、当該マンションの売買履歴を見れば、素の相場とでも言えばいいか、適正な価格が分かります。

リノベーション工事代金を推定して乗せれば、業者利益の大きさが見えて来ます。

リノベーション工事は、個人が自らやれば手間も時間も、また費用も、慣れた業者に比べて非効率です。そこを業者が代行してくれるわけで、売買代金を払ったらすぐに住める手軽さもあって人気です。

業者は適正な利益を目論んでいいのです。しかし、その利益が大き過ぎると思われるケースが非常に多いと筆者は感じて来ました。2021年の今もその印象は変わりません。オリンピックが終わって景気が後退し、価格の下がると読んだ買い手の多くが、当てが外れたと感じていました。そんな買い手がたどりついた商品のひとつがリノベーション物件でした。

新築同様の内装・先進の設備にほれ込んで購入意欲が膨らみます。

しかし、築古物件を検討するとき、あと何年住めるかという心配を抱く人も少なくありません。マンションの寿命というものが分かっているようで分からない人が多いからです。新築なら先が長いので心配はないが、中古はどのくらい住めるのかが分からないというのです。

そこから、中古でも検討するなら築浅に限るという心理を生みます。

築浅の中古は人気が集中して在庫が少なく、長く市場に置かれる築年数の長い中古にたどりつきます。しかし、そこでは耐用年数が問題になります。

耐用年数は、維持管理次第でもあります。

管理費が安いことは必ずしもベターではありません。また、修繕積立金が積み上がって財政豊かなマンションであることも必要条件になります。月額の積立金が安いのは危険な場合があります。積立金に回せる貸看板や電波基地局など別途収入があるなら別ですが、値上げを嫌っているだけなら先は厳しい事態が待っているに違いありません。

ヴィンテージと呼ばれるマンションは例外なく維持管理に力を入れていると言われます。管理会社にまかせっきりにするのではなく、住民自ら維持管理に積極的にかかわり、みんなで共用部をいつくしみ、資産価値を守っています。住民は我がマンションに愛着を持って、そこで長く暮らし続けるという道を選択しているのです。

このようなマンションは希少価値を高め、市場では高く評価されます。

●安さを求めて選んだマンションだったが・・・

Yさんのマンションの広告に反響が少ないのは、旧耐震マンションだということも一因ですが、「何年住めるか分からない古過ぎるマンション」、ここに主たる要因があったのかもしれません。

Yマンションは、ヴィンテージと呼ばれるマンションに負けず劣らずの維持管理を続けていました。しかし、購入者心理としては、その手前で「古過ぎる」が壁となって検討する気をなくしてしまうのでしょう。Yマンションは23区内にありましたが、邸宅地にあるわけでもなく、名だたる有名マンションでもないので、選択肢は他にもあると見なされて回避されていたのです。

安さを求めてたどりついたYマンションを購入した14年前、Yさんは掘り出し物かもしれないと思ったそうです。その良さが世間には届かないのだと今になって知ったわけです。

新築志向の強い日本、中古マンションは敬遠される傾向があります。まして、築年数の長い、築古マンションは見向きもされないのだとYさんは思いました。

Yさんは、この先どうしようかと思い悩みました。もはや、ここに当分住み続けるしかないのか?住宅ローンが完済できれば、そのときは安くても銀行清算で心配することはないわけだから、そのときに売ることを考えればいいのか?でも、完済までにはまだ20年もある。二束三文になってしまうのかもしれない。それだったら、多少の持ち出しを覚悟のうえで早く売ってしまう方がいいのではないか。

筆者との会話から、Yさんは価格を下げる方向へ傾きつつありました。Yさんは反省しました。マンションは資産でもあるのだから、将来価値(リセールバリュー)を念頭に置いて選ぶべきだった。Yマンションは良いマンションだが、古過ぎると買い手がつきにくいことを学びました。

現時点で市場に出ている中古マンションは平均して築20年くらいですが、20年先には30年か40年が平均になることでししょう。つまり、築40年マンションは現時点で少数派ですが、将来は中心帯になって来るはずです。買い手の志向も変わって来ると考えられます。中古売買が普通である欧米並みにはならないとしても、近づくことでししょう。

売る側も綺麗に使う意識が高まってくることでしょう。共用部のメンテナンスも適切に行われるマンションが増えるに違いありません。

こうしたことを考慮すると、これからは築20年くらいの物件を選んでも売却時に「古過ぎる」という見方はなくなる可能性があります。

筆者はYさんを励ましました。

「人生90年時代とも百年時代とも言われます。年金制度も怪しくなっています。老後の資金を確保しなければなりませんが、今からでも遅くありません。それには、不動産を活用するのが一番です。うまり、自宅の売却で大きな資金を得ることです。家は投資目的で買うものではないですが、結果的に良い投資になり得るのです。Yさんはまだまだ若いのですから、ここで仕切り直しをなさって次に間違いないものを選べばいいのです」

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

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6月15日 第211回 「坪単価の高いマンションがいい」です。