第693回 「ワンルームマンション投資の落とし穴」

このブログは10日おきの更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

マンションの価格が下落を始めたというニュースはなく、筆者の日々の作業でも「下がり始めた」という実感は全くありません。売れ行きが悪化してしても、新築マンションには値下がりを裏付ける証拠は見られないのです。

誤解のないように補足しておきますが、新築マンションは市況商品ではないので、世の中の空気が少々変わろうとも、簡単に下がることはないのです。

利幅が大きな商品ならば、利益を削るかたちで売り値を調整すればいいですが、純利ベースで言えば、10%程度しかない新築マンションでは、やむをえず値下げするにしても、企業存続のためには3%も下げられないのが実態です。

マンション価格を安くするには、新たに安い土地を仕入れ、コストの安い粗末な(低級な)商品を開発するほかなく、現実的には「品質が良くてレベル」、うっかりすれば「見えないところで手抜きしたマンション」を造る以外に策はないのです。

立地を問わなければ安い土地を取得することも可能ですが、最近の傾向は「立地条件」について買い手の条件はシビアで、駅から遠いとか都心から距離があるマンションは売れない傾向が強いので、そのような土地を積極的に仕入れる業者はありません。

さて、新築マンション価格が下がらないので、中古マンションにも波及し、じわじわと上昇しています。新築マンションの供給が困難になって、マンション業者の苦悩も深まるばかりです。そんな中で「ワンルームマンション業者は元気」そんな印象を受けます。

筆者のところにもときどきワンルームの購入相談が飛び込んで来ます。今日は、「ワンルームマンション」を買おうとしている人に、ある種の警句として筆者の考えを述べようと思います。

●ワンルームマンションの投資セミナーが盛況?

サラリーマン中心に 大勢の客がセミナー会場を訪れています。

ワンルームマンションを購入して賃貸する。これはビジネスであり、税務上 で言えば事業所得になります。それは、1 室でも変わりません。この 1 室からのマンション経営に乗り出すサラリーマンが相変わらず増えているのだそうです。

しかし、ワンルームとはいえマンションの価格は安いものではありません。従 って、20年、30年といった長期のローンを利用してお買いになる人が圧倒的に多いのです。

ローンを使えば、その返済に家賃収入の大半が消えてしまいます。収入がない 経営にどうして手を出すのでしょうか?

ワンルームを現金で購入するのであれば、その投資額に対する賃料の利回りが 10%になるものもありますから、意味がないこともないのですが、長期のローンを利用した 場合はメリットがあるとは思えない。一瞬そう感じる人は多いと思います。手金利時代だから、「家賃の90%程度を返済に充てれば足りる。10%は手元に残ります」・・・・そんな触れ込みも目につきます。

ともあれ、ワンルーム投資は、老後の収入源を、時間をかけて確保しておこうという目的な のです。住宅ローンが完済した翌月から収入が得られればいい。現役の間は、 収入がなくても構わないという「深謀遠慮の策」。それがサラリーマンのワン ルームマンション投資です。

国の財政が逼迫している。年金財 政も赤字に転落し始めた。こうした情勢が、定年後の暮らしに も影を落としている。

サラリーマンを突き動かしている理由はここにあるのです。

●ワンルームが生命保険代わりにもなるとは?

投資した人が長期のローンを使っていた場合、そこには必ず団体信用生命保険 が付保されています。これは、債務者が死亡したときに債権者である金融機関が、保険金 を受け取ることで債権を回収するためのものであり、借り入れ額と同額を設定します。

実際に死亡したとき、残債分しか保険金は支払われないので、お釣りが遺族に亘 ることはありません。そのかわり、遺族には無借金のマンションが残されることになります。 そうなった場合、賃貸が順調に続く限り、毎月の生活費をマンションから得る ことができるわけです。

この保険は、普通に生命保険を掛けるのとどこが違うのでしょう。

不動産購入の長期ローンで利用される保険は、保険料が極めて安く、しかも大 抵はローン金利に含む形になっています。さらに、それを第三者である賃借人が家賃の形で払ってくれるという点が大きな違いと言えます。また、生命保険金を現金でなく、モノで受け取る点も違うわけです。

万一、ローン返済中に死亡しても、遺族に返済義務はありません。それどころか 財産を残してくれるわけですから、これを生命保険代わりとマンション業者が PR するのも間違いとは言えないわけです。

●定年までに3戸は欲しいサラリーマン投資家

ローンをうまく利用して購入すれば、定年までにいつの間にか老後の収入源が 出来てしまう。これが、サラリーマンによるワンルームマンション投資の基本 形であるわけですが、1 室だけでは不足かもしれません。

年金をたっぷり受給できないかもしれない、退職金も当てにならないかもしれない。その自衛手段としてマンション投資を始めるわけですが、ワンルームの 家賃が、実質で 10万円程度としたら、せめてもう1室は持っておきた いと考えるのではないでしょうか。できたら、3室。そうすれば、他の収入が なくても夫婦二人でギリギリの生活は保てる。年金が少なくても貰えるなら、まずまずの暮らしが可能ではないでしょうか。

としたら、頭金と登記料などの諸経費が用意できる度に買い増しすればいいのです。

もちろん、自宅の住宅ローンを抱え、かつワンルームマンションに利用するローンとのトータルが大き過ぎると銀行の審査が通らないこともありますが、賃料が確実に入るメドがあるケースでは、融資がおりますから、銀行に相談しな がら、ということにはなるでしょう。

●ワンルームにキャピタルゲインは期待できるか?

マンションの価格は、新築の場合、地価と建築費の変動による影響を受けますが、中古マンションは新築価格に連動する側面が強いとされます。つまり、新築価格が上昇すれば、割安な中古に人気が集まる傾向が現われ、やがて中古マ ンションの価格も上昇していきます。また、新築マンションが供給不足に陥った場合も中古マンションに需要が集中して価格が上昇します。

これは、ファミリーマンション市場で見られる傾向です。

ワ ンルームマンションでは、少し印象が変わります。地価や建築費、需給バラン スで価格が影響を受ける点は同じですが、ワンルームマンションの場合は、 収益還元率(利回り)の与える影響の方が大きいと考えられます。

従って、賃料相場が上昇しない限り、売買価格が上がることはないと考えなければなりません。

立地条件が際立って良いとか、再開発などで街の人気が急上昇し、地価も高騰 している地域は、家賃も高くなり、中古マンションでも投資家が注目することとなります。もし、そこで新築の供給がない状況なら、中古マンショ ンの価格も高値となるでしょう。

しかし、購入価格を上回る水準、つまりキャピタルゲインが得られるかという と、それが期待できる物件はワンルームの場合、極めて希有で、普通はそこまでは行かないと考えるべきです。

●ファミリーマンションではだめなのか?

ファミリータイプのマンションを投資対象にする人はたくさんあります。ただ、 目的は、老後の収入源というよりは、短期のキャピタルゲインに置く投資家が 多いようです。

ファミリータイプは、自己居住目的で購入する買い手が多く、この場合、買い 手に「利回り」の条件などはなく、価格が高くても是非ここに住みたいという ニーズに左右されます。

立地条件が良く、建物プランも優れている稀少な物件には、売りが出たら是非買いたいと、売却待ちの買い手も付きます。こうした 例は、 1 億円もする高額で高級な物件であることが普通です。

高い抽選倍率がついた人気物件の場合では、引き渡しを受けてから時間を置か ずに売却し、大きな利益を得る人が少なくありません。

では、そこまでの特別なものでないファミリー物件を、老後の収入源として購 入するという投資をするとしたら、その姿勢は間違っているのでしょうか?

利回りという観点から言えば、恐らくは間違いでしょう。しかし、メリットも あります。ファミリータイプは、借り手が退去するタイミングでという前提にはなりますが、買い手を探す対象が広いという点です。言い換えれば換金しやす いということですが、投資目的より自己居住目的の買い手の方が圧倒的に多いか らです。 

●手軽な投資ほど危険も多い「換金ができない?」

ワンルームマンションを自己居住用に購入する人はいないわけではありませんが、極めて少ないのです。従って、キャピタルゲインを狙っても裏切られると思った方がよさそうです。なぜなら、投資目的の買い手は、利回りの良い物件を希望する場合が多いからです。

古くなれば賃料も下がるのは当然。一方、買い手は、古いマンションに魅力を求めるとしたら「価格の安さ」と「利回りの高さ」です。古くなったマンションは、賃貸料も安くなるので、そこから逆算した物件価格は恐ろしく安くなってしまうのです。

新築のワンルームなら3000万円もする地域でも、中古は年数によって差はあるものの、新築の半値の1500万円などという例は普通にあります。家賃は半分まで安くはないので、利回りは中古の方が高いことになります。

しかし、築15年とか築20年とかのワンルームを買ったら、30年先の退職時に家賃がどこまで下がってしまうのか、31年目から20年間くらいは年金代わりの収益を得たいと思って買ったものの、築20年マンションを買った場合、30年先は築50年です。築50年のワンルームマンションから、多額の賃料を安定的にその先20年くらい受け取り続けることなどというのは可能なのでしょうか?

賃料は大幅に下がり、おまけに想定外の出費も求められるようになるのでは?そんな心配も出て来ます。

様々なケースを想定して考えてみると、ワンルームマンション投資はメリットよりデメリットが多いのです。

今日はここまでにしておきますが、「マンション投資をするならワンルームは避けておきたい。自己居住用にもなる広さに限るのです。

不動産の欠点は換金スピードが遅いことです。いざというとき、手放して現金化することが比較的やさしい「ファミリータイプ」または「小さくとも自己居住目的で買ってもらえる広さ」にした方が無難です。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com

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第220回は「中古マンション買うなら築15年以上が良い」です。