第695回「40年間も倒壊しなかったのだから大丈夫とは言い切れない」

このブログは10日おきの更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

最近、築40年クラスの古いマンションについてのご相談が続きました。青山、高輪、赤坂など、いずれも港区所在の物件です。マンションの歴史をたどれば当然なのですが、初期のころは都心の一等地を中心にマンションは建設されました、港区の3A地区(青山・赤坂。麻布)に多かったようです。

さて、ご依頼がたまたま続いた「古いマンション」を調査して感じたことについて今日は書くことにしますが、具体的なマンション名を挙げて評論はしない主義なので、ご了承いただきます。

今日のテーマは「耐震性」についてです。

言うまでもなく、鉄筋コンクリート住宅に限らず、地震国の日本では厳しい建築規制が設けられています。建築基準法に明記されている「耐震性能」については、過去何度か改定されて「倒壊しない建物」、「生命を守る耐震基準」を設けて来ました。

建築関連法規の改定が行われるのは、決まって大地震に襲われ、建物の倒壊や損傷という現実を見たのちのことだったと言って過言ではありません。最近の大規模改定は、今から28年前の1981年のことでした。

それ以前に建築許可を得た建物は、「旧・耐震基準」、1981年6月以降に許可された(正確には建築確認という)建物は「新・耐震基準」のマンションということになります。

●旧・耐震基準

1981年の5月以前の日付の建築確認マンションは、「旧・耐震基準」によるわけですから、改訂された「新・耐震基準」を満たしていない可能性があります。

旧基準のマンションは危険であると言っても、必ず倒壊するというわけではありませんが、万一、震度6強、7といった巨大地震が来たらと考えると怖いですね。

「現在、中古マンション購入で悩んでいます。部屋はリノベーション済みで綺麗なのですが、構造が気になっています。やはり、古過ぎる物件はやめた方が良いのでしょうか?」

上記に類似したご相談がときどき届きます。

中古マンションを検討する人の共通点は、価格の安さに大きな魅力を感じていることです。東京都の場合で、築40年のマンションは新築マンションに比べて平均55%くらいの価格水準にあります。70㎡の新築マンションが8,000万円の地域で、築40年ほどの古いマンションは4500万円くらいで手に入る計算ですから、魅力は確かに大きいですね。

反面、新・耐震基準に変わる(1981年)以前の古いマンションは、耐震性に問題があるとされ、その点で不安を感じる人があるのでしょう。「古過ぎる物件はやめた方が良いのでしょうか?」が、それを表わしています。

しかし、この部分に関しては、できたら避けた方が無難とは言えますが、建物の実際の強度を検査してみないと分からない部分でもあるのです。

●古いマンションの問題点は耐震性だけではない

実は、耐震性より優先して検討しなければならない問題があります。そのマンションの寿命に疑問があるからです。寿命の短いマンションを購入し、そこに何年住むつもりかということです。

築40年を越えるマンションの余命を考えてみましょう。40年前のマンションのコンクリートの耐久年数は、50年程度の可能性は高いとされますが、適切なメンテナンスがなされれば、もっと長くなる場合もあると言われます。仮に寿命が50年としたら築30年の時点で購入した人は20年しか住めない計算です。築40年なら余命10年です。

寿命に近づくに連れて不具合があちらこちらで露呈することでしょう。特に、コンクリートのひび割れ、中性化から爆裂といった症状は、耐震性の劣化につながります。。そして、雨漏り、結露、ジメジメ感といった住み心地を悪化させる現象が増えて来ます。

応急措置を繰り返して来たものの、たび重なる修繕に根本的な対策の必要度が増して行きます。建て替えの必要が論議されるのは、一般に築後40年を過ぎたあたりからと言われます。

不具合があまりにも頻繁になると、修繕の意欲も薄れ、劣化した箇所を放置したまま、すなわちメンテナンス放棄という事態もあり得ます。

管理費の滞納や修繕積立金の枯渇などが、これに拍車をかけます。日常管理もおろそかになり、共用部分にゴミが溜まり、自転車置き場が雑然としたまま、壊れた機械式駐車場は使用不能、メールボックスの扉も半分開いたまま。エレベーター内部は傷だらけで汚れもひどい状態に。

入居者は、あまりにも住み心地が悪いので、やがて賃貸するか売却して住み替える道を選びます。賃貸戸数が増えますが、賃料が高くないため、入居者の質が問題になったりします。それが更に住み心地を悪くさせます。

すべてのマンションがそうなるわけではありません。入居者が足並みを揃えて維持管理に関心を持ち、お金(修繕費)をかけて修繕を適切に行ないながら、また管理規約をしっかり守って共同生活を送り、共用部分も我が家の一部としてみんなで慈しんで行けば、60年経ても快適な住まいで在り続けることでしょう。

しかし、60年も経つとマンションはスラム一歩手前に陥るマンションもあります。そのような事態になったら売却金額もしれています。二束三文と覚悟した方がよいかもしれません。

最悪、以上のようなことになるかもしれないと覚悟して購入するのでしたら、何も言うことはありません。ただ、その場合は次のような割り切り方が必要になるでしょう。

①20年間、賃料を払ったつもりで住宅ローンを返済するのだと考えます。

(20年ローンの場合、毎月の返済額は、同程度の条件のマンションの賃料とほぼ同額になるケースが多いはずです。ローンのシミュレーションと、賃料相場を調べて比較してみて下さい。管理費等のランニングコストも大まかに計算に入れておきましょう)

②ほぼ同額の負担であるなら、マイホーム・我が城であることの満足感の分だけでなく勝るものは多いはずです。

③経済的には、20年後に500万円で売れたら500万円の儲けになるし、1000万円なら望外の喜びなどと考えてはいかがでしょうか。

ただし、これは住宅ローンを20年で組んだ場合ですから、もっと長い償還期間を選択した場合は、20年後に売却するときに残債を銀行に返済しなければなりません。従って、できるだけ短く組む方がよいのです。500万円で売れたものの、ローン残が500万円では手元に1円も残らないことになりますから。

④20年後に築60年のマンションが、果たしていくらで売れるかは予想が困難です。繰り返しますが、メンテナンス次第なのです。一般の土地付きであれば、スラム化一歩手前であるとしてもゼロ円ということはないはずです。

価格の安さに魅かれて悩んだときは、目先の金銭負担だけに囚われず、ここで紹介したような視点で20年くらい先に思いを馳せてみましょう。

●楽観の錯誤

話を戻しましょう。旧・耐震基準の古いマンションの中には専門機関に依頼して耐震性を調査したものもありますが、大半のマンションは調査をしていないと聞きます。筆者に届く調査対象マンションの中だけでも、「調査済みで問題なし」という例は10%もないのです。

90%は「闇の中」です。なぜ調査をしないのでしょうか?調査費用が高い?いいえ、大したことはありません。「耐震性が脆弱(ぜいじゃく)という答えが怖いからです。

というのも、売買の際に作成される「重要事項説明書」の項目に「耐震診断の有無」があり、ここに診断していない場合は「診断していない」と書くだけで済みますが、診断済みの場合はその結果について記載することが義務付けられているからです。

下手に診断したら「寝た子を起こすようなことになりかねない」から、何もしない方がいいという判断が働くようです。「見に来る人は気にしていないのだから態々(わざわざ)耐震診断をしていないので危険・注意などと告げる必要はない」というわけです。

買手の心理には、「古いマンションだから何かしら問題はあるだろう。でも価格が安いし、何より立地条件が良いから買いたいのだ」もあると言います。

「楽観の錯誤」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか? なんでも経済学の本にも登場するそうで、「右肩上がりに経済が膨張して行く過程では、永遠にそれが続くかのように錯覚する」ということらしいのです。

経済成長が続き企業も個人も増収増益が長く続くと、永遠に続くかのように錯覚してしまうことを指すようです。「バブル経済華やかしころ」がそうでした。

バブルがはじけてからは、そのリスクが多くの日本人に刻みこまれ、今も警戒心を解かない知識人も多いと聞きます。その一方で、バブル期に幼少期にあった世代は「華やかさも痛みも知らない」からでしょうか、昨今のマンション価格の高騰ぶりを目にして「マンション価格は上がり続ける」と錯覚している人もあります。

バブルがはじけてから30年近い時間の経過があるので仕方ないのかもしれませんが、ときどき危険なにおいがしてきます。幸い、バブル後の不遇を過ごした先輩・同輩諸氏が健在なので、監視の目を光らせていますが、筆者に届くご相談メールの文脈から、「危険な思想」を感じるときが偶にあります。

1980年代後半、株式や不動産・マンションは「上がるから買う、買うから上がる」という循環をもたらし、永遠に右肩上がりの繁栄が続くとの「楽観の錯誤」をもたらしました。これがバブルでした。

バブル(泡)はやがて崩壊しました。それ以来、25年以上もの長い間、日本は景気停滞とデフレに悩まされて来ました。

安倍政権が誕生した2012年11月以降、期待と不安が交錯しなからも着実に景気回復とデフレ脱却が進んで来たかに見えます。統計上、戦後2番目に長い景気拡大は続いています。「成長戦略・3本の矢」の内の2本の矢(異次元の金融緩和と公共工事へ財政出動)が効果を表しているとも評価されました。

しかし、最近は効果がなくなり、一服感とでも言えばよいか、或いは息切れ感でしょうか、元に戻ったという見方も強いようです。

悲観ばかりしていてはつまらない人生になってしまいますが、楽観もほどほどにしたいものです。筆者は大地震にも津波にも遭遇しながら生き残った、幸運な人間ですが、知人の中には地震・津波被害者も少なからずあって、今も心が痛みます。

●天災は忘れたころにやって来る

2019年10月初旬の現在、千葉県では強い台風の被害で、1か月も経つのに電気が来ない家、ブルーシートをかぶせた一戸建ての映像を連日見ます。

見るたび心が痛みます。過去になかったレベルの強烈な台風被害の実態を映像を通して毎日見ていると、次第に麻痺して来ますが、直接の被害者になったこともある筆者は、早く何とかしなければ大変だと他人事でない思いに駆られるのです。

地震と津波に縁の深い筆者ですが、地震動の恐怖がトラウマになって何年も消えない経験もしてきました。マンションは強いと思うものの、東京には何十年もの間、震度7クラスの地震は来ていないだけだと言いたいです。

東日本大震災のとき、仙台にいた弟妹たちが恐怖におびえながら電話して来たことを思い出します。そのとき、自分の無力さに怒りさえ覚えたことも思い出されます。

このような想いを抱く筆者は、「旧・耐震マンション」の評価依頼が届くたびに胸騒ぎがします。レポートも、リスクについて触れざるを得ません。

読者のみなさんに申し上げたい。「旧・耐震マンション」を検討なさるときは、「リノベーション工事済み」だからリフォーム代なしにすぐ住めることとか、立地条件が素晴らしいといった表面的な美点・メリットに目を奪われず、「耐震性能」のチェック(耐震診断)」を優先して検討なさるよう切に望みます。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com

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第222回は「新築マンションは待っても出て来ない?」です。