第694回 「マンション価格はまだ上がるのか?」

このブログは10日おきの更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

先週(2019年9月28日)の新聞に「生コン7%値上げ」の小さな記事を発見しました。

日経新聞の報道によれば、東京都区内の生コンクリート製造会社が加入する「東京地区生コン協同組合は2020年4月契約分から7%引き上げると発表した」とあります。実は、生コンの値上げは2017年12月契約分から約7%の値上げをしており、その時から3年を経ずに再び値上げするという発表です。

生コン原料の骨材価格の上昇が主因で、人手不足で採石や輸送コストの上昇も主因と新聞には明記してありました。

実は、人手不足のためにマンション等の工事が遅れているため、生コン需要も減少しているのだそうです。それにもかかわらず、材料費が上がるというわけです。

マンション価格は工事費(建築費)と用地費(土地代)が2大原価で、販売経費(広告費や販売手数料など)を加えて総減価・経費は販売価格の90%を占めます。

建築費の中に占める生コン調達費が何%に当たるのかは正確には把握していませんが、無視できないものであることは素人でも想像できそうです。

●マンションの2大原価は用地費と建築費だが・・・

「乾いた雑巾を絞る」というくらいの徹底的な無駄を省く作業によってトヨタは自動車製造の分野で世界一になったと、ものの本で読んだことを思い出します。

自動車業界だけでなく、マンション建設の分野でも、長年培ってきた建築費の削減策を実践、すなわち「作業の無駄を省き・効率を追求し、部品のコストダウンを関連業界に求め続けて来た」のです。

筆者は建築業界と近い位置で長年過ごして来たので、その過程をよく知る一人です。

マンションの2大原価のうち、土地代の上昇と下落を長年見て来ました。地価ほどではないものの建築費の変動も肌で感じて過ごしてきたので、今のマンションメーカーの立場、その苦悩をよく知る一人です。

用地を買うときに先ず悩み、設計の過程で何度も悩み、最後に建築会社を決める段階で大きな壁に当たるという経験をしたので、今のマンションメーカー(デベロッパー)の苦悩も理解できるのですが、整理してみると次のようなことになるでしょうか?

①居住性の観点から本当はこうしたいのだが、コストダウンが優先するので、ここは目をつぶろう

 ・・・廊下を歩く人の気配が室内まで届いてしまうので、廊下の位置をもっと遠ざけたい。できたら吹き抜けを設けたかったがコストアップから断念。天井高を2500ミリ以上としたかったが、コスト高になるので2400ミリで妥協しよう。〇〇メーカーの上級製品を使いたかったが、コストを抑えるために普及品の採用を許容しよう。玄関わきに置くエアコン室外機は、本来は出窓の下に格納する方が美しいのだが、出窓は建築費アップの要因のひとつなので諦めよう。エアコン室外機も廊下露出の形で我慢していただこう、流行りのディスポーザーを付けて差別化を図りたかったが、小型マンションではコスト高となってしまい、売り値に響くから取り止めよう・・・etc・

②便利な設備・グレードの高い設備を導入したいが、これも止めよう・あれも止めよう

・・・モデルルームの見映えは販売上、重要な要素だが、価格がこれ以上上がったら販売は難しい。駅からも距離があるし、高級住宅街とまでは言えないエリアなので、価格は軽視できない。安物と非難を受けない程度のレベル(グレード)まで落とすのもやむを得まい。エアコンも装備しておきたかったが、買い手さん負担としていただこう。モデルルームで見せている設備と仕様もワンランク下を「標準装備」としよう。誤解ないように、モデルルームに「オプションのシールを貼って断り書き」すれば問題あるまい・・・マンション業者の苦悩です。

●小手先の策では売れないのだが・・・

筆者の実務経験から今のマンション市場を見て思うことは次のようなものです。

*売り手(作り手)の立場に立って考えてみると・・・

・・・仕方ない。コストを下げる方法はもはやこれしかないのだから。安い土地を求めても買えないし、買える土地は郊外ばかりで、売れそうにない立地だし。

 需要が分厚い都心部や人気エリア(ブランド住宅地)に限定して用地を買うほかないのだ。ここなら高くても販売は何とかなるさ。郊外マンションは売れ残ったら二進も三進も(にっちもさっちも)行かないから手を出すのはやめよう。

*高くても需要のある都心・準都心エリアの土地を買うべきだ

・・・価格上昇が販売スピードの遅行につながっているのは確かだが、それでも都心部には分厚い需要がある。中古に流れているのも確かだろうが、優良中古も市場に多数供給されているわけではないのだから、時間はかかっても買い手は必ず戻って来る。自信を持って開発・商品化を進めて行こう。

*発想を換えると?

・・・「異端児」とされる複数のマンション業者の行動を追ってみると・・・大手が手を出さない小型マンション、傾斜地のマンション、バス便は売りにくいが、大型マンションなら付加価値の高い企画も可能だし、ギリギリ徒歩圏なら何とか売れるはずだ。小型マンションだが、駅から3分と近いうえに人気エリアなので、コンパクト住戸の企画なら単身需要を狙って販売は可能なはずだ。最寄り駅に近いだけでなく、ここは港区だから、様々な需要があるはずだ。多少高くても勝負はできる。狭い土地だが用地不足の折り、何とかなるだろう。

●マンション業者の苦悩

知人のマンション業者の何人かに聞いてみると、もはや分譲マンション事業のみで成長戦略を描くことはできない時代になったことが分かります。今日は詳しく述べませんが、用地難が最大の要因のようです。

目先の深刻な問題は用地難ですが、建築費の高騰も大きな問題です。マンション業者(デベロッパー)の立場では「いかんともしがたい問題」になっています。

マンション業者自身もコストアップにならない設計を試みたり、安い材料を採用するなど、工夫を凝らすものの、画期的なコストダウン策はないのです。

コスト切り詰め策が商品価値の大幅ダウンになったのでは元も子もないからです。

建築費の切り詰め策は既に限界まで来てしまったと筆者は感じていますが、とすると、マンションデベロッパーは「高いけど買って頂戴」と買手に懇願しているように見えて仕方ないのです。

今後、分譲マンションはどの方向に向かうのでしょうか?中堅デベロッパーの役員さんがこう言いました。「もうマンション分譲で会社を大きくするのは難しい。なにせ、商品を用意できないのだから」と。

土地は、場所を問わなければ取得できるが、買い手の選別が厳しいので、売れるマンションを開発することが難しい。そう言います。

●高くなった新築マンション。売れるのか?

用地費が高騰し、建築費も下がりそうにない現状にあって、マンション業者はどのような将来像を描けばいいのか?そんな苦悩を漏らすマンション業者も少なくないようです。

幸いというべきか、金利のさらなる低下で買い手の購買力が上昇しています。つまり、多少の値上がりも住宅ローン金利のさらなる低下によって購買力が高まり相殺する格好になっています。つまり、売り値は上がっても、住宅ローンの返済負担は大して上がらず、結果的に多額の住宅ローンも借りることができるので、購入可能になっている側面があるのです。。

また、夫婦で稼ぐダブルインカム世帯が増えて、高額マンションに手が届いてしまう家族も増えています。

その一方、金利がもし上昇したら、こんな大借金を払っていけるのかと心配する声も届きます。

「楽観の錯誤」というフレーズをお聞きになったことがあるでしょうか?経済学の本に出て来る言葉で、右肩上がりの経済が一定期間続くと、いつの間にか永遠に続くかのように思い込んでしまうことを指すようです。

先日お会いした若い家族が言いました。「マンション価格は10年経ったらどのくらい上がるのですか?」と。その質問を耳にした瞬間、「危険な兆候だ」と思いました。バブル経済の勃興と成長、そして崩壊過程を体験した先輩諸氏が周りに居て監視の目を光らせている間はブレーキも利くでしょうし、まだ赤信号が点滅するところまでには来ていないとは思うのですが、かすかな危険信号に気付く昨今です。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com

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第221回は「郊外マンションの未来を憂う」です。

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