第690回 「オリンピック後は建築費が下がってマンション価格も下がるとお思いですか?」

※このブログでは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております

10日おきの更新です。(次回は8月30日です)

「オリンピックの東京開催は建設業界にとって、干天の慈雨だったのです」と語る知人にお会いしました。その発言を聞いて筆者は、奇妙な感じを持ちました。

なぜなら、東京オリンピックの決定は2013年の秋だったはずで、そのころのゼネコン業界は干天ではなかったはずと思ったからです。

そのころは、2011年の東日本大震災によって生まれた復旧・復興工事のために大忙しの時期で、ゼネコンには慈雨が降り注ぐ形となっていたのではなかったかと、瞬時に疑問が湧きました。

知人曰く、復旧・復興工事も確かにゼネコン業界には特需でしたが、被災者の心情や被災地の実態を思うと喜んでいられなかったのです。

対して、オリンピックは世紀のイベント・お祭りです。工事代も予算があるとはいえ、足りなければ国や東京都が増やすはずだし、利益もしっかりいただけるから、こちらの方が喜ぶことができるというのです。

干天の慈雨だったのか、青天の霹靂だったのかはともかく、ゼネコン各社は大いに稼ぎまくっているのは確かのようです。

しかし、工事を発注するマンション業者の立場から見ればうれしいことは何もありません。工事費が高くなればマンションの価格は高騰し、やがて売れ行きの悪化につながるからです。

2011年震災の復旧・復興工事の大量発生で人手不足が生じ、そのために人件費が上がりました。その後も熊本地震、西日本豪雨被害、北海道地震、北大阪地震など、次々に襲われた天災によって建設会社には特需が発生、慢性的に人手不足に苦しむ状況となりました。加えて2013年に決まった東京オリンピックも人手不足に拍車をかけました。

マンション建築の原価に占める人件費の割合は40%以上と言われているので、建築コストの上昇は避けようがなかったのです。

かつて建設業は「父ちゃん母ちゃん業者」を含めると全国に50万社もあったとされますが、公共事業が見直しされるようになって以来、開店休業状態になりました。

次第に業界から離別する建設労働者が増えて、2011年以降の特需に対応できない状況に至ってしまいました。

建設労働者は技能労働者と呼ばれ、経験と技術を要する職種です。アルバイトで補いきれるものではありません。しかし、業界を去って別の職種についている人を呼び戻すことは簡単ではありません。外国人の技能実習生を雇っても、女子の雇用を図っても間に合うものではないのです。

●建築費の上昇はマンション価格の高騰に直結

次のグラフは価格高騰の様子を分かりやすく表したものです。マンション価格の高騰の原因は「はじめ建築費」、追って「建築費と用地費の上昇」という流れで2012年をスタートに上昇の一途となったのです。

高くなった工事費を現実のもとして受け止めざるを得ないマンション業界は、これまでどのような努力をしてきたのでしょうか?

コストを抑えるかスペックダウンしか道はなく、見えない所でコストカットする、設計をシンプル化したり省力化策を取り入れたりして来たのです。面積を縮めるのも策のひとつでした。

共用施設も取り止めて住戸にする、居住性の悪い地下住戸を作るなどの方法で売り面積を増やし、単価を下げるのも常態化しました。

コストダウンの策についてはこちら(https://www.sumu-log.com/archives/8534/)が詳しいので参考にしていただくとして、それでも値上がりは止めようがなかったのです。

少しくらいの価格高騰は金利の低下によって吸収できましたが、やがて度を超して売れ着きは悪化しました。次の数字は契約率の低下トレンドを示すものです。(出典:不動産経済研究所)

●建築費は下がるか?

高くなったら売れ行きが悪化するので必ず値は下がる。こように語る人は少なくありません。ところが、コトはそう単純ではないのです。

直ちに下落することはありません。

新築マンションは生鮮食品とは異なります。通常でも値引き販売はありますが、その数字を公表することはしません。公表するのは、完成済みマンションの売れ残り住戸、しかも、その中のごく一部、モデルルームとして何か月か使用した住戸だけです。

新築マンションの価格は硬直的です。しかし、完成物件を中心に水面下では値引き販売が増えています。これは、統計に表れにくい価格低下現象です。

統計上の価格も下がる可能性があるとしたら、まだ着工していないマンション、着工はしているが未発売の物件からです。しかし、それも急に下がることはありません。

何故なら、土地代という原価も建築費という原価も確定済みだからです。販売経費を引いて得られる利幅は通常10%程度しかないのがマンション事業ゆえに、下げ幅に大きな余裕はないのです。

赤字販売を余儀なくされる状況になったときは、開発を凍結、もしくは着工を中止して時期を待つのが大手企業の策でもあります。

建築費が決まっていない、つまり原価が決まっていないケースでも、現状では発注金額(建築費)が下がる可能性は低いので、新築マンションの価格が急落することはありません。

工事費が下がるのは、東日本大震災や熊本地震などの復興工事がなくなるか、東京オリンピック関連工事がなくなること、東京都心の再開発工事が止まることなど、建設業界の繁忙が落ち着くこと、建築資材が値下がりすることなどが条件になるのです。

しかし、ときどき建築資材(鋼材など)がいくらか値下がりしているという報道に触れることもありますが、建築費の40%以上は労務費(人件費)と言われるだけに、建築費が大きく下がる材料とはなりにくいのです。

労務費の上昇が一服したという声もありますが、人手不足は解消されていないために、建築費が値下がりに転じることにはならないようです。

結局、最後はマンション分譲会社(デベロッパー)が赤字覚悟で価格を下げるしかないのです。しかし、売り出し前から赤字事業を進めるのは企業としてはできないことです。

地価が急に下落するとも思えないので、安い土地を新たに取得してコストダウン策を徹底するなどの策も非現実的ですし、開発期間を計算すれば短時間で安いマンションが出て来ることはあり得ません。

今後の見通しについて、建築費に関しては悲観的な見方が圧倒的です。つまり、まだ先述の天災による復旧・復興需要はまだ残っていますし、国土強靭化政策によるインフラへの公共投資が続いているうえ、今年(2019年)は東京オリンピック関連需要が本格化しているからです。

オリンピックは、国立競技場の建て替えや各種競技の会場建設、老朽化した高速道路の改修をはじめとする道路工事などが、合わせて兆円単位で発生すると言われます。

中央区晴海に予定されている選手村の建設も大きな投資です。

選手村は住宅に改修して一般に分譲または賃貸することになりますが、選手村の建設費は全部で5600戸もの大規模なものだけに、周辺整備費も含めると数千億円にもなるようです。

建設需要はオリンピック開催の直前まで続くことでしょう。しかし、2年後には東日本震災、熊本地震の復興関連も終盤に差し掛かっているはずです。建設業界には一服感が出ていると予想されます。従って、2年先には建築費も低下傾向に転じるかもしれません。

このように思う反面、それを否定するニュースがまたまた飛び込んで来ました。

●五輪後最大級の再開発案件も動き出す

2019年7月30日の新聞報道(日経新聞)に、「内幸町に超高層ビル複数・五輪後最大級の再開発~三井不動産・NTT/東電~がありました。

新聞によれば景気拡大を支えて来た五輪需要の落ち込みを補う効果が期待されるとあります。対象となる敷地面積は約7万㎡、東京ドーム1.5固分だそうで、オフィスビルやホテルが建設される計画のようです。帝国ホテルから新橋駅に向かう一帯で、東京電力の本社も含む超特大の再開発が始まるのです。

これまでも分かっているだけで、都内には大規模再開発計画が目白押しで、既に着工したものも含めて拾ってみると凄い数です。

品川駅のリニア新幹線関連工事や山手線「高輪ゲートウエイ駅」の開設と関連工事、浜松町駅周辺再開発、東京駅北口・常盤橋再開発(日本一高いオフィスビル建設)、虎ノ門~麻布台開発、「虎ノ門ヒルズ駅」の開設、首都高日本橋地下化工事、渋谷駅周辺再開発工事など、数えきれないほどあります。

また、五輪後も訪日客の増加が見込まれるのでホテル建設需要も続くに違いありません。

加えて、過去6年財政バランスのために6兆円に抑制してきた規律を破り、2019年度から3年間にわたり、公共工事費を毎年1兆円増やして7兆円に増やすと政府は発表しました。

これらを俯瞰して行くと、建築費の大幅な低下はないと見なければなりません。

●マンション価格の高騰は続く

新築マンションの価格が高くなれば売れ行きが悪化することは既に証明されてしまいました。売れないものを作っても仕方ないし、マンション業者はこれからどうするのでしょうか?

実は、半ばあきらめ顔で、高くても購入可能な買い手を丹念に拾って行くしかないと考えているのです。コスト削減は種が尽きました。用地費も下がりそうにない状況にあるからです。

幸い、金利が低水準にあるので購買力は底上げされている部分もあり、時間はかかっても売れて行くのは間違いありません。

慎重な態度の買い手が増えていますが、新築マンションは供給が激減してしまったので検討する物件自体が少なく、結局回りまわって元に戻るかのように購入の決断に至るのです。マンション業者も最近は販売の長期化を見込んでいる節もあります。

とはいえ、売れ残りイメージは好ましくないので、どこかの時点から販売促進策を講じます。販売促進策の究極は値引きです。大々的な値引き販売はできなくとも、実態としての値引き販売は今日もどこかで行われています。買い手は、それを賢く取得する道を選択するべきです。

●新築が無理なら中古があるさ

何年か前から、筆者は中古マンションを積極的に勧めて来ました。新築が上がってしまうと、中古マンションも連動して上がる傾向を見せます。事実、新築より高い中古も登場し、中古マンションの検討にも二の足を踏む人が多くなりました。

中古マンションのオーナーの中には、このときとばかりに高い価格で売ろうと、相場無視の高値で売り出す人がいます。上昇相場に悪乗りしている売主も横行し、今は完全に売り手市場になってしまったようです。

新築の7000万円Aと中古の7000万円B、この比較をしたとき、中古のBの方が価値ある物件である場合も少なくありませんが、その判断は簡単ではないのでしょう。

また、「中古マンションの探し方が分からない」と語る人もあります。新築のモデルルームを予約して見学するような気楽さでは見学できないのです(予約しないと見られない新築も面倒ですが、個人オーナーが在宅する中古よりはマシ)。

さらに、早い者勝ちの中古は検討時間が短いこと、ひとつのマンションから同時に何十戸も売出し住戸があるわけでもないなど狭き門という問題もありますが、この隘路を潜り抜けるしか道はないのです。

ともあれ、筆者のかかわりから実感として言えるのは「今は下手な新築より中古選択がベター」ということです。

中古のススメを再度整理しておきましょう。

題して「中古のススメ・その理由」です。

①新築マンションの供給数がひと頃の半分に減ってしまったから

いくら欲しくても店頭に品物が置いていなければ買い物はできないのです。数があるようでも、実はひと頃の半分に、23区は60%に減ってしまったのですから、目指す品はなく手ぶらで帰ってくるしかありません。

今は、そんな状況にあるのです。2016年は35,000台、2017年も同じくらいの見込みです。これに対し、買いたい人は少なくとも45000人はあります。昨年も、一昨年も買えなかった人が大量にあるので、ひょっとすると5万~6万もあるかもしれないのです。

②新築価格が恐ろしく高いから

 新築マンションの価格は、「メーカー希望小売価格」のようなものです。売れるかどうか分からないが原価と経費がかかった分は少なくとも回収したいから、この価格で売りたい。これがマンションの売り手希望額、言い換えれば購買力を無視した一方的な価格設定というわけです。

小売りの世界では、値上げはたちまち買い控えの態度に変わるので値上げを我慢すると聞きます。逆に値下げして買い手の支持を受ける例も少なくありません。その結果、売上戸数が増えて全体の売り上げが伸びるということもあるわけです。

マンションでも安くして売り上げが上がったらいいのですが、売れる数が決まっているので、安くしたら赤字になることも多いのです。もともとの利益幅が小さいのからです。

消費財では、「円高の影響で原材料費が高騰し・・・。値上げにご理解を」などと言い訳しながら値上げに踏み切るわけですが、マンションは二つとして同じ品物がないこともあり、「建築費が上がったので値上げすることをお許しください」や「昨今、地価高騰が続いておりますので・・・」という言い訳は全くなしに、一方的に価格を決めて販売を始めるものです。

こうして発表された「定価」を受け入れて買うしかないのが新築マンションの市場です。無論、売れ残ったら値引き販売はありますし、安く買いたい人は売れ残りを待てばいいわけです。ところが、マンションは全て一品ものなので、買いたい品が長く残るという保証もないので、値引き販売の時機を逸することになりかねません。

こうして、原材料費(土地代+建築費)が上がったために高騰した価格の品を渋々受け入れて買うしかないのです。

高くても買える人もありますが、一定の金額を超えたら手が出ない人もあるわけです。2012年を100としたとき、現在の新築価格は130くらいになっています。地域限定の住まいという特殊な商品だけに、ある地域はそれまでの相場の50%も高いものしか売っていないこともあり、気に入った物件が予算の範囲では見つからないという実情に今はあるのです。

③市場が適正と判断した価格で売られるのが中古

新築のマンション価格は、メーカー(分譲主)希望価格ということでしたが、中古の場合は一方的な希望価格は通用しません。売主は、多くが一般個人です。個人は、仲介業者によるナビゲーションを経て売値を決める流れになっています。

仲介業者の世話になりながら市場に我が家を出品するのです。この習慣が定着し、その時々で変動はしつつも、市場価格が自然に出来上がっています。いくらで買ったか、いくらのローンを使い、その金利をいくら払ったかなどという、いわば売主の原価は一切考慮されずに価格は決まるのです。

このマンションならいくらで売れそうですという査定によって価格は導かれます。売主にとって気に入らない価格であっても、ONできる幅はせいぜい5%です。それも買い手からの値引き交渉の結果消えてしまうものです。新築のように、「これが定価だ。定価で買って下さい」が通用するのは例外的です。

ここまでを整理すると、「売れなくても下げない新築」、「市場の圧力で下がりやすい中古」という差異があるのです。言い換えると、価格の硬直性が高い新築、価格に柔軟性のある中古ということになりますね。

④新築は売主に肩入れするが、中古は買主に味方する営業マンも

新築の営業マンは、売主の代理人のようなものです。価格交渉が来ても、売主(会社)の命で利害が対立する買い手の要求には耳を貸さないものです。売れ残ってしまったときは、会社も販売策進のためには値引きもやむを得ないので、今日からは相談に乗ろうとか、5%までは許可しようなどと新命令を下すので、それまでは価格の交渉は一切できない。頑として「申し訳ありません」と言うだけです。

これに対し、中古の営業マンは自社物でない全国の販売物件(中古)を扱える立場にありますし、売主さんの顔も知らないというケースが多いのです。見知っているのは買主さんだけで、その要望を聞かないと買ってくれないことを承知しています。従って、買主が10%引いてと言えば、「相手のあることなのでやってみないと分かりませんが」と前置きしながらも買主の意向に沿って動いてくれます。

仲介業者の売り上げは手数料なので、5000万円の取引では150万円(正確には156万円×消費税)ですが、4500万円になっても135万円となり、僅かに減るだけです。もし、値引き交渉を受け付けなければ売り上げはゼロかもしれないのです。だから、売主さんの取り分を減らしても買主のために動くものです。

⑤発想を転換すると予算を1000万円も下げることが可能になる

マンション探しは地域的な限定が伴います。いくら安くて広く素晴らしい建物であっても、通勤圏外には買えません。多少の幅はあるにしても、場所はある程度フィックスされます。

その地域内には「流通量の多い・少ない」の差があるものの、様々な物件が紹介されています。しかし、検索条件を絞り過ぎるとメガネにかなう物件は出て来ません。そこで発想を換えます。特に、広さと築年数・階などを無視して探してみるのです。

例えば、出て来た物件が2LDKの60㎡だとします、それまでは70㎡の3LDKが条件だったので、きっと「見送り」の結論を下すことでしょう。そこで「待てよ。これを買ったらどうなるのか?どんな問題があるのか」と考えてみるのです。

同様に、築30年が出て来たとします。従前は「築浅」と決めていたので「古過ぎる」と見送りを決めることでしょうが、「待てよ。30年マンションってどうなの?買ったとして問題は何?」と考えてみるのです。

このような発想を大胆に転換してみると、その結果1000万円も予算が浮いたという事例が生まれました。選択肢は広がって、ある人などは、ご相談の日から2週間で契約に漕ぎつけたのです。

⑥中古は広さと立地の妥協が要らない

 これに対し、新築は検討物件の中で広さを妥協すれば購入を実現できますが、そもそも高くて予算とのギャップがあるというスタートなので、狭い部屋に変えたところで、予算が余ることはないのです。

としたら、購入の実現のためには希望しないエリアに行くほかないのです。駅からバスに乗るか、それが嫌なら沿線を変える、方角を変えるしかありません。その結果、広さだけは妥協しなくても良い場合があるかもしれません。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com

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8月15日の第217回は「マンション探しでやってはいけないこと」です。