第697回 「高過ぎる新築マンション。売るとき何%下落まで許せるの?

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このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

新築マンションの価格上昇が中々止まらない印象です。

筆者は、2019年か2020年には「止まる」と見ていますが、その兆候はまだ明確ではありません。

価格の上昇は売れ行を悪化させています。それでも値下がりはしない、少なくとも表面上は下がらないと見ています。下がる兆候もまだ見えません。

少し遡ってみましょう。

2016年1月の新築マンションの契約率は58.6%と70%のボーダーライン(好不調の分かれ目)を大きく割り込みました。50%台は2008年7月以来7年ぶりのことでした。

2月以降も一進一退の契約率でしたが、70%を割り込む月が増え、市況は低落傾向を見せました。(データは「不動産経済研究所」)

少し飛びますが、2019年もほとんどの月が60%台で推移しているようです。60%台なら悪くないという見方もできるのですが、これには「からくり」があって、プレセールス期間中の商談顧客の中から、買ってくれそうな中顧客数を読んで、売り出し戸数を絞り込むために「契約率」の観点では大きく落ち込んだ形にならないのです。

このような販売計画をマンション業者がそろいもそろって組んでしまうので、発売戸数は減少し、残った分が後送りされて行きます。

やがては、売りだしを先延ばしした部屋が「未発売の在庫」という形で水面下に残る形となります。建物工事が終わっていないうちは、未発売在庫がいったいいくらあるのか、外部の人間からは見えにくいものです。言い換えると、それは在庫隠し(売れ行き隠し)なのですが、建物工事が完成して、入居が始まってしまうと、表札の数や夜間の灯りなどから空室の数が見えて来ます。

売主は、大量の売れ残りを出したくないので、竣工前から販売促進の具体策を講じます。しかし、画期的な販売促進策はなく、現場の営業チーム・営業マンが地道に活動して早期完売を目指します。

売れ行きの低迷は発売の先送りを増やしています。しかし、着工してしまった建物、契約が僅かでも進んでいる物件は販売停止というわけには行きません。少しずつでも発売し、販促を図ろうとするはずですが、期間あたりの売り出し戸数の減少は続きます。

ちなみに、2016年の首都圏の年間・新規供給戸数は前年比約11.7%減の35,772戸、初月契約率の平均は68.8%でした。

2017年も戸数減少、価格上昇(8.4%アップ)、のため、販売スピードは悪化しました。2018年に入ってからも価格は高いまま、売れ行きは低迷という状況が続きました。2019年も同様の傾向です。

●売れないが価格は下げない

売れ行きの悪化は価格の低下につながるのでしょうか?直ちに下落することはありません。

新築マンションは生鮮食品とは異なります。通常でも値引き販売はありますが、その数字を公表することはしません。公表するのは、完成済みマンションの売れ残り住戸、しかも、その中のごく一部、モデルルームとして何か月か使用した住戸だけなのです。

売れ行きが悪化したとき、その原因が価格の問題だけではない場合、価格は硬直的です。ともあれ、完成物件を中心に水面下では値引き販売が増えています。

これは、統計に表れにくい価格低下現象です。統計上の価格も下がる可能性があるとしたら、まだ着工していないマンション、着工はしているが未発売の物件からです。しかし、それも急に下がることはありません。

何故なら、土地代という原価も建築費という原価も確定済みだからです。販売経費を加えて得られる利幅は通常粗利ベースでは20%前後あるのですが、販売経費を引けば10%程度しかないのがマンション事業です。従って、下げ幅に大きな余裕はないのです。

赤字販売を余儀なくされる状況になったときは、開発を凍結、もしくは着工を中止して時期を待つしかないのです。

建築費が決まっていない、つまり、原価が決まっていないケースでも、現状では発注金額(建築費)が下がる可能性は低いので、新築マンションの価格が急落することはありません。

2011年の東日本大震災によって生まれた復旧・復興工事のために人手不足が生じ、そのために人件費が上がりましたが、その後も熊本地震、西日本豪雨被害、北海道地震、北大阪地震、今秋の19号・20号台風など、次々に襲われた天災によって建設会社は慢性的に人手不足に苦しむ状況にあるようです。

加えて2013年に決まった東京オリンピックも人手不足に拍車をかけました。マンション建築の原価に占める人件費の割合は50%近いと言われているので、建築コストの上昇は避けようがなかったのです。

東京都心の再開発工事が止まることなど、建設業界の繁忙が落ち着くこと、建築資材費が値下がりすることなどがマンションの価格下落の条件になるでしょう。

ときどき、建築資材(鋼材など)がいくらか値下がりしているという報道に触れることもありますが、建築費の50%は労務費(人件費)と言われるだけに、建築費が大きく下がる材料とはなりにくいのです。

労務費の上昇が一服したという声もありますが、人手不足は解消されていないために、建築費が値下がりに転じることにはならないようです。

結局、最後はマンション分譲会社(デベロッパー)が赤字覚悟で価格を下げるしかないのです。しかし、売り出し前から赤字事業を進めるのは企業としては中々できないことです。更地のままで当分様子を見るという策を選択するでしょう。

地価が急に下落するとも思えないので、安い土地を新たに取得してコストダウン策を徹底するなどの策も非現実的ですし、開発期間を計算すれば短時間に安いマンションが出て来ることはあり得ません。

――――以上から、安くなった物件が出て来るとしても、それが販売開始されるまでは早くても2年以上も先のことになると見るほかないのです。

新築マンションの価格上昇原因は、地価の高騰、建築費の高騰にあるのは言うまでもないのですが、その背景を整理すると、次のようになりそうです。

●マンション用地の価格高騰

マンションに向く土地が少ないため、用地争奪戦が続いています。

このため、1年前に付近で取引された地価の2割高だったなどという例が増えています。

新聞に発表される地価統計は全般的な傾向を示すもので、東京都心の商業地は前年比でプラス2%であったが、郊外の住宅地はマイナス3%だったなどという僅かな変化にしか見えません。

2019年3月発表の「公示地価」でも、地域格差はあるものの全国的な上昇傾向が明らかになりました。しかし、東京の商業地でも4.7%、住宅地で1.3%の上昇でした。

これらの数値と比較すると、マンション用地の取得額は地価調査の数値と比べると大きな隔たりがあるのです。前例から20%も30%も高くなった土地取引の実態を一般の人は殆んど知りません。

マンション用地は、ある程度まとまった大きさが必要であり、かつ交通便が良いことや環境が良いことなど、マンション建設にふさわしい条件を具備している必要があります。ところが、そのような土地はそうそう沢山あるわけではありません。

工場や倉庫、社宅、ガソリンスタンド、運動場などが企業のリストラの一環や移転、廃業といった事情で売り出されると、マンションメーカーはこぞって入札に参加します。そして、一番札を入れた企業に高値で売却されます。

マンション市況が良いときは、マンションメーカー各社は土地取得に積極的になります。高い札を入れてでも優良な土地は何とかして確保しようと前向きになります。その結果、新聞発表の地価上昇率3%、5%などとは大きく隔たりのある高値取引が成立してしまうのです。

先に述べたように、市況が悪化しているため、今後は少し様子が変わってくるかもしれません。しかし、業界が一斉に土地取得を手控える状況に転じる様子はまだ見られません。

一方、土地の需要はマンションデベロッパーだけではなく、例えば都心の商業地などはホテル用地と直接競合し、ホテル業者に競り負けることが多いと聞きます。東京オリンピックに備えてホテル建設ラッシュは続くと見られるので、今後も用地難に業界は悩まされることでしょう。

オリンピック後も、訪日観光客の増加が見込まれていますから、ホテル建設用地の取得合戦は続くことでしょう。

こうした動向を注視していると、当分の間、安価なマンション用地を取得できる状況にはならないと見るほかありません。

●建築費の高騰・・・マンションの建築費が大幅に上昇

工事はマンションデベロッパーから施工するゼネコンへ発注されますが、マンションメーカーには当然ながら予算があり、その範囲で受注してくれるゼネコンを探します。

普通は「指名入札」方式で、複数のゼネコンを指名して見積もりを依頼します。

最近、数年間の傾向は、予算内に納まるゼネコンがいなくて当たり前、予算を2割、3割上回る見積もりが普通。そのような状況にあるそうです。

背景には、東日本大震災の復興需要によって専門職・建設労働者の人手不足が深刻な状態にあるためと言われています。先にも述べたように、建築費の50%は労務費と言われるので、建築資材が少し下がったくらいで値下がりに転じることはないからです。

今後の見通しについても、建築費に関しては悲観的な見方が圧倒的です。つまり、まだ災害の復旧・復興需要は続きそうですし、国土強靭化政策によるインフラへの公共投資が急増しているうえ、今年(2019年)は東京オリンピック関連需要が本格化しているからです。

オリンピックは、国立競技場の建て替えや各種競技の会場建設、老朽化した高速道路の改修をはじめとする道路工事などが、合わせて兆円単位で発生すると言われます。

また、中央区晴海の選手村建設、これは、オリンピック終了後に民間に払い下げられます。取得する民間企業は、これを住宅に改修して一般に分譲または賃貸することになりますが、選手村の建設費は全部で5600戸もの大規模なものだけに、周辺整備費も含めると数千億円にもなると見込まれています。

建設需要はオリンピック開催の直前まで続くことでしょう。しかし、2年後には震災、台風、地震の復興関連も終盤に差し掛かっているはずです。建設業界には一服感が出ていると予想されます。しかしながら、建設会社が暇になるという見通しは立てにくいようです。建築費の高値が続くことは間違いなさそうです。

地価も、先に述べたように用地の争奪戦が続き、高値が続くに違いありません。販売不振が続いているのは確かですが、それでも地価、建築費が急低下することはなさそうです。

*  *  *  *  *  *  *  *

時計の針を少し前(2013年~2015年頃)に戻すと、右肩上がりが続いた株価の上昇などで資産効果の恩恵に浴した富裕層や、一足早く好調な経営を回復した一部の大企業などに所属する人たちがマンション購入に積極的でした。さらには、一部の都心物件で外国人投資家の爆買いが増えていると伝わって来ました。2015年に税率が上がった相続税対策としてタワーマンションの高層階を狙って購入する資産家の動きも目立っていました。

つまり一部の階層によってマンション市場は支えられていたのであり、広がりを見せるには至りませんでした。

今後も、英国のEU離脱問題、中国経済の停滞、米中貿易摩擦など、マンション販売を取り巻く環境は「マイナス金利の導入で一段と下がった住宅ローン金利」を除くと良い材料は見られません。今後どのようになるかは依然として不透明で、先行きに関しては予断を許しません。

1980年代後半、株式や不動産・マンションは「上がるから買う、買うから上がる」という循環をもたらし、永遠に右肩上がりの繁栄が続くとの「楽観の錯誤」をもたらしました。

これがバブルでした。バブル(泡)はやがて崩壊しました。それ以来、25年以上もの長い間、日本は景気停滞とデフレに悩まされて来ました。

安倍政権が誕生した2012年11月以降、期待と不安が交錯しなからも着実に景気回復とデフレ脱却が進んで来たかに見えました。統計上、戦後2番目に長い景気拡大は続きました。「成長戦略・3本の矢」の内の2本の矢(異次元の金融緩和と公共工事へ財政出動)が効果を表しているとも評価されました。

しかし、最近は効果がなくなり、一服感とでも言えばよいか、或いは息切れ感でしょうか、元に戻ったという見方も強いようです

ともあれ、成長戦略に当初なかった「オリンピック開催」が幸運の第4の矢となって浮上したのは確かです。五輪の経済効果に期待したいところです。

マンション価格の高騰が急過ぎれば需要はついて来なくなります。しかし、所得の増加が伴っていれば需要は持続します。また、2016年2月16日から実施された日銀のマイナス金利施策は、住宅ローンの低下を呼び、これが購買力の押し上げに寄与しています。

価格の高騰に嫌気して一気に市場が冷めてしまうか、それとも、先行きに明るい展望が開けるとともに「上がるから早く買わなくちゃ」と、買い手心理が再び拡大して極端な低迷とならず、現状維持か再び上向きになるのか?こうしたことを占うとき、現状は悲観的な見方が支配しています。

今、マンション市場は辛うじて命脈を保っているという状況にあるという見方が正しいと考えます。

2~3年先でなく10年先、15年先までの価格を読むのは簡単ではありませんが、多くの識者が語るように2021年以降はオリンピック投資の反動減によって景気が後退局面に向かうことから、マンション需要も減退し、オリンピック以降は価格調整期に入るかもしれません。

景気対策が新たに取られるなどにより、極端な不況に陥ることはなくても、建築費が下がる可能性も高いでしょう。

とはいえ、品川駅のリニア新幹線関連工事や山手線「高輪ゲートウエイ駅」の開設と関連工事、浜松町駅周辺再開発、東京駅北口・常盤橋再開発、虎ノ門~麻布台開発、「虎ノ門ヒルズ駅」の開設、首都高日本橋地下化工事、渋谷駅周辺再開発工事など、都心の再開発が目白押しに予定されています。五輪後も訪日客の増加が見込まれるのでホテル建設需要も続くに違いありません。

加えて、過去6年 財政バランスのために6兆円に抑制してきた規律を破り、2019年度から3年間にわたり、公共工事費を毎年1兆円増やして7兆円に増やすと政府は発表しました。

これらを俯瞰して行くと、建築費の大幅な低下はないと見なければなりません。

用地取得がたやすくなって廉価なマンション用地を各社が次々に仕入れられるようになるとも思えないのです。

結局、地価も建築費も大幅に低下するとは考えられません。以下の「歴史は語る。今は買い時か?」からも、マンション価格は「山高ければ谷深し」というほどの下落にはならないと見るのが正しいと考えます。

●歴史は語る;「今は買い時か?」

「今、買い時ですか?」とよく問われます。そのときは「間違いなく買い時ではない」と答えざるを得ません。何故なら、この4年間の価格上昇率は尋常ではなかったからにほかなりません。しかし、少し待てば価格は下がるでしょうか?下がるとして下落率はどのくらいになるでしょうか?

ここで過去を振り返ってみます。

首都圏平均ですが、新築マンションは短期間に大幅上昇となりました。とりわけ23区の上昇率は大きく、リーマンショック後の底値圏だった2012年の坪単価は264万円でしたが、3年後の2015年には同326万円と、24%も上昇したのです。70㎡(21.1坪)換算では5590万円から6880万円と1290万円の上昇でした。

もう少し遡ってみます。

バブル経済崩壊後の下落が止まった2002年から2004年(3年間)は価格の底で、かつ安定期にありましたが、この頃の23区の新築マンションの平均坪単価は約220万円でした。

翌年2005年から2008年(4年間)にかけては、毎年上昇して2008年には280万円を超えたのです。2002年からの上昇率は27%強です。

2009年には263万円と急落し、2009~2012年の4年間は平均で約265万円となりました。2008年比で5%下落となったのです。

そして2013年から2015年にかけては、先に述べたとおりで、2015年は2012年比で24%上昇の326万円となったのでした。そして、2016年はさらに上がって332万円という統計値が公表されました。(以上の元データは不動産経済研究所)

もう一度、時系列で整理してみます。

【2002~2004年 底値安定期】:@220万円

➡➡【2005年~2008年 上昇期】:@280万円(+27%)

➡➡【2009年~2012年 下落期】:@265万円(▲5%)

➡➡【2013年~2018年 上昇期】:@365万円(+38%)

2004年をスタートして見ると、3年か4年のタームで上昇、下落、上昇という推移ですが、上昇幅は27%と38%、下落幅は僅か5%であることが分かります。

つまり、一旦上がると調整局面が来ても、下落幅は元に戻るほどのものではないのです。

言い換えましょう。バブル期のような極端な上昇が起こると、崩壊後の下落局面では元に戻るほどの下落を見せる可能性がありますが、上がり方が4~5年で30%前後なら、下がっても5%程度なのです。基調としては右肩上がりが続くというわけです。

さて、現状の高値圏で購入したら、この先の調整局面では、どこまで下がるでしょうか?歴史が教えてくれていることは、値下がりするとしても、この4~5年間の上昇幅(30%前後)なら、下がっても5%か10%に留まる可能性が高いのです。

●高値のマンション・売却価格はどうなる?

今後も大幅な下落はないと見ている筆者ですが、多少は下がるとした場合、高値で買ったマンションはどうなるのでしょうか。これは「よく尋ねられる質問」です。

物件個々の解説をここではできませんので、10年後に売却する場合のシミュレーションを要点だけ説明します。

先ず、今の低金利で35年ローンを組んだときの10年後の残債務をネット上の計算ソフトを使って算出してみると、10年後は残債が26%も減ります。無論、金利によって変わりますが、10年間の平均金利を0.7%(年利)とした場合です。

26%も借金が減っているなら、マンション価格が26%下がっても損はないことになります。細かな計算は省きますが、仲介手数料は3%と大きいので、これは計算に入れておくとすれば、23%の値下がりまでは許容範囲ということになります。

10年で23%下がるマンション、10%ですむマンソン、逆に10%上がるマンションと、その幅は小さくありません。検討中のマンションが10年後にどの程度の市場評価になるのか、ここがカギになります。

マンションの将来価値を決定する要素は、①立地条件(利便性と環境。マクロ的な人気度)、②スケール(存在感)、③外観・玄関・空間デザイン、④建物プラン(共用施設、間取り、内装や設備など)、⑤ブランド、⑥管理体制です。

この中で一番比重が高いのは①の立地条件です。立地さえ良ければ建物は何でもいいという単純なものではないのですが、大きな要素であることは確かです。逆に、どんなに素晴らしい建物でも立地条件の弱点を補うことはできません。 

また、稀少価値の高い土地かどうかの観点で検討することも大事です。そして最も大事な要素は「価格」です。価値に見合わない高値で購入(高値掴み)すれば、将来価格は期待外れになるからです。

★★★「価値あるマンションの選択」:簡単ではありません。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com

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第224回は「「買いたいものがないと嘆く買い手さんへ」です。