第685回 「40年先を見据えてのマンション購入作戦」 シリーズ4回目

※このブログでは居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から「マンションの資産価値論」を展開しております

10日おきの更新です。(次回は7月10日です)

Zさんは60代後半の自営業者です。勤め先の早期退職制度を利用して掴んだ資金を元手に始めた事業は順調でした。 しかし、寄る年波を考えて完全リタイアも近いと思うこの頃でした。まだ、いつとは決めていないものの、リタイア後の住まいについても考えるようになっていました。

今のところ自宅に不便も不都合もありませんでしたが、子供たちのいる街に移り住んで孫たちと過ごす楽しさを夢見たようです。

Zさんから筆者に郊外の「某マンション」についての購入相談が届きました。息子、娘それぞれの家がある沿線のマンションでした。

今日の話は、「リタイア後の住まいについて」です。

●永住ってありえないのか?

Zさんの現在の住まいは、とある郊外都市の駅前マンションでした。以前は一戸建てに住んでいたのですが、事業が軌道に乗ったあるとき、利便性の高い駅前マンションに買い替えたのです。

随分高いなと思ったそうですが、一戸建ての家を売って多少残った現金と住宅ローンを短く組んで買ったそうです。

駅前だから便利だし、ここなら孫たちが遊びに来てくれるだろうという期待もあって夫婦二人ながら広めの3LDKを買いました。

リタイアするに当たって、Zさんが再び買い替えを考えたのは、期待したほど孫たちは来てくれなかったからです。息子も娘も正月に来るだけでした。愚痴をこぼすと、妻は「それぞれに忙しいのだから仕方ないわよ」というのです。

Zさんは、現住所のある町がさびれて来たという実感を持っていました。たまの休日に妻と連れ立って駅前通りを歩くと、シャッターが閉まったままの店舗も増えた気がしました。都心で見かけ、ときどき利用することもあった有名なカフェがあったはずだと妻に問いかけると、「3年前に閉店した」との返事でした。

調べてみると、自分が住む町の人口は一戸建てを買って越して来たころに比べて15%も減ったらしいと知りました。市は保育料の補助や保育園の増設などの施策を決め、その効果で一時は人口増になったが、他市が似たようなことを始めたため、最近はじり貧になっているようです。

首都圏は人口が減っていなかったはずではなかったか?そうか、どこかに偏ってしまっているのだ。郊外は減って都心にばかり集まっているというわけか?

Zさんは少し勉強しただけで、この都市に未来はないなと思いました。そんな思いと孫たちの近くで住みたいという夢とが重なって、子供達家族が住む、それぞれに一駅しか離れていない私鉄沿線の某駅のマンションを買おうと計画したというわけです。

販売中の新築マンションは、駅から徒歩で10分以上かかるのが嫌でした。そこで、駅近の中古を探してたどりついた物件に魅力を感じ、相談に至ったというわけです。

●近くに住んでも子供たちはいつか離れていく

ご相談は対面で行うことになりました。筆者は聞きました。

「お子さんたちが転居することはないですか?」

「ないと思う」という答えでした。

「転勤はないのでしょうか?」

あるかもしれないが、また戻って来るだろうし、娘夫婦と息子夫婦が同時ということはあるまい。そんな答えでした。

Zさんの顔に不安の色が漂った気がしました。

「親思いのお子さんたちでしょうけど、自分たちの家庭を優先するものですよ。お孫さんの進学などで東京でない大学に行ってしまうこともありますし、仮に東京の大学であっても、卒業したら就職先は東京でない場合もあるでしょう。海外へ赴任することもあるのでは?」

筆者がそういうと、「先のことは分からないので、孫たちが小さいうちに遊びに来てくれたらいい」と。

「確かに今のお住まいは東京の西と東で、距離もありますものね」と相槌を打つと、Zさんは「そうそう、孫が小さいうちだけでいい」とZさんは自分に言い聞かせるように語りました。

「お子さんたちも、いつか腰を落ち着ける場所を探すときが来るのではないでしょうか?そのときに改めて、居を構えるというのはどうですか?つまり、今回のお住まいはお孫さんたちが小さいうちの仮住まいとう考え方で・・・」

筆者がそう持ちかけると、「そんなに度々引っ越しをしていられないよ」とZさんは反応しました。

「としたら、永住するくらいのつもりでお買いになることになりますねえ?」

「まあ、そうだ」

●どちらかが一人になったら

「分かりました。そうしますと、この候補マンションは地の利が大変よろしいということになりますね。では、もうひとつ伺います。ご夫婦のどちらかが先に他界した場合、お住まいはどうお考えですか?」

「考えていなかったが、一人になればますます寂しくなって子供たちのそばで暮らしたい、と思うようになるかなあ?」

Zさんの奥さんが口をはさみました。「あら、私は一人で大丈夫。お友達をつくって楽しく暮らすから。体がいうことを聞かなくなったときは、介護付きの老人ホームにでも行くわ」と、あっさり発言したのです。

なるほどと思いました。女性は強いなとも思いました。

そう言えば、少し前に80代の単身女性がマンションを買うに当たって娘さん経由で相談して来られたことを思い出しました。娘さんはまだ50代、大きなお子さんのいる3人家族だった。娘さんが近居を望み、母親の方も娘の近くで暮らしたいと選んだ中古マンションでした。

郊外の大きな家を持て余していたので、家財を処分してコンパクトなマンション住まいをしたいというのです。夫が残してくれた家と株やその他の財産を活用すれば現金でラクラク購入できるという話だったことを思い出しました。

収入は殆どないが、足りない分は貯金を少しずつ切り崩しながら暮らして行くような母娘の会話を小耳にしたような気がします。

Zさんの奥さんも、20年先は同じようなことを言うのだろうか?

●老後資金は多いほどいい?

老後の暮らしの不安を減らすには、それなりの資産を持っておくことですが、老後の必要資金は2000万円という国が発表した根拠はともかくとして、人生百年時代に、その程度では足りないと思っている国民も多いはずです。

多ければ多いほど選択肢は広がると思いますし、幸せはお金では買えないというものの、お金はあったほうがいいのです。

そのお金をどうやって作るのか、増やすのか、つまり利殖の手段は何がいいのか?

筆者は上場前の株を第三者割当増資の際に持たせてもらったことはあるのですが、株式投資はそれだけで、投資信託すら経験したことがないので、利殖手段は不動産しか知りません。

不動産でもREIT(リート)は金融商品なので、これも経験はありません。あるのはリアルな不動産保有だけです。

その経験と知識から、主張できることは二つです。

ひとつは、「選ぶものを間違わなければ自宅マンションが儲かる」ということです。買い替えをしていくうちに正味の資産が増え、終の住処を借金無しで保有したうえに、現金を残すことも可能なのです。

ふたつ目は「ワンルームマンション投資はやめた方がいい」です。

以下では、自宅マンションが儲かるという話とZさんの買い替え計画の続きをお届けします。二つ目の「ワンルーム投資の最大の問題点」については次回の投稿とします。

●リセール価格を予測してから買いましょう

Zさんの購入計画は、8割は現金、残りは10年のローン(経営する企業の借入)というものでした。

全額現金での購入も可能でしたが、Zさんなりの考えがあってローンを組んだのです。住宅ローンを個人で組むのは年齢的に難しいから法人の借入にし、個人名義の自宅マンションを担保として提供するのだというのです。

「現在お住まいのマンションはどうなさるのですか?」と尋ねると「売却するつもり」だとZさんは答えました。筆者は、この計画に懸念を感じました。

今の自宅マンションは、東京都内ではないものの立地条件に優れ、建物も大型のタワーマンションでした。

一方、新たに買う方は駅に近いとはいえ、平凡な物件でした。差別的要素はブランドマンションであることだけで、小規模で取柄は特に見当たらないのです。あえて言えば、デザイン性に際立つところはありましたが、玄人には受けても一般人から見てどうなのか疑問がありました。

優良マンションを売却して、普通のマンションに置き換えるという計画、そう言って過言ではありません。ここに懸念を感じたのです。Zさんは、駅に近いから価値があると信じていました。

しかし、筆者の調査では、沿線でも対象マンションの駅は駅力に乏しく、中古の売買履歴は軒並み低いのです。これを買った場合、ケガはないかもしれないが、10年か15年先に売却するとしたら、結構な価格下落に見舞われるリスクが高いのです。

筆者は、その理由についてデータを用いながら説明しました。

Zさんは聞き終えてから「どうしたらいいか?」と聞きました。

筆者は、次のように説明しました。

「仕切り直しですね。もし、資金のご都合で現在のお住まいを売却なさるなら、それはそれでいいですが、買い替え先のマンションを二つ先の〇〇〇駅か手前の〇〇〇駅にしませんか?両駅とも、お選びの物件より高くなりますが、リセールの際も値崩れする危険が少ないからです。少し前にも調査する機会があったのですが、築15年前後の物件の取引価格は新築に並ぶ高値でした。新築は駅から遠くて不人気です。滅多に新築マンションが供給されることがないので、何とか完売したそうですが、最後の方は値引き販売を余儀なくされたようです。両駅とも人気の街で、マンション需要も多いのです。ここに住みたい、でも駅から遠いのは嫌だと思う人が駅に近いマンションに群がるという感じです。売りが出るとすぐ買い手がつく印象です。勿論、そんな駅でも物件格差はあって、駅に近いマンション同士でも建物価値で差がありますから、どれでもいいということではありませんが、候補地はこの二つの駅ですね」

「高いけど売るときも高いということですか?」

Zさんは念押しして来ました。

「その通りです。中古マンションは需要の大きさで値段が決まると言っていいのです。需要の集まらない駅ではリセールバリューはたかが知れています。安く買っても売るときは一段と安くなってしまう危険があります。相場の高い場所は、それだけ需要があることを示しています。需要が多い、言い換えれば多くの人たちに支持されるマンションは値崩れしないのです」

「この先もそうですか?人口減少とかなんとかで将来は変わるのでは?今住んでいる街も変わりつつあるのでね」

「もちろん、長い目で見れば大きく変わってしまう街・駅もあるでしょう。その点も横目でにらみながら場所選びをしなければなりませんが、お勧めの両駅の人気が急速に低下するとは考えにくいですが・・・」

「要するに、駅選び・街選びの段階から仕切り直しということですね。値下がりしにくいマンションだと思ったのだけど、駅から近いだけじゃあダメか!」

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こうしてZさんとのご相談は一旦終わりとなりました。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。(http://www.syuppanservice.com

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6月25日 第212回は「近隣相場の2倍も高い価格で取引されるマンション」です。