第709回 「日本の住宅・不動産問題とマンションの資産価値」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

東京のマンションは今後どうなるのでしょうか? 漠然としていますが、そんな問いを投げかけられることがあります。いつか、きちんと整理してお伝えしたいと思って来ましたが、中々着手できずにいます。

 

今日は、不完全ではありますが、この問題の答えに少し触れようと思います。

 

1.人口減少と住宅過剰問題

どなたもご存知のことですが、日本では人口減少と高齢化社会が進行しています。人口が減れば、「家余り」も進行します。いずれは誰も住まない家が、そこかしこで目立つときが来るのです。既に、そうなりつつある集落・町もあると聞きます。

 

某市では、朽ち果てる寸前の倒壊を心配して行政に対策を求める声が上がっているという報道が少し前にありました。持ち主が他界し、相続人もどこにいるかが分からないという話でした。

 

これは一戸建ての話ですが、マンションの場合はどうでしょうか?倒壊の危険はないものの、管理費不払い件数が増えて対策がないまま放置されているマンションがあるという話は何度も聞いたことがあります。

管理費は、言うまでもなく共用部分の維持管理等に不可欠な費用です。集金できないと、他の住民にも影響を及ぼします。その数が1軒、2軒のレベルならまだしも、5軒・10軒と増えて行ったら、軽視できない問題になることでしょう。

 

人が住まなくなったマンションが転売されて新たに所有者が決まれば問題ないかもしれませんが、買い手が現れないマンションや相続放棄マンションだったら管理費が滞納されたまま放置されてしまう危険があります。

 

そんなことになるマンションは稀かもしれませんが、じわじわと表面化しているという問題提起をしている書物も研究者によって著されています。

 

首都圏のような大都会でも、外周部では人口減が現実の現象になりつつあるようです。相続人が現金化しようと試みているのか、買い手のつかない辺鄙なエリアの住宅はじわじわと価格が下がっています。それでも売れずに市場でたなざらし状態のようです。

 

誰も買わない家・マンション、誰も住まない家・マンション――首都圏でもじわじわと広がりつつあるようです。ピンと来ない人もあるかもしれませんが、超高齢化社会、人口減少社会がもたらす必然なのです。

 

家余り時代が近づいていると思いましょう。物の値段は、需要と供給の関係から決まります。住宅・マンションも同じです。住みたい人がいないマンションには値は付きません。安く買えたと喜んだマンションも20年経って足元を見たら、買い手は一人もいないために、転売不能という状態が来るかもしれません。

 

まさか首都圏ではそんな心配はあるまいと高をくくっていたら、いずれの日か現実を思い知らされるに違いありません。

 

2.人口減少と不動産価格

人口が減る日本では不動産価格も下がるという意見があるが、そんなことはない。日本人の人口が減っても、海外から流入する定住人口(移民、一時的な常住)が増える。従って、考えるほどは減らない――このような主張を聞いたことがあります。果たして、そうでしょうか? 

日本政府は、幾分タガを緩め、外国人の流入を増やそうとしているように見えます。しかし、ヨーロッパや米国のようにしたら、様々な問題が引き起こされるという警戒感もあって僅かに枠を広げたに過ぎません。

日本は治安が良い、食べ物がおいしい、自然が美しい、都市も綺麗。そんな日本に住みたがる外国人は増えるでしょう。もちろん仕事があればです。日本は言葉の問題や、長い歴史がはぐくんで来た独特の文化・生活習慣などが外国人を拒んでいるようにも感じられます。

 

人口減少と高齢化が働き手の不足を招き、それを埋めるべく外国人を雇用する流れは続くことでしょう。しかし、それにも限界があると気づいた企業は、事業地・生産地そのものを外国に求めるようになるかもしれません。

人口が減れば、家余りに加速がつくことでしょう。余った家は、一部は極端に安い値段を付けることで誰かが買ってくれるかもしれませんが、多くは空き家のまま放置されてしまうことも想像に難くありません。

現時点でも、東京都下をはじめ、外周部の都市では格安マンションが市場にあふれています。経済原理から見れば、価格が下がるのは買い手が少ないことに原因があるのは言うまでもありません。

 

東京の人気エリアでは、特定の中古マンションが新築価格を上回っているという例があります。人気エリアの人気マンションと言い換えましょう。ここで具体の物件名を紹介することは控えますが、古くても高いマンションでは、それでも買いたい人が多数あることを意味します。

物の値段は需要と供給のバランスのもとで成立するからです。マンションとて例外ではありません。

 

3.マンションの建て替え問題

人口減少・世帯数減少と空き家問題、伴う価格下落問題について簡単に述べましたが、次は建物の老朽化問題・建て替え問題いついて考えてみます。

 

耐久性が高いマンションですが、それでもいつかは住むに堪えない住まいになるはずです。そして、いつかは建て替えられるに違いありません。

しかし、その時期はいつかは全く見通しがたちません。

 

建て替えの実現には高い壁があるからです。一番の問題は資金です。

建て替え資金は言うまでもなく所有者の負担です。所有者は複数です。それも5人や10人でなく、何十人、物件によっては何百人といるのです。全所有者が足並み揃えて資金を負担するという合意を獲得するのは殆ど不可能です。

 

既に高齢化している所有者は、静かに老後を過ごしたいという願望があります。所得も年金しかなく、数百万円の建て替え費用を負担しろと言われても無理がある。そう考えている人も少なくないはずです。

 

マンションが日本に登場してから50年を超えていますが、これまで建て替えられた事例は全国で数十件しかありません。

まだ建て替えの時期が来ていないためでしょうか?それも確かにあるのですが、「建て替えの合意形成が難しい」ためという分析が一般的です。

 

数十年前のマンションは、粗悪な建物も多く、また耐震性の脆弱なものもあって建て替えたいと考えているマンションは少なくないのです。それでも建て替えには厚い壁があって断念しているようです。

 

厚い壁とは言うまでもなく、所有者の足並みがそろわないことです。資金の問題が一番大きいのでしょう。

「まだ住める。静かに暮らしたいから、私が死んだ後にして」などと反対する人も多いと聞きます。また、建て替え資金の提供が困難という所有者もあるのです。

 

資金は、解体費用と再建築費用と合わせれば、1世帯当たり2000万円は優にかかるはずなので、その負担に抵抗する人も多いはずです。銀行借り入れで賄うとしても、高齢者には重い返済負担としてのしかかります。

 

中古で購入してからまだ5年か10年しか経っていない所有者がいたりすれば、住宅ローンの残債をどう処理するかという問題も出て来ます。よしんば現金で買ったと考えても、建て替えが決議されて追い銭を払うことに納得がいくとは思えません。

 

「資金負担は一切無用」という仕組みができて初めて建て替え計画は前に進むのです。

どうやって資金負担をゼロにできるのでしょうか?簡単に言えば、100戸のマンションを200戸に増やし、増えた100戸を売却してその代金を充当すればいいのですが、そのためには100戸増やすための「容積率の改定」が必須です。

 

たまたま隣地に分譲マンションではない古い建物があって、その所有者と共同開発をすれば、旧の建物より大きな建物が建設可能になり、増えた分を売却すればマンション所有者の資金負担が少なくすむ仕組みが考えられますが、最近も新宿区で成功例がありました。しかし、これはラッキーなケースと言うほかありません。

 

つまり、分譲マンションの建て替えは極めて困難、これが現実なのです。建て替え促進法という法律もできましたが、根本的な促進には程遠いと言わざるをえません。

 

としたら、古いマンションの将来は「建て替えでなく、リニューアル」しかありません。リニューアルなら建て替えよりは資金負担も少ないはずですから、実現性は高いはずです。今でも、大規模修繕によって延命を図ろうという動きはあるのですから、その方法によっては、寿命は延びる可能性があるのかもしれません。

 

4.中古住宅の流通活性化対策

新築マンションを次々に建てて行く時代はではなくなったのです。少なくとも大量供給の必要はないと言えます。人口・世帯数が増えないのですから「家不足」ではありません。

 

世帯数を超える家の数があるようになってから既に30年は経過しています。つまり、既に「家余り」時代になっているのです。新築の家が不要とは思いませんが、今は中古住宅の時代になったのです。「中古マンションを売って、中古マンションを買う」のが普通になったと言って過言ではありません。

 

日本人は新しいものが好きで、古いものは敬遠する傾向があるとされます。その見方はともかく、マンションに対しても同じかもしれません。しかしながら、新築マンションが中心の市場になるとは思えないのです。

 

マンションが誕生してから60年余の現在、その品質・価値についての評価は定まっていないとも言えますし、高い品質の中古マンションが少ない建て替えの必要は確かにあるのです。何より、35年を超えるほどの古いマンションは耐震性への信頼感が乏しいからです。

しかし、今後は変わって来ます。新耐震基準ができてから35年を経過しました。あと15年もすれば、50年中古でも耐震性には信頼がおけることになります。

 

とはいえ、中古マンションを買う立場に立ってみると、耐震性に問題ないというだけでは購買意欲は高まりません。

そこに住みたいと思えるかどうかが重要なのです。立地条件やマンション全体の魅力、すなわち共用部分のしつらえなども大事です。しかし、その魅力向上策を中古マンションに導入するのは至難の業です。魅力あるマンションとして蘇らせることは簡単ではないからです。現状維持が精一杯と見るべきでしょう。

 

しかし、少なくとも古いなりに「品質保証」や「品質基準」のようなものを第三者機関によって評価証明する策は遠くない将来、誕生しそうな予感があります。それによって中古マンションの安全を保証することが一般化されるでしょう。

しかし、それで購買意欲が高まるかは別問題です。まだまだ新築志望の買い手が中心のマンション市場は続くとも言えるでしょう。

 

その一方で価値ある中古の見方についての理解が広がる可能性もありそうです。

今後は、優良中古の見方、高く売れる中古とそうでない中古との差異を見極める知識も必須になりそうです。

 

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらからhttp://www.syuppanservice.com

 

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