第715回 「リノベーション物件の購入で注意するべき点は?」



このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

新型コロナの世界的流行は、分譲マンションの購入も考え直さなければならない事態を招いています。

勤務先の経営に不安のない人でも、マンション購入を検討するに当たって、今は前向きに動くべきかどうかと思い悩んでいるに違いありません。

筆者も毎日様々な角度から考察を続けています。

 

さて、今日は新築に比べれば明らかに価格が安く、しかも内装費が不要な「リノベーション中古」について注意すべきポイントについて整理してみることにしました。

 

●リノベーション物件の特徴

リノベーションとは、既存の建物に大規模な改修工事を行い、用途や機能を変更して性能を向上させ、付加価値を与えることです。

リノベーションとリフォームは混同されやすい言葉で、どちらも住宅に手を加える点では同じですが、厳密にはその目的の部分で次のような違いがあるとされます。

 

リフォームは「老朽化した建物を建築当初の性能に戻すこと」を指し、元に戻すための「修復の意味合いが強い」と言えます。古くなったキッチンを新しいものに変えることや、汚れた床材や壁紙を張り替えるなどの比較的小規模な工事は「リフォーム」に分類されます。

 

一方、リノベーションは、修復だけでなく「用途や機能を変更して性能を向上させたり価値を高めたりする」行為も含みます。「より良く作り替える」という意味で、工事の規模も、間取りの変更を伴うような大規模なものを指しています。

室内の間仕切り壁とキッチンや浴室などの設備を撤去し、コンクリートむき出しの状態(※骨格という意味でスケルトンと命名※)にしたのちに大掛かりなリフォーム工事をすることです。リノベ物件は、一言で言えば「内装だけは新築並み」にしたものと言えましょう。

 

無論、マンションは共同住宅なので、法的に改造できない点もあって新築同様に改造するといっても限度があります。共用部分の玄関ドアや、専用使用権はあっても専有部分ではないバルコニーが対象外になる部分の代表です。

窓も共用部分に該当します。正確に言えば、玄関ドアの室内側の塗装部分は専有部分、窓も室内側は専有部分なのです。従って、玄関ドアを好みのものと入れ替えることはできません。窓枠も窓ガラスも同様です。

 

築年数の新しいマンションは、バルコニーに接する掃き出し窓のサッシの高さは2200ミリ以上、玄関ドアも同程度と高いのが普通ですが、30年以上前の古いマンションの多くはサッシ高も玄関ドアの高さも2000ミリ程度、中には1800ミリと低いものもあるのです。

 

リビングルームの窓の横幅にしても、端から端までのワイドタイプは少なく、古いマンションの多くは真ん中にコンクリート壁があるのです。

 

何もかも新築マンションと同等を望むのは所詮不可能と割り切って購入を検討せざるをえないので、サッシの高さやリビングの窓幅は諦めてもいいのかもしれません。一方、リノベーション物件の長所・利点は言うまでもなく、代金さえ決済してしまえば「すぐに住むことができる」という点で新築マンションと変わらない手軽さがあります。

 

●リノベ物件の限界

リノベマンションを見た人から、新築同様の美しさと室内の設備が新品という点では、ほれぼれしてしまうという声も多く届きますが、その感想を筆者なりに解釈すると「部屋に入ったときの美しさ、新築同様の感動」なのでしょう。

 

しかしながら、冷静に見ると先述のような欠点・短所もありますし、何より専有部分意外はレトロ感が漂っているものが多いのです。見学の際、到着したマンションの外観や共用部の状態を見て落胆させられることは少なくないはずです。

そもそも、築5年や10年程度の築浅マンションではないので、当然の感想です。

 

それだけに、リノベーション物件の内装だけに着目すると、新築並みの美しさ等に大きなギャップを感じるとともに、「キレイ・素敵」と感動させられてしまうのも当然と言えましょう。

 

ヒトの行動は「感じて動く」の言葉どおり、感動して次の行動が決まるものです。リノベマンションを見て感動すれば、「ここに住みたい」という感情が沸き起こります。

「痘痕も笑窪」という言葉がありますが、リノベーション物件は、古く汚れたマンションを整形手術と化粧によって美人のマンションに化けさせたものと言えるかもしれません。

 

心理学の中に「対比効果=コントラスト効果」という用語が出て来ます。同じものでも、何かと対比させることで、大きく印象が変わる心理のことですが、レトロな共用部と新築同様の専有部との対比が、リノベマンションの価値を実際以上差に見せるのかもしれません。

 

また、リフォームしていない中古マンションを複数見学して来た人が、最後にリノベーション物件を見学すると対比効果が働いて実際の価値以上にリノベーション物件の印象を強め、購買意欲を高める効果をもたらすのかもしれません。

 

●リノベーション物件は割高なものが多い

この見学者(購買者)心理を突いた商品が「リノベマンションです。誰であろうと薄汚れた中古品より、綺麗で新しい新古品に感動を覚えるはずです。しかも、その値段が新品より安ければ買いたいと思うに違いありません。

 

この心理を巧みに突いた商品、それがリノベマンションです。問題は価格にあります。新築に並ぶ高値では誰も買わないでしょうし、反対に地域の中古相場と同レベルの安値なら買い手は殺到するに違いありません。

 

しかしながら、リノベーション工事の費用をかけているのですから、リノベ工事をしていない一般中古と同じ値ということはありえません。リフォームも何もしていない状態の取引相場で購入した人が自分で工事を注文すれば、当然何百万円かを要するのですから、一般中古よりリノベーション物件の値段が高くて当然です。

 

そこで問題になるのが、リノベ物件の価格が高いか安いかという検証になります。

結論から先に言えば、リノベ物件は割高なものが多いという点を指摘せざるを得ません。

 

リノベーションを業とする、もしくはリリノベ部門を持つ企業の狙いは一般仲介より儲かると見ているからです。

 

中古マンションの仲介手数料は、ご存知のように法定で3%(+6万円)となっています。売り依頼を受けた業者が、買い手も自ら見つければ6%(+12万円)ですが、大手仲介業者はともかくも多くの中小業者は3%で取引しています。

それでも仲介事業は成り立つのですが、大きく利益を上げるまでには至りません。

 

そこで、もっと儲かるビジネスとして注目されているのが「リノベーション事業」です。中古マンションの所有者から一旦買い取って自社物件化し、それをリノベーション工事の後に買い手を探すビジネスです。

 

大手でも一部が参入していますが、多くは中小・零細な仲介業者や建売業者、内装業者などです。儲かるビジネスと見て参入している企業が増えています。

ただし、儲かるビジネスが大きな規模に育っているかというと、否定せざるを得ません。その理由は「仕入れが順調でない」ことにあります。

 

中古市場には、売りたい物件が常に山のようにあります。しかし、リノベーション業者は、その中からできるだけ安く仕入れようとするものの、その思惑で仕入れできる物件は多くないのです。

 

何かの事情があって、安くてもいいから早く買い手を見つけたい所有者に限られるためです。もしくは、売りに出したことをご近所に知られたくない所有者です。

このような事情を抱えているオーナーは、リノベーション事業を展開中の業者に買い取ってもらう道を選択します。

 

そうした背景から、市場価格(相場)より安く仕入れができるので、リノベーション工事を施しても比較的安い商品として市場に出せるのです。言うまでもないですが、新築同様の内装で業者利益が乗っても価格は高くないので買い手もすぐに決まる傾向があります。しかし、このような物件は多くありません。

 

リノベーション物件の多くは、築年数も古く耐震性にも不安が残るなどの理由から買い手が中々つかない「不良中古」なのです。売りたいが長いこと買い手が現れない不人気物件の所有者は、リノベーション業者の誘いに乗ります。

 

最初は買い取り金額を聞いて抵抗するようですが、時間が経つと諦めて提案価格を受け入れ、売却に踏み切るのだそうです。幸か不幸か、長年住んでいたため、住宅ローンの残債もなく、売却金額がそのまま手取りの代金となって売主さんの懐に入るので、期待していた金額ではなかったものの、「まあいいか」と自身を慰めつつ売り渡すと聞きます。

 

しかし、市場で中々売れない中古マンションというのは何らかの大きな欠点・短所があるからです。立地条件がひどく悪いか、建物が古過ぎるか、またはその両方の原因が考えられるマンションです。

 

筆者は仕事柄、築年数の長い物件の調査を依頼された経験もありますが、現地調査で感じさせられることは、立地条件に問題のある物件が大多数だという点です

 

依頼者(購入検討者)は安値に惹かれて検討し始めたのでしょうか。

立地条件が悪いためにリノベーション業者も格安で仕入れたはずです。この仕入れ価格ならリノベーション物件としても高くないので立地条件は悪くても何とか売れるはずだ。業者はそう考えて仕入れ、リノベーション工事を済ませて売り出したのだろうと推察できました。

 

古くても立地条件の良い物件の調査依頼も少なくありません。中に3A地区(赤坂・青山・麻布)に立地する築40年余の、おそらく高級マンションとして分譲されたに違いないと感じられた物件もありました。

 

調査の依頼者はレトロな印象に抵抗は少なくなかったようでしたが、それでも、「予算が少ない自分が一等地に住めるとは思えなかったので、これは千載一遇の好機だ」と添えてありました。

 

そのリノベーション物件は天井高やサッシ高、共用部では外観デザインやエントランスなどに問題はあったものの、悪くない内装でした。共用廊下の壁や手すりなども個性的で高級感が伝わって来るレベルでした。

 

しかし、筆者のレポートは依頼者におもねるものではありません。どちらかと言えば、厳しいレベルです。レポートの最大の注目(指摘)ポイントは、耐震性についてでした。その物件は築年数から見て「旧耐震基準のマンション」であることは明らかでしたが、調査の依頼者は耐震性について気に留めていなかったのです。

 

旧耐震マンションのすべてに耐震性の問題があるとは断定できないのですが、専門機関に調査してもらわなければ安全かどうかの確証は持てないのです。筆者は、阪神大震災(1995年)のころ、たびたび出張で関西を訪れ、地震の当日も大阪市内に宿泊していましたし、その後も関西を何度も訪問、被災地も徒歩で調査した経験を持っていますが、その時に見た旧耐震マンションの倒壊、半壊の姿が今も脳裏に残っています。

 

阪神大震災以外では、2011年の東日本震災、2017年の熊本地震が関東に住む私たちの記憶にも新しい天災ですが、巨大地震は東京にも来る日が近いとされながら、関東大震災から100年弱の時間が経過してしまって、巨大地震の恐怖も被害もこの目で見た都民は殆どいないのです。

そのためか、筆者も含めて備えは十分ではない人が多いようです。古いマンションに住んでいる人は怖くないのでしょうか?

 

筆者は何度も大型の地震に遭遇し、かつ津波に襲われた子供時代の経験も記憶に残っているので、少なくとも旧耐震マンションに住むことだけは考えられないなあと思っています。そのせいか、リノベ物件を検討するときは、真っ先に「新耐震マンションか否か」をチェックすべきと進言する癖があります。

 

もちろん、旧耐震マンションでも、耐震診断の結果、新耐震基準をクリアする耐震性が認められたものもあれば、耐震改修・耐震補強をおこなっているマンションもありますから、必ず確認するよう進言しています。

 

●バリューアップ分は売却時に反映される?されない?

先に進めます。大半のリノベーション物件はリフォームも何もしていない状態の物件として購入するより高値であるのは間違いありません。

 

数百万円~1000万円の高値で買うことになるのですが、その物件を将来売却する際に、上乗せされた分の何割を回収できるのでしょうか? 以下を参考になさってください。

 

リノベしていないA号室が3000万円であるとき、リノベーション工事済みの同マンション同面積のR号室が3800万円で売られていたと仮定します。800万円高い部屋R号室の将来価格はどうなるのでしょうか?

 

リノベーション工事していないA号室は、そのままでは住めないので多少のリフォームをしました。さらに、居住開始から5年後に故障が生じて設備の交換をしました、それから2年後に壁紙の張り替え等部分リフォームをしました。これらの追加投資は合計で200万円でした。

 

そして、購入から10年後にA号室は転売されました。運よく市況の良いときで、2800万円で買い手が現れました。途中のリフォーム代は200万円でしたので、これも購入額に含めると3000万円が2800万円に、200万円安くなっただけでした。10年間の家賃と比較して、悪くない買い物をしたとAさんは感じました。

 

一方のR室は、10年経過しても設備に不具合がなく、また、床や壁の状態も綺麗だったのでA号室に比べて高く売ることができました。とはいえ、築年数は同じなのでA号室より200万円高い3000万円に過ぎません。購入額は3800万円なので、800万円の損失となりました。

 

リノベ済みのR号室を買ったRさんは少しばかり落胆しました。購入時のリノベーションによるバリューアップ分が売却時には意外な低評価だったからです。「確かに10年使用した住まいなのだから、その分の減価は仕方ないと思いますが、まだまだ新築同様にきれいだし、設備の故障も全くないので、もっと高値で売れると期待していただけに残念です」と感想をこぼしました。

 

築年数は同じなので、部分的なプラス評価はあっても、他の部屋との価格差は期待するほど高くはならないということをお分かりいただくために筆者が作文しました。

このように、リノベしていない物件より数百万円高く買い手が付く可能性はありますが、購入額との差異で見れば、リノベーション物件は損・・・そう考えなければなりません。

 

ただ、二つの買い物をして二つの生活を同時に試し、どちらが良かったかを自分で検証することはできません。結局、どちらを選ぶかは購入者の価値観によるとしか言いようがないのかもしれません。

 

とはいえ、結果的に高い買物をしてしまったという後悔は誰もしたくないはずなので、購入物件が相場を逸脱していないかどうか、その検証は不可欠と言えましょう。

 

●マンションの寿命は何年?

「築30年のリノベ済みマンションを検討しています。あと何年住めると思いますか?」こんな質問が届くことがあります。筆者は、以下のような回答をすることがあります。

 

当初は賃貸だったが、後に分譲された集合住宅「同潤会アパート」は、築後80年でも居住者がいました。 多くの専門家は、メンテナンス次第で100年は持つと言い放っています。マンションで100年も存続している例はまだないので証明はできないのですが、少なくとも最近15年以内に建てられたマンションの半数位、最近10年くらいのマンションなら80%くらいは100年の使用可能期間があるはずです。

 

つまり、最近の新築マンションの大半は「高強度コンクリート」を用い、鉄筋の錆を防ぐ「コンクリ―トのかぶり厚」をたっぷり取った、長寿命の建物ばかりなのです。 長寿命とは、大規模な補修をしなくても、鉄筋の腐食やコンクリートの重大な劣化が起こらないと予定される期間がおおよそ100年と定めたものを指します(日本建築学会のコンクリート工事標準仕様書による)。

長寿命でなく標準仕様でも、構造体の大規模補修をすれば、おおよその使用期間は同仕様書で100年となっています。

 

●古いマンションの寿命は短い?長い?

 2000年以降に販売されたマンションには「住宅性能評価書」が発行されたものがあります。法的な義務ではないので、当初はついていなかったり、ついていたりとまちまちでしたが、昨今は例外がないくらいに定着し、設計段階の評価書と工事途中で検査した(それぞれ第三者機関が行う)評価書の2通が購入者に発行されることになっています。

 

いわば宝石の鑑定書のようなものですが、これによって「長持ちマンション」と「普通のマンション」とが分かります。モデルルームを訪問の際に、または中古のサイトで「性能評価書あり」とあったら、見せてもらうといいですね。

 

 最近のマンションでなく、築30年クラスのマンションは、70年もの耐用年数が残っているのでしょうか?まさか20年くらいしか残っていないなどということはないのでしょうか?

 

長持ちマンションを造ろうという動きは、30年以前に既にありました。当時の「センチュリーハウジングシステム」の基準で建てられたマンションは間違いなく100年マンションですが、その比率は低く、大半のマンションは今の基準でいう「標準耐久」と推察できます。

 

つまり、構造体の大規模修繕をしないで使用できる期間が60年程度のマンションが圧倒的に多いと見るのが正しいのです。

 構造体の大規模修繕とは具体的にどうするのかはさておき、仮に何もしなければ60年しか持たないのだと考えましょう。

としたら、築30年マンションを買ったら余命は30年ということになってしまいます。

 

ところが、何もしないということはないはずで、定期的な大規模修繕を実施し、構造体はとりわけ優先して行うはずなので、実際は「なにもしないで100年」のマンション同様の耐久性を備えることになるのかもしれません。

とすると、新耐震基準をクリアしている築30年くらいのマンションでも、余命はたっぷりということになります。新築マンションなら余命100年、築30年でも余命は70年です。どうせ100年も生きてはいないのだから、余命70年なら中古でも同じではないか。そんなふうに考えることが可能です。

もちろん、「新築マンションなら20年経っても、大規模修繕に要する費用は少なくて済みそうだが、30年中古を買うと、20年後には築50年に達しているのだから大規模修繕の費用は多額で、毎月のランニングコストも途轍もなく増えてしまうのではないか」このような不安が感じられましょうし、「20年後(築50年)は何かと不具合も続発してストレスになるのではないか」といった疑念も残ります。

築30年以上のマンション購入を決断するには、いくつも壁があることでしょう。

10年住んだら売り抜けようと考える人はともかく、ご年配の方は、リタイア後から死ぬまでそこで暮らすことになるかもしれません。 50歳で購入し、90歳まで生きるとしたら、40年も住むことになります。としたら、存命中に解体・再建築の必要な寿命に達してしまうかもしれません。

 

とはいえ、今後は適切なメンテナンスが行われるマンションが増加し、寿命は伸びて行くのではないでしょうか。

 

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