第721回 「都心住まいの損得勘定」
- 2020.06.30
- マンションの資産価値
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。
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その昔、「マンションの価値は1に立地、2に立地、3・4がなくて5に立地」と主張する人がいました。筆者も同感でした。
筆者の日常業務は、「マンションの評価分析」なので、客観的な立場で資産価値を判定することです。平たく言えば「特定マンションの評価レポート」と「同、将来価格の予測レポート」のお届けです。
マンションの資産価値は、立地と建物に分けて分析しますが、トータル評価で立地条件の持つ意味が大きいことを数字で実感させられる日々です。なかんずく、「郊外マンションの資産価値」と「都心マンションの同価値」の差を思い知らされます。
今日は、都心マンションと郊外マンションの差に留意しつつ、「マンション購入の損得」について書いてみようと思います。
●住まいのコスト効果と郊外移住の可能性
どこに住むのが便利かをコストと効果の側面から考えるべきという人がいます。同感です。
筆者は、横浜から世田谷区に移り住んだ経験があります。その理由は、単に通勤が大変だったからです。横浜から都心の勤務先までドア・ツー・ドアで1時間半以上、帰宅時は2時間もかかることがしばしばでした。
往復にかかった時間は3時間から4時間。しかも朝の電車内は何もできない。ただ、じっと耐えるのみでした。現在は様々なIT機器があるので、通勤時間も無駄ではないという考えもあるようですが、立ったままの電車通勤は体力の消耗となり、個人差はあるものの、楽ではないはずです。
通勤に払う犠牲は小さくないと思います。筆者も過酷な仕事をしていたせいで、帰宅時の電車では居眠りばかりでした。降車駅を通過してしまったことも何度もありました。
時給が2,000円だとして、遠距離通勤によって往復1時間を余分に費やしたとすると、20日で20時間だから月に4万円分を通勤に充てていることになります。
都心・準都心に住めばこの20時間を有効に使うことができ、個人差はあるものの、4万円どころか10万円を稼ぎ出すことができるかもしれません。としたら、差し引き14万円のお得になります。
通勤途上でスマホを取り出し、黙々と情報収集に当たれば、決して無駄ではないという人もいます。得た情報は、オリジナルファイルに移動し、後でもう一度読み直したり、関連情報を収集したりするのだという人もありました。
だから、遠距離通勤は無駄ではないのだという主張です。
しかも、最近はコロナ禍で在宅業務が増え、通勤時間の長さに以前ほどの抵抗はないというのです。
だから「これからは郊外マンションが再び注目されるようになる」という極端な主張も現れています。
しかし、筆者はこれに与(くみ)しません。在宅勤務で成果を上げている人もあるようですし、企業、職務内容によってはオフィスに通勤しない働き方が当たり前のカタチになって来るのかもしれません。
とはいえ、サラリーマン家庭が郊外に大移動するとは思えないのです。筆者の家も今はわけあって郊外の一戸建てですが、殆ど家に帰らず、東京都内のオフィス兼住宅で過ごしています。遠距離の移動に抵抗があるためです。
筆者の古い知り合いで鎌倉の自宅から丸の内に通勤している弁護士がいるのですが、かれは「グリーン車」に乗って、社内で仕事をこなすというのです。
筆者も20代の頃、横浜市から都心に通勤したときがありました。朝は満員電車の中で「じっと耐え」、帰りは「居眠りをする」という生活をしばらく続けましたが、やがて世田谷区内の借り上げ社宅に移住した経験を持ちます。
そのころ損得勘定などした記憶もありませんが、遠距離通勤にひどく抵抗を覚えたことは確かです。最近の若いカップルに思いをはせると、夫婦共稼ぎが多く、遠距離通勤は負担が大きいためでしょう。都心・準都心すまいを選択する人が増えました。
子供ができたら、遠距離通勤はできないから、都心・準都心の賃貸マンションから同エリアの分譲マンションを選択することになる。そう考えている人が多いようです。
在宅ワークが増えているので、遠距離通勤も大きな問題ではないと考える人が今後は一段と増えるかもしれませんが、既に都心・準都心の賃貸マンションで暮らし、都心・準都心住まいの便利さを享受しているカップルが夫婦そろって郊外移住という選択をするとは思えないのです。
●郊外マンションの価値の下落
物の値段は、需要と供給のバランスで決まります。マンション・不動産も同じです。郊外マンションと千代田区の番町に建つマンションでは、価格に10倍もの差があるのです。
郊外マンション・都区内でも外周部のマンションを買いたい人と、千代田区番町アドレスのマンションを買いたい人を比較すれば、圧倒的に外周部のマンションを買う人が多いはずです。
しかるに、番町マンションが圧倒的に高いのはなぜでしょうか?簡単に言ってしまえば、売り物の少なさです。高くても番町に住みたいという人は多くありません。しかし、高値でもいいから買いたい・住みたい人があって、売り物が少ないという需給事情があります。
しかしながら、高値でも買いたい人の志向は「どんなものでも構わないわけではない」のであって、立地以外にも必須の条件があります。
その条件については別の機会に詳しく書きますが、簡単に言えば条件とは「高級で広いマンション」ということです。
筆者の知人で番町のとある物件を契約してからキャンセルした人がいます。工事中の段階で衝動的に買ってしまったのですが、完成して内覧会に行った帰りに解約を決めたのです。
後に筆者も見学させてもらいましたが、確かに億ションとしてはレベルの低い建物でした。番町のアドレスとはいえ、近隣のビル・マンションとの関係にも残念な点がいくつかありました。
「金持ち喧嘩ぜず」と言いますが、その知人は手付金1000万円を放棄して解約したのです。求めるレベルの違いに、売主も驚きながら粛々と解約に応じて新たな買い手探しを始めたのです。
極端な例を紹介しましたが、番町に限定して買おうとしている人は少数です。しかしながら、その要求基準を満たす物件は買いたい人の数より少ないのです。この地では、要求水準が高いが予算も多い買い手が普通なのです。
一方、準都心や郊外マンションを選択する人は、番町のような一等地を選択したい人に比べれば圧倒的な多数です。それにも関わらず、都心の一等地のマンションより安値で売り物の数も多いという実態があります。端的に言えば、数だけは砂の数ほど市場にあふれているのです。
近年、新築が減ってしまい、仕方なく「中古でも」に需要構造が変わりつつありますが、求める中古マンションは大半が都心・準都心に立地です。このため、郊外マンションの中古は大量の売り物があって、人気がなく、中でも駅から遠い立地の物件は買い手が付きにくい実態にあるのです。
この傾向は近年強まり、最近10年ほどは郊外マンションの売れ行きは新築も中古も目立って悪化しているようです。理由・背景は一言で表せば、「需要が減ったため」です。
郊外にも、職場が近隣都市にあって通勤の不便がない買い手もあるはずですが、大半が東京都心に勤務しているのです。その昔、都心・準都心では高くて手が出ない=たかれば売れないから郊外に開発地を求めた時代がありましや。
買い手も手が出ない都心・準都心マンションを諦め、郊外マンションを選んだものですが、最近は都心・準都心のマンションを買える階層が増え、郊外マンションのニーズが大幅に減ってしまったのです。
このため、新築でも郊外は販売が難しい状況になっていますし、中古も同様です。その昔、大量に建てられた中古マンションが市場にあふれ、買いたい人の数が減ってしまったので、需給バランスが大きくゆがみ、郊外の中古マンションは価格の下落が著しい実態にあります。
この傾向は今後、在宅勤務が増えるとしても大きく反転するとは思えないのです。
●マンションは買い替えるときが必ずやって来る
長く住むつもりなので、売却のことは頭になかった。筆者と面談した人の多くに「この発言」があります・・・その発言のきっかけは「マンションは買い替えを旨とすべし」という筆者の主張が与えているのですが、「転勤がなく、売る心配、貸す心配のいらないから」人たちだからです。
転勤がない企業に勤務している人、転勤があっても首都圏に限定されているので「何とかなるさ」の精神で深く考えていない人は、「売るときの心配を買うときからしておくべし」とは思いもよらないのでしょう。
しかし、「人生この先何があるか分からないもの」とは言えないでしょうか?
筆者も、自宅マンションを何回か買い替えて、今は一戸建ての2世帯住宅に住んでいますが、計画的な買い換え・住み替えだったかというと、全く予定外の行動であったのです。
不幸だとは思っていない筆者ですが、計画外の遠方の一戸建てを建てたのは事実です。近いうちに処分して再び都心か準都心に買い替えることになるかもしれません。
●買い替えるときが来るのなら、それを前提に選んでもいいではないか
筆者は、お会いするご相談者には必ずこう言います。初めから70㎡以上を求めるから立地条件を悪化させてしまうのです。「マンションは立地条件を最優先に選ぶべし」です。その結果として、「面積が多少狭くなってもヨシ」とすべきです。・・・・筆者は常にこう話します。
意図していなくても、住み替えたいと思うときが誰にもやってきます。仕事の関係とは限りません。人生は思いがけないことが起こるものです。仕事の関係だけでなく、隣人とのトラブル、親兄弟との関係などから転居やむなしということは起こり得るのです。
ゆえに、自宅マンションを有利に売却できるかどうか、良い条件で賃貸することができるかどうかといった点を念頭に置きながら選択しなければならないのです。
住宅ローンの金利が大幅に低くなって元金の減り方がスピードアップしたとはいえ、35年ローンを組むケースが多いのは事実です。もし、自宅を処分しなければならないっことになったとき、ローン残債がたっぷり残っていたら処分もできないかもしれません。
処分できたとしても、手元に一銭も残らないようでは悲しくなります。いつ売っても「そこそこに高値になる」マンションを買っておきたいものです。
その点を念頭に置きながら物件選びをしなければならないのです。このとき、忘れてならないのは「立地条件を優先すること」です。広さの願望はいつか必ずかなうときが来ます。だからこそ、立地条件優先という方針が必須なのです。
「いつかでなく同時に広さを」という人も、無論、中古マンションから探せば予算内で悪くない物件は見つかるはずです。
基本は立地条件で選ぶことです。マンション選びは「まず立地」をお忘れにならないよう進言します。
・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「対面相談」もご利用ください。お申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com)
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