第734回 「買い手を近視眼的にさせる売り手の策略」を知る!!



このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

ご相談者からのメールを読んでいると、行間から感じ取れることがあります。そのひとつが、「売り手の巧妙な策に乗せられてしまったなあ」というものです。

今日は、そのあたりのことについて「注意点」などについて述べようと思います。

 

●モデルルーム活用の顧客誘導

どのような商品でも、売り手は買い手の購買意欲を高めることに知恵を絞ります。商品のコンセプトやクォリティはもちろんのこと、パッケージのデザインを工夫する、広告の展開や展示方法を変える、価格を見直すといった様々な策が講じられます。

 

マンションでも同じことですが、モデルルームを使った商品展示が最も象徴的です。車の販売では同じ車種でもデラックスタイプを展示しますが、それと同じで、たくさんある間取りタイプの中から、広くて見栄えのするタイプを選択し、かつ、リビングに続く個室の壁・扉を外してより広いリビング空間を創り出していたりします。

 

映画のシーンに出て来そうな洒落た洗面化粧台、今の風呂とは比べ物にならない広くて心地良さそうなバスルーム、最新設備が盛り込まれデザインも素敵なシステムキッチン、寝室のウォークインクローゼットなど、ここに書ききれないほど、魅力あふれるモデルルームを見せられて感動しない人はいないでしょう。

 

そこに家具・インテリアでの演出が加えられるので、見学者の住みたい、買いたいという欲望は強く刺激され、絶頂に達します。購入することになる間取りタイプがモデルルームとは全く異なるものであっても、モデルルームによって見学者は売り手の虜(とりこ)にされてしまうのです。

 

自宅に置いてある、あの家具はどこへ置こうか、それとも新しい家具に買い替えた方がよいかなあなどと考え始めていたら、買った気分になっている証拠です。

 

このような商品展示方法は、業界では普通に古くから行われているもので、読者の多くもご存知のことと思います。

 

●顧客誘導策は映像でも

マンションという商品は不動産ですから、土地すなわち場所と一体のものです。場所の魅力をアピールしたい売り手は、シアタールームを用意し、音声と映像によって街の魅力を解説します。

 

建設地の街を知らない人はもちろんのこと、比較的なじみのある近隣見学者も、映像を使って解説されると、魅力を感じたり見直したりすることになります。

 

その説明には誇張も嘘飾もないかもしれません。しかし、街の全てを語っているわけでもないのです。営業担当者の説明も同じですが、利点・長所の類は針小棒大に説明します。しかし、都合の悪いことは黙っています。ウソはいけませんが、ダンマリは許されるからです。

 

いずれにしても、あの手この手で顧客を買いたいという方向へ誘導します。その仕掛けは驚くばかりです。

 

●木を見て森を見ないための失敗

このようにして、買い手は売り手の策略にまんまと嵌まり、買いたい気分が増幅されて行きます。中には、舞い上がってしまい、営業マンのペースに乗って購入申込書を提出してしまう人も少なくありません。

 

実は、そうなってしまっても結果オーライのこともあるのです。衝動的な買い物が全部失敗と決まったものでもないからです。

 

しかし、物事の判断で大事なことは大所高所から俯瞰すること、木だけ見ないで森を見ることです。近くばかり見ないで遠くも見ることや、前からも後からも見るといった「複眼思考」なのだと思います。

 

間取りにも最新設備にも感動し、「予算的にも無理はない。自分たちはこのマンションを買うことができる」、そう思った瞬間から、見落としてはならない何かを探そうとする考えはどこかに置き忘れてしまったりします。住むための準備に心を奪われて他が見えなくなってしまい、近視眼的な状況に陥るのです。

 

失敗事例を少し挙げてみましょう。

・・・・・①金利が上がるからと慌てたため、細かな部分に気付かず契約した。完成内覧会のときになって、下がり天井の大きさにびっくり。こんなに天井が低いとは思わなかった。(モデルルームにないタイプを購入した人)

 

・・・・・②高速道路が近い場所だったので気にはなっていたが、バルコニーとは反対方向であったし、営業マンが高性能の防音サッシを使っているから大丈夫だと言うので契約してしまった。完成してから中に入ると、音がどこかへ反射してバルコニー面にも届くと知った

 

・・・・・③周辺環境の素晴らしさ、マンション敷地内の公園・緑地、散策路などランドスケープの素晴らしさに感動し、価格の安さにも惹かれて購入したが、毎晩帰宅が遅い主人のタクシー代に悲鳴を上げる事態に・・・(バス便マンションを購入した人)

 

・・・・・・④都心に近い割には広い間取りで、かつランニングコストも安いことに魅力を感じて契約したが、安い物件は安いだけの値打ちしかないと後悔した・・・(倉庫跡地を開発した大型マンションを購入したが、学校が遠く、環境も良くないと知る)

 

・・・・・⑤決算直前だから200万円値引きするという誘いに乗って契約してしまったが、その後500万円引きのモデルルーム販売が何室も。地団太を踏む

 

このような失敗例は、数限りなく見られます。熱くなったときは誰もが陥りやすいことでもあります。肝に銘じておきたいことは、「慎重に・冷静に」です。

 

●注目される再開発物件だが・・・

用地難はおそらく長く続くだろうと見ています。

 

需要がある以上、マンションデベロッパーは用地を求め続けるでしょう。しかし、無理な仕入れをしても利益を削るだけのこと、売り上げだけ増やしても意味はない。だから、販売が確実に成功する立地条件の良い土地のみを厳選して仕入れると語るデベロッパーも増えています。

 

先頭を切ったのはライオンズブランドで一世を風靡した(株)大京でした。かつては供給戸数でナンバーワンを長く続けた業界トップ企業でしたが、 10年前にはトップの座を明け渡し、数を追うことは止めたようです。

 

郊外に目を向ければ、マンション用地になりそうな売地はあるので数を追うことは可能だそうですが、都心から遠い物件は販売に苦戦するので積極的には取り組めないと多くのデベロッパーは語ります。

 

今後デベロッパーはどこへ向かうのでしょうか?

 

1棟リノベーション物件の開発、郊外なら駅前マンションに絞る、木造密集地の再開発、建て替え事業など、メニューは揃っています。しかし、柱になるほどのものはありません。それぞれに高いハードルがあるためです。

 

そんな中で注目できるのが「再開発」です。戦後の焼け野原から無秩序に家が建てられた街は東京中に数多くありますが、そんな中の「木造密集地」は、災害の危険度が高いとされます。

 

巨大地震などによって火災が発生すると、道が狭いために消防車が入って行けず、延焼して被害が広がるという心配があるのです。すなわち、2016年12月に起きた「新潟県糸魚川市」の大火のようなことが現実味を帯びています。木造密集地は、下町だけでなく世田谷区などにも見られます。

 

最近3年くらいを振り返ると、密集地の再開発マンションが注目を集めました。大井町と武蔵小山のことですが、少し前の国分寺、蒲田、大泉学園などでも再開発案件のマンションが好評でした。

 

再開発は複数の地権者の合意形成に時間がかかると言われ、成功事例は少ないのですが、最近はスピードアップしているような気がしています。少なくとも、単体の分譲マンションの建て替えよりは早い印象です。

糸魚川大火のような規模ではなかったが、実際に火事が発生し、鎮火に苦労した事態に危機感を持った住民がデベロッパーの提案に賛同するのに長い時間を要しなかったという話も聞きました。

 

行政側も積極的に協力する姿勢を見せているとも聞きます。武蔵小山駅前の再開発計画は第2段、第3弾と続くとあります。連鎖なのでしょうか?古くからの地元住民が街の活性化に前向きに取り組んでいるということでもあるのでしょう。

東京の古い駅前商店街などが、街の衰退を未然に止め、魅力ある街づくりの波は本格的にやって来る気配を感じます。

 

武蔵小杉や豊洲など、最近10年くらいで急発展した街は、もともと大区画の敷地が多数あった場所なので、開発を進めやすかったという背景があります。一方、個人住宅や商店が密集する場所の再開発は合意形成に時間がかかるため、デベロッパーも取り組みに消極的ですが、最近は様子が変わってきたようです。

 

ゼネコンも工事量確保のために再開発プロジェクトには昔から積極的でしたが、最近は拍車をかけているのかもしれません。デベロッパーとゼネコンが地元住民とタッグを組んで街づくりを行う、災害予防のためにも結構なことです。

 

とはいえ、再開発で生み出されるマンションの戸数は1カ所で500戸~1000戸です。用地不足を補うまでには至らないはずです。しかも、再開発マンションは決まってバカ高い売値になるのが普通です。最近の国分寺でも大井町でも、また武蔵小山でも、一時はすごい人気だったそうですが、購入できる人はごく一部です。大変な数の関心客が集まったと聞きますが、価格を聞いて大半が諦めるとも聞きます。

 

どれとは言えませんが、再開発マンションの価格は、それまでの相場の5割高であったりするからです。価値あるマンションには違いないけれど、そこまでの価値があるのでしょうか?買えないこともないという人から、その種のご相談が筆者の所にも届きます。

 

●新築は数がなく、買いたくても買えるものがないと思いましょう

今後は魅力的な駅前再開発マンションが続々と登場してくるかもしれません。しかし、価格は驚くほど高く、それでも値打ちあるものと、価値に見合わない高値のものと、玉成混交になるはずです。

 

うかつに高値で買えば、将来の資産価値は期待外れともなりましょう。駅前マンション、再開発マンションというだけで飛びつかないことが大事です。再開発型のマンションは価格が高くなりがちです。高くなるだけではなく、権利関係にも問題が潜んでいるものもあるようです。その理由についてお話ししましょう。

 

 再開発事業には複数の地主さんが絡んでいます。再開発事業は再開発組合を作って進めて行くのが一般的です。行政も防災の観点から推進役になり、一定の条件のもとに容積率の割り増しなどを認可します。

 

 許される条件のもとで、どんな建物が建てられるかを建設コンサルタント企業(ゼネコンの場合もある)がグランドデザインを作図し、地権者に提案します。そこには採算性という検討課題が当然あります。ズバリ、土地代がいくらなら前に進むか否かの検討を行い提案するのです。

 

 コンサル企業にとって、土地代は安ければ安いほど実現性が高いので、その方が良いにきまっていますが、地権者(設立認可前を含む組合)としては逆に高く売りたいはずで、コンサル企業としても根拠のない低廉な価格を提示するわけにも行きません。公示地価や不動産鑑定価格などを基準にしながら事業計画を立案します。

 

 基本合意ができてスタートしていますが、設計作業が本格的に進み建築費の概算見積もりが出て来るあたりから模様が怪しくなります。

 

 グランドデザインの段階と基本設計完了後の段階では、建築費に見込み違いが出てくるからです。再開発組合は丸ごと不動産会社などに売却する道を選択することが多いので、途中からマンション業者などが顔を出して来ます。

 

 市場を良く知るマンションデベロッパーは、予定価格を大幅に上回る価格に販売の難しさを感じ取り難色を示したりします。そこで、コンサル企業は地主に建築費高騰の理由など事情を説明し、地価引き下げの希望を伝えます。

 ここで紛糾します。話が違うとか、段階的に見直すことに同意はしていたが、これほど変わるとは思っていなかったなどと抵抗します。

 

計画の一部修正などを行いつつ協議を続けますが、地主の抵抗は強く、壁が厚いことをデベロッパー側は思い知らされます。しかし、今さら後には引けない状況にあることも認識します。地主側も同じですが、決して一枚岩ではないので、リーダー役も苦悩します。「そんな金額じゃ売らない」という強硬派が現れるからです。これを地主のエゴというのは適切ではないかもしれませんが、筆者の経験ではそう感じざるを得ないことが何度もありました。

 

一部の地権者が組合からの脱退や売却に応じないということになると、計画の全てが水泡に帰すことになりかねません。「地主は強い、デベロッパーは弱い」という構図がここで鮮明になるのです。

 

こうして、用地買収費は高いままで、ときには積み上げざるを得ない場合もあります。そうした経過をたどって分譲価格が算出されることになります。

 

時計の針を戻します。コンサル企業がマンション業者に声をかける段階で、試算表を見て「当初から高い」計画に尻込みする業者もあれば「高いけど得難い駅前立地だから前向きに取り組みたい」として参画する業者もあります。

当初から高いことを覚悟していたプロジェクトの場合、地主が価格改定に応じてくれないと、異様なほどの高い販売価格になります。

仕方なく、スペックを下げたり共用施設を大幅にカットしたりして少しでも価格を抑えようと知恵を絞ることとなります。

 

●高値を承知して買うべきなのか?

再開発事業を円滑に進めるために仕方なく組合の要求を呑んでしまうこともあるようです。土地代は妥協しよう。その代わり、地権者の所有に残す店舗前の専用通路の管理費を住宅部分の管理組合で負担しろとか、店舗部分の大規模修繕計画は住宅部分とは別にしろといった要求もあるようです。

 

さらに、用地代の代わりに住戸で受け取る地権者が、その指定を価値ある最上階にしてくれと要求し、しかも計算単価は下層階と同じにすること」などとごねたりします。この要求を呑まざるをえず、高く分譲できる階層が非分譲となってしまったりするのです。

 

また、貸しやすいコンパクト住戸が下層部にずらりと並んだり、1階に地主が経営していた業種の好ましくない種類の店舗が同居したりすることを認めざるを得なかったなども、よくある姿です。

 

再開発型のマンションは、以上のような問題が内在している場合があるので注意しなければなりません。なかんずく、物件価値に見合わない価格の高さが問題になる例は少なくないのです。

 

再開発によって街が奇麗になり、防犯性、防災性が高まって魅力ある区画ができるのは間違いないので、それまでのマンションの2割増しでも高くはないかもしれませんが、3割増し、4割増しになっている例も散見されます。そのような物件を買ってしまうと、リセールバリューに期待は持てないでしょう。

 

以上から、再開発プロジェクトのマンションを購入するときは、よく吟味しなければなりません。「期待して損した。時間の無駄をした」にならないよう気を付けたいものです。

 

リニア新幹線の名古屋駅・品川駅開設に伴い、駅周辺は大きく変わろうとしています。

〇〇エリアの再開発が00年から行われ、一帯は大きく変貌。地価も上昇しています。

こんなフレーズを新築マンションの広告で目にすることがあります。

 

販売現場では、「〇〇駅近辺は関連施設や再開発で地価が上昇する。地価が上がればマンション価格も上がります。だから〇〇駅に近い本マンションの将来性は高い」・・・このような三段論法的なアピールを間接的に聞きます。

 

間接的にという意味は、マンションギャラリーで説明を受けた検討者からの情報によるからです。筆者あてのメールでは「どのくらい影響があるでしょうか?」や「期待していいでしょうか?」「本当でしょうか?」という質問があるからでもあります。

 

筆者は答えます・・・「コトはそう単純ではありません。マンションの価格は需要と供給の関係で決まるので、基本的に、住みたい人が増えなければ(需要の増加)、価格の上昇は期待できないのです」か、「便利になることで、その便利さを享受したいと思う人がたくさん集まるなら、当然マンションの人気も高まり価格上昇の期待を持てるでしょう」

 

または、「地価が上昇すれば、新築マンションの価格も上がるでしょう。新築マンションが上がれば中古も上がるので、リセール価値の上昇も期待できます。しかし、その開発エリアからの距離によっても影響度は違って来ます。〇〇マンションに全く影響がないとは言いませんが、非常に限定的です」、「〇〇駅がますます便利になって、大規模オフィスビルが何棟も造られ、移転してくる大企業のサラリーマンが増えれば、近隣駅のマンションに移住したいと考える人も増えるに違いありません。その結果、マンション人気は高まることでしょうが、大規模なオフィスビルが大量にできるかは疑問です」などと。

 

「どのくらいの伸びが期待できるかが問題で、期待外れということもあります。リセールバリューの予測は簡単ではありません」

 

「気をつけなければならない点は、既に地価が上昇しているはずなので、マンション価格も分譲時に高値である可能性が高いことです。言い換えると、先取り価格で買ってしまいかねません」

 

「高値掴みを知らずに買う人、少し高いかなとは思うものの、将来性が高いからと購入を決断した人」・・・このような買い手の期待を裏切る可能性があるということです。

 

「再開発の決定とともに、地価は上がり始めてしまうことが多いということを知っておきたい点です。具体的なエリア・駅をここで述べることは憚りますが、10年後の現在、少しも値が上がっていないマンションもあるのです。期待以上に上がったのは、再開発の青写真ができる前の砂漠のような土地に建てたマンションだけです」

 

「再開発マンションは、発展を織り込み済みの価格と思った方がいいかもしれません。そのような街は魅力的な街に変わるわけですから、リセール時点で買い手も多いので、値崩れはしない。言い換えれば、期待外れかもしれないが損もしないとは言えるかもしれません」

 

「高過ぎるかどうかの判定をどのような方法で行うか、そこが問題です。その答えを以下で解説しましょう(以下省略)」・・・このように前置きして筆者はお答えしていますが、大事なことは「すごい宝物を発見したかのように悦に入らないこと」です。

 

将来性豊かな場所と分かればプロは放置しません。土地の争奪戦を展開します。地価は既に上昇し、マンション価格も上がっています。そう考えるべきなのです。

 

宝や穴場のような場所を素人が掘り当てることは土台できないのです。当たるかどうかわからない宝くじを買った程度の期待を寄せつつ選択する方が失望感も小さくてすむかもしれません。

 

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談のお申込みはこちらからhttp://www.syuppanservice.com

 

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