第738回 「増えるワンルーム混在マンション」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論」を展開しております。

急に始まったことではないのですが、ワンルームが混在したマンションが増えているような気がします。 無論、東京都心での傾向ですが、敷地面積の狭い計画では、ワンルーム比率が高い印象もあります。   戸数比率のことです。専有面積(エントランスや集会所などの共用施設の面積を除外したもの) の合計が100㎡としたとき、ワンルームが半分の50㎡であれば、戸数比率では住戸単位の面積が狭いワンルーム戸数は3倍にもなってしまいます。 多くのマンションでは、1部屋1議決権を取り入れていますから、戸数50戸なら総数50の議決権になるのです。   マンションの管理に関する諸問題を取り決める「管理組合では、ワンルームが多いと不都合が起きないか、このような心配をしている買い手さんもあるようです。 ワンルームをたくさん設けてしまうマンション計画は、どのような問題があるのでしょうか?また、ワンルームはどのような事情で誕生するのでしょうか?  

●ワンルーム混在マンション誕生の背景

マンション開発に携わった筆者の経験から「ワンルーム併存マンション」の背景や事情をご紹介しましょう。   土地の売り物が出ると、デベロッパーはその土地上にどのようなマンションができるかを先ずシミュレーション(概略の設計図を描画)します。その基本図面に基づいて「採算性」を計算します。   法が認める「許容面積」が100としたとき、50の合計面積で設計してしまうと、単位面積当たりの土地代は2倍になってしまいますから、許容範囲100を目指して設計するのが業界の常識です。90や95なら問題ないではなく、99.999%を目指すのです。用地費が高いからです。   許容面積一杯に建てるためには、南向きだけでは無理で、それこそ北向きの部屋も設けないと許容面積100%には届かないのです。結果的に、条件の悪い方位、条件の悪い住戸が誕生してしまいます。   目の前に隣地の建物が迫っている、高速道路に面している、道路の高さより低い半地下のような住戸がある、日当たりが期待できない住戸があるなど、悪条件のマンションが誕生してしまう用地は珍しくありません。   条件の悪い住戸は、分譲価格を抑えて売り出さざるを得ないのですが、それでも全体としては採算が取れるので、許容される容積率の100%消化を目指すのが建築士の使命とされます。   「その使命から生まれるのがワンルームだ「と言って過言ではありません。ワンルームなら、昼間は誰もいない単身者用住居として問題はあるまい、このような考えのもとに作られるのですが、元はと言えば「面積を目いっぱいに増やすための苦肉の策」というわけです。   都心の土地は、そもそも恐ろしく高いので、1坪も無駄にしないよう検討した結果、北向き住戸もできてしまう。デベロッパーは、こう考えるようになったのです。  

●ワンルームは高値で売れるというデベロッパーの目算

許容容積の1坪も無駄にしない設計が大事とお分かりいただけたと思いますが、ワンルームなら高くても売れるという計算も働いています。ワンルームは面積が狭いので、単価を少し上げても総額の値段には響きにくいからです。   ファミリー向けタイプが主体の計画の中で、できるだけ売り値を抑えたいが、用地費も建築費も高い今日、苦肉の策として出て来るのが「ワンルームを高く売ることで、一般タイプを安くできる」という売り手の論理が働いているのです。   買い手側に立ってみましょう。ワンルーム検討者は、同一マンションの中でお得な住戸、価値ある住戸はどれかと探すとき、ファミリータイプの部屋には見向きもしませんから、ワンルームの単価がファミリータイプより高いということさえ気づきません。 気付いてしまったとしても、売主は合理的な説明を用意しています。「ワンルームは、単位面積当たりの建築費は高くなってしまうおのですから」などと。   ファミリータイプの面積が合計90%、ワンルームの合計面積が10%程度では殆ど意味はありませんが、ワンルームが40%も50%も占めていれば、ファミリータイプの価格引き下げ効果は目覚ましいのです。だからというわけではないものの、ワンルームを増やせば、ファミリータイプは売りやすくなるのは確かです。   もっとも、ワンルームをたくさん作ってしまうと、それを売るのも中々大変というわけで、ワンルームを増やすのも善し悪しと考えているようです。しかしながら、都心の交通便の良い立地ならワンルーム需要はあるだろうと、デベロッパーは考えてしまうようです。  

●共用面積も減らしてしまえ

分譲単価を下げるには、日当たりの悪い部分まで住戸にして販売面積を増やすことが必須ですが、コスト高を極力販売価格に反映させないようにするには、共用面積を極力減らすことも重要です。   広く豪華なエントランスホール(ロビー)や、集会室、ゲストルーム(宿泊室)、キッズルーム(雨天遊技場)などを取りやめ、大部分を販売住戸としてしまうのが最近のトレンドになっています。 つまり、潤いも豪華さもない住戸だけを積み上げた昔のマンションに戻ってしまった昨今なのです。   マンションの価値は、「差別化された(明確な差別感がある)物件であるか」にかかって来ます。「シンプル イズ ベスト」というキャッチフレーズを目にしたことがあると思いますが、分譲マンションで「シンプルが魅力」という例はあまり見ることがありません。 シンプルは、コスト削減の産物でしかない。少なくとも、筆者はそう思っています。   価値あるマンション、買いたくなるマンションは、「格好いい外観・天井が高くデラックスなエントランスホール、お洒落なエレベーターデザイン、床や壁の美しさ、大きく育ったシンボルツリー、よく手入れされた植栽や芝生の庭園など」があるマンションと言って過言ではありません。   分譲マンションでは、共用面積より専有面積を増やす方が単位面積当たりの分譲単価は下がり、売りやすくなります。価格高が続いているマンション業界では、付加価値になる可能性の高い、これら共用施設をやめてしまう例が続出しています。  

●ワンルーム混在マンションに抱く買い手の心配

先述の「議決権への影響」はさておき、ワンルーム混在比率の高いマンションは嫌われます。ワンルームは賃貸用として買われることが多いので、維持管理に影響が出るのではないかという声です。   ワンルームマンションを借りる層は、言わずもがな単身者です。 若者が多いことでしょう。場所によっては、怪しげな人種が入居して来る可能性もあります。   ファミリータイプの購入者にとって、そこを不安に思うものの、売り手から聞く説明は「管理がしっかりしているから大丈夫」などという曖昧模糊としたものです。   エレベーターもそれぞれ専用にする、階で区分するといった工夫をしてあれば問題は少ないはずですが、何ら区分をしていない物件も多いのです。ファミリータイプの購入を検討する人はよくよく気を付けたい点です。  

●中古マンション購入時のチェック方法は?

中古マンションの場合は、ひとつの間取りが紹介されているだけなので、他の住戸まで気が回らない可能性があります。都心の物件ほど、ワンルーム混在タイプが多いので、注意しなければなりません。   チェックの方法は簡単です。仲介業者に尋ねる(調べてもらう)のが早いですが、自分でも想像してみましょう。外からバルコニー面を見れば、一区切りの住戸幅で分かるはずです。 南面だけでなく、北からも、東西からも眺めてみましょう。 正確には分からないものの、おおよその数は分かるでしょう。   数が分かったら、比率を計算しましょう。ワンルームの比率が20%か多くても30%までなら心配は少ないはずですが、それ以上の物件は避けた方が無難です。  

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