第744回 「消えた出窓・消えたエアコン置き場の囲い」

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論「マンションの資産価値論」を展開しております。10日おきの投稿です。

新築マンションの価格高騰が続いています。原因が用地費の高騰、建築費の高騰にあるのは言うまでもありません。

 

価格が上がると、売れ行きが悪くなるのが普通です。高くても、比較的買い手を集められる都心の人気地域なら、高値でも買い手に購買力の高い人が多いだけに、品質を下げるような商品戦略を採ることはありませんが、少し外の物件を見ると、コストカットした計画が目立ってきます。

    今日は、マンションのコストカットの具体策についてご紹介したいと思います。   新築にせよ中古にせよ、満足度の高いマンションを選びたい人の無視できないチャックポイントとしてご記憶いただければ幸甚です。    

●コスト削減と品質維持との葛藤

マンション業者は、良い条件の用地を取得し、魅力的な建物を計画して販売に臨もうとしますが、そこで常に葛藤するのが品質のレベルです。 どのくらいの広さにするべきか、3LDKと2LDKの比率を何%ずつにするかといった検討をしつつ、面積と戸数を決めて行きます。
  用地代は既に決まっていますから、建物をどんなプランにするかは売り値を左右する重要テーマです。100戸建てられる計画地に50戸しか建てなければ、1戸当たりの用地代は2倍になってしまうので、計画者は100戸いっぱいに計画します。比率で言えば99.9%まで建物ボリュームを伸ばすのです。   次に、コストを抑えつつ魅力的な建物プランを図面化して行きます。
同じ70㎡の住戸でも、どんなレイアウトにすれば魅力的か、言い換えれば買い手の関心を呼べるプランにすることができるかを検討します。   設計者は可能な限り魅力的な建物を計画しようとしますが、提案の多くは否認され、ありきたりになってしまうことが多いのが現実です。
最後は、発注者のマンションデベロッパーが決めるのですが、魅力的なプランほど価格高になることが多いからです。   例えば、エントランスホールと別に集会室(コミュニティルーム)や、キッズルームを提案してもカットされ、半分の面積に圧縮して住戸とするように要求されます。
外観デザインに工夫を凝らしても、凹凸が大きければシンプルにしろと拒否されるのです。   コストが高くならないようにしたいとしても、品質が低下すれば買い手の支持は得られませんから。
一定の品質を維持しつつ、付加要素をどうするかが発注者の企画要員や設計者の腕の見せどころとなります。  

●コストカットの例を挙げると

コストカットの具体例を挙げておきます。
例1)スロップシンクの取り止め
スロップシンクとは、バルコニーに設置する、運動靴などを洗う、雑巾を濯ぐなどに重宝な設備です。この採用を止めれば、水道工事もしなくて済みます。
  例2)ディスポーザーの取り止め
ディスポーザーは各住戸のシンクに設けた生ごみ粉砕機で砕いた生ごみを専用配管で地下に設けた専用の浄化槽に流し、バクテリアに食べさせるという方式の優れものです。これを止めれば、粉砕装置だけでなく、専用の排水管も地下の浄化槽もいらなくなるので、数千万円から数億円のコストカットができます。
  例3)手洗いカウンターの取り止め トイレには、必ず手洗い装置があります。従来は便器のバック部分にある水槽の上に手洗い用の水栓を設けていましたが、いつ頃からか、便器はタンクレスもしくはタンクが便器の高さと変わらない低いタイプのスマートなものに変わり、その採用と同時に手洗い器を壁際に設ける形になりました。   これを止めれば、2本必要な水道が1本で済みますし、手洗いカウンターも要らないのでコストカット効果は低くありません。
  例4)複層ガラスの取り止め
複層ガラスは、結露防止になる、冷暖房効果を高めるといったメリットから近年採用マンションが随分増えました。2枚のガラスの内部にLow-eと呼ばれる金属膜を張り付けたタイプと、乾燥空気だけのタイプとありますが、どちらにしても1枚ガラスよりは高いので、これを止めてしまえばコストカット効果はあるわけです。  
例5)エレベーターの台数を減らす
エレベーターはマンショの戸数によって、また階数によって必要台数が経験則的に決まっています。14階建ての高層マンションで120戸くらいの規模であれば2基が標準とされます。3階建てで100戸のマンションなら1基で間に合います。何故なら利用者数は2階の半分と3階の人たちだけなので、実質50戸のマンションと言ってよいからです。  
超高層マンションで300戸とかになれば、3基でも足りないので、非常用エレベーター(法律で義務化)も利用するでしょうが、それでも朝は満員通過で5分も待たされるということがあるかもしれません。   5基欲しいところを4基にしたり、4基を3基に削減したりすれば、コストカット効果は間違いなくあるわけです。  
例6)鉄骨階段にする
マンションの外階段に注目する購入者は少ないと思うのですが、コンクリート製より、工場生産の鉄骨をトラックで現場に運び込み、コンクリートの外壁や開放廊下に取り付ける工事の方が安上がりです。   しかし、鉄骨階段は塗装を繰り返す頻度がコンクリ―製より多いこと、非常階段を上り下りすると音が響くといった弊害があるのですが、コストダウンのために採用しているマンションは少なくありません。
  例7)直貼り構造にする
直貼りマンションは、コストカットの代表です。  
 
例8)洗濯機置き場の囲いの取り止め
そもそも洗面所になぜ洗濯機があるのでしょうか?洗濯機置き場の周辺は汚れものだけでなく洗濯洗剤やら何やら雑然としています。言い換えれば、生活感がにじみ出る場所です。美しい光景ではないはずです。  
それでも風呂に入るとき、脱いだ下着を洗濯機の中に放り込む利便性があって良いではないか、そんな考え方から洗面所の中に置かれているわけです。   ところが、お洒落空間の洗面所と雑然としがちな洗濯機置き場は分けた方がいいだろうと、洗面所の中で「洗濯機置き場」を区分する発想が生まれました。  
高級マンションでは、洗濯置き場は扉をつけて見えないようにしていますし、そこまでしない場合でも、袖壁を設け洗濯関連のグッズを収納する物入や棚を洗面台から区分するのが定番でした。   そんな配慮は全くなく、洗面脱衣室のどこかに洗濯パンを設置しただけの間取りも少なくない現況にあります。  
例9)エアコン室外機置場の露出置き
読者の皆さんは、新築マンションのモデルルームを見学するとき、エアコンの室外機がどこに置かれるかという関心をお持ちになったことがあるでしょうか?最近の新築マンションは、写真のような形になってしまうものが多いことをお気づきでしょうか?       このような「エアコンの室外機が露出のマンション」にはがっかりします。
 以前は、室外機を隠すように半分を囲うという配慮が普通にあったものです。室外機が醜いものとは言えないですが、裸でぽんと置かれている形にデザイン的な配慮は全く感じられません。
  最もポピュラーな方法は花台を窓の部分に設けるか、窓を出窓ふうに張り出させ、その下を室外機置場としたものです。これを止めてしまったのもコストダウン策のひとつなのです。  
例10)アルコーブの取り止め
アルコーブ(alcove)とは、欧州で部屋や廊下など壁面の一部を少し後退させて造る窪みや空間の意味で使っている言葉ですが、これを日本人の誰かがマンションの共用廊下から少し引っ込んだ玄関前の部分を指す言葉として使い始め定着したのです。  
アルコーブと似たような住宅用語に「玄関ポーチ」があります。これは、建物の玄関前で、壁から突き出た庇(ひさし)のある入口スペースを指します。雨が降った日に傘を持って玄関を出入りするとき、雨に濡れずに済むという機能があります。  
さて、木造アパートや古い賃貸マンションを想像してみて下さい。端から廊下を斜めに見ると、同じ大きさ・色・デザインの玄関扉がずらりと並んでいますね。分譲マンションでは凹凸を設けることで、「彫の深い顔」を狙ったものです。  
アルコーブを深く取れば、各戸の扉は見えにくくなっています。 その方が賃貸マンションとの差別化になり、憧れのマイホームらしくなるからです。ここがわが家だ。これが顔だというものが商品価値を高めることに役立ったのです。  
アルコーブは、玄関扉を開けた瞬間、外出を喜ぶ元気な子供が走って来て扉に衝突するといった事故を避けられるという機能も持つに至ったのです。   そのアルコーブが最近のマンションの一部でなくなってしまったのです。
アルコーブ取り止めの理由は、コストダウンのためです。マンション全体にも言えるのですが、凹凸を設けるより、一本の直線にした方が施工上の手間もかかりませんし、コンクリートの量も減るからです。
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大きなコストカット策を使い切ったあとは、細かな部分を削って「ちりも積もれば」式にコストを圧縮するのがマンションメーカー日常茶飯事の作業でもあるのです。  
「ディスポーザーを止めよう」は、コストダウン効果が高いですし、天井高を下げれば、その分でコンクリート使用量が減り、それに付随して直貼りの床になるので、これも効果は極めて大きいのです。また、エレベーターを1基減らすと、エレベーターの機械は1000万円に過ぎなくても、エレベーターシャフトの施工費とコンクリートが要らなくなるので、トータルでは2000万円をカットでき、これまた効果が大です。  

●あとでリフォームすればグレードアップ可能なものもあるが

コストカットマンション、コストダウンマンションを承知で購入する人も少なくないでしょう。  
無視していいのは、室内スペックです。何故なら長く住むならどこかで自分の好きなスペックにリフォームできるからです。といっても、「ディスポーザー」や「スロップシンク」などは後付けできないので注意しなければなりません。  
無論、リフォームにはお金がかります。気に入らないから後で変えようとしたら、数百万円もかかってしまうかもしれません。   窓ガラスや玄関扉を交換することはできませんし、廊下のエアコン室外機に囲いをつけるなどということもできません。  

●売るとき価格にどれだけ影響するか?

売るときに最も影響するのは「立地条件」ですし、マンション全体の評価が優先しますから、室内の設備は後順位になるものの、軽視はできません  
今日ご紹介した中で、売却時に影響しないもの、大いに影響するものと分けてみることが大事です。影響しないなら、さほど気にしなくても良いからです。繰り返すことは避けますが、タイトルに掲げた「出窓・廊下のエアコン置き場」は、触れないものだけに、装備されていない物件は考えなおした方が良いのかもしれません。   

 

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