第747回「中古マンションの価格は誰が決めるの?」
- 2021.04.30
- マンション購入アドバイス 中古マンション
このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論「マンションの資産価値論」を展開しております。10日おきの投稿です。
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最近、タイトルのご質問が何件かありました。 筆者の話に違和感を持ったようです。新築マンションの話と、中古マンションの話がゴチャマゼになってしまうためのようです。気をつけて話しているものの、聞き手の中には、どうしても混同してしまう人が出て来ます。 今日は、改めて新築と中古の価格の成り立ち、決まり方について整理しておこうと思います。
●マンションの価格の成り立ち
新築マンションの価格は、用地費+建築費+販売経費+利益という構成で決まります。
*用地費(40%)・・・・・言わずもがな土地の購入費です。
*建築費(40%)・・・・・ゼネコンへの支払いです。設計をゼネコン以外に依頼するケースも多いので、細かく分解すれば、設計料が別途計上されます。
*販売経費(10%)・・・モデルルームと販売事務所の建設費、広告費とモデルルーム運営費、販売を外注している場合は販売手数料も含まれます。
*利益(10%)・・・・以上の原価と経費を売り上げから差し引いたものが「プロジェクト利益」となります。企業利益は、本支店経費を見るので、5%程度と減ります。
( )内の数字は売上に占める割合です。都区内の平均的なものです。実際は微妙に違いますが、読者に配慮した数字とご理解ください。
用地費と建築費の2大原価は、着工時点で確定しています。
販売経費は、流動的です。特に広告費は、売れ行きが順調に進まなかったときなど、しばしば予算超過になることがあります。
プロジェクト利益は10%程度が業界標準と言われます。つまり、その確保ができなければ企業の存続は困難なのです。 売れ行きが悪いために、広告費が予算を超過したり、値引き販売をしてしまったりすれば、利益は縮みます。戸数の10%を1割引きしてしまうと、全体利益は1%減る計算です。
売れ行きが悪ければ、値引き販売に踏み切ることは当然ありますが、全戸数を値引きするということはなく、何割かの戸数に限定されます。その割合が増えれば増えるほど利益はなくなってしまいます。買い手から見れば、新築マンションの値引き販売は期待ができないと考えた方が良いのです。
●建築費の動向
マンションの価格に占める割合が大きいのは土地代より建築費です。
特に郊外エリアは用地費が安いので、相対的に建築費の割合いは大きくなります。
建築費は、建物のグレードによって差があるものの、超高級マンションを別とすれば概ね相場が分かっているので、予算を組む段階では建築延べ面積によって異なるものの、10億円とか15億円とかと決めて計画を進めます。
ゼネコンから見積もりを集める段階では予算を超えることが多く、そこからが困難な道とされます。
筆者の経験でも、予算内の見積もり書が届くことはなく、値下げ交渉が大変でした。
予算内に収めるためには、最終的に計画変更を強いられることも少なくありません。価格交渉がうまく行かないときは、最後は計画変更、グレードダウンを受け入れることもあります。
グレードダウンとは、例えばディスポーザーの設備を止めてしまうことです。地下に埋め込んだ専用の浄化槽がなくなり、各住戸のキッチンのディスポーザー装置も要らなくなって、総額で5000万円と1億円がカットできるからです。
建築費は、東日本大震災以降に大きく上昇しましたが、それ以来ずっと高値が続いているらしく、下がったという情報はありません。 コロナ禍で工事を見合わせるという事例も増えているらしいと聞きますが、分譲マンションの建築費が下りつつあるという情報は今のところは聞こえて来ないのです。
今後も動向に注視していかなければなりませんが、大きく下がる可能性は低いはずです。
●2020年・新築マンションの価格は前年比5%余も上昇
新築マンションの価格は、2013年頃から上昇トレンドが続いています。2019年の頭打ちになったものの、2020年は首都圏の平均で前年比5.5%アップ、23区に限ると11.3%も高くなったのです (不動産経済研究所調べ)。
売れ行きが良くない状態が数年続いているにも拘わらず、価格が上がるというのは建築費も用地費も下がらないという事情によります。
売れ行きが悪ければ価格を下げるほかないのですが、それをさせてもらえないのです。 用地がないので、条件の良い土地は高値になり、建築費もゼネコンが繁忙のために下げたくても下げられないのです。その状態が10年近く続いています。
●中古マンションの価格の決まり方
本題に戻りましょう。
「新築マンションの価格は売主デベロッパーの採算=利益確保のための価格となるのに対し、中古マンションは市場の評価(買い手の価値判断)によって価格が決まると考えられます。
中古は、市場の価格を見ながら売出し価格を設定するのですが、それでも売れない物は売り出し価格を改定(値下げ)するほかありません。結局、中古マンションの価格は買い手、すなわち市場が売り手を動かして決めていることになります。
無論、強気な売り値を設定し、買い手が現れるのを辛抱強く待とうとする売主も少なくはありませんが、高値が通用するのは、需要の多い都心部や人気エリアだけです。郊外のバス便立地などになると買い手は殆ど現れず、しびれを切らした売り手は、売り値を下げざるを得ないのが実態です。
中古マンションの所有者は、売り出しに当たり、先ず仲介業者に査定を依頼します。引き受けた仲介業者は過去1~2年の売買事例を調べますが、当該マンションに成約例がなければ、近隣物件の成約データを探します。 事例物件との比較をしながら売却予定物件の売出し価格を決め、依頼者に提示します。
このとき、売り出し価格/査定価格/買取り価格の3種を提案して来る業者も少なくありません。 「人気物件は引き合いも多いので、高めで売り出されたらどうでしょうか?」などと売り手が喜びそうな価格を提示して来ます。
仲介依頼を是非とも取りたいという物件は例外なく高めの数字を提示するようです。 仲介業者同士の競争があるためです。
売り手は複数の仲介業者に同時に依頼することもできるのですが、業者間で競争させた方が早く売れるのではないかと考える売手は、その道を選択するようです(実際は期待外れに終わることが多いのですが)。
中古マンションの価格は、売却希望時点の相場、すなわち市場の値段を見て決められますから、売主の購入価格(いわば仕入れ額)がいくらであったかは考慮されないのです。従って、物件によって購入額を下回ったり、反対に上回ったりします。
査定額がいくらかはさておき、取引が成立したとき、それが売買事例としてREINS(不動産流通機構)に記録されます。それが、後の売買物件の指標として残ります。つまり、中古物件の価格は最終的に買い手が決めていることになるのです。
新築マンションは売り手の採算(利益)を指標として値付けされます。買い手から値引き交渉をしかけても、売主・デベロッパーは受け付けないものです。つまり、中古とは異なり、新築価格は売り手主導で決まり、硬直的です。
●値引き交渉はどうやるの?
新築の値引き販売は滅多にないと思った方が良いのです。
仮に、買い手から値引き要求を仕掛けても、売主は全く受け付けてくれず、けんもほろろの態度であることが多いのです。 無論、販売状況によります。
一方、中古は個人のオーナーが売主であり、どうしても売らなければならない事由があって売り出しているので、引き合いの有無によっては値引きに応じることは珍しくありません。
ダメで元々のつもりで「〇〇〇万円になりませんかね?」と言ってみると良いでしょう。ただし、売主にダイレクトにぶつけると気分を害してしまう恐れもあります。仲介業者を 通じて伝えましょう。
その時の注意点をもうひとつ。 「打診するというより、本気で買いたい」という態度が大事です。 「○○○○万円にしてくれれば、すぐにでも手付金をお支払いするつもりです」などと。
●中古マンションの価格に影響を与える要因は?
新築マンションの価格が上がってしまい、手が出ないと感じた買い手は、中古なら安いはずだと考えて中古マンションを探すことにしたというお便りは、筆者のところにもよく届きます。
ところが、ほどなく「中古なのに新築並みに高い」ことを憤慨する人も少なくありません。
無論、物件によっても、地域によっても差があるので、この声の大半は東京都心や、都外でもターミナル駅付近、中核都市で探している人たちです。
中古なのに新築並みに高いマンション。 実際に高値の中古マンションは少なくありません。その理由や背景、事情を次で説明しましょう。
●新築マンションの供給数が少ないので・・・
市場に品物が少ない状態で、買い手が多いとき、中古マンションの価格は高くなる・・・・それが市場原理というものです。
次のグラフは、中古マンションの値上がりの様子をグラフで表したもので、不動産流通機構が毎年発表しています。 2013年頃から上がり出して今に至る様子が見て取れます。
2019年、2020年のデータが抜けていますが、上のグラフのカーブと変わらない上昇トレンドが続いているのです。
このデータからも 中古マンションの価格は市場が決めるものだということが分かります。新築が高いので、中古人気が上がり、連れて中古マンションの価格も上昇しているのです。
新築価格に停滞感が出てくれば、中古価格も高止まりとなるでしょうが、中古は下がりにくいという見方もあるのです。 新築マンションの発売件数・戸数が大きく伸びる可能性が低いからです。
首都圏の新築マンションの発売戸数は、10年前の2011年は6万戸ありましたが、最近は年間に3万戸前後、直近の2020年は3万戸を割りました。
売れ行きが悪いので発売を先送りしているという理由もあるのですが、それだけでは説明がつかない事情が供給側にあるのです。
すなわち、用地が手当てできないのです。 長年、新築マンションの業界は用地取得の戦いに苦しんで来ましたが、バブル期を除くと、用地が買えないと嘆く声は最近も変わっていないのです。
●価値ある中古は新築並みの高値で取引されるのが常識
新築マンションが希望する地域に見つからない、多少の地域拡大を図ってみたが、やはり見つからない。しからば中古へ、そう考える人が増えているのです。
中古マンションの売り物は数だけなら星の数ほどあるのです。しかしながら、玉石混淆が実態で、「欲しいと思うものはどれも高値で新築並み、いや新築以上だ」・・・このような声も少なくないのです。
価値ある中古は、新築並み、物件によっては新築以上の高値で売買されるのが普通です。その実態を知った買い手は、中古なのに新築と変わらないと落胆したり、分譲時の価格を知って、それを上回る中古の値段に憤慨したりしている人を筆者も何人知っています。
筆者はこう言います。 「新築の分譲価格など知らない方が良い。腹が立つだけだから」と。
人間は、立場が変わると見方も考え方も変わるものです。買った自分のマンションが古くなって値段が上がると喜ぶ一方で、他人の売りマンションを見て高値に憤慨します。勝手なものです。 筆者は付け加えます。「買ったときの値段を調べてみても何の意味もありません。知らぬが仏」ということもあるのですから」と。
・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談のお申込みはこちらから(http://www.syuppanservice.com)
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