新築マンションの値上げ分譲に違和感
- 2016.01.25
- マンションの売主
ブログテーマ:マンション業界出身者が業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
利益追求が民間企業の目的なのだから、こんなことを書いたら馬鹿にされてしまうかなどと思い悩むのですが、最近のマンションデベロッパーの値上げ販売の動きに、どうしても取れない違和感を覚えています。
消費財では、全く同じ商品が店によって売値が違うのはよくあることです。同じ店でも、昨日と今日で値段が違う、生鮮食品になれば朝と夕方で値段が違います。
これらに私たちは全く違和感を覚えることはありません。理由や背景もよく知るところです。値上がりが大きいときは買い控えをし、値下がりしたら我先にと買い漁ったりもします。
しかし、マンション販売の世界は異質なので、価格が変わることに割り切れないものが残ります。
マンションが消費財との根本的な違いは、マンションには二つと同じ物がないという点にあります。場所も違いますし、同じ広さ・間取りでも階が違います。唯一無二の商品、それが不動産・マンションという商品なのです。
このため、価格もみな違って当然です。条件・品質・大きさ・広さがみな違うのですから、価格の比較もしにくい、それがマンションの価格というものです。
筆者に対し、検討マンションの価格が適正かどうかを教えて欲しいというご相談・ご質問が絶え間なく来るのも当然と言えば当然なのです。
買い手は自分なりの調査や勘などで「高い」と思ったり、「安い」と感じたりするようですし、最終的には「高いが買おう」か「安いけど〇〇だから止める」などと判断して行きます。
ところで、新築マンションの価格はどのようにして決めているのでしょうか?
基本的には「原価積み上げ式」です。土地代と建築費、販売経費、利益の合計が価格です。
利益は企業存続に必須の割合があります。新築マンショを開発し販売する「デベロッパー」の場合、平均は20%程度です。それ以上の利益を取りたいと思っても、価格が高ければ売れないので、仕方なく20%で我慢しているとも言えますし、20%あれば十分と考えているとも言えます。
「原価積み上げ式」と言いましたが、売れない価格になってはいけないわけですから、土地代と建築費の原価は売り値からの逆算であらかじめ決めてかかります。
この場所にこんなマンションを企画したら、きっとこのくらいで売れるだろうとの目算のようなものを各デベロッパーは持っています。経験値であったり、市場調査の結果であったり、目算の仕方は様々ですが、あくまで予測なので、強気なデベロッパーと弱気なデベロッパーとに分かれるのも事実です。
想定する分譲価格を強気に予測したデベロッパーは、土地を高く仕入れることができます。
マンション開発に向く土地というものは、実は中々ないもので、立地条件が良いとは言えない土地、変形の土地、傾斜地、道路幅が狭くて工事がしにくい土地といったふうに、何かしら問題を抱える土地が多いのが現実です。
このような原材料(?)事情があるため、取得競争は常に激しく、用地代は高くなりがちです。そして、マンション価格は常に上方に振れやすいという性格を持ちます。
価格が上がれば需要がついて来なくなる恐れがあります。いうまでもなく、勤労者にとってマンションは一生に一度の大きな買い物だからです。しかし、過去50年、マンション価格の推移を紐解くと、バブル後の一時期を除きほぼ上昇を続けて来ました。
その間に需要は減少と増加を一定範囲で繰り返しながらも、ゼロになることはなく、いつの間にか高値に追いついて来たのです。 そこには「購買力の上昇」という要因があったわけですが、購買力の上昇は所得の増加、貯蓄の増加、住宅ローン制度の拡充、同金利の低下、住宅購入応援の国策(住宅ローン控除や住宅贈与税の特例など)によるものです。
供給側のデベロッパーは、高値でも購買力が追い付く限界、平たく言えば高値でも販売は可能であるという限界点を知る経験と研究を積んで来ました。
マンション販売で利益を着実に上げるため、デベロッパー各社は並々ならぬ苦労を強いられて来ました。とりわけ、価格をいかに抑えるかに力を傾倒して来たのです。
それでも計画段階の価格に抑制することができないことの方が多い実態にあります。建築費が上がってしまったりするからです。ままよと高値で売り出して失敗し、売れ残った何割かの住戸はバーゲンセールのように10~20%引きで処分したという経験も少なくありません。
これまで、多くのデベロッパーは定価で完売することを目標にして来たと言って過言ではありません。言いかえれば、価格を下げることはあっても上げることはなかったのです。
売れ残って仕方なく下げる場合も、先行契約者からのクレームに恐れつつ水面下で実施して来ました。過去に訴訟に発展した経験を持つからです。歴史を辿ると、一度公表した価格の変更は定価販売した顧客の目を気にしながらの値下げだけでした。
ところが、最近は歴史上なかった値上げ販売、つまり特定物件の販売途上で値上げするという、買い手から見たら暴挙に出ているのです。
といっても、価格は売り手の内部だけの秘密にしておき、販売状況を睨みながら強気に上方修正しているということです。 第1期、第2期というふうに分割して販売する戦略が定着し、第1期販売で予想以上に好評であったというとき、第2期では値上げに踏み切るという事例が大手デベロッパーを中心に増えています。 過去には見られなかった流行です。
次のようなお便りを頂きました。
「マンションギャラリーへ行く度に、第1期の販売部屋数が減っただの、予定価格が上昇だの、最上階は人気が高いので抽選ですと、条件が後になるほど厳しくなって行き、挙句、こちらの希望した部屋は第1期で販売されず、2期以降になると言われ、同時に2期以降は本社が価格を上げることを決定しましたと言われビックリしてしまいました」
別のお便りでは、「同じ面積・同じタイプの部屋が3階は5200万円なのに、11階は1200万円も高い6400万円なのです。11階は眺望が良いとは思いますが、1200万円もの付加価値があるとはどうしても思えないのです。これっておかしくないですか」というお尋ねもありました。
次期販売の価格は担当営業マンに聞けば「〇〇万円の予定ですが、変わるかもしれません」か「〇〇万円前後です」などと教えてくれます。しかし、建前上「未定」としています。下がる分には問題ないが、上げれば顧客心理は怒りに向かうことを知っているからです。
デベロッパーにとって、値上げは千載一遇のチャンスなのかもしれませんが、それにしてもやりすぎの感を覚えます。
「未定」としておいて、分割販売の中途から価格を上方修正して利益を増やす目論見に、どこかおかしいと感じるのは筆者だけなのでしょうか?
筆者の違和感は、もしかすると過去になかった慣習が変わったことから来るものなのだろうかと、自問自答していますが、そうではないような感じもします。
本来、企業は良いものを安く提供することに社会的使命や存在意義があるのではないか。そんな考えは「青い」感情論に過ぎないのかもしれません。
「価値あるものは高い値段で販売する」それが企業論理として正しいとする向きがあることも筆者は知っています。
しかし、マンションの場合は買い手の足元を見て価格を吊り上げている(買い手の顔色を見て値段を決めている)に過ぎないのではないか。これは節操の問題ではないか? 筆者はそんなふうにも思うのです。
この話は人気の高い少数の物件に限ってのことかもしれませんが、値上げするぞと言われたとき、あなたはどう思われるでしょうか?
値上げ前に希望住戸を変更しても購入を決断なさいますか? それでも買える保証はないかもしれません。そうしたスタンスの売り方を批判しても、価値あるマンションであることには変わりないと言えるのでしょうか?
グレード、スペック、立地条件など、どれも価値あるものであることは間違いないのでしょう。ただ、価格は価値以上に高いはずです。
価値あるものを安く買ってこそ賢い買い物になりますが、反対の買い物は後悔につながることになるかもしれません。おそらく優良な物件なので将来価値に期待して買う人も多いはずです。
しかし、高値で買ってしまえば、いざ売ろうと考えて査定してもらったら全くの期待はずれであったということになるものです。
それでも貴方は買いますか? モデルルームの来場者の多さ、混雑するマンションギャラリー、マンションパビリオンの熱気に我を忘れていませんか? 確かに稀少価値の高い物件かもしれませんが、他にも選択肢はあるのでは? ここは冷静に判断したいところです。
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