「修繕積立金30年間 上げません」のマンション
- 2016.11.10
- マンションの管理問題
このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。
~~~~最近は更新回数を増やしていいます~~~
分譲マンションには、「修繕費を積み立てる」という慣習が定着しています。
個人住宅なら、自分の意思だけで修繕するかどうかを決めればいいわけで、予算がなければ先延ばしにするもよしです。しかし、雨漏りが起きたら、臨時出費をうらめしく思いながらも修繕工事を発注することでしょう。
ペンキがはがれ、錆が出ても、あらゆる修繕を放置すれば、建物は劣化が早まり、いざ売るというとき建物代はただ同然になってしまいます。
そうなっても、また永住する気でいるなら、ボロボロになっても構いやしない。すべては自己責任なのですから。
ところが、マンションの場合はそういうわけには行きません。
修繕が必要になったときに費用を徴収しようとしても、各オーナーの懐具合が違うために資金が集まらないとか、また修繕の必要を理解しないオーナーもあって(本当は金を出したくないだけである)、工事ができないまま放置されてしまっては困るからです。
修繕対象は、言うまでもなく共用部に限られるわけですが、共用部も我が家(専有部分)の延長上にある所有財産(共有)なのです。屋上の防水工事を定期的に実施しなければ雨漏りの原因となり、我が家にも影響する可能性が高いので、これを放置しておけというオーナーはいないでしょう。
30年も経てば、そろそろエレベーターも交換の必要が出て来ます。それを放置すれば重大な事故につながりかねませんし、運転ができない状態になったら不便で堪らないのですから、それを止めるオーナーはいないでしょう。
しかし、そのためには速やかに工事にかかれるよう、マンション全体(管理組合)としての貯金をしておく必要があるのです。そこでコツコツと貯金をして行くことにした、それが修繕積立金です。
●修繕積立基金という名の一時金が高くなった
しかし、毎月の積立金が多過ぎると買い手の理解が得られにくいので、分譲販売の当初から多額の設定はせず、逓増方式を採用するのが一般的です。
さらには、「修繕積立基金」という名の一時金を徴収する慣習が定着しています。その基金は、最近の傾向として大きな金額をまとめて徴収する例が増えているようです。
修繕積立金は、文字通り毎月の「積立金」と「基金」で構成され、基金は新築分譲時に一時金として最初の購入者から徴収してしまうというものです。
(一時金徴収は、15年目とか20年目辺りにもう一度実施しようという計画のマンションもありますが、多くはありません)
毎月の負担を軽減するための基金ですから、その金額が大きければ大きいほど毎月の負担は小さくできる理屈です。
ところが、現実はそうなっていないのです。毎月は従来と同レベルで、一時金だけが大幅に増えている傾向が目につく昨今です。
実態を少し拾ってみましょう。(2015~2016年販売物件より)
※三菱地所レジデンスの場合
同社のある都区内マンションで、65.07㎡タイプの毎月が7160円、一時金78万円という例があります。
毎月の負担7,160円は、1㎡当たり@110円となります。一時金の78万円は、毎月分の100倍強です。
東京の場合、毎月が@80~100円、一時金は60倍(5年分)というパターンが多いので、三菱の設定はどちらも高額設定ですね。
同社の別の物件で、@90円/㎡・100倍となっているものもあります。毎月は普通ですが、一時金はやはり多いですね。
※野村不動産の場合
同社の中規模物件の例です。 75.25㎡のタイプの毎月が8190円、単価@109円、一時金81万2700円、100倍弱となっています。
別の物件も、毎月が@107円/㎡、一時金は87倍となっています。
こちらも高い設定です。
※住友不動産の場合
最新の発売物件のひとつを見ると、71.11㎡で毎月が6750円、単価95円/㎡、一時金が37万7900円で60倍と従来パターンです。
●計画はあくまで現在の工事見積もり額による
修繕積立金は、将来の修繕費用を予め見積って金額を設定するはずです。とはいえ、20年先、30年先の工事予算を正確に見積れるわけもなく、現在価格で見積り、そこに何%かの加算をしているのかもしれません。
実務的には、過去の見積もり実績をベースにして用意した規模別・高さ別の基準書のようなものが管理会社内に存在するのではないかと思うのです。
三菱地所レジデンスや野村不動産が販売時に買い手に提示している修繕積立金、一時金が高くなったのは、傘下の管理会社に命じて基準の数値を上げさせたのではないかと疑っています。
修繕積立金も一時金も、高い設定にすると、販売成績に影響を与えます。できたら上げたくない。これが販売現場の偽らざる声です。
それなのに、なぜ修繕積立金・一時金等を増額しているのでしょうか? 最近の建築費上昇が直接の影響なのでしょうか? どうも違うような気がします。
●当初の積立金が20年後は3倍になる逓増方式
マンションのメンテナンスは、社会的ストックでもあるマンション、建て替えが簡単にできないマンションといった認識を前提にすると、長期的な視野で計画しておくべき重要なテーマです。
分譲したら終わりというマンション業者のかつての姿勢は改善され、分譲後も買い手の資産を守ることに関心を払い続ける姿勢に転換し、分譲時に「長期修繕計画書」の策定をするのは業界標準として定着しました。
その中に設けられた収支計画表30年分を見ると、積立金は5年ごとに上げられているのが一般的です。
ある例を紹介すると、1~5年:7,000円、6~10年:10,164円、11~15年:13,319円、16-~20年:16,473円、21~30年:19,628円となっています。
初期の7,000円と21年目の19,628円を比べると、3倍弱に増える計画です。
マンションが比較的新しいうちは修繕費も少ないから安く、古くなればなるほど費用が嵩むので高く設定するという論理は正しいにしても、買い手の負担感が大きいと、購入をためらう原因になります。
5倍にした某物件で、「20年後に5倍?本当ですか?」と、買い手は一瞬たじろいだと聞きました。
そこで、売主は管理会社に命じて積立金の増額ペースを滑らかにしたり、減額したりする形で買い手の負担感を抑えつつ、必要な積立金を蓄積して行くには、分譲時の基金を多くしておく方法がベターと考えたのです。
購入者心理としては、購入時の頭金と登記料などの一時金支払いには比較的抵抗が小さいというか、寛容というか、そんな傾向があるからです。
マンション業者は、その使命として長期的な視野で販売相手と関わっていくことが必須です。それが結果的にマンション業者自身の信用の拡大につながるのです。
最近、増えて来た一時金増額の動きには、マンション業者の良い意味での深慮遠謀があるということかもしれません。
●国交省による修繕積立金のガイドライン(築30年まで)
国土交通省が「長期修繕計画策定ガイドライン」として修繕積立金の目安を公表しています。
15階建て未満で100戸以上のマンションが@178円/㎡(100戸未満@202円)であるのに対し、20階以上が@206円/㎡となっています。平均では16%ほどタワーマンションの方が高いとしています。
12年目に最初の大規模修繕工事が計画されるのが一般的で、そのときに必要な予算は、1戸当たりにすると100万円以上と言われますが、タワーマンションの場合は、110万円以上か120万円近くになるそうです。
積立金が不足すれば工事にかかれないので、そのような場合は実施時期を先送りするか、一時金を徴収する、または不足分を銀行から借りるしかありません。
先送りすれば建物の劣化が進み、実施可能なときが来て再度見積もりを取ると、さらに費用が嵩むこともあり得るので、実施時期を先延ばしないですむような積立計画が大事になります。
先に述べたように1回目の大規模修繕のときに1戸当たりで100万円以上を貯めておかなければなりませんから、分譲時に50万円~80万円といった一時金を出してもらうと、残り20~50万円を12年144か月で割れば、毎月負担は大きくならずに済みます。
とはいえ、12年目の大規模修繕後の積立金残高をゼロにするわけにも行かないのです。次の修繕のために残す必要があるからです。 結局のところ、事例に見たように、分譲時から5年ごとの増額積立とせざるを得ないのです。
●改修工事の実施時期
後先になりましたが、マンションの修繕項目を挙げておきます。
*屋根の防水(断熱と防水、保護塗装)/8~9年目
*バルコニーと共用廊下の床防水/12年目
*外壁塗装(壁・軒天などの吹き付け部)/12年目(タイルの交換は計上せず)
*給水管/40年目に交換
*排水管/30年目に交換
*エレベーター/15年周期で内装と三方枠の補修。20年目に制御盤交換。40年目に全交換
*玄関ドア/12年周期で点検調整。36年周期で交換
●「積立金の値上げは30年間なし」という新築物件
先頃、たまたま「修繕積立金は30年間ずっとこのままです」という物件にお目にかかりました。クオス鴨居白山レジデンスという横浜市の物件です。
物価上昇が起これば当然増額になるとしても、30年間このままというのは勇気ある提案(計画)です。
81.84㎡の住戸の例を挙げると、管理費 13,040円、修繕積立金 17,140円、修繕積立一時金 822,720円となっています。
管理費は1㎡あたりが@159円です。管理体制が分らないので安いとも高いとも言えないのですが、中古も含めた首都圏の平均は@238円/㎡(2013年国土交通省調査)なので単純比較では安い部類と言えます。
修繕積立金は@209円/㎡なので、先に述べた初期の標準値(80~100円)の2倍設定になっています。
修繕積立基金の方はどうでしょうか?
毎月の60倍が最低とすれば、毎月の標準値の80円~100円の60倍、4800~6000円/㎡となり、81.84㎡の部屋なら39万円~49万円、80倍としても6400~8000円/㎡なので、総額では52~65万円に過ぎません。
ということは、この物件の基金、約82万円は業界標準の1.3倍~1.6倍で設定したことになります。
毎月が2倍、一時金も標準の1.3倍以上を徴求するという物件です。
30年間のトータルを計算してみましょう。【(17,140×360か月)+822,720円】÷360=19,425円・・・・1㎡当たり@237円となります。この単価は、先に紹介した国土交通省のガイドライン(100戸未満@202円)よりは少し高いですが、適正値の範囲内と見て良いでしょう。
しかし、漸増方式ではなく、均等法式にすると、買い手の抵抗は間違いなく強いので、販売に重大な影響を与えるに違いありません。これが東京都心の邸宅地に建てる高級・高額マンションなら問題ないでしょうが、この立地のこの物件で、売主は随分思い切ったことをしたものです。
今しがたホームページを覗いたところ、売り出しはしていない(平成28年11月下旬販売開始予定)段階ですが、結果に注目してみたいと思います。
実は寡聞にして知らなかっただけなのですが、30年間上がりませんという物件は他にもいくつかあることが分かりました。ただし、大規模物件なので、設計次第ではスケールメリットが生まれて低額に抑えることも不可能ではないのです。
中小規模の物件まで均等法式が広がるのか、その点にも注目したいところです。
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