老朽化マンション・負のスパイラル

このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

タイトルは2017年4月6日のTBSテレビが朝の報道番組で取り上げた話題からいただいたものです。

番組では、札幌市で起きたベランダ崩落事故や、天井から雨漏りするマンション、バルコニーの軒裏に穴が開き、鉄筋がむき出しになったマンション、鉄製のバルコニー手すりが錆びてぼろぼろになったマンションなどを紹介していました。

これら問題マンションのひとつは、45年間、一度も大規模修繕をして来なかったというのです。修繕積立金すらないということでした。賃貸マンションでなく、分譲マンションでのことなので俄かには信じられない報道でした。

 番組では、1.老朽化して危険なマンションまたは雨漏りなどによる不快なマンションからは転居者が続出し、居住者が減る。2.居住者が減ると管理費・修繕費が集まらない。3.管理費等が集まらないと老朽化は更に進む。1~2~3~1と負のスパイラルに陥ると結んでいました。

適時・適切な修繕をしなければ、コンクリ―といえども建物は必ず劣化します。筆者がマンション業界に飛び込んだとき、最初に教わったことは、新築マンションは完成したその瞬間から老朽化の道を歩み始めるということでした。何故か、そのときの上司の言葉が忘れられないのです。

そのせいでもないのですが、私たちが住んでいるマンションは何年の寿命があるのだろうかという疑問を長いこと持ち続けています。最後の姿をこの目で見たい、そんな悪趣味な(?)思いを抱いているのです。

このブログで、何年か前に「人間の寿命・マンションの寿命」というタイトルで記事を書いたことがありました。日本人の寿命がもうすぐ90歳になろうかという現在、マンションの寿命の方が短いなどということはあって欲しくないという思いから、筆者は常に注目しているテーマです。

さて、今日はマンションに何年住み続けられるかという問題について書いてみようと思います。

このテーマは、新築マンションの供給が低迷し、マンション探しをするうえで中古の選択は避けられなくなっているからです。築浅のマンションなら心配は少ないものの、予算の関係で築20年、30年と古いマンションを検討せざるを得ない人が増えている現状に鑑み、取り上げることとしました。

●新築マンションなら永住は可能?

先ず、マンションってそもそも耐久性はどのくらいあるのかについて考えてみましょう。

業界人になったばかりの頃、先輩から教わったのは「60年」でした。しかし、実際に住人がいるマンション(鉄筋コンクリート造の集合住宅)で最も長く生きた(耐えた)マンションは同潤会アパートの上野稲荷町ではないかと思います。

建築された時期は確認できませんが、同潤会アパートが各地に建設されたのは1921年~1945年と記録されているので、およそ70~90年で姿を消したことになります。

住まいではなかったけれど、使用されていたものでは「同潤会青山アパート」が続くのではなかったでしょうか?「同潤会青山アパート」は、ご存知の「表参道ヒルズ」に形を変えています。

ついでに言えば、上野稲荷町は三菱地所レジデンスによって「ザ・パークハウス上野(全128戸)」という名の分譲マンションに生まれ変わって2015年3月に竣工しています。

同潤会アパートは大正時代に起こった関東大震災の復興住宅として東京・横浜の23か所に建てられたもので、鉄筋コンクリート造3階建ての賃貸アパートでした。何年か後に同アパートは居住者を中心に払い下げとなり、役目を終えた同潤会(財団法人)は解散したと伝えられています。

同潤会アパートの建て替え前の姿を記憶している人は少ないと思います。所有者と建て替えについて長きに渡り協議を続けたデベロッパー各社の開発や企画、建設部門の担当者や設計家、研究者、建築家など、ごく少数の人たちです。

筆者も脳裏にはっきり残っているのは、原宿と青山通りを結ぶ表参道沿いにあった「青山アパート」ですが、先に述べたように、ここに居住者はなく、3階まで店舗でした。殆んどブティックか雑貨店だったと思います。

少し前まで住まいだった名残りを感じるのは、屋上に突き出たテレビアンテナでした。世界的にも有名な原宿、ファッションの街として外国のブランドショップが建ち並ぶ表参道。その道沿いの年輪を重ねた森に隠れるように建ち並ぶ低層の店舗群は不思議な光景でした。

ともあれ、「青山アパート」晩年、住宅としては生きられなかったのです。

コンクリート構造は、メンテナンスをきちんと行えば、100年くらい持ちこたえるのかもしれません。メンテナンスを適宜行わなければ冒頭で述べたTV報道のような危険な状態に至りますが、同潤会アパートの例からも80年くらいは住み続けることができた、すなわち雨露をしのぐことだけは可能だったのですから、やりようによっては100年の寿命はオーバーではないのです。

最近の新築マンションは理論上200年マンションもたまに見かけますし、100年コンクリートを謳うマンションや「劣化等級3」を表示した高耐久マンションも増えています。

しかし、住まいはコンクリートの箱があれば足りるわけではありません。エレベーターも必須ですし、電気設備、給排水・衛生設備、電波受信システムといったものが不可欠です。

簡単に言うと、マンションは構造と設備に分類され、構造は60年~100年、あるいは200年の耐用年数があっても、設備は15年程度しかないもの、長くても40年程度のもの(エレベーターなど)、と部位によって寿命は大きく異なります。

コンクリートの構造部はしっかりしていても、設備が寿命に達してしまうと、様々な不具合が発生し、生活が困難になります。不具合は居住者のストレスを溜めこむことでしょう。

快適であるはずのマンションが不快なマンションとなって耐え難くなって行きます。そうなると脱出者が次第に増えて行きます。売却という道を選択する人、賃貸に付す人に分かれるにしても、オーナーは老朽化マンションから去っていくのです。

売却によって新オーナーとなった人はともかくも、賃貸したオーナーからは愛着も薄らぐのか、メンテナンスが適切に行われないだけでなく、修繕積立金の増額も決議に至らず、やがてはメンテナンス放棄状態に陥るのです。

そうなると、売却額も二束三文です。

ところが、中には築50年に達していても、メンテナンスがきちんと行われているマンションは、「Vintage」の称号をもらうほどで、外形的にも状態は良く、住み心地も良いマンションとして定評があるようです。

オーナーは宝物でも愛でるように大切に扱い、売りに出す人も少ないのです。売り出せば、今も結構な高値で買い手がつくと言います。

Vintageと呼ばれるようなマンションは都心の一等地に立っていて、それだけでも価値ある物件なので、買い手も富裕層であるケースが多く、メンテナンス費用の支出や積立金の増額決議もスムーズに運ぶのでしょう。

その結果、建物の劣化は進まず、大規模改修のたびに何度も若返って、今に至っているのです。

結局、マンションは新築であろうと既に30年を経過している中古マンションであろうと、余命はメンテナンス次第ということだと分かって来ます。

●築30年の中古を買った場合は何年住めるか?

築30年のマンションを買いましたが、それから5年も経たないうちに不具合が頻発し、とても居心地が悪いのです。ストレスも溜まる一方ですーー先日、このようなお便りを頂きました。

ご依頼の内容は、買い替え先のマンションについてのものでしたが、今度は失敗しない買い物をしたいという祈りのような心情が伝わって来ました。

普通に考えると、築35年程度ではどんなに短くとも20年以上は住めるはずですが、管理組合の運営がうまく行っていないらしく、小さな修繕ですらスムーズに行かないため、気持ちよく暮らせないというのです。

別のマンションは、組合運営の活動が讃えられ、模範的なマンションとしてたびたび雑誌や新聞のコラムに登場しています。

筆者の知る(かつて短期間住んでいた)マンションは、今年で築34年になるのですが、とても34年を経過しているとは信じられないものがあります。

こうしたメンテナンスが適切に行われるマンションの共通点は、資産価値の維持に関すして、オーナー全員が理解と協力を惜しまないことにあるようです

大規模な修繕は勿論のこと、美観を損ねる行為の禁止ルールを厳守すること、当初はなかった衛星放送受信設備の新設も組合として実施し、つまり、居住者が勝手きままにバルコニーの手すりに据え付ける行為を禁じたことなどが代表的です。

時代とともに新たな設備が登場するので、その更新や新設、つまり「改良」もしっかり実行しているのですね。

また、年代を感じさせない大きな要因は「植栽」にもありそうです。築30年を超えて年を感じさせないのは敷地内の樹木が高く大きく生長して建物の古びた印象を消してしまうからではないかと思います。

●築50年のマンションにはあと何年住める?

カギは、手入れにかかる費用にあるのではないかと思うのです。老朽化が進むに連れて修繕費は嵩み、積立金不足に陥るのではないか? そうなれば、老朽化の進行を止めることができなくなって住みにくい状態になる。

そうならないようにするには、財政的な裏付けが必須です。

マンションは、寿命が近づくに従い、不具合があちらこちらで露呈してきます。排水不良や水勢の低下、壁面の劣化・タイルの剥離・崩落、サッシ周りに隙間が発生して風が入り込む、換気装置の機能不全などが目立ってきます。

とりわけ、コンクリートのひび割れが雨水の浸透を許し、鉄筋の錆び、そして膨張、爆裂といった症状は、耐震性の劣化にも重なります。そして、雨漏り、結露、ジメジメ感といった住み心地を悪化させる現象が増えて来ます。

何十年も経つと、それまで応急措置を繰り返して来たものの、たび重なる修繕に根本的な対策の必要度が増して行きます。

不具合があまりにも頻繁になると、修繕の意欲も薄れ、劣化した箇所を放置したまま、すなわちメンテナンス放棄という事態もあり得ます。管理費の滞納や修繕積立金の枯渇などが、これに拍車をかけます。

日常管理もおろそかになり、共用部分にゴミが溜まり、自転車置き場が雑然としたまま、壊れた機械式駐車場は使用不能、メールボックスの投函扉は半分開いたまま。エレベーター内部は傷だらけで汚れもひどい。

入居者の中には、あまりにも住み心地が悪いので、やがて賃貸するか売却して住み替える道を選ぶ人が出てきます。

賃貸戸数が増えますが、賃料が高くないため、入居者の質が問題になったりします。それが更に住み心地を悪くさせます。

すべてのマンションがそうなるわけではありませんが、入居者が足並みを揃えて維持管理に関心を持ち、お金(修繕費)をかけて改修を適切に行ないながら、また管理規約をしっかり守って共同生活を営み、共用部分も我が家の一部としてみんなで慈しんで行けば、50年先も快適な住まいであり続けることでしょう。

しかし、現実はそうならず、50年も経ったマンションは見かけ上は「まだ住める」と見えても、内実はスラム一歩手前に陥っているかもしれません。そのため、50年を買った場合、入居してから5年も経たないうちに様々な障害・問題が表面化して来るかもしれません。

今日は詳しく述べませんが、チェックポイントを定めてしっかり調査しなければ、高経年マンションは危険です。

何をするにも管理組合としての財政に余裕がなければなりません。その意味で、第一のチェックポイントは積立金の残高が1軒当たりでいくらあるかです

また、長期修繕計画書(収支計画表)を見せてもらい、赤字になる年がないか、積立金増額計画の実績と予定の両方を見ることです。そこから見えて来るものがあるからです。勿論、修繕履歴を辿って見ることも大事です。

マンションは人間の体と異なり、健康診断を行いながら手入れをし、ときに手術をするなどのメンテナンスを適切に行って行けば、必ず長生きできるものです。

●これまでの50年マンションとこれからの50年マンション

昔のマンションは後々のメンテナンスや給排水管の交換を想定していなかったものが多いのです。仕方なく、下の写真のように外壁を這わす格好で新しい配管を設置している例が見られます。

ご存知の読者も多いと思いますが、給排水管の横引き管は専有分に当たるので、リフォームの際に自分の意思で交換することができます。しかし、コンクリートの中に埋め込まれてあれば、交換は不可能です。

また、上下を貫通する竪管(たてかん)は個人ではどうにもなりません。管理組合全体として工事をするかしないかを決めることになります。

しかし、水流が弱いとか、排水管が詰まり気味であるといった不具合が出て来ます。また、昔の水道管は鉄製である場合が多くこれが赤水発生の原因になっているマンションもあります。これらを直すために交換が必要となったとき、その工事のための余裕のスペースがない場合もあるようです。

既に50年になったマンションは、やがて上の写真(築60年の某分譲マンションです)のような姿になるかもしれません。

しかし、最近のマンションの多くは長期的なメンテナンスに配慮した設計になっているものも多いので、見かけ上も美麗で、長く快適に住んで行くことが可能かもしれません。とはいえ、技術的に可能ではあっても、財政の裏付けがなければ適切なメンテナンスはできません。

また、オーナーの大半が理解と協力を惜しまない管理組合でなければ、これまた実現は困難です。

●修繕積立金を最初に沢山集金してしまおう!

このタイトルは最近のデベロッパー各社の合言葉のようです。このブログでも少し前にご紹介しましたが、修繕積立金は分譲時から多額に徴求する例が増えています。

専有面積1㎡当たりで、初期に100円(70㎡なら7000円)程度とし、5年後には1.5倍に上げる、引き渡し時に一時金として毎月の設定額の80倍~100倍(50~70万円)といったケースですが、少し前までは毎月80円/㎡ 以下、一時金は60倍というのが標準的でした。

最近、このような増額傾向を見せる業界ですが、これにはどのような意図があるのでしょうか?

かつて、マンション分譲という商売は手離れの良いビジネスだと語ったデベロッパーの社長がありました。売ったらあとは管理会社に任せておけばいい、悪く言えば「売り放し」でよい商売でした。

建築上の問題でクレームが来たら施工会社が処理してくれる、という思いもあったようです。

一面これは今も真理ですから、修繕積立金を多額に取るというのは、販売の足かせになる恐れもあるだけに、デベロッパー(売主)としては積極的に取り組みたい方策ではないはずです。

にも拘わらず、増額策は何によるものでしょうか?

管理会社の要請でしょうか?値上げを提案しても、管理組合が賛成しないと財政が欠乏して維持管理がやりにくいので、最初からならべく資金的な余裕を作りたいとでも売主に要望しているのでしょうか?

それとも、建て替えが殆んど不可能な分譲マンションは将来、社会的なストックとして残るだけに、老朽化したマンションが増えて街までがスラム化するようなことがあってはならない、分譲した当事者としても「我関せず」というわけにも行かない。こんな企業の良識がそうさせているのでしょうか?

あるいは、国の指導によるものでしょうか?

おそらく、要因はいくつかが交じり合っているのでしょう。都区内には築40年を超えるマンションが既に2000棟以上もあるのです。あと10年すると50年マンションが2000棟となります。

老朽化マンションは、放置すれば社会問題として無視できないものになる。官民ともに、解決案を見い出そうと日々考えているのです。そんな中、メンテナンスをしっかりやって行こう。そのための財政的な裏付けをしっかり作って行こう。こんな空気が生まれていると見るべきでしょう。

こうした動きは、20年くらい前から始まっていたと思います。それが波及し、時代の潮流として目立ってきたのがこの3年くらいと感じます。

高経年の中古マンションを検討するときは、耐震性能とともに「修繕積立金の残高(総額ではなく1戸当たり)」を聞く、修繕履歴を見る、長期修繕計画書を見るといったチェックポイントを持ちましょう。

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。

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