販売長期化物件は欠陥商品か?

このブログはマンション業界OBが業界の裏側を知り尽くした目線で、マンション購入に関する疑問や諸問題を解き明かし、後悔しないためのハウツーをご紹介・・・・原則として、毎月5と10の日に投稿しています。

新築マンションの販売は建物竣工時までに終了させるというのが、デベロッパー各社の共通目標でした。ところが、最近は少し様相が変わって来たようです。

竣工後も販売中の状態にある新築物件、今日はその問題点を話題にしようと思います。

●売主から見た販売長期化の損得計算

竣工完売が目標であるべきとする理由は次のようなものです。

➀竣工すると施工会社に代金を払って建物を受け取らなければならない。
(契約者に引き渡さなければならないからである)

②竣工後の在庫に対応する管理費をデベロッパー(売主)は負担しなければならない

③販売経費(人件費と広告費)が嵩む

④入居者から見て、不特定多数の見学者がマンションの中を度々歩くことを歓迎しない(販売活動がしにくい)

➄売れ残っている部屋がいつまでもある状態に不信感を抱く入居者がある(高いものを買わされたのではないかという疑念を持たれる)

5つの理由の中で一番大きなものは➀です。
施工会社に支払う代金は、基本的に売り上げ、すなわち購入者が払ってくれる決済金から振り替えるので、売れていないと銀行から借りる必要が出て来ます。デベロッパーの多くは資金調達能力があるものの、手間のかかることでもあり、金利も払わなければならないので、できれば販売代金を充当したいのです。

➄は、値引き販売に踏み切るような場合に入居者(先行契約者)から疑いの目を向けられるので、現場の担当者は仕事がやりにくいと言います。「まだ完売しないの?早く売って下さい」などと声をかけられるので、身が縮む思いと語る担当者もあります。

ところが、最近は現場の担当者の気苦労を知ってか知らずか、売れ残っても平気なデベロッパー(売主)が増えているようです。

売れ残って値引き販売に踏み切るより、経費がかかっても値引きしないで販売した方が儲かると考えてしまうらしいのです。

確かに、低金利時代の今は負担が小さいのでしょう。5%値引きしても1戸当たり数百万円の損になるのだから、経費と天秤にかけると定価販売を維持した方がよいという計算も成り立つのかもしれません。

一方で、あるデベロッパーの幹部は次のような檄を飛ばしたそうです。

「竣工時に完売の目処が立っていないような商品を世に送り出したのは、我が社にとっての名折れだ。広告費を増やしてもいい。おまけをつけてもいい。ありとあらゆる方策を取って販促に力を入れ、竣工時までに完売せよ」

多くのデベロッパーは、竣工後に売れ残ることを嫌います。それでも競合関係や市況の変転などによって売れ残ることがあります。そこで、様々な販促手段を講じて完売を目指します。言わずもがな「値引き策」が最も効果的です。

値引きの限度は5%程度ですが、5000万円なら250万円ですから、買い手から見て大きな金額です。竣工後1年も経ているような物件なら10%値引きもあり得ます。稀にヤケクソ気味に15~20%も引く例もないこともありません。

●売れ残り物件はなぜ生まれるのか

ところで、売れ残りは何故できてしまうのでしょうか?

どんな商品でも期待を裏切る売れ行きになることはあるわけです。書籍などは売り出してみないと分からないので、初版は例えば5000部に抑え、売れ行きを見て増刷するという方法を採ります。

マンションは10戸しか売れないから10戸だけ建てるということはできません。工事は全戸を所定の期限までに建てる、すなわち売れようが売れまいが全戸数を用意するほかありません。

これは見込み生産という形になるわけですが、用地を取得するとき、建築費が決まりかけるころ、販売開始直前などのタイミングで市場調査を何度か行いながら販売可能な価格を探っていきます。

つまり、このくらいなら一定期間に完売はできるだろうと見込みを立てるわけです。

販売が助走期間に入ると、つまりプレセールス活動の中においてもモデルルーム見学者との対話の中から販売可能な上限価格を探っていきます。予告広告と謳い、価格未定とするのは、このためです。

リサーチの結果、採算ぎりぎりの下限価格でも売れるかどうかという厳しいプロジェクトになってしまうこともあります。マンションビジネスは、そもそも大きな利幅があるわけではないので、価格の引下げのも限度があります。仕方なく、厳しい結果となるかもしれないが、「ままよ」と売り出してしまうことも少なくないのです。

要するに見込み違いということになったと言えるわけですが、精緻な事前調査をしても思わぬ結果になるのは何故なのでしょうか?概ね、次のような理由があると思われます。

➀市況が悪化してしまった
(土地を取得した時点と販売開始時点に1年以上、大規模物件になると2年とかタワーマンションでは3年くらいのタイムラグができるので、この間に景気変動と金利の上昇などが起こり、需要が後退した)

②土地取得時点の採算計画が大きく狂った
(建築費が見込みより高くなってしまい、価格が当初計画より高く設定せざるを得なかった)

③リサーチで把握しきれなかった強力な競合商品が登場した
(競合物件の存在は分かっていたものの価格までは分からなかったが、予想以上に安値で売り出され、顧客を奪われた)

④販売戸数が多く短期に完売できなかった
(大規模物件なので付加価値の高い魅力的な商品が企画できたのだが、それでも市場規模を超える戸数であったようだ)

●売れ残りマンションの価値は?

売れ残ったマンションは悪いマンション、よくないマンションなのでしょうか?

「建物はとても立派だと思うのですが、竣工後1年を経過して多数の売れ残りを抱えているようです。〇〇〇万円の住戸を〇〇〇万円にすると提案されましたが、買っても大丈夫ですか?」――このようなご質問・ご相談が届くことが少なくありません。

調べてみると、売れ残っている原因がいくつか浮かび上がって来ます。次のようなものです。

➀立地条件に問題がある
(駅からバス便である。徒歩15分近くを要する。高速道路に面する・工場が近くにあるなど環境が悪い。都心直通でない郊外の支線の駅が最寄りである等々)

②建物の品質が良くない・品質に不安を感じる
(モデルルームがチープという印象が強い。外観的にも分譲マンションらしくない安物の印象。小規模で魅力に乏しく、アパート的である。売主・施工会社が無名で不安を感じる)

③価格が高過ぎる
(良い物件であることは十分過ぎるほど理解できるが、自分の予算で買えるのは下層階の、かつ希望の広さから遠い。全く身分違いと思ったと買い手は感想を漏らした)

④販売戸数が多過ぎた
(市場規模を上回る大戸数マンションである。急激な景気後退などで需要が大きく減退してしまった)

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マンションの価値を構成するのは「立地+建物+価格」の3要素です。これらがバランスしていれば、売れ残ることはないものです。

実は、立地条件が悪かろうと、建物価値が劣っていても建築基準法に違反していない限り、価格が安ければ売れ残らないのです。

立地条件が悪い例のひとつはバス利用のマンションですが、不便さを補うのは環境の良さです。 しかし、弱点を補って余りあるとまでは行かないので、価格を安くしてバランスさせるのです。

つまり、用地を安く買い、建物のグレードも下げ、建築コストをあまりかけずにキッズ広場やプライベートガーデンなどの共用施設を設けて魅力アップしたうえに、低価格マンションとして売り出します。

安さに加えて一定水準のグレード・広さなどが功を奏して当初は人気を博しますが、戸数が多いために、顧客動員数は急速に低下して行きます。

バス便を最初から望む人は少ないので、バス便と知りながら見学者が押し寄せるのは、稀に大型ショッピングモールと一体的に開発された場合を除くと、価格の安さに惹かれるからです。しかし、元々バスでも構わない階層は、たとえ安いからとアピールしても底が浅いのです。

反対の駅直結マンションは、すごい人気を集めます。価格を伏せて広告するので、短期間に資料請求だけで10,000件に達するといったことが起こります。しかし、価格情報が伝わると多くの関心客は去ってしまいます。それでも、モデルルーム見学者の10%が残ってくれれば販売戸数に相当する数となり、短期間に完売となったりします。

最近3年くらいを振り返ると、山手線・目黒駅前のツインタワー(ブリリア)が坪単価@600万円と驚愕の高さで売り出したにも関わらず短期完売したことが挙げられます。武蔵小杉駅前でも複数のタワーマンションが短期間に完売しました。その他、人気を博した大型(大戸数)マンションは当時としては高いと感じたものも少なくないのですが、たくさん思い出されます。

最近は、好立地で建物品質・ブランド力も高い優良マンションが売れ残っている現状があります。価格が高過ぎるものもありますし、売り出し当初は高いとも言えず、順調な滑り出しをしたものの、注目度が下がってしまった例もあります。

大型マンションに限らず、販売期間中に需要が後退したり、順調な販売スタートに気を良くして値上げしたりしたことが原因になったと考えられる例もあります。

マンションを購入する人は首都圏で年間10万人(新築だけで5万人)前後あると言われます。10万人の需要層を予算で区分すれば、上は少なく下が多い、いわゆるピラミット形になるものです。

5000万円の予算を持つ需要層より、1億円の予算階層の方がずっと少ないわけですから、高いほど買い手は少なく、一定期間に顕在化する数は限度があるのです。しかも、それぞれの階層が希望する立地条件は同一ではありません。

郊外の中核都市の駅前で1億円のマンションを建てても、都心に2億円で買いたい人は、同じ広さで半値と知ったとしても、郊外マンションを買いには動かないのです。

一方、都心の場合は、先に書いた目黒駅前のマンションのように、平均で1億円を超えるにもかかわらず、661戸の分譲戸数が短期完売できたのは、簡単に言えば東京中から買い手を集めることができたからです。

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今日お送りしている話はマンションのマーケッティングなので、あまり興味ない読者も多いことと思いますから、このへんで打ち切りますが、「売れ残りマンションの価値は?」の項目のまとめをしておかなければなりません。以下に箇条書きします。

➀売れ残りマンションの中には十分価値あるものもありますが、価格が高過ぎる物もあります

②売れ残りマンションの中には優良で価格も高過ぎるとは言えないが、需要の減退によって販売スピードが鈍ってしまった不幸な物件もあるのです

③売れ残りマンションに中には、売れ残るべきして売れ残ったものもあります(立地条件が悪い・品質が劣る・品質に信頼が置けないなど)

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。