第593回 残念な流行「直床と平板な玄関」
- 2017.12.10
- マンション設計
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2017年12月1日の日経新聞に野村不動産の3物件を取り上げていました。お読みになった方も多いことでしょう。
タイトルは「マンション共用部 充実」とあります。内容は、7000冊の蔵書のある図書館を設置した「プラウドシティ太田六郷」、臨海部の夜景や東京駅方面街並み、東京スカイツリーなどを一望でき、夏には花火大会も見られる“15階プレミアム・スカイラウンジ”を設けた「プラウドシティシティ越中島」、多目的のミックスラウンジを設ける「プラウド東陽町サウス」が紹介されています。
新聞によれば、高くなったマンションの販売促進策として、住戸面積を縮めている。その代わりに、共用部の機能を充実させて顧客の満足度を高める狙いだとありました。
大型マンションには類似の共用施設づくりが以前からあったので、これ自体は何も珍しいものではないのです。読者の皆さんも、よくご存じのことと思います。どうして、プラウドの3例がニュースになるのか筆者には理解できませんが、この数年マンション価格の上昇に購買力が追い付かなくなって販売スピードの減速につながっており、各社どうすれば売れるのかに知恵を絞っていることは確かです。
毎度繰り返して来たマンション業界ですが、今再び「いつか来た道」を歩んでいるのです。今日は、「いつか来た道」についてお話ししましょう。
●専有面積の圧縮策
平均坪単価が@300万円の物件では70㎡(21坪)の住戸は6300万円という売値になるわけですが、6000万円を超えると売るのが困難(これを価格の壁と呼び、地域ごとに異なるレベルがあります)というエリアでは、6000万円に価格を抑えるために、面積の圧縮を図ります。
つまり、6000万円÷300=20坪(66㎡)なので、約4㎡小さな住戸を作ろうとするのです。
そのマンションの法的な限界面積(専有部分のトータル面積)が、仮に7000㎡だとすると、70㎡で作れば100戸のマンションということになりますが、これを66㎡で作れば、7000÷66=106戸になるわけです。全体の面積が変わらないので、建築費のトータルは殆ど変わりません。
従って、売値のトータルも変わらないわけで、戸数を増やした分、1戸当たりの売り値は下がります。
もちろん、70㎡の住戸と66㎡の住戸では、後者の方が居住性が悪くなります。リビングまたは寝室の面積が減ったり、収納が足りない住戸になったりするわけです。
見かけは3LDKになっていても、狭くすれば必ずどこかにしわ寄せが行き、魅力の薄い住戸ができるものです。
大昔は、60㎡の3LDKを作ってしまったこともありました。圧縮間取は、4.0帖の子供部屋を仕方なく誕生させていました、また、10帖でもリビングダイニングと称していたものです。
こうした面積圧縮策は、コスト高の時期には必ず登場して来ます。
筆者は、このブログで定期的に市場の現況を説明しますが、その際に価格の動向に関しては坪単価を使っています。一戸平均の価格を用いる報道が多いのですが、それでは正確な市場実態は把握できないのです。
上記のような策を全社が一斉に取ったら、一戸平均価格は6000万円で変わりないと見せかけることができるからです。
●グレードダウンでコストを抑制
面積の圧縮だけでは解決できないほどコストが上がって来れば、スペックを落とすしかなくなります。
コストダウン策は、いろいろですが、代表的なものを挙げると、アルコーブ(Alvove)のない玄関です。二つの図を比べてみまししょう。
図① アルコーブのない玄関
図①は、最近の新築マンションの一例です。アルコーブがなく、ドアを開けると歩いている人にぶつかりそうです。エアコンの室外機も裸のままで廊下に置くのでしょう。
なにより、玄関 に表情がないのです。筆者は「彫の浅い平板な顔」と表現します。
図②は、玄関に表情があります。エアコンの室外機置場は出窓の下に半分隠すように置きます。平板な顔でなく、「彫の深い顔立ち」と表現したいですね。
いずれにせよ、シンプルな形の方がデコボコの形よりコストは安くなります。
図② アルコーブと出窓付きの玄関
●コストダウン策の代表格、それは直床構造です。
コンクリートの上に直にフローリングを張り付ける方が、床下に空間を設けた二重床構造の方が手間のかけ方は間違いなく後者より少ないので、コスト削減効果につながっています。
図③ 直張りの床
図④ 二重床
●目立たぬようにコストダウンするのが常
新築のモデルルームを始めて見学した人はともかく、少なくとも3か所くらい、グレードの高いものを見てしまえば、スペックを下げたマンションのモデルルームを見たとき、どう思うのでしょう?
買い手は、見たとたん「安っぽい」とか「〇〇は付かないのね」などと感想を漏らし、落胆したり、興ざめしたりすることでしょう。
このような買い手が続けば、売主は売りづらいマンションと思い知らされることになるのです。
販売促進策としては、モデルルームを見学した買い手から賞賛の声が聞こえるようでなければなりません。従って、オプションを引っ付けても標準装備のスペックを下げてはならないのです。「このマークのシールが貼ってあるものはオプションです。ご希望の方は係員まで」と但し書きがあると、「あ~なんだ。これもない、あれもない。オプションだらけだ」と落胆します。
このような買い手の声を無視できない売主は、目立つ箇所の手抜き(グレードダウン)はできないと反省します。
しかし、買い手が指摘してこないところはいいだろうと手抜きをします。それが、先述のアルコーブであり、直床構造なのです。
●チェックしたいのは「見えないところで手抜きしていないか」だ
他にチェックすべき箇所はあるでしょうか?少し紹介しましょう。
*エレベーターの数が適正かどうか?
*エレベーターのグレードはどのレベルか?
*非常階段は鉄骨か、それともコンクリート製か?
*寝室の隣のPS(パイプシャフト)の遮音性は大丈夫か?
*玄関側の寝室のエアコンの室外機はどこに、どのように置くのか?露出か、それとも出窓の下か?
*1階のエントランスホールの仕上げ材は天然石張りかタイル張りか?
*エントランス周りのデザイン性は高いか?
*植栽はどんな樹木を予定しているか?どのくらいの面積がグリーンになるか(緑被率は何%?)
*外廊下の柵はコンクリ―ト立ち上げか?金属の手すりか?
*外壁のタイルはどこまで張ってあるか?全面か部分か?
こうしたチェックをした結果、重大な問題を発見することになるかは分かりませんが、納得感を得たい人は実践した方が良いでしょうし、例えば筆者に代行を依頼くださることも有効な策だと思います。
・・・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室(http://www.syuppanservice.com)までお気軽にどうぞ。
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