第653回 住人の高齢化はマンションの老化を加速させる?
- 2018.11.10
- マンションの資産価値
この記事は、高齢マンションの未来を懸念して書いたものです。
⓵建物の老朽化と②入居者の高齢化は、マンションが抱える問題と言われるようになっています。2018年11月5日の日経新聞にも「住民に迫る管理崩壊」という記事が出ていました。記事は、計画の甘さや修繕費の不足から快適な住環境の維持が困難になる事例を伝えています。
これから中古マンションを購入する人には無論、新築マンションを購入する人にも、長く住めば同じ心配が出て来る可能性があるので、このことについてお伝えできれば、と考えます。
●新築マンションの修繕積立金は多めに計画されるようになったが
この数年、めざましく変わったことのひとつは、修繕積立金の初期設定が高くなったことです。基金(一時金)の徴収額も多額になっています。
積立金の初期(1~10年)設定額は1㎡当たり、100円前後、一時金は積立金の100か月前後となっています。5年前は、80円以下、60か月以下でした。
このような変化は、売主(デベロッパー)の意識変化によるのです。売ってしまえば、「あとは野となれ山となれ」だった不動産業者も、社会的責任からか、数十年先までマンションの維持管理を考えるようになったということです。
建て替えは事実上不可能ですし、個人資産とはいえ、マンションは社会的ストックとして長く存在し続けるのですから、手入れをしながら長く使う、言い換えれば3世代くらい使い続けるためにどうするべきかについて、作り手のマンションデベロッパーも一定の責任を果たそうとしているのです。
●リノベーション物件には要注意
築後30年を超えたマンションのリノベーション後をご覧になったことがあるでしょうか?個別に買い取って転売を目論む業者が増えているらしく、リノベーションのカテゴリーに分類される物件数は飛躍的に増えています。
リノベーションとは、英語でrenovation と書き、本来の意味は「改革・刷新・改修」。壁紙や床の材料を貼り替える程度の「リフォーム」と区別し、設備の刷新や間仕切り変更を伴う住宅改修のことを意味します。
元の中古マンションにはなかった設備を付け加えることで、新しい機能を持つマンションに生まれ変わるということになります。
例えば、食器洗浄乾燥機付きのシステムキッチンや床暖房、暖房便座・洗浄機能付き便器といった、35年以前にはなかった設備を含めて装備し、さらに間仕切りを大きく変えるような工事をリノベーションと定義しているのです。
工事は、一旦スケルトン(骨組み)状態にしてから作りあげる大掛かりなものです。
ところが、間仕切りは変えず、設備の交換、床の張り替えと壁紙の張り替えを行っただけで済ませた物件、つまりスケルトン状態を避けて工事費を抑えたリノベーション物件も多数あるようです。
気を付けなければならないのは専有部分を通る「横引き配管」です。これも交換した方が望ましいのですが、交換しなかったために水漏れの原因になったりします。
先日、築38年の有名マンションのリノベーションを見ましたが、奇妙な間取りでした。最近の間取りでは考えられないレイアウトでしたし、浴室の大きさも住戸面積の割に小さいのです。洗面化粧台の幅も1200ミリ、その横に幅900ミリの洗濯機置き場がありました。窮屈とは言えないものの、「普通」のスタイルに過ぎません。
採用した設備のメーカーが記載されており、聞いたことがある海外メーカーの高級品がリストに並んでいます。国産品より良い点はデザインでしょうか?機能はさほど変わらない気もするのですが。
ともあれ、リノベーションは、玄関ドアや窓のサッシなどを除けば、新築マンションのモデルルームにも劣らない、むしろ斬新な印象を放つマンションを誕生させることも可能です。その綺麗でお洒落で、賃貸マンションでは見られない先進の設備を備えたリノベーションマンションは、見学者の購買意欲を高めるのに威力を発揮します。
「新築みたい!」と舞い上がって契約してしまう人もあるのは想像に難くないのです。
●満足度が高いリノベーション
洋服に例えると、マンションは言うまでもなく既製服です。間取りが個性的なマンションもありますが、どこを見ても同じような間取りが多いのが実態です。
好みの間取りを見つけても場所が気に入らないとか、場所もいいが、今度は建物全体が貧相で好きになれないなど、なかなか思い通りにはならないものです。
そんな葛藤から辿りついた選択が大胆なスケルトンからのリノベーションであるわけです。つまり、自分で趣味を楽しむようにリノベーションに取り組むのは、手間も時間もかかりますが、その過程も楽しく、完成した姿を見るのも楽しいものです。
マンションですから、排水管(上下階を貫く配管)の位置によってトイレの位置も変えられないといった制約はあるものの、ある種、注文建築を実践するような楽しみを味わうのがリノベ―ションというわけです。
また、業者が工事を完了させた「リノベーション物件」も満足度は高いようです。筆者に届く「物件評価」のご依頼は、慎重なご性格の方なのかもしれませんが、次のような感想を付記して来られます。
「マンション全体は古いので、それなりのレトロ感もあるのですが、管理状態は良さそうでした。室内は、すごくお洒落で、色使いも自分の趣味にぴったり。設備も最新のものがついていて、とても気に入りました」
しかし、どこかに落とし穴はないかと思ったのでしょう。「この物件は買っても大丈夫でしょうか?価格は高くありませんか?」などと相談メールを寄せて来ます。
最近、筆者はリノベーション物件の評価サービスを無料の範囲から除外させていただきました。有料でもいいので、調べて欲しいというご依頼もありますが、気が進まないのです。理由は、維持管理の状態を机上で調査することができないからで、肝心かなめの「維持管理」について言及できないのが口惜しいからです。
築30年を超えているマンションの将来は、どれほど立地が良くて資産価値が高そうに見えても、維持管理次第ではストレスの多い不快な住まいになりかねないと思うからです。
維持管理の実態を無料のサービスで調査して盛り込むことは困難ですし、その点をないがしろにしたレポートを書きたくないのです。
●リノベーション済み中古の落とし穴
不動産業者またはリフォーム業者が売り主となっているリノベーション中古には、落とし穴がふたつあります。
ひとつは不当に利益を乗せていること、もうひとつは、雨漏りや結露の問題がよく起こるからです。本題から脱線してしまいそうなので、ひとつ目については割愛しますが、二つ目について述べることにします。
新品同様と喜んで買ったリノベーション物件が、結露と雨漏りに悩まされるという事態があるというのです。
冒頭の新聞記事にも、その被害の例が紹介されています。筆者も、一度どうしてもと懇願されて見学させてもらったことがありますが、北側の部屋とリビングルームの一面がカビで黒くなっている姿を見たのです。窓際の床も水滴が落ちるためでしょうか?変色していました。
筆者が見学したマンションは、幸い、壁の裏側に入れてあった断熱材の施工が悪いことが分かって、やり直しをした(隙間なく埋める)結果、結露はなくなったのですが、悲劇的なのは新聞記事に紹介されていた雨漏りです。雨予報が出ると、特定か所に皿を置いて、夜中に起きて様子を見る暮らしを強いられているとありました。
新聞の被害者は特定の場所から、ぽたぽたと漏水して来るということのようですが、原因箇所を突き止めることができたのでしょうか? 雨漏りは、原因箇所を特定するのが難しいのです。
雨漏りは、おそらくリフォーム業者に補償を要求できないはずなので、これは厄介な問題です。
20年くらい前からになるでしょうか? マンションの長期修繕計画に関して、新築時から計画を策定して、買い手に提示するようになりました。その後、いい加減に低く設定していた積立金の額も最初から高めに設定するようになって来ました。国土交通省がガイドラインを10年前に作成したこともあって、大規模修繕のサイクルや積立金の金額に関しても、新たな認識が随分波及してきたように感じます。
一方、築30年を超えるマンションの中には、長期修繕計画すらないものもあるようですし、ようやく策定に至ったものの、積立金の増額に関する合意形成ができていないマンションも多いと聞きます。
大規模修繕で優先される工事は「雨漏り対策」です。すなわち、屋上と外壁の防水工事、バルコニーの防水工事と開放廊下方式のマンションでは、その廊下の防水工事は必須です。少なくとも、その工事が15年に一度程度(ガイドラインでは12年周期)で実施されて来たことが分かれば大丈夫と思ってよいかもしれません。
その確認は、管理会社から報告書を取り寄せればいいですし、雨漏り問題が過去になかったかどうかは管理組合議事録などを読み込めば分かるはずです。
こうしたチェックをしてから購入の是非を判断したいところです。
●古いマンションには管理放棄の予兆も
ご相談者からいただいたメールにこんな事例があります。
「いまのマンションの不安は、管理組合や理事会が正常に機能していないことです。理事会では、先月話し合った内容を忘れて突然怒り出す人、議事録案に目を通して押印しておきながら、配布後の議事録の内容にクレームをつけて来る人など、高齢化とともに、理事の成り手もなく、理事会や管理組合が円滑に運営できないのです」
「次期修繕積立金の増額案が管理会社から出ると『皆さん、年金暮らしだから値上げは困るでしょう』、『修繕工事は借金すればいい』となどと、次世代に負担を回す発言。第3回の大規模修繕は実施可能として、4回目の修繕ができるのか不安です」と。
これ以上の内容は個人情報の秘匿に抵触するので書けませんが想像してみて下さい。これは氷山の一角では無いと思います。
今後、マンション居住者(オーナー)の高齢化に伴って、修繕積立金の増額に反対する人が増え、建物の劣化を防げないという事態も起こりえるのです。そうならないために早い段階から計画的に積立を行い財政豊かな管理組合にしておくことが大事です。
日本人の寿命は毎年延びて、近い将来平均100歳という時代が到来しそうです。政府は70歳まで現役を続けてもらいたいと言っていますが、定年が65歳というが当たり前になりかけています。定年後の人生は結構長いのです。
ゆえに、老後を快適に暮らしたいというとき、マンションの不具合などでストレスを溜めたくないはずですが、そのくせ、金銭的負担がのしかかるのも御免だと思う人も増えるに違いありません。中には、管理費を滞納せざるを得ないお気の毒な隣人が現れるかもしれません。そのようなマンションの行き着き先を考えると怖くなると語った人もありました。
そのようなリスクを負いたくなかったら、マンションの高齢化を防ぎ、ときどき改良工事によって若返ったマンションで気持ちよく暮らして行くようにしなければなりません。しかし、改修工事を適宜実施するためには、それなりの財政基盤がなければなりません。計画が甘かったために、途中で値上げをしたくても高齢者ばかりで「年金暮らしの自分たちには月に5000円でも出費増は避けたい」というようなことでは、先が思いやられます。
マンションの高齢化は、住人の高齢化と無縁ではありません。できたら、若い世帯と入れ替わるような人気マンションが望ましいのです。人気マンションは売りに出す人も少ないと言いますが、高齢者は古くなったマンションを売却して若い世帯に住んでもらい、自分は多額のキャッシュを手にし、その資金で比較的新しいマンションか一戸建てに買い替えた方がいいかもしれません。
人気マンションに住む人は富裕層が多いので、修繕費の値上げも問題ないと教えてくれる人がありましたが、果たしてそうでしょうか?個人の事情はみな異なります。
筆者の住んでいたマンションにも、一番広い部屋に一人で住んでいた高齢の未亡人がいましたが、亡夫が経営していた会社が倒産して無一文になったとかで、管理費と修繕積立金の支払いも困難になり、売却してどこかへ行ってしまったのです。
高く売れたかどうかは分かりませんが、換金できたのは不幸中の幸いだったのかもしれません。
維持管理のために修繕積立金が必須のものであることは理解できても、それを払えない人が多くなったら、マンションも高齢化を止めようがなくなるかもしれません。
その兆しが見える高齢マンションは買わない方がいいでしょうし、住んで行くうちに危険を感じたら売り抜けることも考えた方がいいでしょう。終の棲家のつもりで購入した人も、逃げ出したほうが賢明というものです。無論、高く売れる方が良いのは言うまでもありません。
結局、換金価値の高いマンションを買っておくことが一番の解決策と言えそうです。
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